↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
目には目を、歯には歯を、能力には、能力を  作者: 妄想お面
不滅ノ翼防衛戦

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/54

吐き気

第45話です

楽しんでください

ヒュベル第四階層城に向かうものたち


 「私たちの他に城に向かっているもの達がいますね。数は2人。」


 「神言書のお言葉によれば運命に導かれて彼の地に辿り着くのはメノウさんだけですよね。となると他2人はそのメノウさんを助けにきた人たちですね。おそらく一番隊に新たに入ったあの2人でしょう。私が足止めしてきましょう。あの程度なら同時に相手しても大丈夫でしょう。それにいざとなれば私からまた増殖すればいいですし。」


 「それではよろしくお願いしますよ、私。」


 「了解です私。」


 こうして1人のアニマ・フェルマータがカスミとヒュースを襲撃しに向かう。


*


 城門まで、あと百メートルもない。


 空気が張り詰めている。


 「ヒュース」


 カスミさんが足を止めずに小声で言う。


 「来るよ」


 「……はい」


 気配。


 何かがぬるり、と石壁の影から現れる。


 ローブ。


 翡翠色の濁った瞳。


 「ええ、ええ、ええ……」


 ねっとりとした声が響く。


 「やはり、やはり、やはり。運命というものは実に興味深い。神言書のお言葉によれば、この地に辿り着くのはメノウさんのみ。つまりあなた方は“余分”」


 口角がゆっくりと上がる。


 「一番隊に新たに入ったお二人。ふふ……実に初々しい。安心してください。

 あなた方程度の枝葉なら、同時に相手をしても問題はありません。2人いっぺんにかかってきても問題ありませんよ。」

 

 その言葉と同時に。


 ローブの裾の内側から、腕が増えた。


 合計六本。


 「《ブレインバッファー》起動」


 思考が加速する。


 心拍、呼吸、筋肉の収縮。視界がクリアになる。


 六本の腕の軌道を予測する。


 右上段、左中段、下からの掬い上げ。


 次は掴み。


 予測可能。回避可能。


 「カスミさん、下がってください!ここは自分が抑えます!」


 地を蹴り、最小動作で間合いに入る。

 

 掌底をアニマの鳩尾にくらわせる。衝撃によりアニマの肉が潰れる。


 即座に肘を顎に、続けて膝を肋骨へ。


 打撃を重ねて行く。


 アニマは外部の傷はすぐに完治してしまうためその対策としての内部ダメージを狙った攻撃。


 これなら再生が追いつかないはず。


 はずだった。


 「ふふ……努力と分析、実に美しい」


 ぐちゃり、と音がした。


 潰れたはずの肉が盛り上がる。


 骨が鳴り、戻る。


 瞬時に。完全に。


 「ですが」


 アニマの拳が腹部に直撃し、肺から空気が抜ける。

 

 そのまま自分の身体が浮き、石壁に叩きつけられる。


 「がっ……!」


 視界が揺れる。

 

 再生が速すぎる!


 思考が追いつく前に攻撃がくる。

 

 アニマが微笑む。

 「あなたの打撃は内部衝撃を狙うものですね。私の再生を見たものは拘束か内部ダメージを狙って来ます。しかし主にこの身を捧げてから痛みというものを感じなくなりましてね。内部ダメージが蓄積していてもブレーキが壊れているので即座に反撃は可能。その反撃の間に再生されて行くので分裂を防いでいるだけで私を倒すには余り意味がありません。」


 アニマの六本の腕が同時に来る。

 

 今までのパターンから攻撃の予測はできている。


 しかし


 予測した結果から回避に移る自分の身体が遅すぎる。

 

「——っ!」


 一撃目、二撃目、三撃目。


 頭ではわかっているけど身体が追いつかないこの攻撃の回避は間に合わない!


