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目には目を、歯には歯を、能力には、能力を  作者: 妄想お面
ウサギとダイスとひとつまみの欲望を

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25/54

ダンジョンすごろく

第25話です!

是非楽しんでください!

毎日投稿継続中!

 リィナは静かに指を鳴らした。


 すると机の上に、黒い布で覆われた二つの品が置かれる。


 「のう、ここでわらわと取引せんか?」


 彼女はいたずらっぽく笑い、布を払う。


 一つは、細長い銀色のスプレー缶だった。


 ラベルには「CHAMELEON」の文字。


 「これは“変身の霧”。吹きかければ最大二十四時間、生物や物の姿を自在に変えられる遺物じゃ。身分隠しに、潜入に、ナイフの見た目をカードに変えて持ち込むなどと、使い道は広い。兎幸の目から逃れるにも役立とう」


 もう一つは、黒曜石のような艶を放つ漆黒のダイス。面には一から百までの数字が刻まれている。


 「そしてこちらが、“百面の導き”。振るたびに数字が出る。その数が50以下なら幸運、それより高ければ不運となるといった遺物じゃ。」


 淡々と語るリィナの声は、遊び半分のようでいて、その奥には確かな重みがあった。


 「どちらも、この階層では50万コインで取引される貴重品じゃ。じゃが、わらわは条件によってはどちらか1つただでくれてやろう。交換条件はひとつ」


 リィナは水色の瞳を細め、ミノリたちを順に見やる。


 「お主らが、どうやって賭けに“勝って”きたか。わらわに教えてもらえぬか?」


 空気がわずかに張り詰めた。

 

 勝ち方を語る。それはつまり、自分たちの手の内を晒すことに他ならない。


 ユキちゃんは口元に笑みを浮かべつつも目だけが鋭くなり、ルシアンは無言で腕を組む。


 バレットは一瞬、計算を巡らせた。


 私は……ただ静かに、置かれたダイスを見つめていた。


 リィナは軽く肩をすくめる。


 「安心せい、わらわはお主らを陥れるつもりはない。ただ知りたいのじゃ。この階層を攻略しうる“力”があるか」


 その声音は柔らかい。だが、その瞳は何もかもを見透かしているようだった。


 そして提示された遺物、これらは今後この階層で勝つには必須のものとなる。どちらを手に入れるにしても十分お釣りがくる。


 私たちは顔を見合わせてギャンブルでどのように勝ったかを話した。


リィナは、こちらの答えを聞き終えると、ゆっくりと目を細めてうなずいた。

 「なるほどのぅ。お主らの勝ち筋、確かに理屈は通っておる」


 水色の瞳に愉快そうな光が宿る。だが次の瞬間、その声音は少しだけ低くなった。


 「さて……気になっておるじゃろう。何故、わらわがこんなところで商売まがいの真似をしておるのか、とな」


 リィナは椅子の背にもたれ、指先で机をとんとんと叩く。


 「不滅ノ翼としての立場を明かせば話は早い。わらわらは今、“第三階層の詰まり”をどうにかせねばならんのでな」

 

 彼女は真剣な顔で話し始める。


 「兎幸、あやつが階層ボスに収まってからというもの、ここを実力行使で抜ける者は一人としておらん。賭け事で勝つことでしか先に進めん。それに完全なる運となるとあやつに勝てるものはまずおらん。」


 言葉を区切り、彼女はちらりとルシアンへ視線を送った。


 「じゃが、それができる芽を持つ者はごく限られておる。わらわは、ルシアン。お主の“斧幸”に賭けておるのじゃよ」


 リィナは机に置いた指を軽く弾いた。


 「勘違いするでないぞ。兎幸に賭け事で“勝つ”だけでは、問題は解決せぬ。」


 私たちは思わず息をのんだ。

 

 「勝負に勝てば攻略自体はできる。じゃが、それでは兎幸は階層ボスのまま居座り続けるのじゃ。問題はそこよ」


 リィナの声には焦りすらにじんでいた。

 

「兎幸に“認められ”、自ら遺物となってもらわねばならぬ。そうして初めて、新たな階層ボスが出現し、この階層を賭け事に縛られずに越えられるようになる。そうせねば、不滅ノ翼も、ほかの連中も、ここで足踏みを続けるだけじゃ」


