何様?イカサマ!
第24話です!
是非楽しんでください!
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静寂。
兎幸に呑まれた男の絶叫が途切れた舞台は、ほんの数秒だけ息を潜めていた。
しかしその静けさはすぐに爆発的な喝采へと変わり、場内は熱狂と嘲笑に揺れ動く。
「さすが兎幸様だぴょん!」
「次の愚か者はまだかぴょん!」
歓声の渦を、ミノリたちはただ黙って見ていた。
胸の奥を冷たい手で握られるような感覚。
彼らの心に浮かんだのはただひとつ。
……あれに勝てるのか?
ワイングラスを傾け、優雅に微笑む兎幸。
さきほどの処刑を「遊び」にしか思っていないその姿は、まさに階層の支配者そのものだった。
ユキちゃんは無意識に息を呑み、ルシアンは苦笑を浮かべながらも視線を逸らさない。
バレットは冷や汗を流しつつも頭の中で勝率を計算していた。
その時、舞台袖から軽やかな声が響いた。
「はぁい! それじゃあ挑戦者さんの案内を再開しますぴょん!」
「あらためて、ようこそヒュベル第三階層へぴょん♪」
現れたのは案内役の兎、モモとクロ。
血なまぐさい処刑劇を見た直後だというのに、彼らはまるで遊園地のスタッフのように明るく笑っていた。
クロが手を振りながら、一枚の袋を取り出す。
ジャラリ、と小さな音を立ててコインが覗く。
「ここからの挑戦には資金が必要ですぴょん。スタート資金として、こちらをどうぞぴょん!」
彼は器用にコインを取り分け、私たちの前へと差し出した。
「おひとりにつき1000コインぴょん!先程も話した通り24時間以内には返してぴょん。借金を返せなければ……さっき見た通りになるぴょん♪」
モモが小首をかしげ、満面の笑みを浮かべる。
「さぁ、あなたたちは100万コインを集めて兎幸様に挑むことができるかぴょん?」
ミノリたちは配られたコインを見下ろし、無言のまま視線を交わす。
この第三階層を攻略するにはまずはこのコインを、何としても増やさなければならないのだ。
配られた1000コインを握りしめて、私たちはカジノ街へと歩み出した。
煌びやかな光、耳に痛いくらいの歓声、あちこちから響くコインの音。
けれどさっきの男の最期が、頭から離れない。笑顔で接客している兎たちが、急に仮面に見えて、背筋がぞわりとする。
「……勝つしかない、か」
ルシアンがぼそりと呟く。その目の奥に火が灯っているみたいだった。
「借金返済と100万コイン稼ぎ。最高に難易度高いけどその分やる気にはなるよ。」
ユキちゃんは笑って、まるで子供が新しいおもちゃを見つけたように目を輝かせていた。
どうしてそんなに楽しそうにできるのかな……。
「無駄話は後にして。まずは効率よく増やす方法を考えるべき」
バレットは、周囲を一瞥する。視線は、煌めく遊戯台を一つひとつ値踏みしているようだった。
「スロットやルーレットは期待値が低い。運だけに頼るのは論外。もう少し周りを観察してから挑戦しましょう。」
「……俺はポーカーかな、イカサマが横行してるなら運だけの勝負にならなそうだしな。」
ルシアンの目の奥が鋭く光る。
「ボクは……うーん、ここはあえて完全な運ゲーをやって行こうかな。ちょっと試したいこともあるし。」
ユキちゃんは楽しげに肩をすくめる。
「私は……、チンチロにしようかな。あれなら昔やったことあるし。」
私たちはそれぞれで稼ぐことになった。
*
3人の結果も確認しながら観察する方が効率的。
ルシアンのポーカーテーブル。
彼は表情一つ変えず、カードをめくっていた。だが、勝負のたびにチップは減っていく。
「フフ……お兄さん、運がないねぇ」
対面の客が薄ら笑いを浮かべる。
……斧幸のデメリットは聞いていたがあれほどなのか。