 「ヒュース!」


 カスミさんの声。


 足元から赤の薔薇が爆発的に伸びる。


 荊がアニマの胴を貫き壁へ縫い止める。


 「2人同時でも問題ないっていってた割には簡単に拘束されるな…」


 言い終わる前に。


 アニマが、力づくで荊をひちちぎる。


 それによって負った傷も即座に再生して行く。


 「貴方のその拘束は逃れようとしても荊の棘が食い込み、痛みが捉えている対象を襲うというものですね。しかし先程も述べたように私は痛みを感じません。そのためこのようにただ巻き付いているだけのツルでは私にとって拘束と呼べる代物に足りえないのです。理解できましたか?お嬢さん?」


 そしてローブから8本の腕が生えてくる。


 カスミさんが即座に白薔薇の盾を展開。


 花弁が広がる。


 だが。

 

 八本の腕の一斉攻撃による衝撃で白花弁が砕ける。


 「きゃっ!」


 盾が合わされた衝撃で自分たちは後方に吹き飛ぶ。


 自分は立ち上がる。


 けど、こんな化け物に勝つビジョンが見えない。


 「どうしました?」


 アニマが歩み寄る。


 余裕。


 慈しむような視線。


 「ヒュースさん、貴方の分析は正しい。お二人の連携も悪くない。ですがあなた方は根本的に足りません。力が、経験が。あなた方、特にカスミさんは少々慢心して邁進してましたね。確かに不滅ノ翼の中でも最速に近い速度で第4階層に辿り着いているのですから有頂天になるのも理解できます。しかし貴方は所詮井の中の蛙、有頂天になれるほどの実力はない。貴方の先輩である4人はかなり経験を積んで1人の私なら抑えられるレベルでしょう。もう一度言いますがあなた方には力も、経験も何もかも足りない。ですが、それもソーマネクルに入信すれば全て変わります。貴方がたに力を授けましょう!経験を養える場を与えましょう!どうです?入信しますか?」


 痛いところをつかれてつい聞き入ってしまった。


 そしてアニマは勧誘しつつもちゃっかり腕を増やしている。


 合計十本。


 空気が重い。


 「努力と分析、それが勝利への最短ルートであります……!」


 恐怖心を拭うために叫ぶ。


 だが自分でもわかるほど声に力がない。

 

 次の瞬間。


 拳が、視界を埋めた。


*


 不滅ノ翼本部


 ヤツカちゃんの足元で、警備兵だったはずの仲間たちがぎこちなく立ち上がる。


 目は濁り、焦点が合っていない。


 それでも動く。


 腕の骨が伸び、それを刃として使用しているようだ。


 「……っ」


 胸が軋む。


 「ヤツカちゃん、感情を切り離して。あれはもう“敵”だよ」


 「わかってる!」


 彼女の声は震えていない。


 けど強がっていることはその声色から察せられる。


 彼女も頭では理解しているのだろうが心の方がまだ助けられるのではないかと期待してしまっているのだろう。


 彼女は優しい人間だ。本来なら仲間殺しなんていう汚名は僕のような人間が請け負うものだ。


 しかし目の前にいる司教を今この場で僕以外が相手するわけにはいかない。


 こんなとき圧倒的な力があれば彼女の手を汚させずに済むのに。


 自分の無力さに嫌気がさしていたら突然死体の一体が淡い紫色の光を放つ。


 「おっと、説明を忘れてたね〜」


 カプシドが楽しそうに指をくるくる回す。


 「その子たちはね、ただの警備員じゃないよ?戦闘用に改造したんだよ!それにその中に一体、元受刑者がいるよ。そいつはね僕たちの力で同化できたのにも関わらずソーマネクルに入信せずに1人で脱獄しようとした愚か者。アニマさん曰く主に身を捧げると嘘をついたゴミなんだって。だから粛清してその死体を再利用してたんだけど。ここでびっくり!通常だと死体に遺物を使用させられないんだけど遺物と同化した死体ならその同化した遺物の能力を使用できるんだよ!原理はまだわからないけどすごいよね!おかげでその場にいた受刑者の大半をコレクションにしちゃったよ。アニマさんがちょっと怒ってたけど司教のやることだからと許してくれたよ。そして僕がコレクションにした子たちの働きを僕の1人でやる必要があるんだって。あっ脱線しちゃったかな?なんの話だっけ?あっそうだ僕のこのコレクションの自慢をするところだった!このコレクションは自分の指揮下に入っているものの力を強くするって能力の遺物と同化した子だよ。こうすることでただの一般人の死体でも二層を4体で攻略できるレベルまで上げられる。そこを今回は七番隊の鍛え上げられた屈強な死体から作り出したゾンビ!相当高いレベルなんじゃないかな?それにしても看守として囚人に指示する立場だったのに今は逆転してるね。僕、主従逆転もの結構好きなんだけどシオン隊長はどう?それとも僕のコレクションに身惚れてる?」


