vsグレイシア & vs神凪イサリ 3
19話です!
是非楽しんでください!
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氷の城を震わせる轟音が響いた。
バレットちゃんが放った七度跳弾のエネルギー弾は、狙い澄ましたかのように一直線にグレイシアの胸部、核へと迫っていた。
その軌道には一切の乱れもない。氷壁やシルト、私の氷羽を利用して描かれた奇跡のルート。あれは絶対に届くと、誰もが確信していた。
だが――
ガガガッ!
地を割るような不気味な音。氷の床から無数の柱がせり上がり、核の直前に立ちはだかる。厚く、重く、まるで氷の砦。
エネルギー弾はその表面にぶつかり、そこから反射して氷の兵士にあたり、閃光を散らして霧散した。
「……チッ!」
バレットちゃんの舌打ちが響く。狙いは完璧だった。なのに、たった一瞬の防御で掻き消された。
グレイシアが咆哮した。
氷城全体が共鳴するように揺れる。天井から氷片が雨のように降り注ぎ、それは床に触れるよりも早く兵士の姿に変わる。
頭上からは氷の羽根が流星のように落下し、足元からは氷槍が突き出す。まるで大地ごと敵に回ったかのようだった。
「くそっ、化け物め!」
ルシアン君が斧を振り抜き、兵士ごと床を叩き割る。斧に纏った《ブレッシャー》の一撃は地響きを伴い、氷兵の群れを粉砕する。
だが、その度に彼の顔色は僅かに険しくなっていく。《斧幸》は不運を力に変える。その代償が確実に彼の身を蝕んでいた。
「押されてる……!」
ボクは氷壁を展開して仲間を守るが、氷槍の圧力は一撃ごとに重さを増していく。壁に罅が入り、きしみが耳を裂いた。
兵士たちは途切れず湧き続け、空気は寒気と殺意で満ちていく。
どうすれば核を狙える?
考えろ。何度も見た。羽根が兵士に変わる、その一瞬。確かに動きが止まる。けれど今の防御を見る限り、ただ狙うだけじゃ届かない。
焦りの中で、ミノリちゃんが立ち止まった。
彼女の視線は敵に向いていない。もっと遠く、別のものを見ているようだった。
*
ふと、思い出す。
あの時のアイクの言葉を。
『ヒュベルに挑む上で、一番の支えになるのは何か分かるかい?』
あの軽い調子。人を小馬鹿にしたようで、でもどこか信頼できる声音。
『それは願いだよ。ヒュベルを完全攻略したものはどんな願いも叶うとされている。そんな叶えたい願い。どんな苦境にあっても踏みとどまれる理由になる』
その問いかけに、バレットとルシアンは迷わず答えた。
けれど私は、そしてユキちゃんも、沈黙していた。
後にユキちゃんは打ち明けてくれた。
「……ボクの願いは、あの時ボクに外の世界を教えてくれた彼と彼の家族を、生き返らせて……もう一度幸せに過ごして欲しい」
強い、痛いほどの願いだった。
私はただ黙って聞いていた。気づいてしまったのだ。
私には、何もない。
私はただ、ヒュベルを冒険したい。
みんなと進めるなら、それでいい。
そんな軟弱なものだ。
そんな私に今できるのは、みんなの願いを叶えるために命を賭けること。
覚悟が決まる。胸の奥に熱が宿る。
「……私は決めた」
私は刀を握り直し、仲間たちの背中を見据えた。
「今は……みんなの願いを叶えるために!」
声が響いた瞬間、全身を雷光のような力が駆け抜ける。
《アクセル》。身体を限界まで酷使する危険な遺物。
一日三度しか使えず、安全に扱えるのはわずか一秒。それ以上は命に関わる。
だが今、この一手に賭けるしかない。
時間が歪む。
世界の色が伸び、音が遠のき、すべてがスローモーションに変わる。
「行く……!」
飛来する氷の羽根。
それを足場に変える。
一枚、また一枚。
アクセルの加速で駆け抜け、羽根を蹴り、さらに跳び移る。
1秒経過、骨が軋んできたけどまだ!
空に並ぶ羽根が階段となり、私をグレイシアへと導く。
氷槍が追いつくよりも早く、私はその懐に迫っていた。
グレイシアの眼が私を捕らえる。
2秒経過、血管がいくつかきれたのか身体から血がふき出る。けどまだ!
