vsグレイシア & vs神凪イサリ 1
17話です!
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ヒュベル第二階層、ボス部屋の扉を越えた瞬間、息が凍りつくような冷気が頬を切る。床も、壁も、天井も。全てが分厚い氷で構成された空間。その中心には、鋭くそびえ立つ巨大な氷の城が築かれていた。
まるで王座のごとき尖塔の上に、蒼白に輝く巨鳥が羽を休めている。
それこそが《グレイシア》だった。
「……あれが、グレイシアか」
ルシアン君が短く呟く。その声は凍てつく空気に吸い込まれて消えそうになる。
ボクは目を細めた。
氷の巨鳥の身体は透き通る結晶で形成され、羽ばたくたびに霧のような雪片が舞い散る。……美しい。だが同時に、その美しさこそが死を告げている。
「油断厳禁。始まる。」
バレットちゃんが冷ややかに言い放つ。
瞬間。
ズドンッ!
尖塔から振り下ろされた羽ばたきとともに、無数の氷柱が空中に生成され、一斉に弾丸のごとく射出された。
「っ!」
ミノリちゃんが慌ててシルトを展開する。半透明な壁が瞬時に形を成し、正面の氷柱を防いだ。だが……。
ガガガガッ! 壁を砕く轟音。
次の瞬間、足元の氷床から鋭い槍が迫り上がった。
「下もか……!」
ボクは氷の羽を展開し、床を凍らせて逆にせり上がりを封じる。
ルシアン君は斧を振るい、氷槍を粉砕しながら突き進んでいた。
「分断される!」
バレットちゃんが短く叫ぶ。
グレイシアの氷の羽が散り、そこから次々と人型の姿を取った。
全身を氷鎧に包み、氷の剣と盾を持つ《氷の戦士》たちだ。十体、二十体……数を数えることが馬鹿らしくなるほどの軍勢が現れる。
「戦士まで用意してくれるとは、随分と豪勢だね」
ボクは笑った。こういう展開、嫌いじゃない。
戦場は四分割された。
ミノリちゃんは必死に刀を振り、途中刀を槍へと変えて氷戦士を突き貫いている。
ルシアン君はただ斧を一閃、その一撃で三体の戦士をまとめて粉砕していた。
バレットちゃんはゲシュッツを放ち、それを跳弾させて、戦士の頭部を正確に撃ち抜く。
「ふぅ……」
ミノリちゃんの息が白く舞う。だが彼女の瞳は怯えていない。分析している。
「あの巨鳥。氷の羽を飛ばすたび、戦士を生んでいる。
つまり、羽を削れば数は減る? でも、羽ばたきで再生されている……?」
思考の断片が彼女の独り言により、積み重なっていくのがボクには見えた。
……面白い。彼女の考察は、ボクが知りたいものに繋がっている気がする。
*
ヒュベル第一階層。
「邪魔だな」
冷ややかな声が響いた。
そこはマッドスワンプへ挑むため、探索者たちが列を作っていた場所。
しかし、突如現れたローブ姿の集団が、その列を一瞥するなり動いたのだ。
「ぎゃああああ!」
「やめろっ、俺たちは国から依頼されてる探索者だ!」
ツルが鞭のようにしなり、探索者の体を絡め取る。骨が砕ける音。
次には氷槍が空間に突き出され、悲鳴とともに血飛沫が氷壁を染めた。
さらに光弾が炸裂し、視界を奪われた者たちが次々と切り伏せられていく。
「……下等生物が、俺たちがお前たちのために待つわけないだろう。」
リーダー格の声が冷たく響く。
誰も抵抗できなかった。規律正しく並んでいた探索者たちは、ただ一瞬で虐殺された。
その背後に歩み出るのは、黒衣に身を包んだ神凪イサリ。
「進め。次は泥掃除だ」
淡々とした命令に従い、ローブの一団は第一階層ボスの扉へと消えていく。
彼らの足跡の後には、赤黒い血が散りばめられ、その惨劇を語ってくれる。
ヒュベル第一階層ボス部屋。
そこは泥沼に覆われた暗鬱な領域だった。湿気がまとわりつく空気は重く、足を踏み入れた瞬間に靴底がぬるりと沈む。奥へ進むほど泥の深さは増し、中央には巨大な泥沼が口を開けている。
その奥に、《マッドスワンプ》が潜いた。
「ぬぅ……っ!」
先陣を切った神凪一族の兵の一人が声をあげた。次の瞬間、腰まで泥に呑まれる。
足掻く暇もなく、泥の表面が波打ち、彼の身体は引きずり込まれた。
直後、耳障りな“ぐちゅ”という音。泡と血だけが浮かび、男は帰らなかった。
