ルシアン ピンチ!
22話です!
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攻略を終えて宿舎に戻ったとき、まだ体の芯が震えていた。あんな怪物と相対したのだ、仕方ない。けど……全員無事に帰って来れた。それだけで十分だと思いたかった。
けれど休む間もなく、一番隊の宿舎で報告と確認が行われた。
アイクは肩をすくめながら、ひょうひょうとした声で言った。
「やあ、お疲れさん。まさか第二階層でボスに挑んで、そのまま討伐成功とはね。更にはそこからソーマネクルの司教と戦って生き残るとか、やるじゃん。……ま、勝手にやった分、叱られるのは覚悟しとくことだね」
その隣で、メノウの姐さんがため息をこぼす。
「ほんまに……あんたら、ちょっと無茶しすぎやよ。今回は無事やったさかい良かったけど、次また同じことしたら……な?ちゃんと指示は守らなあかんよ。」
おっとりした口調なのに、胸の奥にじんわりと圧を感じる。私達は小さく「はい」と答えるしかなかった。
「あと、アイク隊長。こちら、本部からのものです。」
そういって机の上に置かれたのは、以前攻略した第一階層ボス、マッドスワンプを倒した時に出現した宝箱から出た指輪が置かれていた。すでに本部で解析が終わっていたそうだ。
指輪は淡い灰色の小さな塊がはまっていて、触れると冷たくも温かくもなく、ただしっとりと馴染む、不思議な感触だった。
名前は「クレイブ」。手のひらに粘土を生み出し、それをにぎると自由に形を変えられる遺物だと判明している。
「ふーん、便利そうじゃん。建築でも、戦闘でも、応用の幅はあるかもね」
アイクの目は次の任務での運用をすでに考えているようだ。
問題は誰が持つか、だ。
遺物は誰にでも使えるわけじゃない。適合率が低ければ、ただの重荷になる。
そのとき、ユキちゃんがじっとクレイブを見つめて口を開いた。
「……バレットちゃんが一番、相性がいい。彼女なら、きっと使いこなせるよ?」
他のみんなには分からないこと。でも、ユキちゃんの瞳には確かに見えている。だから私も反論する理由はなかった。
バレットは一瞬だけ視線を動かし、そして静かに手を伸ばした。
「分かった。私が使う。……効率的運用を約束する。」
クレイブは彼女の手に収まり、もう誰のものでもないように見えた。
……次の戦いで、この力がきっと役立つ。そう思うと、心強い。
「さて、ここまでで報告は終了なんだけど、第三階層を攻略して貰う上で問題がある。特にルシアン君にとっては大問題だ。」
ルシアンにとって大問題それは一体?
場面は変わる。
きらびやかな光と、耳をつんざくほどの歓声と。
金属が擦れ合う硬貨の音、カードが切られる乾いた響き、チップの山を前に狂喜乱舞する客の笑い声。
そこは戦場でも墓場でもなく一見すれば、ただのカジノだった。
ここはヒュベル第三階層。
これまでの階層と比べても異質、いや……今の五層を除けば、歴代で最も変わった階層だと言われている。
私はアイクが楽しそうに笑いながら言っていたことを思い出す。
「第三階層。攻略方法は今まで通りの力勝負じゃない。賭け事で稼いで、一定額に到達してから階層ボスに挑戦する。それが第三階層のルール。面白いでしょ?」
私たちは顔を見合わせた。
これまで命を賭けて剣を振るい、氷を砕き、遺物を使って戦ってきた。それなのに、次は「賭け」で進めと言う。冗談みたいな話だ。
けど、冗談じゃないのはルシアンの顔だった。
「……」
彼は絶句している。
そう、ルシアンにとってこれは大問題だった。
斧幸の力のせいで、日常ですら不運を引き寄せてしまう彼。最近は戦闘の中で、自分の運を更に削り捧げ、斧幸を巨大化させて敵を薙ぎ払ったこともあった。
つまり彼の不運は、今やどれほどのものか分からない。
サイコロを振れば外れ、ババ抜きをやればババを掴む。そんな未来が目に見えるようで、私は思わず息を呑んだ。
私はルシアンの顔を覗き込む。眉間に深い皺を寄せて、今にもカードの山を睨み潰しそうな表情。
「……やってみなければわからない」
低く吐き捨てるような声。けれど、それが自分自身に言い聞かせているみたいに聞こえた。
「いや、ボクにはルシアン君がどんな目に合うかだいたいわかるけどね?」
隣でユキちゃんが肩をすくめ、茶化すように笑う。声は軽いけど、その目は本気でルシアンを見ていた。
「……ユキ、また余計なことを言う」
「余計じゃないさ。ボクが止めなきゃ、挑戦あるのみってすぐに掛け金0になるじゃん。」
ユキちゃんの声は柔らかいのに、返す言葉は鋭い。ルシアンの不運を知っているからこそ、からかいと忠告を一緒に混ぜ込んでいるのだろう。
