綺麗に終わらないで章
21話です!
是非楽しんでください!
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ヒュベルは1〜10階層で構成されている。それぞれの階層に守護者がおり、それを階層ボスという。
どの階層でも階層ボスを倒すと基本は新しい階層へ続く階段とご褒美でその階の階層ボスの能力に似通った何かしらの遺物が手に入る。
しかし稀に、階層ボスが光を放ち階層ボス自身が遺物と変わることがある。
これが最後に確認されたのは20年前である。
そして、今ここに20年ぶりに階層ボスに認められるものが現れた。
ゴーン! ゴーン!
ヒュベル全階層で鐘の音が鳴り響く。
この鐘は階層ボスに認められたものを讃えるものなのか、わからないがこの鐘がなった=階層ボスが遺物になったことを示す。
探索者達は自分の手の甲を確認する。
ここで二層以降を攻略中のものは気づく。
第二階層へ転移ができなくなっていることに。
ヒュベルで階層ボスが遺物になったとき、地上時間で24時間後にその階層に新たな階層ボスが誕生する。
新たな階層ボスが生まれた場合、その階層への転移ポイントがリセットされて、その階層に限り一から攻略する必要がある。
これによりグレイシアを手に入れたものが現れたことが広まっていく。
*
ここは何処かのとある部屋。
「遂にグレイシアが遺物になったね。」
「100年か、だいぶ長かったな。」
「本来2〜5階層ボスは定期的に遺物化して6〜10階層ボスに挑戦するって仕組みだったけど5階層は色々イレギュラーだから置いておいて、2・4階層ボスはなまじ強い遺物を使っていたせいで中々認められるものがいなかったですしね。」
「そうそう!全力は出せないはずなのに破格の性能だったからね。唯一循環できていた3階層もあの子が変なことを始めたせいでいろいろおかしなことになっているしね。」
「しかし奴はこちらがやりたいことを理解しているのか中々いい働きをしているのも事実。」
「そうですね。それとあれが定期的に上納してくれているもののおかげで僕と先輩のストックが結構溜まってきてますからね。」
「そうだね。おっと本題に入っていなかった。次はどの遺物を階層ボスにする?」
*
砕け散った氷の破片が、まだ白い雪のように降り注いでいた。
荒れ果てた城の中心に立つのは、ボクたち四人だけ。
静寂。
あれほど耳をつんざいていた氷の咆哮も、もう聞こえない。
勝ったんだ。
胸の奥にじわじわと実感が広がる。
ミノリちゃんの決死の一撃、ルシアン君の一振り、バレットちゃんの1発。
すべてが重なり合って、グレイシアという氷の王を討ち果たせた。
ボクはまだ熱を帯びて脈打つ《氷羽雪晶》いいや、《氷王晶》を胸に抱いた。
結晶の奥には、確かにグレイシアの力と誇りが宿っている気がした。
同時に、ボクを試し、認めてくれた温かな気配も。
「……終わったのか」
ルシアン君が低く呟き、斧を肩に担ぐ。その肩は荒い息で上下していた。
「無駄はなかった。勝利だ」
バレットちゃんの口調はいつも通りだ。だがその頬には、疲労が刻まれていた。
「うん……みんなのおかげだよ」
思わずそう言葉にした。
力を振り絞った全員の姿を見て、胸が熱くなった。
瓦礫の中で、ルシアン君に抱えられたままのミノリちゃんがかすかにうめく。
「……ん……」
まだ意識は朦朧としているが、生きている。
ボクたちはその事実に、深く安堵した。
ふと、氷片の降り注ぐ音に紛れて足元が震えた。
次の瞬間、城の中央に巨大な円形の紋章が浮かび上がる。
青白い光が幾何学模様を描き、そこから階段が伸びていく。
氷を砕きながら、下へと続く階段が現れたのだ。
「……第三階層への道か」
ルシアン君が目を細める。
「早く進んだ方がいい。ここに長居する理由はない」
バレットちゃんが即断する。
けれど、すぐに足を踏み出す気にはなれなかった。
ボクたちはしばし、崩れた氷の城を見渡し、互いに黙ったまま余韻を共有した。
誰もが限界まで戦った。
だからこそ、この静けさは特別に感じられる。
「……行こう」
ボクは氷王晶を胸に握り、仲間たちを見回す。
頷いた三人とともに、階段を下り始める。
光に包まれる足取りは重く、それでいて確かなものだった。
第三階層へ向かう道に片腕を欠損した1人の女が立っていた。
長く流れる黒の髪は、夜の闇を裂く流星の尾のように揺れ、ところどころ淡い紫が差し込んでいる。光を受けるたびに艶めき、その存在をより異質に際立たせていた。
瞳は深い紫。冷たさと艶をあわせ持ち、見つめられた者の心を射抜くような強さがあった。
艶やかな黒の衣装は身体の曲線を隠すことなく形どり、ところどころに紫の装飾が走っている。腕には光沢のある長手袋、脚には漆黒のタイツと編み上げのブーツ。すべてが隙なく整えられ、ただそこに立つだけで舞台の主役のような圧を放っていた。
ボクの目には、その女から様々な色のオーラが溢れているのが見えた。紫、蒼、紅、翠、様々な色が混ざり合い、絶えず揺らぎながら周囲の空気すら塗り替えていく。
肌で分かる。
これは、関わってはいけない存在だ。
「っ!トール…、…なんで…ここ…に。」
ミノリちゃんの途切れ途切れの声が聞こえる。
ミノリちゃんの知り合い?