配られるカードは毎回ひどい。相手のせいでもあるだろうが大半がワンペアすらできずにブタとなる。
ルシアンが持つ遺物。その効果により圧倒的な「不運」を呼び寄せていた。
一方、神凪ユキ。
ルーレット台の前で、彼女は楽しげにチップを置いていた。
「次は……赤の17に全部!」
周囲の客たちが「無謀だ」と鼻で笑う。だが神凪ユキは気にも留めない。
ディーラーがホイールを回し、玉がカラカラと音を立てる。
その瞬間、彼女の指先から、目に見えないほど薄い氷の粒が弾かれた。
それはルーレットの盤上でごく自然に滑り、玉
の軌道をわずかに変える。
「……17、赤!」
観衆がどよめき、歓声が爆発した。神凪ユキは子供のように手を叩いて笑っている。
ミノリ・テンドウのチンチロ
ディーラー兎が、金色のサイコロを振った。
カラン、コロン……。
乾いた音が耳に響く。
出たのは6の目
ウサギがサイコロを差し出す。
「さぁ、最初の勝負だぴょん」
ミノリは静かに手を伸ばし、柔らかく笑う。
「……じゃあ、振らせてもらいます」
一呼吸置き、サイコロを放る。
コロコロと乾いた音を立て──止まった出目は
「六のゾロ目ぴょん!?」。
ウサギが目を剥いた。
「運がいいぴょんね、けど次はそうはいかないぴょん」
運がいい、と片付けるのが妥当。
だが……確率的には低すぎる。
しかもミノリ・テンドウは驚きもしない。まるで最初から分かっていたように。
彼女はほんのり頬を緩める。
「うまく出てくれると、ちょっと嬉しい」
そして二回目の勝負。
ウサギが再びサイコロを差し出した。
ウサギはシゴロを出した
「もう一度だ。次は勝てないだろぴょん?」
ミノリ・テンドウは穏やかに頷いた。
「さっきと同じように」
私は観察を始めた。ミノリ・テンドウの仕草、呼吸、指先の動き。
狙った目を出すなどできるのか?
彼女は……何をしている?
サイコロを掌で転がし、狙った目を上にして握るミノリ・テンドウ。
指先から放たれる瞬間、力を込めず、回転を殺すように投げられる。
出目は「6のゾロ目」。
ウサギが思わず叫んだ。
「二度続けてぴょん……!? 本気で狙ってるのかぴょん!」
理解できない。力加減と角度で確率を上げることは理論上可能。
だが連続して完璧に成功するなど……常識では考えられない。
それでも、ミノリ・テンドウは自分の思い通りにサイコロを従わせている。
彼女は静かに微笑んだ。
「やっぱり思った通りに転がってくれると、気持ちがいい。」
……イメージ通り、だと?
合理性では説明できない。
だが確かに、ミノリ・テンドウは不可能を当然のようにやってのけている。
「……すごいな、あいつ」
私は自然とその言葉が出た。
結果としてミノリ・テンドウと神凪ユキは1000コインから1万コインまで増やすことに成功していた。
ただ2人は勝ちすぎたせいでかなり警戒されているようだ。
対してルシアンはコインが0になりこのままでは借金を返せなくなるところまで追い詰められている。
まぁ、ルシアンの負けっぷりはカモと認識されたようで至るところからゲームの誘いが来ている。
正直斧幸のことを舐めていた。だが、これはこれで使える。
私はしばらくルシアンの動きを見ていた。
何をやっても負ける。その言葉が一番しっくりくる。
ポーカーでも、ブラックジャックでも、チンチロ,丁半でも。勝負に「運」が関わった瞬間、彼は必ず敗北する。
引くカードは腐り、出目は外れ、ディーラーに都合よく転がっていく。
……なるほど、これが斧幸。
私はルシアンに500コイン渡してゲームにリベンジするように進める。
私は彼のすぐ隣に座り、逆の目に賭ける。
ルシアンが黒なら、私は赤。
ルシアンが丁なら、私は半。
結果は、どれもすべて私の勝ち。
最初の1000コインは、すぐに3万を超えた。
