外伝? リィナと不思議なワンちゃん 前編
第33話(外伝)です!
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不滅ノ翼・第二番隊隊長、リィナ。
「……ふむ。やはり、静かすぎるのぅ」
第三階層“兎幸”が統べる迷宮の町。
外ではミノリたちが兎幸とのダンジョンすごろくに興じている頃。
リィナはその裏で、命を賭けた探索を進めていた。
部下の一人が壁の装飾を調べながら言う。
「隊長、ここ……通路の下に空洞があります。音の反響がここだけ違います。」
「やはりのう。借金を返せぬ者を“穴に落とす”階層じゃ。
……落下死ならば、骨の砕ける音が響くはず。されど音は、聞こえぬ」
リィナの瞳が細められ、光が宿る。
本のページが自動的に開き、そこに「過去に見た地形図」が淡く浮かび上がった。
「……この位置。お主ら、床を削ってみい。今なら兎幸の監視も手薄じゃろう。」
部下たちが道具を取り出し床を削る。
ゴリ、ゴリリ……と鈍い音が響き、やがて空間が抜けた。
地下への階段。
「見つけたのぅ。やはり妾の勘は鈍ってはおらんかった」
リィナは満足げに微笑み、部下たちを引き連れて降りていく。
下の空間は湿っていた。薄暗く、鼻を刺す鉄の匂い。
そこには、棚と呼ぶにはあまりに巨大な構造物があった。
天井から床までを貫く鋼のフレーム。
それぞれの枠の中には、透明な袋がみっちりと詰め込まれている。
袋の中には、人間。
裸同然の姿で膝を抱え、眠るようにあるいは死んだように身を丸めていた。
呼吸をしている者もいる。
だが、それは“生かされている”だけの命。
膜越しの肌は青白く、頬は痩せこけ、まるで保管物のようだ。
「……こりゃあ、まるで標本じゃのぅ」
リィナが呟く。
本の光が淡く周囲を照らし、袋詰めの人々がずらりと並ぶ様が浮かび上がる。
縦にも横にも、どこまでも続く。
その数、数百……いや、数千を超えるだろう。
「隊長……これ、全部……人間ですか……?」
「妾の目にはそう見えるがのぅ。だが、こんなにも……」
リィナの声が、低くなる。
この階層の地下に、これほどの人間が“保存”されていたとは。
そして、袋の一つ一つには微かな呼吸音。
心拍を示すかのような赤い点滅。
保存されているものを一つ触れてみる。
機械的な音と人のぬくもりが、不気味な調和を奏でていた。
この光景に吐き気をもしている時
ギチ……ギチギチ……。
耳をつんざくような、骨を噛み砕く音。
リィナの眉がわずかに動く。
「……嫌な音じゃのぅ」
振り向いた先そこに、黒い靄のような塊が蠢いていた。
それは次第に犬の形を形成していく。
しかし皮膚は影に覆われ、全身から目が生えている。
数十、いや百にも届く眼球が一斉にこちらを向いた。
影のような体から無数の眼が瞬き、次の瞬間、その口が開いた。
空気が“引きちぎられる”ような轟音。
部下の一人の悲鳴が響くより早く、彼の半身が“消えた”。
血も、肉も、骨も跡形もなく。
「消えた!? い、いまの何を――」
「退けッ!!」
リィナが本を開くと同時に、ページが風にめくられる。
一枚を破り取り、指先で弾く。
「ウォーターカッター」
破いたページから水のカッターが飛びだす。
そしてまたあの“口”が開いた。
“引きちぎられる”ような轟音が、地下空間に鳴り響く。
目の前のウォーターカッターが壁ごと“欠け”ていく。
破片も、焦げ跡もない。ただ、“その部分だけ”存在が切り取られたように滑らかな空白が残っている。
「……なるほどのぅ」
リィナの目が鋭く細まった。
「今、壁の紋様が一文字……“消えた”な」
壁に描かれていた警告文――
〈落下注意〉の“下”の字が、きれいに消えていた。
「こやつは“空間”ごと食っておるのか。」
犬が低く唸り、口内の闇が渦を巻く。
「妾まで喰うとするとは、良い度胸じゃな」
リィナは唇を吊り上げ、ページを一枚めくった。
指先で紙片を破ると、光が疾風のように走り出す。
《散弾筆写》
破られたページが百羽の鳥のように舞い上がり、弾丸めいて犬へ殺到する。
その全てが、犬の咀嚼によって音もなく“吸い込まれた”。
口内の亜空間にねじ曲がり、消失する。
「なるほど、これも削るか……ならばこれはどうじゃ?」
リィナは次のページを破り、左手で空を払った。
今度は破いたページが鎖に変わり、犬の足元へ絡みつく。
犬は自分の足を咀嚼し始めて、そのまま“自分自身”を飲み込む。
黒い煙が一瞬で収束し、姿を消した。
「ほう……自分で自分を喰いおった。いったい何をする気じゃ。」
リィナは口角を上げ、後退しながら本をめくっていく。
その瞬間だった。
ズチュ。
重い衝撃とともに、右腕の肘から先が“消えた”。
「……ほぅ?」
骨も血も、まるで“初めから存在していなかった”かのように滑らかに切り取られている。
リィナのすぐ隣に黒い犬の姿を確認する。
口の端に、何かを咀嚼するような動き。
そして消えたリィナの右腕。
おそらくこいつが食べたのだろう?