 本当に吐き気がひどい。


 こいつの言っていること全てに嫌悪する。


 これが戦闘でなかったら視界にすら入れたくない。


 けど視界を外そうとすれば…ほら、来たよ。


 ゾンビたちが一斉に襲いかかってくる。

 

「……」


 ヤツカちゃんが踏み込む。


 拳や蹴りで急所を打ち抜くが、倒れない。


 心臓を潰しても、首を折っても、動く。


 まぁ、ゾンビだから当然といえば当然なのか。


 そんなことよりも仲間だったものを自らの手で壊しているヤツカちゃんの精神が心配だ。


 「本体を倒してこのゾンビ止まるか?」


 「正解〜♡止まるよ〜♡」


 カプシドが笑う。


 「あと、例えそのバフを与える死体を消し去っても指揮権は僕に受け継がれているから僕がいる限りバフ死体の機能は維持される。壊しても、無駄♪無駄♪」


 ヤツカちゃんの周囲を、刃腕の死体が囲む。


 だが彼女は怯まない。


 「この程度、問題ありません!」


 強い。


 だが数が多い。


 そして感情が邪魔をする。


 僕はカプシドへ視線を戻す。


 「さぁさぁ、シオン隊長。よそ見してていいの?」


 地面が蠢く。


 背後から、ゆらりと一体が立ち上がる。


 それは——


 異様に整った死体だった。


 皮膚は青白い。


 だが筋肉の動きは滑らか。


 腕の皮膚が裂け、そこから槍が生える。


 肩から刃。


 肘から鎌。

 「この子も遺物と同化した死体なんだよ〜」


 カプシドが胸に手を当てる。


 「この子は僕が直接操作するね♪これで遊んであげる!」


 死体の目が、僕を捉える。


 速い。


 槍が一直線に来る。


 「……っ!」


 横に跳ぶ。


 床が抉れる。


 即座に鎌が横薙ぎ。


 低くしゃがみ、踏み込む。


 顎に掌底。


 手応えはある。


 だが。


 「意味ないよ〜?だって死体だもん♪」


 折れた顎が、瞬時に再構築。


 逆に腕が伸びる。


 刃が増える。


 「武器生成。それがこの子が同化した遺物の能力。同化後この子は身体から自在に武器を生み出せるようになったんだけど生み出す度に痛みがしたみたいで使うのを躊躇っていたから死体にしてあげたの!ゾンビなら痛覚ない。疲労ない。迷いない。まさに最高の兵器に生まれ変われる♪」


 槍、剣、斧。


 連続生成。


 連続攻撃。


 僕は後退する。


 回避。


 受け流し。


 最小限でいなす。


 だが圧力が違う。


 「どう?シオン隊長?これから自分がなる未来を見てる気分は?期待で胸がいっぱいかな?感動した?速くコレクションに加わりたくなった?」


 「……最低だね」


 僕は踏み込む。


 腕を掴む。


 肘関節を逆に折る。


 骨が砕ける。


 だが次の瞬間。


 折れた骨が、そのまま刃に変わる。


 至近距離から突き。


 「ぐっ……!」


 肩を斬りつけられ血が飛ぶ。


 「痛い?痛いよね?でもこの子たちは同じような攻撃を喰らっても痛くないんだよ〜?羨ましいでしょ?速く僕のコレクションに加わろ?」


 僕はヤツカちゃんの方を見る。


 彼女はまだ持ちこたえている。


 だが。


 バフ死体が後方で光を強めている。


 攻撃速度がさらに上がる。


 「隊長!こっちは問題ない!」


 問題ある。


 時間が経てば経つほど、不利になるしヤツカちゃんの精神が…


 「ここで2択クイズ!どっちを守る?副隊長の子?それとも自分の命?」


 カプシドが両手を広げながらニヤリと笑う。


 武器死体が、僕とヤツカちゃんに腕をむけ、その腕から刃が何本も生える。


 あの一撃は、避けきれないかな?