周囲がざわめく。ディーラーも観客も、ルシアンの減り方と私の増え方を交互に見ている。
「……効率がいい。これほど単純な稼ぎ方はない」
気付けば自然と口元が上がっていた。私にしては珍しい。
ルシアンは負け続けて不貞腐れている。
彼にとっては呪いのようなもの。だが、私にとっては最高の“指標”。
ルシアンの不運を逆手に取れば、どんなゲームも勝率は百パーセントになる。
「ルシアン、もっと負け続けろ。……私がその分、稼ぐ。」
本人に聞かせるつもりはなかった。けれど口に出してしまった言葉は、この言葉が後に大変になることをつゆ知らず。
それは最悪なタイミングで訪れる。
検証を終えた私が効率的に稼ぐためにオールインした時に起こった。
ルシアンが赤を選んだのでもちろん黒を選んだ。
結果ルーレットの結果は赤であった。
私は絶句した。1発で所持金が0になった。
「ルシアンどいうことだ?」
思わず聞いてしまった。
「すまん…俺の不運を利用して稼いでくれていると認識してしまった。」
は?まて、私は思い違いをしていた?
不運とは何もゲームに負けることだけではない。自分が願ってることが違った方に行くことも不運と言える。
つまり今回はルシアンが自分が負けることで私が勝つことを認識してしまった。これによりルシアンにとっての不運は自分が負けることから私が負けて大金を失うことに変わったのだろう。
なるほど、斧幸が引き起こす不運はその本人にとって最も最悪と思う展開を作るものなのか。
「ルシアン、勝つことだけ意識してやってくれ。」
意味のない言葉とはわかっていてもこう言いたくなってしまう。なんとも非効率的だ。
とりあえずミノリ・テンドウと神凪ユキがコインを分けてくれたが神凪ユキが
『あれれ?コインなくしちゃった?もぉ〜、バレットちゃんも運がないんだね〜。』
と言われた。2度とギャンブルという非効率的なものはしないと誓った。
*
場面が変わって
バレットちゃん達が次に挑戦するところを決めていると、
「失礼いたします」
振り返ると、黒服の兎ではなく、人間の男が立っていた。不滅ノ翼の徽章を胸に付けている。
「あなた方が、1番隊からの挑戦者ですね。こちらへどうぞ。二番隊の隊長がお待ちです」
「……隊長?」
私は思わず聞き返す。
「案内に従っていただけるとありがたいです。損はさせません。」
男はそれだけ言い、踵を返した。
ルシアンが一瞬目を細めたが、やがて肩をすくめる。
「……不滅ノ翼の隊長か。聞いて損はない」
「びっくりだよ。2番隊隊長がこんなところにいるなんて。」
ユキちゃんは楽しげに笑い、すぐに歩き出した。
「判断は早く。行く」
バレットも短く告げ、私の腕を軽く引いた。
私は胸の奥がざわつくのを感じながら、みんなの後についていった。
やがて辿り着いたのは、カジノ街の片隅にある、分厚い扉で守られた建物。外観は倉庫にしか見えないけれど、中に足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。
机の上に積まれたカードやサイコロの山。壁一面のメモや図表。研究者みたいに真剣な顔で議論を交わす隊員たち。
そして――
「よぉ来たの。新しき挑戦者たちよ」
奥の席に、白い髪を二つに結い、黒リボンを揺らす小柄な少女がいた。銀縁の丸眼鏡越しに、水色の瞳がこちらを射抜く。
手にしているのは分厚い青表紙の本。姿は幼いのに、その声は不思議と落ち着いていて……どこかおばあちゃんのようだった。
「わらわが不滅ノ翼二番隊隊長、リィナじゃ。まぁ、楽にせい。ここは兎幸の支配の外、わらわらが借り受けた土地よ」
彼女は本を閉じ、ふわりと微笑んだ。
「さて……お主らがどう勝っていたかを聞かせて欲しい。」
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