vsグレイシア & vs神凪イサリ FINAL 〜新たな伝説の幕開け〜
20話です!
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「お前、いや、今はミレーナだったか」
壁から立ち上がったイサリは、唇の端を吊り上げる。
「エンカも含めて、あの家系は身分は低いが……中々“使える”ものを排出する。里に帰還したら、位を上げるよう進言しておこう」
ミレーナの眉がわずかに動く。
侮辱の言葉ではなかった。だが、どこか不気味な響きが残る。
「神凪の人間にそんな考え方ができる人がいるなんて珍しいですね。」
「この世の中は2種類いる。使える人間と使えないゴミだ。身分が高かろうと使えないゴミは大量にいる。逆に掃き溜めのような生まれでも使える人間は大量にいる。ミレーナ、お前は使えると判断された。この戦いでまだお前が生きていたら俺の部下にしてやろう。」
ミレーナはその言葉をかき消すように拳を放つ。
ミレーナの拳圧が地を割り、空を裂いた。
衝撃波が奔るしかし、イサリの前に現れ巻物によって吸収される。
すかさずイサリは血を巻物に垂らして
通路を埋め尽くすほどの槍を放つ。
「……っ、器用なものですね」
ミレーナは眉を寄せた。
イサリは表情を変えず、巻物を指で弾く。鎖鎌が放たれ、矢が雨のように走る。
それを拳圧で吹き飛ばす。
拳圧が奔り、石畳を切り裂いた。
すかさずミレーナは間合いを詰めてイサリに拳を放つ。
だが、イサリは一歩も退かず。掌をそっとかざす。次の瞬間、衝撃は柔らかに受け流され、背後の壁に逸れていった。
「……柔拳?」
ミレーナの瞳がわずかに揺れる。
神凪の里では、体術で最も最良なのは剛拳。そのため身分関係なく剛拳は叩き込まれる。力を以てねじ伏せる、それが唯一にして絶対の術として。
柔拳など、軟弱な下等生物の流派にすぎない。というのが神凪の里の常識。
里を抜けたミレーナですら身体に染みついた剛拳をベースに戦っている。
(なのに、どうして、あなたはそんな拳を?)
イサリは答えない。ただ淡々と構えを戻し、次なる一撃を用意する。
その姿は、神凪の里にいた頃に見た、どの戦士とも違っていた。
粉塵が晴れ、瓦礫の中で二人の影が対峙する。
ミレーナは拳を固め、息を整えた。
「……やっぱり、隙がありませんね」
イサリは応えず、ただ巻物を翻す。
刹那、先ほど吸収された拳圧が刃の形を取り、嵐のように押し寄せた。
「くっ……!」
拳を振り抜き、迎撃する。衝撃波と衝撃波が衝突し、通路全体が爆ぜる。
石畳が裂け、壁が抉れる。
瓦礫を蹴散らしながらミレーナは距離を詰めた。拳を叩き込む、だが、その一撃は柔らかな掌に受け流される。
衝撃が逸れ、壁を抉る。
「……柔拳、ですか。神凪では剛拳こそ最良とされてきたのに……なぜ、あなたは」
イサリは無言のまま。
掌が舞う。鋭さはなく、ただ波紋のように。
だが、触れた瞬間に力が逸らされる。
ミレーナはさらに拳を繰り出す。連打、連撃。
拳の圧力が空気を裂く。
しかしすべて、柔らかに受け流され、空転ノ巻が新たな武器を吐き出して襲いかかる。
「っ――!」
雨のように降り注ぐ矢。粉塵を切り裂く薙刀。横薙ぎの鎖鎌。
ミレーナは拳圧を放って弾き飛ばす。だが、そのたびにわずかな隙を短剣で斬られ、ダメージが蓄積されていく。
真正面から拳を叩き込むミレーナの拳圧を、イサリは身を沈めるだけで躱し、布のように腕を揺らして力を外へ逸らす。
遠距離は《空転ノ巻》により吸収されていく。
遠距離は封じられ、近距離も柔拳で受け流される隙のない布陣。
その証拠に、ミレーナが一度でも足を止めれば、背後から《空転ノ巻》が放出する拳圧や武器が襲いかかる。
「……完璧な布陣と言ってもいいレベルですね。」
苦笑のように息を吐き、血を拭う。
だが、瞳は燃えていた。
巻物から次々と放たれる武器が通路を埋め尽くす。
槍、鎖鎌、矢、短剣そして先ほど吸収された自身の拳圧までも。
「……どれほど多彩でも、受け止めてみせます」
ミレーナは踏み込む。
矢を拳圧で弾き、鎖鎌を腕で払い、槍を真っ向から打ち砕いた。
飛来する拳圧の奔流を拳で迎え撃ち、通路が地響きと閃光に包まれる。
「くっ……はぁぁっ!」
崩れ落ちる石畳を蹴り飛ばし、瓦礫を吹き飛ばして進む。