「二人とも」
私が声をかけると、バレットが小さく頷いた。
「今はからかいあってないで周りを観察するべき。」
彼女の静かな言葉が、少しだけ空気を和らげてくれた。
……けれど、それでも。
この第三階層でルシアンがサイコロを握る姿を想像すると、私の胸はひどくざわついたままだった。
「貴方達は新規の挑戦者さんぴょん?」
「もしそうなら案内するぴょん」
声。
思わず振り向いた先にいたのは、信じられない光景だった。
ピンク色のうさぎと、黒色のうさぎ。二匹が、二本足で立ち、私たちに笑いかけていた。
「しゃ、喋った……?」
思わず声が出る。私だけじゃない、バレットも目を瞬かせていた。
「うさぎが喋るのに違和感があるぴょん?」
ピンク色のうさぎが、首を傾げる。
「なら、こうすればいいぴょん」
黒色のうさぎが前に出て、ひらりと手を振った。
次の瞬間、二匹の体がふわりと揺らめき、人の姿に変わった。
ピンク色のウサギはピンク色の髪を揺らすバニーガールに。
黒色のウサギは漆黒の髪を束ねた、同じくバニー姿の少年に。
「どうぴょん? これなら違和感ないぴょん?」
「案内するのにちょうどいい姿ぴょん」
私は言葉を失って、ただ口を開けていた。……違和感が消えたというより、別の種類の衝撃が押し寄せてきている。
「私の名前はモモぴょん!」
「僕の名前はクロぴょん。」
2人?は自己紹介もそこそこに説明を始める
「それじゃあ、説明するぴょん」
モモがにっこりと笑い、クロが後を引き取る。
「ここに挑戦する者には、まず最初にコインを1000枚貸し出すぴょん」
「その1000枚のコインを二十四時間以内に返してくれれば、どんなに使っても構わないぴょん」
「コインは、この階層の全ての賭け事でのチップになるぴょん」
「そして、コインを100万枚集めた者が、この階層のボス――兎幸様に挑戦できるぴょん」
モモとクロは交互に、淀みなくルールを告げていく。
聞いているだけで、胸の鼓動が強くなる。戦いの代わりに、コインを巡る賭け事。そんなルールで、本当に進めるのか――。
「ちなみに当カジノでは、遺物を景品として扱っているぴょん」
「この階層の遺物はコインで交換可能!さらに別の階層で取れた遺物をコインに換金することもできるぴょん」
ルシアンの表情は険しいまま。ユキちゃんは逆に興味津々で、目を輝かせていた。
……私の胸のざわめきは、まだ収まりそうになかった。
カジノの奥から一斉に色とりどりの光が弾けた。
赤、白、緑、金……様々な色をした兎たちが、次々と現れる。彼らは楽器を抱え、まるで舞台の楽団のように演奏を始めた。トランペットが高らかに鳴り、ドラムが腹に響き渡る。カードやチップの音と混ざって、場内は一瞬でショータイムの空気に包まれた。
「挑戦者さん運がいいですぴょん!」
「今から別の挑戦者が兎幸様に挑戦するぴょん。」
そのまま見るように勧められる。
まぁ、確かに階層ボスを確認するのは大切だろう。
「――レディース、アーンド、ジェントルメーン!!!」
耳をつんざくような声が響いた。
舞台の中央に躍り出たのは、真紅の燕尾服を着た青色の兎。両手を広げ、大げさに身振り手振りを交えて叫ぶ。
「今宵、このカジノに! 兎幸様へ挑戦するチャレンジャーが現れたぁぁぁっ!!!」
歓声。どこから湧いたのか分からないほど、場内を埋め尽くすウサギが一斉に声を上げる。まるで本物の舞台に放り込まれたみたいに、私の心臓が跳ね上がった。
「ではまず……チャレンジャーの入場だーー!!!」
場の熱気に押されるようにして、一人の男が入ってきた。
「おーっとっと! そしてそしてぇぇ! お待ちかねーー!!!」
青い兎がさらに声を張り上げる。
「我らがボスッッ! この第三階層を支配する絶対王者ぁぁぁ!!!」
ウサギ達が一斉に立ち上がり、拍手と口笛で迎える。
「兎幸様のぉぉぉーー入場だーーーッ!!!」
光が弾け、舞台の奥から姿を現したのは――
白い髪と、同じ色の長い兎耳を持つ人影だった。
真紅のドレスを纏い、カードを扇のように広げながら、片目をウインクしてこちらを見やる。
華やかで、そして完璧な姿。
兎幸は、舞台の中央に立った瞬間から、すでにその場の空気を掌握していた。
最後まで読んで頂きありがとうございました!
いよいよ始まった第3章、ストックがなくなってきた今日この頃、しかし!この3章終了までは毎日投稿を続けます!是非お楽しみくださいませ!
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