「くそっ、足を取られるな! 踏み込みを浅く!」
指揮を執ろうとした別の兵が叫びかけた瞬間、泥から泥の手が伸び、鎧ごと締め上げられる。
骨の軋む音。続いて、泥の奥へとずぶずぶと沈められていった。
阿鼻叫喚。恐怖の泥沼が、隊列を飲み込んでいく。
「……騒ぐな」
淡々とした声が響いた。
神凪イサリ。その足元だけは泥に沈まない。まるで泥が彼を避けているかのようだ。
彼は巻物を解き、
「《空転ノ巻》――吸え」
低く呟いた。瞬間、泥沼そのものが震えた。
沼を満たしていた泥が、まるで逆流する川のように巻物へと吸い込まれていく。
抵抗するように、泥から幾つもの腕が伸びる。しかしそれも吸われ、削がれ、やがて巨大な塊が露わになった。
赤く輝く核。
その瞬間を、イサリは逃さなかった。
抜き放った刀が一閃し、核を両断する。鈍い破砕音とともに、マッドスワンプは悲鳴のような咆哮を上げ、泥沼全体が激しく泡立った。
そして……崩壊。
「討伐完了」
イサリは血を拭うこともなく、淡々と告げた。
討伐の余韻が残る通路。
その奥に、彼女は立っていた。
「……ここで何をしている?」
ローブの集団を前に、女が一歩進み出る。
白の髪を揺らし、白い和装を纏った女、不滅ノ翼五番隊隊長、神凪ミレーナ。
「ヒュベル内での虐殺行為。並びに王都でのテロ行為。規則違反です。よって、罰します」
淡々とした声が石壁に反響する。
兵たちがざわめいた。「規則?」「俺たちを罰する?」その響きには嘲笑が混じる。
その中でも、特に声を荒げた三人がいた。
彼らは他の兵より装飾の多い衣を纏い、腰には異なる光を宿した遺物を携えている。身分の高い三人だ。
「……おやおや。見覚えがある顔だと思えば」
「昔、俺たちの“遊び”をよく邪魔した小娘じゃないか」
「身分の低さを忘れて、俺たちに意見したよなぁ?」
三人は互いに笑い合いながら、かつての記憶を嘲るように吐き出した。
ミレーナは微動だにしない。ただ視線だけが冷たく細められる。
「貴様ら……」
イサリが小さく呟くが、その前に三人は一歩踏み出した。
「イサリに手を煩わせるまでもない。我らで片付けよう」
「小娘には、我らの力を教えてやるべきだ」
一人の男が笑う。鉄杭の腕輪を掲げ、地面から鉄の槍を生み出す。
「我が《鉄杭の腕輪》は大地を従える遺物。この威力、貴様には理解できまい!」
「防御の極致、それが《炎殻の盾》よ」
女が赤熱した盾を構える。
「どんな刃も、この炎に呑まれて弾かれる。無駄な抵抗はやめておきなさい」
黒い本を持つ男が嗤う。
「我が手にあるは《影の書》。影から手を生み出し貴様の息の根を止めてやろう。」
彼らは誇らしげに遺物を掲げた。
戦闘は一瞬で決した。
地面から大量の鉄杭が影から伸びてきて襲う。
しかしミレーナはただ一歩。
距離を少し縮めて殴る。守ろうとした盾は壊れて、鉄杭は吹き飛ばす。
「なっ――!?」
悲鳴を上げた時には、彼らの肩が、腹が、次々と穿たれていた。
赤い血が迸り、床に滴り落ちる。
「……昔と同じ」
ミレーナの声は冷酷だった。
「声だけは大きい」
三人は呻き、なおも立ち上がろうとする。
だがその身体は既に限界を超えていた。
「イサリ様……っ! 我らでは……」
「お願い致します……!」
その声は哀願に近かった。
イサリが一歩進み出る。
その眼差しは冷ややかに三人を射抜いた。
「……役立たずは要らん」
刀が閃き、三人の首が同時に落ちた。
兵たちが凍りつく。
イサリは血飛沫を振り払い、ただ前を見据える。
「俺がやる」
静かに。だが確実に、殺意を孕んだ言葉が響いた。
その視線の先には神凪ミレーナ。
闘いの幕が、上がる。
最後まで読んで頂きありがとうございました!
ついに始まったvsグレイシアとvsイサリ是非楽しんでいただけると幸いです!
もしこの作品が気に入りましたら感想や評価をいただけると幸いです。
そうでなくともこの作品が少しでも気に入っていただけたら今後も読んでいただけると幸いです。
改めまして最後まで読んでいただきありがとうございました!
次回は明日の0時に投稿予定ですのでお楽しみください




