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目には目を、歯には歯を、能力には、能力を  作者: 妄想お面
第4章

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ソーマネクル

第41話です!

是非楽しんでください!

主のお導きがあらんことを

 「ここは?」


 「ミノリ、気がついたか。ここは第四階層の城下町だ。今、修羅丸副隊長の指示でここにいるメノウさんと合流する予定だ。」


 ルシアンに背負われている私は首を傾けるとヒュース君に背負われている修羅丸さんを発見する。


 「ミノリ、どこまで覚えている?」


 「どこまでって…すみません!命令を無視して勝手に戦闘してしまって。」 


 「それは修羅丸副隊長が目覚めてから改めて言っておけ。にしても情報とだいぶ違うな。」


 城下町では街の民家の中にある宝箱もしくは城下町を徘徊しているモンスターから回復系の遺物が手に入る。


 メノウの姐さんはここをよく狩場にして回復系の遺物を調達しているようだ。


 不滅ノ翼だけではなく他の探索者もここで遺物を集めている。


 しかし今は探索者どころか徘徊するモンスターも見当たらない。


 通常なら徘徊しているモンスターなどはすぐに見つかるはずなのだが。


 「遅かったなぁ〜。その様子やと、そちらさんもだいぶやられはったみたいやね。」


 そこには全身傷だらけになり、右腕を失ったメノウの姐さんがいた。


 「メノウ先生!一体何があったんですか!」


 「アニマ・フェルマータの襲撃にあったんや。あとうちの遺物やねんけど、この腕といっしょにアニマ・フェルマータに奪われてしもてな。せやけど、取られたあとに近くのモンスター狩って、なんとか回復系の遺物は手に入れたんよ。ただ……この遺物、うちとの適合率がだいぶ低いみたいやねん。せやから今、修羅丸副隊長さんもミノリちゃんも、うちが治してあげられへんねん……。」


 メノウの姐さんの遺物は腕輪型の遺物だったため、アニマはそれを奪うために腕ごと奪ったのだろう。


 「その遺物、貸して貰ってもいいでしょうか?」


 「ええけど。」


 確証はないけど私なら使えるかも。


 私がメノウの姐さんに借りた遺物を使用すると淡い緑色の光が出て修羅丸さんの傷を塞いでいく。


 「ミノリ、お前、本当に色んな遺物に適性があるんだな。」


 「あったみいだけど私の適合率だと腕の再生までは無理みたい。」


 「いや、これで修羅丸副隊長の命が助かったんやし、じゅうぶん上出来どす。」


 私が安堵したところでルシアンが話を切り込む。


 「ソーマネクル、アニマどんな遺物なんだ?どうやって分身してるんだ?そもそもあれは遺物なのか?遺物にしては規則性が無さすぎる。」


 「確かに再生、巨大化、分身、どれも共通点がないため別々の遺物だと考えるのが普通。しかしその場合適合率がその3種類とも高いというのは都合が良すぎる。」


 そうだ!


 ソーマネクルといったら山にいた私ですら知っていることだ。


 遺物に関する宗教団体で各地でテロ行為を行っている集団。


 やっていることは知られているのに不気味なほど能力などが知られていない。


 でも、もしかしたら不滅ノ翼の隊長格である修羅丸さんなら知っているかも!


 「知ることによって絶望することになっても大丈夫か?」


 「覚悟の上だ」「問題ない。」「大丈夫だよ〜。」「大丈夫です!」


 「承知した。俺が知っている情報を全てお前たちに伝える。アニマの話をするには一度タルマカ王国の歴史について話す必要がある。」



 剣神アレクの冒険という本はアレクパーティーから引退した守護神ダリアの話をもとに作られた本である。


 彼が抜けてしばらく、アレクパーティーはヒュベル第八階層にて全滅したと記されている。


 何故今この話をするかというと


 ソーマネクル


 守護神ダリアをきっかけに名が広く世界に知れ渡るようになったからだ。


 そもそもソーマネクルとはなんなのか?