でも中がいい感じの表情じゃない。
「あら、お嬢さん。久しぶりね、第二階層を突破する実力者になったのね。スクスク実ってくれて嬉しいわ。あぁ、ダメ、今回の要件とは別だけど殺し合いたくてウズウズしちゃう。けど、我慢、今日はグレイシアを手に入れた子をいただきにきたのだから。」
舌なめずりしながらボクたちを観察して来る。
「グレイシア、私もあの遺物が欲しくて仕事の開いた時には必ず挑戦していたのだけど中々遺物になってくれなくてね。さっき鐘の鳴が聞こえて確認したら第二階層に転移できなくなっていたから急いで第三階層に転移して追ってきたの。で、誰が持ってるの?」
「ボクだよ。あなたには悪いけど譲れないな。」
「あら?あなた、その髪と目の色そしてこの香り神凪一族の子かしら?」
「……っ」
ボクは一瞬、息を呑んだ。
(今ので、どうして“神凪一族”だってわかった?)
ボクの髪と瞳の色は、確かに一族に連なる証として伝わるものと似ている。だが、それは外から見れば「少し特徴的」程度。特別な紋様があるわけでもない。実際、名前を自ら言わなければ神凪一族ということは気づかれて来なかった。しかし今回、匂いで察知されるなどという初めての経験がきた。
(……匂い? 一族の特徴にそんなもの、聞いたことない……!)
混乱するボクをよそに、トールはくすりと笑みを浮かべた。
「えぇ、この香り。私ね、あなた達と似た匂いの子と仕事することがあるの。鼻腔ではなく、もっと深いところ……嗅ぎ慣れた私のような者には、はっきりとわかるのよ。その子の匂いに近いほど神凪一族の血が濃い子だって。」
言葉を区切るごとに、彼女の紫の瞳は愉悦で揺れる。
その声、音は淑女のように洗練されているのに、底に潜む衝動は隠しきれていなかった。
「それに……あぁ、やはり戦う相手がいるというのはなんと甘美かしら。鼓動が高鳴って仕方ない……血が沸き立ち、視界のすべてが輝きを帯びていく。」
彼女は残った片腕を広げ、舞うようにステップを踏んだ。氷の床を滑る足取りは軽やかで、どこか舞踏会の踊り子のようですらある。
「あら、失礼、私としたことがちゃんと名乗っていなかったですね。私の名はトール。水天同化の用心棒はこの前、任期が終わったので今はこちらを名乗らせてください。ソーマネクル第7司教のトール。以後お見知り置きを。」
ソーマネクルの第7司教ってあの嵐食いのトール!?
ミノリちゃんどんだけ大物と知り合いなの!
「あっ、今の状態で戦っても面白くないので回復してあげましょう。」
そういって彼女は何かを砕く。その瞬間あんだけ重症だったミノリちゃんを含めて傷が治っていく
「今のは使い捨ての遺物の力、神凪一族風に言うなら闘気だったかしら?使用者の闘気を使って治療するってもの。あなた達4人全員を全開にしたから戦えるはずよ。あとハンデとしてあなた達4人いっぺんに来なさい。私は氷とこのナイフ一本で戦うから。さぁ、可愛いお嬢さん方。教えてちょうだい。あなたたちの力は私の欲を満たすに足るものかしら?」
その瞬間、周囲が氷つきその氷が軋み、尖った氷柱が一斉にボクたちへと襲いかかってきた。
「来るっ!」
ボクが咄嗟に氷を操り、壁を作って氷柱を逸らす。
だが、その一撃に籠められた圧力は、第二階層のボスさえも凌駕していた。
トールは吐息を漏らしながら、舞うように氷を操る。
「ふふ……いいわね。やっぱり戦闘は最高に美しい!あぁ、主よこのような殺し合いを私に与えてくださりありがとうございます!」
氷柱の嵐をかわしながら、ミノリちゃんの声が響いた。
「あの時は……雷を使ってたはず……」
驚愕の呟きが漏れる。
待って、おそらく、トールという人はミノリちゃんの家を襲撃した人なのだろう。
ミノリちゃんが話してくれた内容からその人物はアイク隊長と互角の戦いをしていたという。
その時の能力は今の発言から雷
それなのに今、目の前の女は氷を支配していた。
(……全く異なる系譜の遺物をこのレベルもしくはそれ以上に使いこなせている……?確かに適合率を無視すれば複数使用はできる。けど適合率が低ければその遺物の本来の力は引き出せない。だから多くは自分に適合する遺物を使っていく。そして自分と適合する遺物があればそれに似た能力を持つ遺物にも適合率が高い。例えば雷系だったら電気関連全般の適合が高いって感じで。)
疑問は尽きない。だけど考える余裕すらない。
トールは残った右手に短いナイフを構え、欠損している左腕を氷で補った。
氷の腕はまるで生き物のように変形し、刃となり、槍となり、盾となり……瞬きの間に形を変えていく。
「ほら、もっと楽しませてちょうだい?」
彼女がナイフを振るうと、その刃先に氷が纏わりつき、蛇のように伸びて間合いを覆った。
防いだと思った瞬間には、氷の腕が伸びて横から打ち込んでくる。
どこから来るかわからない攻撃に、息が詰まりそうだった。
(……ボクよりも……氷を、完璧に使いこなしてる……!てか!氷をここまで自在に操れるのはグレイシアくらいのものだと思っていたのに!)