 ルシアンの腕がわずかに動いた。彼の斧幸が兎幸に通じるかもしれないその言葉を、誰もが意識していた。


 リィナはにやりと笑う。


 「ゆえに、わらわは協力を惜しまぬ。さっきは“どちらか一つ”と言ったが……やはり両方持っていけ。どちらも必ず役に立つはずじゃ」


 そう言うと、彼女は銀色のスプレー缶と漆黒のダイスを、両手でこちらへ押し出した。


 「“変身の霧”も、“百面の導き”も、兎幸との勝負でお主らの切り札となろう。兎幸を動かすには、並の手では足りぬでな」


 リィナの手から受け取った二つの遺物の重みを確かめたとき、すでに私たちの運命は定まっていたのかもしれない。


 そして舞台は、再び兎たちの狂騒の場へ。


 きらびやかな照明が乱反射し、観客席からは割れんばかりの歓声が上がる。


 「さぁさぁお待ちかねっ!」


 マイクを握った青いウサギが、耳をぶんぶんと振り回しながら声を張り上げる。


 「この一ヶ月で見事っ! 100万コインを集めた猛者どもがここに登場だぁぁぁっ!」


 場内が一層沸き立つ。名前が告げられるたびに、歓声が爆ぜる。


 「まずは彼女の計算に狂いはない!計算の鬼っ、バレットぉ!」


 「続いて、今宵は勝てるのか?ルーザー、ルシアン!」


 「笑顔の裏で鋭く舞う小悪魔ぁ、氷の女王ユキ!」


 「最後に、チンチロで今だ無敗!イカサマでもしてるのかと監視したところイカサマをしていなかったことが発覚した少女っ……ダイスの魔術師ミノリぃぃっ!」


 スポットライトが順に私たちを照らす。熱気が肌を焼き、耳を突き抜けるほどの歓声に包まれながら、私は前を向いた。


 青ウサギは高らかに叫ぶ。


 青ウサギの絶叫に合わせるかのように、場内の照明が一度ふっと落ち、静寂が訪れる。


 観客たちの息が詰まる。その一瞬の暗闇。


 やがて、舞台中央に一筋のスポットライトが差し込む。


 そこに現れたのは、白い長髪と同じ色の兎耳を揺らす人影。


 真紅のドレスを纏い、片手にはカードを扇のように広げ、もう片方の手で観客に軽く投げキスを送る。


 真紅の唇がふっと弧を描き、片目をウインクで閉じた。


 「私こそは、この階層の支配者。運命を操る者、兎幸」


 囁くような声なのに、会場全体に響き渡った。


 観客は歓声を上げ、足を踏み鳴らし、まるで嵐のように舞台を揺らす。


 兎幸は観客の熱狂を楽しむように一回転し、ひらりと舞台中央の椅子に腰かける。


 そして青ウサギが再びマイクを取り、甲高い声で叫んだ。


 「さぁ! 兎幸様と勝負をする前に挑戦者たちよ、耳の穴かっぽじってよーく聞けっ!」


 青ウサギは指を立て、観客へと振り返る。


 「ルールその一! 勝負の内容を決めるのは挑戦者! ポーカーでもルーレットでも、チンチロでも構わんっ!」


 「その二! 暴力は禁止! 拳での決着は無粋にして野蛮! ここはカジノ、運と知略こそが全て!」


 「その三! イカサマ……してもいい! だが、兎幸様に見破られ――勝負に負けた時はぁぁぁ……」


 青ウサギは不気味な笑みを浮かべ、手を打ち鳴らした。


 「罰金10万コインッ! 払えなければ……どうなるかは、わかるよなぁ?」


 観客席から「おおおおっ!」とどよめきが起きる。


 兎幸は長い脚を組み、舞台上の私たちを順に見やった。


 涼しげな瞳に、退屈の色は一切ない。むしろ獲物を前にした捕食者のような笑みが浮かんでいた。


 「さぁ……挑戦者たち。どんな遊戯で、私を楽しませてくれるのかしら?」


  私たちは互いに視線を交わしたのち、代表してルシアンが一歩前に出る。

 

 「勝負内容の選定権。俺たちはそれを兎幸、お前に譲る」


 その言葉に、場内がざわめいた。


 青ウサギが大げさに耳を揺らし、目を剥いて叫ぶ。

 

 「おおっとぉ!? 挑戦者たちが権利を放棄ぃ!? これはまさかの挑発行為かぁぁっ!? “どんなゲームでも勝てる”って自信の表れなのかぁっ!?」


 観客が一斉に「おおおおっ!」と沸き立つ。挑発と受け取った兎たちが、耳を打ち鳴らして舞台を揺らした。


 兎幸は片肘を椅子にかけ、カードをくるりと弄びながら私たちを見やる。

 