 ソーマネクルは遺物を神がもたらした奇跡として信仰しているカルト集団である。


 遺物を神がもたらした奇跡と考えており、それを扱うものは神の使徒として選ばれた存在でなければならない。


 選ばれたものが遺物を使用する。その選ばれた存在こそソーマネクルなのだという教義からソーマネクル以外のものから遺物を奪っている集団である。


 当時はただの頭のおかしい集団だがほっといても対してダメージがないと処理されていた。


 その認識が変わったのはアニマ・フェルマータが起こした事件である。


 当時のタルマカ王国は四つの貴族によって支えられていた。


 リヴェット家、フィンブリア家、ヴェリタ家、そしてフェルマータ家


 その四つである。


 ヴェリタ家に関しては剣神アレクと共に冒険をしていた守護神ダリアの功績として創設された家系だ。


 アレクの人気は、死後も衰えていなかった。


 その名を冠した物語は国民の大半が読み、子どもたちは木の棒を振り回して「剣神アレクごっこ」をするほど。


 途中までとはいえそのアレクの隣に立ち、幾多の階層攻略で盾となった守護神ダリア。


 彼はアレク亡き後も“王国の盾”として国を守り続け、民から絶大な信頼を寄せられていた。


 ……そのダリアを殺したのが、アニマ・フェルマータである。


 フェルマータ家は当時、他の三家に劣らないほどの名門だった。


 その時、次期当主に任命されていたのがアニマ・フェルマータである。


 アニマ・フェルマータは遺物は所持しているものの探索者としての腕前はお世辞にも強いとは言えなかった。


 しかしアニマ・フェルマータはそれ以外の適性が非常に高かった。


 特に政治的手腕は四家の中ではずば抜けて高く、今のギルド制度の元となった政策を作った人物である。


 アニマの能力は非常に高く、その政策によりタルマカ王国は他国を寄せ付けない大国となっていた。


 次期宰相の地位はアニマにしかいないと言われるレベルだった。


 国王は変わるが軍事はダリア、政務はアニマ。


 心配することは何もないと国民は信じて疑わなかった。


 しかし現実はそうとはならなかった。


 先程も述べたようにアニマがダリアを殺害したためである。


 順風満帆だったアニマは神の啓示が降ったといい、戴冠式中にダリアを殺害した。


 アニマは宰相の地位よりもソーマネクルの教義の方を選んだのである。


 アニマ・フェルマータと守護神ダリア。この二人の名は、タルマカ王国にとどまらず他国にも広く知られていた。


 盾として国家を守っていたダリアと、国家を繁栄へ導いた天才政治家アニマ。その名声は王国の強さそのものであり、他国の者ですら「タルマカの二柱」と称えるほどだった。


 その二柱の一角を、もう一方が殺した。


 この事実は瞬く間に世界中へ伝わり、国々を震撼させた。


 さらに最悪なことにこれを戴冠式にやったのである。


 大陸全土が注目する戴冠式でアニマは自らがソーマネクルの“司教”であることを宣言したのだ。


 そして、信じがたいことに。


 “王国の盾”として象徴的な存在だったダリアの遺物、最強の防御性能を誇る《イージス》を奪い去ったのである。


 ソーマネクルは、ただの狂信集団ではなかった。

 

 その教義には、人を変質させる“何か”がある。


 それが世界に刻まれた瞬間だった。


 アニマが地位を捨ててまで魅せられた宗教団体。


 戦闘面では人並み以下だったはずのアニマが、王国最強格であるダリアを殺害できるほどに強くなった理由。


 その秘密を求める者は多かった。


 タルマカ王国だけではない。他国の諜報機関、研究者、王族、闇社会などあらゆる勢力がソーマネクルの“力”の正体を追い始めた。

 