氷の壁を展開するボクの技術が稚拙に見えるほど、彼女の造形は精密で自由自在だった。
氷を空中から生み出し、刃や矢に形を変えて降らせ、足場すらも即座に作り出す。
それはただの氷使いではなく“氷そのものを操る女神”のようだった。
「ふふっ……あぁ、やっぱり最高ね。戦っている時だけが、私に生を実感させてくれる!」
トールの瞳は、紫の輝きを増していく。
その顔は淑女の微笑をたたえながら、戦場でしか満たされない狂気に燃えていた。
「……チッ」
ルシアン君が舌打ちしながら斧を構える。斧幸の刃が、氷の欠片を弾くたびに不吉な響きを纏っていく。
けれど、それすらもトールは楽しげに眺めていた。
「その斧、禍々しくていいわね。壊すのも、抱きしめるのも、どちらも楽しそう」
言葉の調子は上品なのに、その中身は徹底して戦場の狂気に染まっていた。
「無駄口はいい。」
バレットちゃんがゲシュッツを放つ。
放たれたエネルギー弾は、トールが出現させた氷の剣に弾かれ跳弾ルートが変わり、逆にこちらへと襲いかかってきた。
バレットちゃんの眼が細くなる。
「完璧に見切られてる」
「はぁっ──!」
ミノリちゃんの刀が鋭く閃く。
氷の刃を正確に捉え、無駄なく斬り伏せていく。
「ふふ……見事ね」
トールは氷の腕を構えながら、愉悦を滲ませる。
「その剣筋、澱みがなく、美しい。……えぇ、芸術的だわ」
トールは笑みを浮かべ、優雅に一礼してみせた。
「さぁ、舞踏会の時間よ。もっと速く、もっと鋭く。あなたたちを散らす氷の華を咲かせてあげる」
氷の腕が巨大な花弁のように開き、無数の氷刃が宙に舞う。
ボクは氷壁を重ねて必死に防御を固める。だけど、氷同士がぶつかる音が響き、壁が壊されていく。
(……ボクの氷が、まるで子供の工作みたいに崩されていく……!)
「さっきから気になっていたんだけど?そこの神凪のお嬢さんは舐めているの?なんで氷を自由に生み出して操れないの?貴方が持っているグレイシアの力は氷系遺物の中で最強よ。それなのになんであんな中途半端な氷しか出せないの?」
馬鹿にしてないのはなんとなくわかる。
ただ、心底不思議そうに質問して来る。
氷をグレイシアの力のおかげで氷翼を展開しなくても瞬時に氷を生み出せるようになった。
それだけでも進歩している一体何が足りないのか
ボクと彼女の氷で何が違うのか。
というかあの伸びたり変形したりする氷の腕はなんなのか?
いや待て、生み出した氷の形を変える。
ボクが氷翼のように羽の形で氷を生み出しているように、トールは氷を生み出したらその形を自由に変えているのか。
生み出してそのままではなくその形を変え続ける。
一度出した氷の形を変えて最大限に活用する。
遺物の能力を活かすとはこういうことを言うのか。
自分でいっていて化け物じみていることがわかる。
これ、できるのか?
できるできないではなくやるしかない。
グレイシアは氷系遺物最強。
できるはず!
ボクはトールの足元に氷の柱を突き刺すように生やす
あっさり横に飛んで避けられるが
その柱からさらに横に氷の槍を生み出して放つ。
トールは少し驚いた顔をして氷の壁を生み出して防ぐ。
「やればできるじゃない。いいわね。ドンドン実っていく。ここで狩るのは勿体無い気がしてきたわ。口惜しいけど今はカロリーが高い相手も来ているし少しお暇させて貰うわ。それではご機嫌よ〜。」
そういって、霧が視界を塞ぐ。
霧が晴れる頃にはもうトールの姿はなかった。
そこからアイク隊長とミレーナ隊長が来て無事全員生きて帰ることができた。
最後まで読んで頂きありがとうございました!
今回で第二章完結です!
グレイシア戦と神凪イサリ戦は自分が書きたかった場面トップ10に入るところだったのでとても楽しかったです!
これを楽しんでいただけていたら是非次回から始まる第3章もお楽しみください!




