第四階層へ
第35話です!
是非楽しんください!
第三階層を突破してから、まだ数時間も経っていない。
全員の心は妙に疲れていた。
あのカジノの光、兎たちのざわめき、そして“豪運”の支配。
まるで現実そのものが賭け事に変わるような世界だった。
私たちは不滅ノ翼・第一番隊の宿舎に戻り、アイクを待っていた。
やがて扉が開き、気の抜けた声が部屋に響く。
「やぁ〜、やっと帰ってきたねぇ、ミノリ君たち。
いやぁ〜第三階層、あそこはクセが強いでしょ? 豪運の兎幸、どうだった?」
いつも通りの軽口。
それなのに、部屋の空気は一瞬で張り詰めた。
「……正直、運以外の要素はほとんど意味がなかった。」
最初に答えたのはルシアンだ。
「読みも戦略も、あの豪運の前じゃ霞む。あれは“確率”の暴力だ」
「うんうん、ルシアン君がそう言うなら、相当だねぇ」
アイクは楽しげに笑いながら、紅茶を一口すする。
「でもまぁ、攻略できたってことは、何かしら“賭け”には勝ったんでしょ?」
「イカサマしたうえに4人がかりでやっとです。」
バレットが静かに言った。
「ふふん、やっぱバレットちゃん、真面目だね〜」
アイクがわざと“ちゃん”付けで呼ぶ。バレットは眉一つ動かさない。
「ま、いいじゃんバレットちゃん。勝ったんだしさぁ〜」
ユキちゃんが背もたれにだらんと寄りかかり、気の抜けた声で笑う。
「あの豪運に勝ったんだから今のボク達の運ってすごくない!次の階層行く前にカジノで一勝負したら稼げるかな?」
「お前、脱落してたから運があるって言えるのか?」
ルシアンがぼそりと突っ込みを入れる。
私はふっと息をついた。
第三階層での“兎幸”との戦いが、まだ胸の奥に残っている。
あの笑顔と、一言が焼き付いて離れなかった。
最高の勝負だった、と。
「報告書はすでにまとめてあります。提出しておきます」
バレットが無駄のない動作でデータを送信する。
アイクは端末をちらりと見て、ニヤリと笑った。
「うんうん、完璧。
いやぁ〜、ほんと頼もしいねぇ、キミたち。
特に斧幸を兎幸に所有させて運を乱すなんて、イカれていて最高!」
アイクの言葉に、胸の奥が少し熱くなる。
この人はいつも軽く見えて、ちゃんと見てる。
だから、茶化されても嫌いになれない。
「で、これからの話なんだけど――」
アイクがポケットから小型端末を取り出す。
「しばらくは、訓練期間に入るよ。第四階層はまだ慣れてない遺物で挑んでクリアできるほど簡単な階層じゃないから。
ルシアン君も、兎幸の件で得た“遺物”は、まだ馴染み切ってないだろ?」
「……ああ。これは、ちょっと癖が強い。簡単には扱えない。」
「でしょ。だから焦らず慣らしていこう。
ユキ君は氷晶王、バレット君はクレイブを訓練室で練習して。
あ、ミノリ君はあとで修羅丸君のところにいって。"アクセル"をもっと使いこなせるようにする特訓を彼に頼んでいるから。
それと各々が新しい遺物に慣れて来たら連携訓練も始めるから。その時にはカスミ君とヒュース君も加わるかな?