 そしてタルマカ王国はこの事件を境に、ヴェリタ家とフェルマータ家は一夜にして没落した。


 ヴェリタ家はダリアを失い、軍の要を喪失。


 フェルマータ家はアニマの裏切りにより断罪され、家ごと消滅。


 政治と軍の両方に巨大な穴が空き、国家基盤は崩壊寸前となった。


 しかも、この騒動の直前に王位が代替わりしたばかりだった。


 新王は経験も浅く、混乱への対応も追いつかない。


 前国王がサポートするものの収まることはなかった。


 その混乱に乗じて始まったのが──


 ヴェリタ家とフェルマータ家の後釜を狙う貴族同士の内乱。


 弱ったタルマカ王国を狙って攻めいる他国の侵略者。


 タルマカ王国は、まさに四方八方から火の手が上がる最悪の状況に陥ったのだ。


 すべての発端は、アニマ・フェルマータ。


 たった一人の裏切りが、国を、大陸の勢力図すら塗り替えてしまった。


 この事態を収集できた理由は皮肉なことにアニマ・フェルマータが裏切る前に打診していた政策である。


 その時は必要がなかったため取り合わなかった政策だが現状の打開のきっかけになるかもしれないものだった。


 今思えば遺物のランク制も、適合率の概念の標準化も、ギルド制と遺物管理局制の導入も、すべては「遺物を秩序の下で使わせる」という建前のもとにアニマ・フェルマータが整備しようとしたものだったのだろう。


 表向きは安全のため。混乱の予防のため。国民の防衛力向上のため。


 これにより軍備の補強、反対勢力の戦力を削ぐなど様々なことに繋がり国は安寧を取り戻した。


 遺物に関するこの政策は他国でも自分のところで同じことが起きないように制定されていく。


 だが、今になって振り返ると……アニマ・フェルマータは最初から分かっていたのだろう。


 この国の社会構造そのものが、遺物を“選ばれた者だけが扱える力”として扱い始めてしまうことを。


 適合率の高さで人生が変わり、遺物のランクで価値が決まり、ギルドが強さの象徴として君臨する。この世界全体が、遺物に選ばれた者への羨望と、選ばれなかった者への劣等感で満ちている。


 そして図らずとも、遺物は選ばれた者が持つというソーマネクルの教義に、社会が一歩近づいたのである。


 もちろん、誰もそれを公言しやしない。そんなことを言えば、国家運営の根幹を否定することになる。しかし、現実は残酷だ。どれだけ制度を整えても、最終的に“扱える者”が頂点に立つ。


 そんなシステムになってしまったのである。


 そしてアニマ・フェルマータが強くなった理由。


 これはソーマネクルがあっさりと世界に公言した。


 遺物との同化


 遺物に自らの身体を捧げることにより遺物と同化する。


 そうすることで適合率,遺物のランク関係なく絶大な力が手に入る。


 しかし遺物と同化して意識を保っていられるかは別問題である。


 各国はこの方法を知り早速試してみたものの遺物と同化して意識を保つものはおらず暴走することになる。


 暴走しているものはその力だけならば第1〜3階層ボスレベルである。


 そんなものが国で暴れるのだから損失が大きすぎる。


 しかも方法も安易。


 遺物を自分の身体に突き刺して願うだけ。


 たったこれだけで同化できてしまうのである。


 遺物管理制による劣等感から遺物の同化という安易に強くなる可能性があるなら人はそれを躊躇なく試すだろう。


 そういったことを起こさないために各国はソーマネクルの力の源、遺物との同化を秘匿したのである。

 

 そしてここからがアニマ・フェルマータの遺物に関すること


 アニマの遺物は朱凶斬華(しゅきょうざんか)と呼ばれる剣である。


 能力は血還流


 効果としては剣身で斬りつけたものの血が柄頭に送られるという吸血能力。


 その血の鉄分を使用して剣身の修復、複製ができる。


 戦闘方法としては複製した剣身を飛ばしての遠距離攻撃。複数の刃になった朱凶斬華で斬りつけるなどである。


 複製した剣身にも吸血能力があり刃の数だけ吸血効率が上がる。

 

 一見強力な能力のように見えるがこの能力を使えるのはあくまで血を吸ったときに限る。


 自身の血を使って能力を使うという手段もあるにはあるがそれにも限界がある。それに能力を維持するには自身の血だけでは足りなくなるためどうしても相手に攻撃を当てる必要がある。剣の達人ならいざ知らず唯の一般人が持つにはその真価を発揮しづらい遺物である。


