外伝? リィナと不思議なワンちゃん 後編
第34話です!
是非楽しんください!
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彼は、恐怖した。
長い間、狩る側であり続けた。
踏み潰し、喰らい、削り、あらゆるものを“無”へと変えてきた。
敵と呼べる存在はあったが、いずれも“喰うための形”でしかなかった。
だが、今は違う。
己の牙が届かぬ。
咀嚼しても空間が開かぬ。
“逃げ道”すら縛られる。
それがどれほど異常なことか、彼には痛いほどわかっていた。
空間を喰らうとは、世界を支配することだ。
それは理の外に立つ捕食者だけが許された特権。
自分こそがその頂点だと信じて疑わなかった。
だが――。
あの女は、平然とその上を行った。
技の理を喰われても怯まず、削られても重ね返す。
咀嚼するたび、己の力が無効化されていく。
この空間すら、いつの間にか“彼女の掌の中”にあるような錯覚。
……ここは、まずい
理性が警鐘を鳴らす。
この場に留まれば、いずれ自分は“喰われる側”に回る。
彼は静かに、喉の奥を鳴らした。
撤退だ。
今はまだ、“無”に還るわけにはいかない。
再構築の機会を伺えばよい。そう思った、その時。
「逃げる気かのぅ?」
背後から、あの声が聞こえた。
反射的に彼は首を巡らせる。
そこに、いた。
いつの間にか、すぐ傍にリィナが立っていた。
なぜ……
彼の“空間”は閉ざしていたはず。
誰も踏み込めぬ亜空の道。
そこに、どうして。
その疑問を察したように、リィナは口角を上げた。
「お主が散々その技を見せてくれたのだろう?
……だから妾もこうして、こっちに来ることができたのじゃ」
意味が、わからなかった。
いや、理解したくなかった。
自分の“世界”を、侵入を許さぬ領域をこの娘は模倣している。
この空間は、もう安全ではない。
その本能的な結論だけが、彼を動かした。
逃げねば。
今すぐ、ここから離れねば。
リィナが動くより早く、彼は自らを咀嚼する。
視界がねじれ、現実の空間へと跳び戻る。
だが――。
着地の瞬間、爆発が起きた。
鈍い閃光。
衝撃。
世界が白く弾け、皮膚が焦げる。
「……っ、ぐ、ぁ……」
黒煙の中、かろうじて体を保つ。
半身が崩れ、再生が追いつかない。
その時、同じく空間を裂いてリィナが現れた。
「お主が戻って来た時に、着地するであろうところに罠を仕掛けておいたにしても――」
彼女は軽く笑い、口元を拭う。
「タフだのぅ。これでも死なんとは。もう少し、いろいろ試してみるかの」
彼は、初めて“捕食者の眼”ではなく、“獲物の眼”で彼女を見た。
恐怖が、理屈を超えて染み渡る。
彼女の言葉が、宣告のように響いた。
もう、逃げ場はない。
黒煙の残滓がまだ空を漂う中、リィナは焦げた床を踏みしめた。
肉が焼けた匂い、空気に混ざる鉄の味。
そして、それを切り裂くように、軽やかな足音が響いた。
「おやおや、これはこれは。お見事です、リィナ様。」
リィナが顔を上げると、そこに立っていたのは兎幸の部下のバニーの1人だった。
白い耳をぴんと立て、深紅の瞳がリィナをまっすぐ射抜く。
その笑みはどこか哀しげで、それでいて確固たる使命を背負っているように見えた。
「……お主がここに現れるとわな、兎幸の側にいなくてええのか?」
「えぇ。その件で貴方様にご連絡があったため参りました。」
バニーは、腰を折って丁寧に一礼した。
「ただいま、兎幸様が、ルシアンという挑戦者の遺物になる決断をなさいました。」
空気が、凍った。
「……なんじゃと?」
リィナの声がかすれる。
その言葉は、彼女にとってあまりに唐突で、あまりに非現実的だった。
確かに、兎幸が遺物になってくれればと願ったことはある。
だがそれは、あくまで夢物語。
現実的ではなく、叶わぬ希望として胸の奥に押し込めていた。
この地下の調査こそが、現実的で、手の届く“本命”の仕事だったはずだ。
その成功率を高めるために兎幸の目を逸らす必要があったため、あの4人に兎幸にゲームを挑むように誘導した。
「……そうか。妾が思い描いたよりも、あの子達は遥に上を行ったというわけじゃな。」
リィナは小さく笑い、息を吐いた。
その顔には、驚きと、そして確かな称賛の色があった。
「ルシアン。お主……やってくれたのぅ。」
そんな彼女に、バニーが一歩進み出る。
「つきましては、リィナ様たち“不滅ノ翼”の方々との取引、並びに貴方のご主人様との契約を――解除させていただきます。」
その視線はリィナと犬に向けられていた。
影に覆われた犬が低く唸る。
その背から無数の黒い目が光を放ち、バニーを射抜いた。
だが、バニーは怯まない。
静かに膝をつき、リィナと犬の両方に深々と頭を下げた。
「グリード様より、私が新たな“とこ”の役目を受けたため、責任を果たしに参りました。
そして貴方のご主人に伝言を。
第三階層は先程まで階層ボスであった兎幸様により、多くのバニーが育てられました。
しかし、“豪運”に適応できる“とこ”候補がいなかったため、しばらくはもとの“ゲリラ戦型”の階層に戻すとのことです。」
そう言いながら、彼女は右手をゆっくりと掲げた。
「つきましては――新たに“とこ”となり、バニーたちを育てる支えとして仕事をさせていただきます。」
次の瞬間。
ダン! ダン!
地面を叩くような音が鳴り響いた。
それは、リズムのようでもあり、警鐘のようでもある。
視界の隅に、白い影がいくつも見えた。
リィナが目を細めると、そこには――無数のウサギがいた。
低く鳴き、地を踏み鳴らし、空気を震わせている。
「ブゥゥ……ブゥゥゥ……」
その音は、怒りとも悲哀ともつかぬ響き。
バニーが静かに言った。
「お二人とも。こちらは、どうか引いていただけませんか?
この方“新たな床”にも事情がございます。
この“商品”は、我々が責任を持って納品いたします。
もし妨害されるようでしたら……私共も、参戦させていただきます。」
リィナの背筋に、ぞくりと冷たいものが走った。
かつての第三階層。
兎幸が支配する前そこは“沈黙のウサギ”たちが支配していた地獄だった。
音もなく忍び寄り、首を刎ねる。
探索者たちは、首を守るために分厚い装備を作らせ、莫大な資金を投じた。
それでも、生き残れる者は少なかった。
そして今、その悪夢が、目の前にある。
周囲を埋め尽くすほどの数。
その瞳に、わずかな迷いもない。
リィナは、ゆっくりと息を吐いた。
「……仕方あるまいの。妾とて、無駄に部下を散らす気はない。」
リィナは部下を連れてこの場を撤退していく。
「ご理解ありがとうございます。では貴方様の仕事をなさってください。」
バニーいや、床〈とこ〉は犬に視線を向けると犬は棚を咀嚼していく。
そして広げた空間をもとに戻して消えていく。
最後まで読んで頂きありがとうございました!
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そうでなくともこの作品が少しでも気に入っていただけたら今後も読んでいただけると幸いです。
そしてついに次回から第4章突入です!是非楽しんでください!
改めまして最後まで読んでいただきありがとうございました!
また次回もお楽しみください