その姿は嵐の中を突き進む槍の穂先のように、ただ一直線だった。
イサリの柔拳が迎える。
掌が舞い、力を逸らそうとするしかし、ミレーナは退かない。
一撃、二撃、三撃。
受け流されても即座に次を放ち、ゼロ距離へ迫る。
「……っ」
イサリの瞳がわずかに細められる。
柔拳は、間合いがあってこそ力を逸らす余地を得る。
だが、吐息が触れ合うほどの距離では、もう「逃がす」余白がない。
ミレーナの拳が、静かに構えられる。
「これが……私の正義です」
真っ直ぐに伸びた右腕。
その拳に宿るのは、規律と信念、そして己が信じる拳の極端。
「輝律聖拳ッ!」
放たれたストレートは、全てを貫く槍の如き一閃。
空気を震わせ、光をまとい、避けることも逸らすことも許さずイサリへと迫った。
光の槍のごとき拳圧が、イサリの胸を直撃した。
「……っ!」
巻物が空中に弾け飛び、吸収した力も武器も霧散する。
衝撃は通路を駆け抜け、壁を砕き、石畳を割っていく。
イサリの身体はその衝撃に耐えきれず、後方へ吹き飛び、瓦礫に叩きつけられた。
肺から大きく息が漏れ、全身が動かない。
静寂。
粉塵の中で、イサリはかすかに笑った。
血を吐きながら、視線だけでミレーナを捉える。
「……ミレーナ……あのときと変わらず……お前の拳は……強いな……」
その言葉を最後に、瞼が重く閉じられる。
崩れるように瓦礫に沈み、意識を失った。
通路に立つのは、拳を下ろしたミレーナただ一人。
拳に残る熱と痛みが、確かに勝利を告げていた。
残った神凪の兵たちは顔を見合わせ、狼狽し、逃げるように駆け出していく。
目指すはヒュベルの入口。
だがその行く手を、ひとりの影が遮った。
「おやおや。ずいぶん急いでいるじゃないか」
肩をすくめ、軽やかに立ち塞がったのはアイクだった。
兵たちは動きを止める。
兵士達はその場で倒れ意識を失った。
「……あれ? 手を出さないんじゃなかったっけ、ミレーナ君」
ミレーナは血の滲む腕を押さえ、荒い息を吐きながらも答えた。
「気が変わりました」
そして鋭い眼差しを彼に向ける。
「そういうあなたは……責任を取ると口にしながら、来るのが遅いのでは? 私が……すべて片付けました」
アイクは思わず苦笑する。
「それは申し訳ない」
その軽い調子に、ミレーナも少しだけ息を吐き、拳を下ろした。
だが視線はすぐに険しくなる。
「……ユキたちは。グレイシアに認められるでしょうか?」
「さて。どうだろうね」
静かに告げられたその言葉が、戦場の余韻に重く沈んだ。
*
氷の城を裂く轟音がまだ耳に残っていた。
ミノリちゃんの一刀が、あの巨鳥の片翼を真っ二つに断ち切ったのだ。
……けれど、代償もまた重い。
「がはっ……!」
稲光の余韻に焼かれた身体から、鮮血が散る。ミノリちゃんは制御を越えた《アクセル》の反動で力を失い、そのまま落下していった。
「――っ!」
ルシアン君が迷わず動く。足元に《シルト》を蹴り出し、即席の足場を三段作って跳躍。空中で彼女の身体を抱きとめ、瓦礫の上へと着地した。
「無茶をする……本当に死にたいのか」
息を整えながら吐き捨てるように言う声は、叱責よりも安堵が勝っていた。
ミノリちゃんは答えられず、意識を繋ぎ止めるのに精一杯だった。
そして
翼をひとつ失った氷の王が、轟音とともに墜ちてきた。
城の中心が揺らぎ、砕け散る氷片が視界を覆う。
「今しかない!」
ボクが叫ぶよりも早く、バレットちゃんとルシアン君が前へ走った。
だがグレイシアは、落ちながらもなお、王の威を見せつける。
床から氷の刃が連なり、壁から兵士が列をなし、頭上からは氷羽が矢のように降り注いだ。
戦場そのものが敵。
ここからがグレイシアの本質か、背筋が冷たくなる。
「チッ……埒が明かない」
ルシアン君が斧を振り抜き、氷兵を粉砕するが、その数は尽きない。
「ッ、攻めきれない」
バレットちゃんは《ゲシュッツ》を連射し、軌道を反射させて氷の雨を撃ち落とすが、それも追いつかない。
このままじゃ押し切れない。
分かっている。ボクにしかできないことがある。
氷羽雪晶を握りしめ、深呼吸。胸に熱い痛みが走った。
「グレイシア、ここからはボクと、フィールドの主導権の奪い合いだ」
床を這い上がる氷槍。
壁から溢れ出す氷兵。
頭上から降り注ぐ氷羽の雨。
グレイシアが叫ぶたび、氷の世界そのものが牙を剥いた。
氷羽雪晶握る手が脈打つ。