そろそろ不滅ノ翼入団試験があるから正式に1番隊に迎えたいし。
それと4人の遺物免許なんだけどバレット君とミノリ君はB級まで使用可能になったよ。
ユキ君とルシアン君は階層ボスに認められた実績からA級に特別進級だって。第4階層を攻略したのちS級認定試験の案内をするね。その時にはミノリ君とバレット君も一緒に受けられると理想的だね。とりあえず4人とも頑張って。」
「「「「了解です!」」」」
「うん、いい返事。さ、じゃ、解散〜! 各自、報告書とデータ提出を忘れずに。
僕はこれから隊長会議があるからじゃ〜ね〜。」
手をひらひら振りながらアイクは去っていく
*
第三階層を突破してから、数ヶ月が経った。
その間の一日を紹介しよう。
私たちは不滅ノ翼本部の訓練区画で、地獄のような鍛錬を続けていた。
アイクの指導は、天才的な感覚頼りで理屈が追いつかない。
修羅丸副隊長の稽古は、理屈しかないのに身体がまったくついていかない。
だがどちらも“優しい”部類だったと、後で思い知ることになる。
「はい、そこの人。気ぃ失ってる暇なんてあらへんよ。」
メノウの姐さんの声が響く。
静かで、落ち着いていて、それでいて恐ろしく逆らえない。
「回復しときましたえ。ほら、もう立てますやろ。
ほな、続きいきましょか。」
バレットがうめき声をあげながら立ち上がる。
体中が軋んでいるのに、次の瞬間には痛みが消えていた。
そしてすぐに再開逃げ場など、どこにもない。
「……これ、訓練じゃなくて拷問だろ。」
ルシアンが顔を歪めて呟く。
「でもボク、こういうの嫌いじゃないかも。
だってよくいうじゃん、プラスウルトラって。実際目の前に綺麗なお花畑が見えてきたよ。あっ、川も見える、少し水のんでく?」
ユキちゃん蒼白となっている顔でいつもの調子で笑っている。
おそらく本人は何も考えずにそのままのフィーリングで話しているのだろう。
「ユキ!戻ってこい!それは見えてはいけない奴だ!」
ルシアンの返しの言葉がかなり強い。
誰も彼も、メノウの姐さんの訓練で体力も気力も削り取られていた。
かくいう私もかなり限界が近い。さっきから思考がまとまらない。
脱水症状だろうか?ちょっと向こうの川で水飲んで休憩しようかな?
「ミノリちゃん、止まったらあかんよ。
……あら、手ぇ震えてるやないの。ほな――はい、回復。」
腕立てをしていた私の身体が回復する。
「ひゃっ!? ま、まだやるんですか!?」
目の前の川が消えて現実に引き戻される。
「もちろんやよ。倒れるたびに、ちゃんと強うなっていくんや。
健やかな身体には、健やかな心が宿る言いますやろ。
力が強うなれば、その分だけ心も強うなる。
そうなればな、ミノリちゃんがダークに呑まれることも、きっとあらへんよ。」
メノウの姐さんは柔らかく微笑んだ。
その笑顔が、何より恐ろしかった。
肉体の疲労はない。それは確かだ。
しかし精神はそんなことはない。今も心が休め、お前は限界だと囁いてくる。
「……鬼。」
バレットがぽつりと呟く。
「ええよ、褒め言葉として受け取っとくわ。」
その優しい声が、全員の背筋を冷たくした。
やがて日が沈み、訓練が終わる。
床に崩れ落ちた私たちを見て、メノウの姐さんは満足そうに頷いた。
「ふふっ、よう頑張らはりましたなぁ。これで今日の訓練はおしまいや。」
「……死なないだけで疲労感は階層ボス戦よりもある……」
ルシアンのぼやきを最後に、全員が倒れ込んだ。
そんな生活を数ヶ月、私たちは再びヒュベルの入り口に立っていた。
今回はいつもの4人だけではなく一か月前に入団したカスミとヒュースも一緒に挑戦する。
空気は冷たく、第三階層とはまるで別の世界に来たようだった。
第四階層――その扉の先に広がっていたのは、想像を遥かに超える光景だった。
「……これ、ヒュベルの中だよね?」
思わずそう呟く。
見上げれば、漆黒の夜空。
星々が瞬き、中央には眩いほどの満月。
その光に照らされて、遠くに巨大な城が浮かび上がっている。
月明かりの下、私たちは足を踏み出した。
「……空、あるんだね。ここ、地下のはずなのに、もしかして天体観測できるかな?」
ユキちゃんがぽつりと呟く。
その言葉で少しだけ緊張が解けた気がした。
「ユキさん、油断しないでくださいね!」
ヒュース君が声を上げる。丁寧な口調だがしかし熱のこもった声だった。