 僕は息を吐く。


 選択肢は一つ。


 「……ヤツカちゃん」


 「?」


 「遺物の使用を許可する。ここで出た被害は僕が責任をとる。」


 「了解!」


 ヤツカちゃんが拳を打ち鳴らし顕現させる。


 「紅蓮骸装(グレンがいそう)!右手!」


 瞬間、赤黒い鎧のようなものがヤツカちゃんの右手に装備される。


 「お前たち、私にはこういうことしかできない。せめて安らかに眠ってくれ。浄焔。」


 炎は荒れず、ただ静かに灯った。彼らの穢れだけを静かに焼き落としていくように。


 そして飛んできた武器は激しく燃え盛り、溶けて地面に落ちる。


 「向こうはもう決着だね。こっちもキメるか。」


 「う〜ん、確かに燃やされて灰にされたら意味なくなっちゃうな〜。あのオレンジガール、僕の天敵かもな〜。だ・か・ら〜、こうしちゃお〜♪」


 静かに焼かれていた死体たちは急に膨張し始めた。そしてその身体は限界に達し爆発する。


 その爆発は部屋を包み込み、建物が崩壊していく。


 「いゃ〜、いい爆発だね。芸術は爆発だ!って言った人は正しいと思うよ。それにもうただ捨てるだけのものだったものをこうやって役に立たせることに使えたんだ。これってすごくエコだよね〜。あっ、これがエビで鯛を釣るってやつ?ん?」


 爆煙がやみ、カプシドも僕たちの姿を捉えたようだ。


 「驚いた。あんな至近距離の爆発で無傷なんて。君の遺物の能力?にしてもエビになれなかったか〜。やっぱりその辺で手に入れた死体じゃ〜ただのゴミだったかな?それにしてもその能力はいいな〜。オレンジガールも素敵な能力だ。是非死体にした後も使って欲しいから。遺物と同化してよ!あっ、このまま生け取りにして同化の儀を執り行わせればいいんだ!」


 「勝手なことをベラベラ喋っているんじゃない。」


 僕はその場で蹴りの動作をする。


 カプシドは気づいたようで回避行動をとったが少し遅れたね。その刃はカプシドの右腕を吹き飛ばす。


 「驚いた!結構距離があったのにあんなに早く、しかも視認できない攻撃をしてくるなんて!というか、やっちゃったなー。僕は死なないだけでアニマさんのように再生とかできないのに。後で縫い止めたらいけるかな?今はこうして応急手当てしておこう。」

 

 カプシドの切り落とした腕から黒い粒子のようなものが大量に発現し、それが斬られたところに戻っていく。


 そして先程の発言とあの粒子で確信した。


 「カプシド、君はすでに死んでいるだろ。リリさんが頸動脈をナイフで切った時に。そして君の遺物の能力は菌に関連する遺物って過去の事件記録に示されていたはず。確か、その菌を死体に寄生させることで死体をゾンビとして操る。その菌を自分に使用したってところかな?」


 「正解♡ シオン隊長、貴方は本当に僕のことをわかってくれてるね。改めてオレンジガールともども僕のコレクションにならないか?安心して欲しい、先程爆発させたゴミと同等の扱いはしないよ。毎日手入れするし、服も毎日おしゃれなものを着せてあげるよ。」


 「どうやら君は空気を読むのが苦手なようだ。そして察する能力も低いと見受けられる。これが僕を苛立たせて繊細さをかかせることが目的ならそれは成功したと言えるね。僕は今から後先を考えずに攻撃を仕掛ける。」


*カプシド視点


 僕は素直にシオン隊長を称賛したのだがどうやらそれは相手に伝わらなかったようだ。


 やはり生きている人間とのコミュニケーションは難しい。


 しかし今!目の前で起こっている現象はとても綺麗だ!