 その口元に、艶やかな笑みが浮かんだ。


 「ふふ……面白いことを言うわね」


 脚を組み替え、視線をミノリに滑らせる。

 

 「折角、ダイスを自由に操れる子が相手なんですもの。チンチロにするのも悪くはないわ」


 彼女の白い指が、カードをぱちんと弾いた。

 

 「でも、それだと彼女一人に目立たせすぎて、他の子との勝負を楽しめないでしょう?」


 観客が息を呑み、静けさが落ちる。


 兎幸はその沈黙を楽しむように、長い指を軽やかに鳴らした。

 

 パチン、と乾いた音が響く。


 すると舞台端に、突如として巨大な宝箱が出現した。


 金色の装飾が施されたその箱は、みしりと音を立てて揺れ、次の瞬間、ぎぃぃと不気味な音を立てて蓋が開いた。

 

 中から伸び出したのは、ぬらりと光る長い舌。


 舌の先には、小さな木箱がちょこんと乗っていた。


 観客から悲鳴と歓声が入り混じったどよめきが走る。

 

 兎幸はその光景を楽しそうに見つめ、手を伸ばして箱を受け取った。


 「さぁ……今宵の遊戯はこれにしましょう」


 真紅の唇が、いたずらめいた笑みを形作る。

 

 「――ダンジョンすごろく」


 その名が告げられた瞬間、場内の空気が一変する。


 青ウサギが興奮に震えながらマイクを握りしめた。


 「で、でたぁぁぁっ! 兎幸様ご指名の伝説のゲームっ! ダンジョンすごろくぅぅぅっ!」

 

  舞台中央に置かれた木箱が、ぼんやりと淡い光を放ち始める。


 蓋が自動的に開き、盤面が広がるようにして宙へ浮かび上がった。


 無数のマス目が組み合わされたその盤は、迷宮そのもの。青、赤、緑、白、金、そして特別な模様を持つマスが、妖しく光を反射していた。


 青ウサギはマイクを握り直し、興奮で声を震わせる。


 「ルールは簡単っ! サイコロを振り、出た目の数だけ進むっ! 進むたびに運命が揺れる!」


 観客が一斉に「おおおおっ!」とどよめく。


 兎幸は椅子から立ち上がり、舞台を歩きながら艶やかに説明を続ける。


 片手には扇のように広げたカードが光り、観客の視線を奪っていく。


 「プレイヤーは最初に6枚のカードを手にするわ。以降、毎ターン1枚ずつ引く。だが……他プレイヤーと同じマスに止まれば、そのターンのドローはできない」


 観客が「ほぉぉ」と唸る。


 「カードには攻撃、回復、補助といった効果があり、使うにはマナが必要。マナはサイコロを振って進んだ数だけ回復するの」


 青ウサギが補足するように叫ぶ。


 「そして! 盤上には“職業マス”が存在するぅぅっ! そこに止まったプレイヤーは、職業を選ぶことができるっ!」


 観客が大きなどよめきと拍手を送る。


 兎幸は指先でカードをひとつ宙へ放り投げ、それをひらりと掴む。


 「職業には固有の力がある。選べば専用カードが山札に加わり、戦いはより混沌と、より苛烈になるでしょう」


 彼女の瞳が、私たち一人一人を射抜く。


 「勝利方法は3つ」

 扇のように広げたカードを、ぱちんと閉じて指を立てる。

 「ひとつ――誰よりも早くゴールへ到達すること」

 「ふたつ――相手のHPを0にすること」

 「みっつ――相手のコインを奪い尽くすこと」


 その声に合わせて、巨大なスクリーンに文字が浮かび上がる。


 観客は地鳴りのように歓声をあげ、足を踏み鳴らし始めた。


 「これぞ運と実力、そして知略の総力戦っ!」


 青ウサギが絶叫する。


 「挑戦者たちよ! 己の職業を手に入れ、カードを操り、命とコインを賭けてゴールを目指せぇぇぇっ!」


 舞台全体が震え、私の胸も高鳴っていた。


 これから始まるのは、単なるギャンブルではない。


 命を賭けた、運命そのものの遊戯、ダンジョンすごろくだ。

最後まで読んで頂きありがとうございました!


もしこの作品が気に入りましたら感想や評価をいただけると幸いです。

そうでなくともこの作品が少しでも気に入っていただけたら今後も読んでいただけると幸いです。


改めまして最後まで読んでいただきありがとうございました!

また今日は17時にもう1話更新します

そちらはダンジョンすごろくのルール説明がメインの回となります。是非お楽しみください。

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