「敵はどこからでも現れます! 回復系の遺物が落ちるとはいえ……まずは安全確保が最優先です!」
「はいはい、真面目くん。わかってるってば」
カスミちゃんが舌を出して笑う。
「そんなピリピリしてたら夜景がもったいないよ?」
「夜景を楽しむ暇はない!ただ全力で目の前の敵に集中しないと!」
ヒュース君は即座に返すが、カスミちゃんは笑うだけだった。
ヒュース君はメノウの姐さんにみっちり訓練されていることからしっかりしているがカスミちゃんはヒュース君と共に1ヶ月で1〜3階層をクリアしていることから調子にのって油断しがちである。
「っ、来る!」
風を切る音。闇の中から、鋭い羽音が迫ってくる。
黒い影が月光を裂いた。
無数の翼。蝙蝠だ。だが、普通の蝙蝠ではない。
その一匹一匹が人の2、3倍ほどの大きさを持ち、金属片のような羽根を光らせている。
「……鉄蝙蝠。硬いことで有名な敵。」
バレットが即座に分析するが、動く前にヒュース君が一歩前へ出た。
「ここは、自分たちで行きます!」
「そうね、先輩達に私たちの実力を見ておかないと♡。ヒュース、足場は容易するから任せたよ〜」
カスミちゃんは舌を出して笑う。地上から薔薇の蔓を伸ばし、空中の敵に絡ませる準備をする。
「了解です!全力で抑えます!」
ヒュース君は目を鋭く光らせ、空中に展開したシルトを足場に跳び上がる。翼の一撃をかわすように舞い上がり、軽やかに鉄蝙蝠の背に踏みつける。
そのまま蹴りを叩き込み、モンスターの羽に衝撃を与える。鉄蝙蝠は粉砕されて落ちていくが別の鉄蝙蝠が牙を向けて襲いかかる。
その攻撃を交わし拳を振るう。衝撃で一体が空中から地面へ墜落していく。だが、すぐに他の二体が襲いかかる。
ヒュース君は墜落していく鉄蝙蝠を足場に別の敵へ飛び移り、連続で殴打。鉄蝙蝠の群れが空中で螺旋を描きながら崩れる。
「カスミさん!支援してください!」
「ふん、任せて〜。全員、注目! 援護するよ〜」
カスミちゃんが声を上げた。荊がまるでいきているかのように伸び、空中の敵へと絡みつく。
「ぷぷっ♡ ほら、棘に絡まっちゃった〜」
敵の翼を縛り上げ、暴れるたびに棘がより食い込んでいきダメージを与えていく。
「そんなに焦ってどうすんの?」
カスミちゃんは敵を翻弄しながら笑う。
そして荊から白い薔薇が咲き誇り、ヒュース君へと向かう攻撃を防御する障壁としても機能した。
カスミちゃんの荊の鞭が鉄蝙蝠を捕獲、それをヒュースは粉砕しながら足場にし、他の鉄蝙蝠に飛び乗って粉砕していく。
カスミちゃんの遠距離攻撃とヒュース君の空中殴打が、見事に連携している。
「ねぇ、まだ飛んでるの?ざぁこ♡」
カスミちゃんが挑発的に声を上げると、もう一体の鉄蝙蝠が突進してきた。しかしヒュースがその鉄蝙蝠を粉砕する。
「次は右から飛び込んできます!荊で拘束をお願いします!」
ヒュース君は体を回転させ、空中で蹴りを入れる。鉄蝙蝠は動きを封じられ、カスミちゃんの荊に絡め取られて地面に叩きつけられる。
「完璧です!カスミさん!素晴らしい支援です!」
「ふふっ♡でもここからはあたしのターンじゃん?」
カスミちゃんは笑いながら、荊を束ねる。
そこに赤い薔薇が咲き誇り、その薔薇の花弁がまるで刃物のようにヒュース君ごと鉄蝙蝠を襲う。
ヒュース君は飛んでくる花弁を全て避けながらその場を離れた。
鉄蝙蝠は次々と倒され、残った敵もヒュース君の打撃で粉砕されていく。
「これで一段落であります。毎回言うのですが俺ごと攻撃するのやめて欲しいであります。」
「は〜い、次は気おつける〜♡それよりあたしはまだ遊び足りないかな〜♡」
カスミちゃんが楽しげに笑う中、ヒュースは冷静に敵の残骸を確認し、訓練で培った集中力を次の戦闘に向けて整えた。
最後まで読んで頂きありがとうございました!
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そうでなくともこの作品が少しでも気に入っていただけたら今後も読んでいただけると幸いです。
連絡事項
今後の更新ペースなのですがリアルの方がかなり忙しくなるので毎週日曜日投稿に変更いたします。
投稿から1ヶ月達成してすぐこのような形になり申し訳ありません。
改めまして最後まで読んでいただきありがとうございました!
次回の投稿は3月22日の予定です。お楽しみください