 例え能力を十分に発揮できても今の人類では扱えきれずに殲滅力は期待できない。


 そういったことから朱凶斬華は今の遺物ランクではCランクにあたる。


 普通なら脅威になり得ない遺物。しかしこれがアニマ・フェルマータと同化したことにより化けたのである。


 朱凶斬華と同化したことによりアニマ・フェルマータ自身が剣身であり血を貯める柄頭でとなった。


 これにより朱凶斬華の剣身修復、剣身複製はアニマ自身の身体が対象になる。


 つまりアニマは血を使用することにより己の身体を自由に再生させたり分身を生み出すことも可能になったのである。


 そしてアニマの血ですら剣身扱い、つまりは再生対象である。


 これによりアニマ・フェルマータは自身を修復、複製するために必要な血ですら自らの力で生み出すという永久機関に近しい存在となっている。


 朱凶斬華では修復するとき遺物の本体とも言える持ち手部分より先のものしか修復できない。そのため持ち手を壊せば修復できなくなる。


 しかしアニマ・フェルマータの場合、朱凶斬華と完全に同化しているためアニマ・フェルマータ自身が朱凶斬華そのものつまり全てが本体になる。


 そのためアニマ・フェルマータが真っ二つになったとき。真っ二つにされた両方ともが朱凶斬華の本体であり刀身。つまりはどちらも修復可能である。


 つまりはプラナリアのように体を小さく切っても、それぞれが新しいアニマ・フェルマータになって再生するのである。


 これがアニマ・フェルマータが永劫の胎と呼ばれる所以である。

 

 アニマ・フェルマータを倒すのには肉片すら残さず消滅させるか封印するしかない。


 しかしそれをしたところで別個体のアニマ・フェルマータがいるかもしれないためアニマ・フェルマータをこの世に完全に消すのは不可能と言える。



 「以上がソーマネクルとアニマ・フェルマータについて今わかっている範囲での情報だ。」


 私たちは誰も言葉を発することはできなかった。

 

 喉は動くのに、声にならない。


 アニマ・フェルマータ


 切っても、焼いても、砕いても、肉体の一部さえ残せば、何度でも立ち上がる怪物。


 「……冗談、きつくない?」


 一番最初に口を開いたのは、ユキちゃんだった。


 さっきまでの軽口とは違う、乾いた笑いだった。


 「切っても切っても再生してたのは、そういう理屈……ってこと、なんだよね?」


 「はい……あれは、もはや人間ではありませんでした……。」


 ヒュース君の声も硬い。

 

 額に滲んだ汗を拭おうともしない。


 「細胞単位で自己増殖する生体兵器、と言っても差し支えないレベル。」


 バレットが状況を整理するように呟く。


 「いまの説明を前提にすると、現状、あれを“倒す”のは非現実的。封印か、領域からの隔離が現実的解……。」


 「ははっ……あのクソやばいの、他にもいるかもって話なんだよね? マジで最悪〜。」


 カスミちゃんが、いつもの笑みを浮かべようとして……うまくいかず、口元だけが引きつっている。


 その横で、メノウの姐さんがぼそっと言った。


 「……うちもな、話で聞くより、実物のほうが、よっぽど悪夢やったわ。」


 姐さんの失った片腕が、言葉より雄弁にそれを物語っている。


 その時、ルシアンがぽつりと呟いた。


 「……現状逃げるしかないってことか。」


 誰も即答できなかった。


 代わりに、修羅丸さんが静かに口を開く。


 「そうだ。少なくとも今の人類の知識と戦力では、アニマ・フェルマータを完全に“殺す”ことはできない。」


 淡々とした声なのに、重さが違う。


 この人は実際にアニマと刃を交えて、あの状態で戻ってきた。


 その修羅丸さんが、はっきりと言い切る。


 「じゃあ……」

 

 気づけば、私は口を開いていた。


 「私たちは、どうすればいいんですか?」


 自分でも驚くくらい、声が震えていた。


 さっき右腕を折られた時より、心臓が痛い。


 修羅丸さんはまだ残っている方の目でまっすぐ私を見た。


 「決まっている。生き延びるため。上層を逃げるだ。」


 その言葉に、胸がきゅっと締めつけられる。


 逃げろ、とさっきも言われた。


 ここでも、また同じことを言われる。


 きっと、それが最善なんだろう。


 わかってる。頭では、ちゃんと理解してる。


 それでも私は、悔しくてたまらなかった。


 あの扉の向こうに“真理”があるかもしれないのに。


 アニマは、もうあそこに到達しているかもしれないのに。


 「……納得できない顔だな、ミノリ。」


 修羅丸さんに言われ、私は思わず顔を背けた。


 「それでいい。本来探索者、いや冒険者とはそういったものだ。だがそれを発揮するのは今ではない。今はアニマ・フェルマータを倒すために一度地上に戻り不滅ノ翼だけではなく国全体で動く必要がある。それがお前が五層に行く最も近い道だ。」