 シオン隊長が僕に攻撃をすると、宣言をしたと同時に大量のシャボン玉が彼の周りから出現した。


 シャボン玉を生み出す能力なのかな?隊長格にしては弱そうな能力だな〜。


 すると、僕の腕を斬ったのは別の方法なのかな?まぁ、これから試していけばいいか。


 僕はダリル(武器を生成する死体)に槍を生成させてシオン隊長目掛けて投げさせる。


 しかしシオン隊長目掛けて投げさせた槍はシオン隊長の周りに漂っているシャボン玉の一つにぶつかり、そのままそのシャボン玉に包まれてシオン隊長に届くことなくその場で静止した。


 「返すよ。」


 その言葉と同時に先程シャボンに包まれた槍がこちらに勢いよく飛んでくる。咄嗟にダリルに盾を作らせて防御したと思ったらいきなりダリルが爆発した。


 僕は死体人形(ネクロイト)を作るときコレクションにもならない死体、これをベクターと呼んでるんだけど、それにはちゃんと最後まで働いてもらうために爆弾を体内に埋め込んでいる。けど、僕のコレクションレベルの死体には毎日手入れをするために爆弾はつけてない。それなのに爆発したということはこれはシオン隊長の何らかの能力なのかな?


 ダリルは遺物の能力が便利だから一応コレクションにしているけどこれとシオン隊長&オレンジガールが交換で手に入るなら後者の方がいいね。あっちの方が美しい!だからこのままダリルにはシオン隊長の能力を調べるために働いてもらお〜♪


 そうだ!シオン隊長がいかに素晴らしいかちゃんと本人に伝えてあげないと!もしかしたら僕の情熱に心を動かされて僕のコレクションに加わってくれるかもしれないし♪


 「流石シオン隊長だ!先程の爆発、そして僕の腕を斬ったあの斬撃。今貴方が展開しているシャボン玉では連想できない攻撃の数々!素晴らしい!他にも色々できるのかな?あぁ〜、いつもならこういった相手の遺物の能力を調べるのはベクターの役目なんだけど、あいにく今の私の手元にあったベクターはあのゴミだけなんだよ。だから僭越ながら僕のコレクションの1つダリルで相手しよう♪それにしても流石は不滅ノ翼の隊長、ベクターにしたゴミとは雲泥の差だね。正直あのゴミを見たとき不滅ノ翼もこの程度かと落胆したけど今は貴方とオレンジガール、2人に出会えて高揚しているよ!本当にありがとう!この高揚を与えてくれた貴方たちにお礼として僕のコレクションの中でも上位の位をあげ……」

 

 おや?次の言葉が聞こえない?その代わりにヒューっていう音が聞こえる。どうなっているのかな?


 耳を触ってみるが以上はない。


 次に僕は喉元に触れてみる。喉に触れた指先は、皮膚の温もりではなく、湿った硬い軟骨の断面をなぞっていた。


 ここの部分だと甲状軟骨と環状軟骨の間かな?そこを切断されたのかな?あぁ〜、それで喋るための空気が抜けちゃっていたのか。


 僕は賞賛の言葉を紡ごうと喉に力を込めたが、口からではなく、喉元を抑えていた僕の指の隙間から「シュウ……」と虚しい空気の塊が溢れ出した。


 「君はどうやら言葉が通じないようだからね。強制的に黙らさせてもらったよ。」


 すごいね。僕が死体じゃなければ一生話すどころか呼吸ができなくて死んでいたよ!