城中に広がる氷の根が、ボクの意志へと絡みついてきた。
氷操作。
地を裂いて迫る氷槍が、目前で反転し、逆にグレイシアへ突き刺さる。
氷兵の剣が凍りつき、仲間ごとバラバラに崩壊していく。
上空から降り注ぐ氷羽は、軌道をねじ曲げられ、雨のようにグレイシアの背に降り注いだ。
巨鳥が咆哮を上げる。
氷の翼が広がり、数十の刃が空から一斉に落ちてきた。
「はぁぁっ!」
ボクも叫び返す。両腕を広げ、氷羽雪晶の力を注ぎ込む。
氷の雨とボクの氷がぶつかり合い、凄まじい衝撃音が響いた。
どちらの支配力が強いかまるで世界そのものが試しているようだった。
流石、氷の王。
グレイシアの支配力は圧倒的だった。
ボクが氷を抑え込めば、すぐさま更なる氷圧が押し返す。
互いの氷がせめぎ合い、通路の空間が爆ぜるたびに、視界が白くかき消されていった。
「支配権を奪い合っている?」
バレットが《ゲシュッツ》を構えながら、戦場を観察している。
瞳は鋭く、無駄のない動き。
床を突き破って伸びてきた氷槍が、目前で反転し、グレイシアの肩を貫いた。
だがすぐに、氷は逆流してユキの足元を凍り付かせようとする。
バレットの《ゲシュッツ》が火を噴き、エネルギー弾が壁を跳弾してグレイシアの翼をかすめた。
氷が砕け、動きが一瞬止まる。
「狙える隙は作る。グレイシアから氷の主導権を奪い取って。」
ユキは歯を食いしばる。
その背に、ルシアンが斧を振り上げて氷の雨を叩き落とした。
砕け散った氷片が空に舞い、鈍い衝撃が響き渡る。
「安心して戦え、ユキ。ここは俺が抑える!」
落ちてきた氷柱を弾き返し、逆にグレイシアの兵士の頭上へと突き刺さった。
みんながミノリちゃんが作ったチャンスを活かそうと死に物狂いで戦っている。
ボクは氷羽雪晶を胸に押し当てる。
冷気が血の中にまで染みわたり、視界が白に染まった。
「……今、奪い切る!」
氷柱が競り合い、通路全体が爆ぜるように震える。
グレイシアの氷が押し寄せ、ボクの氷がそれを押し返す。
ルシアン君が斧で氷壁を打ち砕き、バレットちゃんが兵士を撃ち抜きながら道を作る。
氷の支配権を奪う戦いは、仲間の支援でわずかに傾き始めていた。
「おもしろいだろ? グレイシア。氷を支配するのは、君だけじゃない」
氷と氷が噛み合い、軋み、空気が悲鳴を上げる。
グレイシアの支配力が確かに鈍っていく。
「今だ!」
ルシアン君が跳ぶ。
不運の奔流が刃を肥大化させていく。
彼はためらいなく運命を差し出して威力を上げた上で溜め込んだ不運を解き放つ。
「厄災風斬!」
一振り。
荒れ狂う暴風が走り、氷の障壁をことごとく粉砕した。
核を覆っていた厚き壁すら、一瞬で吹き飛ぶ。
「邪魔は消えた。決めろ、バレット」
ルシアン君の声に応じ、バレットちゃんは《ゲシュッツ》を掲げた。
エネルギー弾が発射された。
《反躍ノ楔》
バレットの遺物、反躍ノ楔は手袋型の遺物でその手から発射したものならなんでも跳弾させる。
そのため、エネルギー弾であるゲシュッツも今まで跳弾できた。
この遺物をつけていると跳弾できなかった攻撃は低くなるが跳弾すればするほどその攻撃力が跳弾した数倍増えていく。
さらにバレットは三つともゲシュッツを入れているため1発でも高い火力が出せる。
氷片を跳ね、柱を逸れ、床や天井、壁を跳ね、10度の跳弾を繰り返し――
10倍の威力になったエネルギー弾は、寸分違わずグレイシアの胸へ吸い込まれた。
閃光。
砕けるような悲鳴。
巨体が氷片となって崩れていく。
グレイシアの残滓が、光の粒子となってボクの胸元の《氷羽雪晶》へと吸い込まれていった。
「……なっ……」
淡い音を立てて、雪晶に亀裂が走る。
だが、砕けることはなかった。
その中心にユキの結晶が描かれ周りは氷の羽で覆われているような形となる。
眩い光が収まり、氷羽雪晶は新たな輝きを宿していた。
「認められた……のか?」
震える声で呟いた。
今!
ここに!
階層ボスに、新たに認められし伝説となる冒険者が、誕生した!
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改めまして最後まで読んでいただきありがとうございました!
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