 頭ではわかっているものの感情は納得できない。しかし私ではアニマには勝てない。ここはおとなしく修羅丸さんの指示に従おう。


 「そのことやねんけど、修羅丸副隊長。

なんでかはよう分からへんのやけど、さっきから転移が発動してくれへんのよ。」


 メノウの姐さんの言葉で全員転移を試みる。


 しかし転移は発動しない。


 その瞬間黒い球体が現れた


 黒い球体が静止し、内部に光が灯る。


 『――こちらリリ。第七番隊副隊長のリリである。聞こえるか、修羅丸。』


 「聞こえている。第一番隊副隊長、修羅丸だ。」

 

『修羅丸副隊長、確認した。

 数分前まで、あなた方の反応は確かに存在していた。だが――突然、全て消失した。

 状況の報告を願う。』


 修羅丸さんが短く息を吐く。


 「ソーマネクル司教アニマ・フェルマータと遭遇した。」


 『……ソーマネクルの司教、だと?』


 一瞬、通信に沈黙が走る。


 『確認する。

 ソーマネクル第ニ司教、永劫の胎

 そのアニマ・フェルマータで間違いないか。』


 「間違いない。第二司教、アニマ・フェルマータだ。そいつと交戦した。

 結果としてこちらは壊滅状態。俺は重傷、メノウは片腕を喪失。

 現在、第四階層城下町にて足止めされている。


 横たわる修羅丸さんの姿を、私たちは無言で見つめる。

 

『……そうか。』

 

 リリ副隊長の声が、わずかに低くなる。


 『では、転移を使用し直ちに離脱しなさい。』


 「――できない。転移が発動しない。」


 『……は?』


 短く、鋭い声。


 「転移ができない。」


 再び沈黙が走る


 『転移妨害? 結界干渉?どちらにしろ転移が封じられている以上、外部からの救援投入は不可能。

 今試したがこちらから第四階層へ転移して入ることもできない。』


 「原因はアニマ・フェルマータか?」

 

『可能性は高い。

 階層構造そのものに干渉しているのかもしれない。』


 その言葉に、背中が冷たくなる。


 『つまり今、第四階層は密閉空間だ。

 だが、例外は二つだけ。』

 

「……上下の階層か。」


 『その通り。第三階層へ戻る道。もしくは――第五階層へ進む道。』


 その瞬間、全員の視線が無意識に私へ集まった。


 「……。」


 私は何も言えなかった。


 さっきまで、あれほど“行きたい”と願っていた場所。


 でも今、その選択は生存か、破滅かの二択に変わっている。


 『修羅丸。意見を聞かせろ。』


 リリ副隊長の声は、冷静だった。


 「……第三階層へ戻るのが定石か?俺たちが抗戦した場所は第五階層への入り口だったからそこを根城にしている可能性が高い。ここにいる面々はヒュースとカスミを除いて新しくなった第三階層に挑戦していない。そのため第三階層から転移して地上に行くには階層ボスを倒す必要がある。それを鑑みても永劫の胎と戦うよりは遥かに生存率が高くなるだろう。」

 

 『同意する。では第三階層からの脱出でいいか?』


 「すまん、口に出しといて何だが今回は永劫の胎が相手だ。脱出口を二つとも確保されている可能性が高い。少なくとも3人は確認されている。そこから増殖している可能性が高い。そのためヒュベル第五階層と第三階層に増援を要請したい。」


 『挟み撃ちにするわけだな。なら今から他の部隊に連絡をっ』


 突然、通話が途切れる。


 ここで突然だがリリの遺物『観察者(ウォッチャー)』の能力について説明しよう。


 能力は観察対象の心拍数と位置を常に把握すること。

  