  「まぁ、気づいたらこうやって治すだけなんだがね。」


 僕はそう言って、喉元に集めた黒い粒子を押し込むようにして傷口を塞いだ。


 やっぱり便利だなぁ、この身体。


 痛みもないし、息苦しさもないし、多少壊されても菌糸を通して形を戻せばいいだけだ。生きていた頃よりずっと自由で、ずっと美しい。


 それにしても。


 目の前のシオン隊長は、本当に綺麗だ。


 冷静で、鋭くて、余計なことを喋らない。それなのにとても情熱的な目。あぁ、本当にタイプだ。


 あれが壊れていくところはきっと最高なんだろうなぁ。


 「本当に素晴らしいよ。君の能力はまだよく分からないけれど、分からないということ自体が今の僕にはご馳走だ。ひとつ、ひとつ、丁寧に暴いて、理解して、その上で壊していける。こんなに贅沢な時間をくれてありがとう。感謝、感謝、感謝だよ。だからそのお礼に――」


 シオン隊長の周りを漂うシャボン玉が、音もなく増える。


 小さいもの。大きいもの。透明に近いもの。虹色に揺れるもの。


 綺麗だなぁ。


 でも、綺麗なものほど危ない。


 「今度は距離を詰めていこう。盾と槍、いや、まずは細剣を両腕から生やして手数で削ろうか。あのシャボン玉、接触で何かが起きるなら、どの程度まで同時処理できるのか知りたいな。」


 ダリルの両腕の皮膚が裂け、銀色の細剣が骨ごと滑り出させる。


 肩からは短槍。


 脇腹からは返しのついた鉤爪。


 あぁ、やっぱりダリルを死体人形(ネグロイド)にしてよかった。能力も多彩だし、こういう実験にはもってこいだ。


 ダリルをシオン隊長に接近させる。


 けれど。


 シオン隊長は、一歩も動かなかった。


 彼の目の前にあったシャボン玉がひとつ、ふわりと前に出る。


 ダリルの右手の細剣がそれに触れた瞬間、剣先から手首までが丸ごと透明な膜に包まれ、そのまま空中で静止した。


 次いで左の細剣。


 肩から伸ばした短槍。


 どれも同じだ。触れた瞬間に包まれ、そこだけが世界から切り離されたみたいに止まる。

 

「面白いなぁ……!」


 思わず声が弾む。


 「接触した部分だけを包み込んで運動を封じるのかな?しかも対象の全体じゃなく局所。でもわざわざ全部包まないところを見ると消費を抑えてる必要があるのかな? いや、運動を静止させるだけだったらさっきの爆発は説明がつかない。封じるだけじゃなく、閉じ込めた運動エネルギーや衝撃を別の形で放出してる? それとも――」


 ダリルの胸の中で何かが暴れているみたいにに動き出す。


 次の瞬間、胸部が内側から弾け飛んだ。


 肉片と骨片が、赤黒い雨のように散る。


 あぁ、なるほど。


 「呼吸機関からシャボンを入れて爆発させることもできるのか。」


 「……よく喋る」


 短いがシオン隊長が少しだけ口を開いた。


 ほんの少しの言葉とはいえ僕に向けて声をかけてくれる。それだけで心が満たされる。


 会話が成立した気がする。嬉しいなぁ。


 これが恋というものか!?


 「だって、楽しいからね。楽しいことは口に出したくなるでしょ? それに君、喋らない分だけ手が早い。だったら僕が補わないと会話にならないじゃないか!ほら、人との関係って歩み寄りが大事だし」


 まだ言いたいことがあったのに、目の前の空気が揺れた。


 そう認識した時にはもう遅かった。


 頬から耳にかけて、斜めに裂ける感触。


 視界の端で、自分の耳の一部が落ちていく。


 シャボン玉が見えなかったということはこの斬撃はシャボンとは別の能力かな?


 そういえばシャボン玉がないときの斬撃は左足で蹴りをしているな。


 もしかして!