部下の叫びが響く。
「た、隊長っ! 腕が――!」
「落ち着け。……この程度、すぐ治る!」
リィナは左手で本を開く。
ページの一枚を破り取る。
その瞬間、光の線が腕の切断面をなぞり、骨と肉が再生していく。
「……よし、感覚も戻ったのぅ」
軽く拳を握る。再生した右手の感触を確かめながら、視線を黒い犬から外さないようにする。
「……ふむ、やはり“透明化”のたぐいかのぅ。それにしては頭を食いに来ないのは不思議じゃのぅ。」
リィナは静かに本をめくり破りとる。
「泥沼」。
床が蠢き、無数の泥の手が犬を引きずり込もうと伸びる。
すると再び犬は己を食べて姿を“消し
「……ふむ、やはり“透明化”のたぐいかのぅ」
リィナはそう呟きながら、ページを一枚破る。
破られた紙片が宙に舞い、無数の光線へと変化する。
《頁嵐》
地下の空間全域を覆う、紙と光の暴風。
石壁が裂け、天井の鉄枠が軋み、袋詰めの棚が振動する。
だが――
ズゥン、と鈍い音。
次の瞬間、リィナの視界が暗くなった。
いきなり明かりが消えたのか?
その場から動こうとするが動けない。
リィナは自分の身体を改めて確認すると下半身がなくなっていることに気づく
今度は足を食われたか。
違うな。
食べられたのは事実だろう。
しかし食われた場所が違う。
食われたのは上半身だ。
「……そう来るか」
声は平静そのものだった。
外では下半身だけが残り、床に血の代わりに光が滴る。
犬の口が、闇の中で光る。
舌の奥から見えるのは、無限に広がる黒、底のない虚。
咀嚼音が響く。
肉も骨もなく、ただ“存在”を食われている。
と、その時。
ひらり。
一枚の紙が、落ちてきた。
それはリィナの下半身に舞い降り、静かに光を灯す。
紙が燃えるように溶け、光の線が床から立ち上がった。
“再構築”。
瞬く間に、彼女の上半身が再生する。
服も、血も、何事もなかったように。
「……やれやれ、やはり効いたのぅ。保険をかけておいて正解じゃ。にしても妙な感覚じゃ。死んだというより、“どこかへ飛ばされた”ような……」
リィナは軽く首を鳴らし、再生した上半身を動かす。
犬は唸り声を上げながら距離を取る。
口の中の闇がわずかに明滅している。
リィナは静かに目を細めた。
「……妾の攻撃は避ける隙などはなかった。倒せぬまでも、掠りもせなんだ」
彼女は指先で床をなぞる。
リィナの声が低く響く。
「透明ではなく、“どこか別の場所”にいたと考える方が理に適う」
リィナは指先で床をなぞりながら、思考を巡らせた。
「……なるほど。右腕の時と上半身の時――妾の“立ち位置”が違っておったな」
犬が姿を消した直後の二度の攻撃。
一度目は後退しながら避ける動きを取っていた。
二度目は、その場に留まっていた。
結果、一度目は腕のみ。二度目は上半身そのものを喰われた。
「つまり、“狙われた位置”ではなく、“先におった位置”が喰われておるわけじゃ」
リィナの目がわずかに細められる。
「……となると、こやつは“妾の現在位置”を見ておらぬ。消える前にいた妾の座標を記憶して、そこに現れておる。そう考えるのが妥当じゃの」
犬は低く唸りながら、再び己の前脚を咀嚼し始めた。
「来るか」
リィナは即座に判断し、後方へ跳躍する。
床を滑るように、十メートルほど下がった。
黒い煙が収束し、犬の姿が消える。
空気がねじれ、音が吸い込まれていく。
そして、現れた。
さっきまでリィナが立っていた場所に。
「そこじゃ!」
リィナが叫ぶと同時に、破り取ったページを投げる。
すると雷光が放たれ、瞬間的に部屋が白く染まる。
鉄の匂いが焦げた臭いに変わり、犬の靄が弾け飛ぶ。
だが、それも一瞬。
犬の口がぱくりと開くと、雷そのものが“削除”された。
「……ほう、これも喰うか。ますます面白くなってきたのぅ」