咆哮とともに嘴が迫り、突風が髪を打つ。
その巨大な影を、私は真っ向から迎え撃った。
「――斬ッ!!」
刀を大上段から振り下ろす。
稲妻のような速度。
鋼鉄をも砕く一閃が、氷翼を切り裂く。
轟音。
雷鳴のごとき衝撃が氷城を震わせ、硬質な羽根が真っ二つに裂けていく。
粉砕された氷片が吹雪のように舞い、視界を覆った。
片翼が落ち、地響きを上げて崩壊する。
グレイシアの咆哮が氷城を揺らす。
氷の王者を思わせるその姿に、初めて絶望の色が走った。
片翼を斬り落とした。
3秒経過、ここまでか、けど、今できる仕事はできた。
氷の城に走るその光景は、確かな希望の証だった。
*
刃が迫る。
ミレーナの胸元へと、冷徹に振り下ろされたイサリの一撃。
その切っ先は、避けようもなく彼女の心臓を捉えていた。
幼き日の彼女は、常に冷たい視線の中にあった。
神凪一族、生まれながらに特異な「目」を持ち、遺物社会において重宝される存在。だがその里の実態は、歪んだ身分制に支配されていた。
高い身分に生まれた者は名を与えられ、権威を持ち、秘宝を継ぐ資格すらあった。
低きに生まれた者は、名もなく、ただ捨て駒として働き、死んでいく。
ミレーナは後者に属していた。
誰も彼女を名で呼ばなかった。
そもそも名がないのだから当然だ。
ただ「お前」「あれ」と指をさされ、雑務を押し付けられる。
時に身分高き子らの遊び道具となり、拳で殴られ、地面に押しつけられた。
しかし彼女は自分と同じ立場のものが同じめに合っていたらそれを庇うこともしていた。
彼女はどんなに殴られようとも泣かなかった。
泣けば、さらに笑われるだけだと知っていたから。
拳を固く握り、胸の奥に小さな灯をともしていた。
必ず、自分の拳で道を切り拓く、と。
時が経ち、彼女は己の才を証明する。
幼くして遺物を扱う技を身につけ、拳圧を刃へと変える術を会得した。更に彼女は神凪一族の中でも目の才が異常に高かった。
彼女の目はオーラの色が見えるだけでなくそのものの危険性、オーラの揺らぎによる感情の起伏も読めるほどであった。
それでも一族の秩序は変わらない。
力を持てば持つほど、彼女の存在は脅威とみなされ、罰を受けた。
「規律を乱すな」「身分を弁えよ」その言葉のもとに、孤立を強いられた。
だが、彼女は曲げなかった。
夜、寝床の片隅で拳を見つめながら誓ったのだ。
「私の拳は、誰かを傷つけるためではなく、守るために振るう」と。
ある日、彼女はその限界を悟る。
身分の低い子どもが、些細な失敗をしただけで上位の者に殺されかけていた。
誰も止めない。
誰も逆らえない。
その瞬間、彼女の中で何かが弾けた。
「やめなさい!」
彼女の拳が、規律を破る音を立てた。
殴られた上位の子の顔が歪み、血が流れる。
その代償は大きかった。
彼女の処刑が決まった。
助けた子どもは生き延びた。
彼女の決意は揺るがなかった。
こんな里に未来はない。
私がいるべき場所は、ここではない。
夜明け前。
ミレーナは拳を握り、牢を破り、里を抜け出した。
背後に広がるのは冷た氷壁と、幾重もの規律の檻。
だが前に広がるのはまだ見ぬ自由。
「私は、私の道を行く」
放浪の果て、飢えと疲労に倒れかけていたときだった。
一人の男が手を差し伸べてきた。
不滅ノ翼団長、レオン。
「その拳、相当鍛えているな。その若さでこれほどの完成度とは恐れ入った。」
大きな掌に掴まれた瞬間、彼女は不思議と涙があふれた。
初めて、自分を認めてくれる存在に出会ったのだ。
「名はあるか?」
問いに、彼女は首を振った。
一族の低き者に、名など与えられない。
レオンはしばし彼女を見つめ、口を開いた。
「――ミレーナ」
その名を告げられたとき、胸の奥に灯していた小さな炎が、大きく燃え上がった。
彼女はその日から、神凪ミレーナとして生きることになった。
そこから凍り切った世界が一瞬にして溶けていった。
レオンに案内された不滅ノ翼、そこで出会った大切な仲間。
そして温かい王都の人たち。
多少の身分は存在するものの神凪の里に比べると遥かに温かい。
なんでもこの国の王は民が豊かに暮らせるように規則を作り、自分と貴族が民を守る仕組みをしているようだ。
私は規則が民のために使われているのに感動した。
そしてこの規則と私を温かく迎え入れてくれた不滅ノ翼とこの国に恩を返したい。
そのためにここの規則を守る守護神になろうと決意した。
「……っ!」
意識が現在へと戻る。
刃が迫る。
ミレーナは左腕を差し出した。
鋭い痛み。
刀身が肉を裂き、血が散る。
だが心臓は外れた。
「なに……!?」
イサリの目が見開かれる。
ミレーナは左腕に力を込めた。
刀をがっちりと挟み、引き抜かせない。
そして、右の拳を振り抜いた。
轟音。
拳圧が空気を裂き、真正面からイサリを捉える。
刹那、彼の身体は吹き飛び、壁に叩きつけられた。
兵たちが息を呑む。
その光景は、まるで鉄槌が下されたかのようだった。
ミレーナは息を荒げ、血に濡れた左腕を押さえながら叫んだ。
「……やっと、まともに拳があたりました」
その瞳は、決して折れない炎を宿していた。
「勝負は……これからです!」
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