 また先程まで存在していた黒い球体。これは『観察者(ウォッチャー)』が生み出す眼であり耳である。


 この黒い球体は『観察者(ウォッチャー)』の黒眼展開(ブラックアイ)と呼ばれる監視システムとしての役割を持つ物体である。この黒眼展開は直径5cmまで小さくでき、『観察者(ウォッチャー)』の観察対象になっているものから半径5mまでの間に出現させられる。


 黒眼展開を通して手に入れた情報はリリがいつでも確認できる。更に黒眼展開からリリの録音した声を流すこともできる。


 これら『観察者』の能力を複合して通話することも可能となる。


 この時対象もしくは自分がヒュベルにおり時間の流れが異なる場合、自らを密閉した空間に閉じ込めることにより対象の黒眼展開にその密閉された空間の時間が同期し、1秒の遅れもなくリアルタイムでの通話、監視、盗聴が成立する。


 これは『観察者』に備え慣れている機能で隔絶同時観測(シルド・リアルタイム)という。


 『観察者』の対象はリリが自身で作成した契約書にサインしたものもしくはリリの血液を体内に摂取したものの2種類である。


前者の場合、契約が破棄されるまでの間なら永久に契約書の内容に沿った形で観察可能


後者の場合、24時間という制限はあるものの自由に観察可能。



 ここでの密閉された空間とは部屋の窓や扉を閉めておくだけでも成立する。今回、通話が途切れたのは扉か窓が開けられて密閉という条件が解除されたのだろう。


 再度隔絶同時観測を使用しても地上時間1分がヒュベル第四階層城下町では10分。リリはすぐに連絡を入れるだろうかは遅くともここで30分待機すればいいだろう。


 私たちは、壊れかけの民家の中で息を潜めていた。


 壁の隙間から差し込む薄明かりが、埃を帯びた空気を照らしている。


 誰も口を開かない。


 修羅丸副隊長は、壁にもたれて座らされている。


 回復系遺物で命は繋ぎ止めたが、重症に変わりない。


 「……十分も経ってへんのに、やけに長く感じるな」


 メノウの姐さんが、小さく呟いた。


 誰も返事をしない。


 その時だった。


 鼻を刺すような、血の匂い。


 つい先ほどまで、気づかなかったはずのものが、急激に濃くなる。


 「……来る」


 ルシアンの声は低く、響く。


 次の瞬間。


 瓦屋根の上を、駆ける影が跳び越えた。


 着地音。


 石畳が、わずかに砕ける。


 姿を現したのは、狼。


 だが、ただの狼ではない。


 人の体格を基礎に、骨格ごと歪められた獣人。

 全身を覆う灰色の体毛。鋭く伸びた牙。


 そして何より異様に落ち着いた眼。


 鼻先を地面に近づけ、血痕をなぞるように嗅ぎ取る。

 「……獣化系の遺物か」


 バレットが、歯を噛みしめる。


 狼の獣人は、嗅覚だけでなく、こちらの動揺や恐怖までも読み取るように、低く唸った。


 その背後から、ぞろぞろと人影が現れる。


 黒衣に身を包んだ、ソーマネクルの教徒たちだろう。

 

その中の一人は、複数の遺物が詰め込まれた袋を抱えていた。


 別の一人は、耳元に小さな結晶を当て、誰かと通話している。


 そして


 三人、同時に。


 同じ姿、同じ顔、同じ微笑みを浮かべた男たちが、路地に現れた。


 アニマ・フェルマータ。


 三体。


 「……ああ、やはりこちらでしたか」


 丁寧で、柔らかく、ねっとりとした声が、重なり合って響く。

最後まで読んで頂きありがとうございました!


ついに!ついに!ついに!

ソーマネクルの司教名前だけだった第二司教が動き出しました!

ここまで長かった。やっと敵対組織がガッツリと出て感無量です!

私物語を描く時最初に敵対組織を考えてしまうタイプなんですけどこれって私だけではないはず!

気合いが入りすぎて約1万字!

本当にこれを最後まで読んでいただきありがとうございます!

引き続きミノリ達vsアニマ・フェルマータをお楽しみくださいませ!

改めまして最後まで読んでいただきありがとうございました!

また次回もお楽しみください

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