 縫合した片腕をシオン隊長の左足目掛けて飛ばす。


 流石のシオン隊長も予想外の行動だったようで触ることができた。


 しかし片腕と胴体を繋ぐ細菌の紐の間をシャボンで包まれてしまい片腕を回収することができなかった。


 けど

 

 「っ、はは……!」


 笑ってしまう。


 「少し幻滅したよ、それ。シオン隊長、君の」


 僕は黒い粒子を傷口に集めながら、横目でオレンジガールの方を見る。


 オレンジ色の髪が、瓦礫の向こうで激しく揺れていた。


 彼女の右腕を覆う赤黒い鎧――《紅蓮骸装》だったかな、気絶してもなお、そこから漏れる炎は派手に燃え広がるんじゃなくて、まるで僕の菌だけを選んで焼いているような静かな火だ。


 あれ、嫌だなぁ。


 死体を灰にされるのは困る。


 ベクターは使い捨てでも、コレクション候補まで焼かれたらたまったもんじゃない。


 「ダリルの武器の生成を止めて肉弾に切り替えるとしよう。あの炎に少し耐えられるように菌糸を薄く散らして床下に回しておこう。」


 目に見えないほど細い黒い菌糸が床を這っていく。


 それと同時に、シオン隊長の周囲のシャボン玉が、また増えた。


 数が多い。


 それぞれの位置に意味がある。


 正面の牽制。側面の迎撃。背後の保険。頭上の蓋。


 守りながら、攻めている。


 「本当に嫌になるくらい隙がないなぁ。隊長ってみんなこうなの? だったら不滅ノ翼ってもっと早めに壊しておくべきだったかも」


 「……今からでも遅くないと思ってるなら、相当めでたいね」


 その言葉と同時に、彼の足元のシャボン玉が一斉に弾けた。


 「てか、僕はもう君に興味ないの。君のその左脚って義足でしょ?そしてさっきまでの斬撃ってブレッシャーだよね?その義足に隠し刃でもついてるのかな?人工遺物をしようするということを考えるとさっきまでの爆発するシャボン玉はゲシュッツをシャボン玉で包んでいたと推測できるね。それと僕は既に身体が壊れてるものをコレクションする気はないよ。だからオレンジガールを回収して早く帰りたい。」


  ……そう言い切った瞬間だった。


 空気が、変わる。


 さっきまでの、少し眠たげで、どこか力の抜けた雰囲気が消えた。


 シオン隊長の目が、すっと細くなる。


 「……今の発言は訂正した方がいいよ」


 声は静かだった。


 けれど、ぞっとするほど冷たい。


 僕は思わず笑ってしまう。


 「え、なに?怒った?自分がコレクションに加われなくてそんなに悲しいの?そんなこと言ってももう遅い!いや、待って、……あぁ、そういうのいいね。大事なものに触れられて怒りの感情を見せるの、それとその目は正義の味方がやっていい目じゃないね、けどそういうところすごく人間っぽいー」


 言い終わる前に、僕は咄嗟に上体を反らした。


 見えない。


 けれど、来た。


 頬の横を何かが掠め、後方の壁が斜めに裂ける。


 速い。


 さっきまでより明らかに速い。


 「っ……!」


 危ない危ない。今のは、ちょっとでも遅れたら首が飛んでたね。


 でも、同時に分かった。


 やっぱり左脚だね。


 蹴りと同時に来るあの斬撃。人工遺物のブレッシャーに、隠し刃がついた義足に装着させて、蹴りの動作で無理やり斬撃として成立させてる。雑だけど、実戦的。しかも、僕みたいに斬撃への耐性が薄い相手には特に刺さる。


 「なるほど、なるほど。やっぱりそうなんだ。君の左脚、面白いね。壊れてるのに、無理やり戦力に仕立ててる。僕、そういう“欠損を前提に再構築された美しさ”って実は嫌いじゃ——」


 パンッ、と乾いた音。


 目の前にあったシャボン玉がひとつ、弾けた。


 その瞬間、僕の右肩で何かが爆ぜる。


 「がっ……!」


 肩口から黒い粒子が噴き出す。


 まずい。


 さっき床下に散らせた菌糸の一部が、いつの間にかシャボンに包まれてたのか。いや、それだけじゃない。僕の中にある細菌の量が減ってきてる。


 このままじゃネクロイドを保てなくなる!