犬は低く唸りながら、こちらを見据えた。
次の瞬間、口が“開く”。
咀嚼。
犬は消えることはなくその場にいる。
「……ほう? 今度は何を――」
リィナの視界が一瞬、ぐらりと揺れた。
犬がほぼ0距離まで接近していた。
距離を取っていたはずだ。
十メートル離れていたはずの黒影が、まるで空間ごと詰め寄ったように、眼前で牙を剥いている。
「空間を……喰って詰めておるか」
犬の顎が再び動く。
空気が裂け、足元の床が帯状に“消える”。
「なるほど……その場で咀嚼することで“空間”を削り、距離そのものを詰めておるわけじゃな」
リィナの目が細まり、即座に本を開いた。
風が舞い、光の文字が浮かぶ。
「反転陣」
破かれた一枚の紙が地面に貼りつき、そこから光の円が展開される。
犬の体が弾かれ、壁に叩きつけられる。
しかし、痛みの声もなく、再び顎を開く。
「懲りぬ奴じゃのう」
次の瞬間、空気が“引きちぎられた”。
反転陣ごと、地面が食われている。
「ぬ……これも削るか」
リィナは舌打ちしながら、その場から脱出する。
犬は止まらない。
咀嚼を繰り返し、不規則に距離を詰めて来ている。
瞬く間にリィナの目の前へ――
牙が迫る。
「速いのぅ!」
リィナはページを破り、放つ。
《光糸結界》
無数の光糸が蜘蛛の巣のように張り巡らされ、犬の動きを包囲する。
だが、犬の牙が光糸を噛み切る。
その瞬間、糸は存在を失い、周囲の空気まで“欠落”した。
「……見事じゃ、じゃがこれならどうかのぅ」
リィナは数歩退きながら、ページを破り放つ
「シュランゲフォルム」
蛇を訪うつとさせる一撃が犬に向かう。
犬は口を開けて吐くような動作をした。
その瞬間、犬とリィナの距離は大きく開き、技の範囲外へと逃げてしまう。
「削ったものは吐き出して繋ぐこともできるのか。」
犬はあたりを見渡す。
先程までの戦闘で袋詰めにされた人間が保管されている棚がいくつか倒れている。
犬はそれを確認すると大きく吐く動作をした。
瞬間部屋が広くなった。
棚に戦闘の影響が出にくいくらいには広くなった。
リィナは頬を緩めた。
「まったく、退屈せぬ相手じゃのぅ。ならば妾も、一つ趣向を変えてみようか」
リィナはゆっくりと息を吐く。
本を開き、指先を滑らせた。
ぱら、ぱら、と音を立てながら、数枚のページを破り宙へと舞い上げる。
「一枚では、面白みに欠けるのぅ」
破られたページは光を帯び、空中で静止する。
リィナの目が細まり、次の瞬間、声が響いた。
「《氷刃流》《風槍陣》《陽炎壁》《影縛り》全部まとめて、いくぞ」
破かれたページが一斉に光を放ち、四方から異なる攻撃が走った。
氷の刃が床を滑り、風の槍が渦を巻き、陽炎が揺らめき、影が地を這う。
それぞれが異なる方向から犬を包囲する。
犬は唸り、咀嚼する。
しかし、一つを喰うたびに別の攻撃が襲う。
「喰いきれぬか?」
氷が割れ、風が裂け、影が絡み、光が爆ぜる。
犬は空間を削って別のところに逃げようとするが動けない。
影が自分を縛っている。
その影を咀嚼しようとするが他の攻撃にそれを阻まれる。
犬はたまらず自分を咀嚼してその場から逃げ出す。
それを見てリィナは軽く笑った。
「それも読んでおる」
リィナは本の最後のページを開きそれを破りとる。
最後まで読んで頂きありがとうございました!
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そうでなくともこの作品が少しでも気に入っていただけたら今後も読んでいただけると幸いです。
改めまして最後まで読んでいただきありがとうございました!
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