 あぁ、ほんと嫌になる。嫌になるくらい賢い。


 「僕に興味がないんじゃなかったの?」


 シオン隊長が、低く言う。

 

 「ないよ」


 僕はすぐに答える。


 黒い粒子を肩に集め、裂けた部分を塞ぎながら笑う。


 「だって君、コレクション向きじゃないもん。さっきも言ったでしょ? もう壊れてる。義足だし、完成品としてはノイズが多い。綺麗ではあるけど、保存向きじゃない。だから僕の優先順位はオレンジガールの方が上。健康的で、燃えて、まだ壊れてない。最高だよね」


 その瞬間。


 また、空気が鳴った。


 今度は二本。


 交差する斬撃。


 僕は後ろに跳ぶ。だが完全には避けきれない。胸元が浅く裂け、ローブが開く。


 「うわ、連続は反則だって」


 「反則かどうか決めるのは君じゃない」


 シャボン玉が、増えている。


 さっきまでの牽制配置じゃない。


 包囲。


 正面、側面、頭上。さらに、僕の退路を潰すように低い位置にも浮いてる。


 あぁ、なるほど。


 さっきまでは僕の能力の解析。今は、僕の処理。


 オレンジガールの方を見る余裕を、完全に奪うつもりなんだ。


 「本当に怖いなぁ、隊長さんって。ちょっと本気出しただけで空気がこんなに痛く感じるなんて。」


 僕は指を鳴らす。


 ダリルが動く。


 武器生成は止めた。今は肉弾。純粋な膂力と、菌で補強した筋繊維の収縮だけで押す。


 ダリルが真正面から突っ込む。


 けれど、隊長さんの方が一歩速い。


 左脚の蹴り。


 ブレッシャー。


 ダリルの首が半ばまで断たれる。


 だが、そこで終わらない。


 断面から菌糸を噴かせて無理やり繋ぎ止める。動け。もっと動け。君はまだ使える。


「しつこいね」

 

「褒め言葉として受け取っておくよ」


 ダリルが再度踏み込む。


 隊長さんは今度は避けない。


 シャボン玉が三つ、ダリルの胸、右膝、首元に触れる。


 止まる。


 ほんの一瞬。


 その一瞬が、致命的。


 「返す」


 シオン隊長が短く言った直後、三つのシャボンが同時に弾ける。


 3箇所で同時爆発。


 右膝関節が逆方向に吹き飛ぶ。


 首の内部で圧が弾け、頭部が不自然に傾ぐ。


 ダリルの身体が、ぐらりと崩れる。


 ……あーあ。


 もったいない。

 

 「ねぇ、隊長さん。ほんとに思うんだけど、君、オレンジガールのことになると明らかに雑念入るよね? そこ、弱点だよ。本人に言う僕もどうかと思うけど」


 隊長さんは答えない。


 代わりに、視線だけがほんの一瞬、オレンジガールの方へ流れた。


 僕から視線を外したその刹那を、僕は見逃さない。


 床下に這わせていた菌糸を一気に持ち上げる。シオン隊長の足首を狙う。絡め取って、体勢を崩して、その隙に


 パン。


 小さな音。


 菌糸が空中で弾け飛ぶ。


 ……うわ。


 そこにもシャボン置いてたの?


 「ほんと、嫌いだなぁ、そういうの」


 思わず本音が漏れる。


 「全部先回りしてるみたいで、全然楽しくない」


 「安心して。僕は楽しくない相手に時間を使うつもりはない」


 隊長さんが、一歩前に出る。


 シャボン玉の群れも一緒に滑るように動く。


 この人、本気で僕を片付けにきた。


 でもね、それは困る。


 まだオレンジガールを回収してないし、アニマさんの“サポート”って任務も果たし切れてない。ここで僕が潰れるのは、美しくない。


 「仕方ないなぁ……」


 僕は小さく息を吐いた。


 「ダリル、捨てようか」

最後まで読んで頂きありがとうございました!


ここで連絡なのですが6月の最初の週まで水曜日投稿から日曜日投稿に変更いたします。

誠に勝手ではございますがご理解いただけると幸いです。


もしこの作品が気に入りましたら感想や評価をいただけると幸いです。

そうでなくともこの作品が少しでも気に入っていただけたら今後も読んでいただけると幸いです。


改めまして最後まで読んでいただきありがとうございました!

また次回もお楽しみください

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。