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目には目を、歯には歯を、能力には、能力を  作者: 妄想お面
凍りついた世界〜新たな伝説の始まり〜

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16/54

神凪の里 〜ユキの決意〜

16話です!

是非楽しんでください!

毎日投稿継続中!

 ある夜、里長から古文書の整理を命じられたときのことだった。


 書庫の奥、埃をかぶった一冊の本が彼女の手に落ちた。


 そこに記されていた名

 

《グレイシア》。


 ページを繰るたび、乾いた音が響く。


 そしてふと、目が止まった。


『本来、神凪の秘宝は──《グレイシア》なり』


 少女の手が震えた。


 そこにはこう続いていた。


『数百年前、剣神アレクに従いし旅路にて、我ら一族の代表はこれを喪失す。

 秘宝を失うは一族の恥。よって似たる力を持つ《氷羽雪晶》を代わりとした』

 

 秘宝を、失った?


 自分が長年苦しみを背負わされたものが、ただの「代用品」だったと?


 胸の奥で、氷のような痛みが広がった。


 続きには、さらに驚くべきことが記されていた。


『《グレイシア》はいま、ヒュベルにある。』


 ヒュベル。


 男が外の話をする中で幾度となく出てきたものだ。


 確か、タルマカ王国に存在する。願いを叶えると噂される大遺跡。


 震える指で、別の頁を開く。


 そこには古い伝承の断片が記されていた。


『ヒュベルを制した者の願いは、すべて叶う』


 言葉を目にした瞬間、少女の胸に熱が走った。


 願いが、叶う。


 ならば。


 男を、その家族を──あの日失われた命すら、取り戻せるのではないか。


「……ヒュベルに、行かなくちゃ」


 声は震えていた。


 けれど、その瞳には確かな決意が宿っていた。


 禁忌を破ることになろうとも、構わない。


 器としてではなく、自分自身の意志で。


 少女は、氷羽雪晶を手に立ち上がった。


 目指すはヒュベル。


 ヒュベルに向かうため里から抜ける方法を探し、一年くらいたった。


 少女はついに決行する。


 里は静まり返り、ただ虫の声と風の音だけが響いていた。


 秘宝を受け継いだ者は、里を出てはならない。


 それが絶対の掟。


 幼いころから耳にたこができるほど聞かされ、骨の髄まで刷り込まれてきた。


 理由はただひとつ。


 ──より多くの子を残すため。


 それが「器」としての役割だと。


 血を繋ぎ、一族を高めるための存在だと。


 少女は拳を強く握った。


 そんなもののために、自分は生きてきたわけじゃない。


 あの日芽生えた“願い”を果たすために、ここを出る。


 氷羽雪晶を胸に抱き、足音を忍ばせて歩く。


 夜更けの里は、驚くほど脆い。


 焚き火の見張りを避け、裏道を抜けやがて里の結界にたどり着いた。


 そこは外と内を隔てる透明な壁のようなものだった。


 触れれば、ぴたりと冷たい圧が返ってくる。


 氷羽雪晶を握りしめる。


 ひび割れる音とともに、結界の表面が凍りつき、やがて小さな隙間が生まれた。


 そのとき、背後から声がした。


「……行くのですね」


 振り返れば、世話係がいた。


 涙をこらえた顔で、それでも微笑みながら。


「お嬢様が“器”のままで終わるのは、あまりにも悲しいこと……」


 言葉に、胸が痛んだ。


 けれどもう迷わない。


 少女は短く頷き、結界の裂け目を抜ける。


 夜風が頬を撫でた。


 里の中で感じることのなかった、自由な風。

 

 その瞬間、胸の奥で確信した。


 もう後戻りはできない。


 けれど、構わない。


 願いを果たすために──ボクは、ヒュベルへ行く。


  ……場の空気が重く沈んでいた。


 ボクが語り終えた神凪一族の真実と、ヒュベル、そして《グレイシア》。


 仲間たちの表情は硬く、言葉を失っていた。


 そんな中、ミノリちゃんが小さな声を上げた。


「ねえ……その魔法使いって、どんな人だったの?」


 ぱっと、皆の視線が彼女に集まる。


 けれど彼女は怯まずに続けた。


「私ね、ずっと剣神アレクの物語が好きなの。アレクと一緒に旅をした魔法使いも、本で読んで……ずっと憧れてたんだ」


 ……ふふ。やっぱりミノリちゃんだ。


 彼女は真っ直ぐに、暗闇に光を差し込むみたいに、問いを投げかけてくる。


「本で読む限りだと、その魔法使いって……すごく真面目で合理的で、アレクを支える存在って感じだよね」


ミノリちゃんが身を乗り出すようにして言った。


「そうなんだ。世に出回っている物語ではそう描かれているんだね。……でもね、里で教えられたのは全く逆だった。“秘宝を失った愚か者”。上層部は、そう呼んでいたよ」


 ミノリちゃんの目が見開かれる。

「えっ……じゃあ、神凪一族だと本にあるのとは全然違うんだ。」


 ボクはゆっくりと首を横に振る。


「違うのは、もっと別のところだ。ボクの家に残っていた日記に、彼女自身の旅の記録があったんだ。そこに書かれていた彼女は……真面目なんかじゃなかった。アレクと馬鹿騒ぎして、仲間と笑い合って……ただ“楽しく冒険していた人”だった」


 思い返すだけで、胸の奥が温かくなる。


 里の価値観では許されない、けれど心から羨ましい姿。


「物語に描かれる“賢者”。里の中で囁かれる“愚か者”。そしてボクが知った、アレクと同じ目線で笑っていた“旅人”としての彼女を。彼女のことは好きに解釈していいよ。ボクは最後の日記の内容の方が好みだね。」


 私が言葉を締めた瞬間、しんとした沈黙が訪れた。


 けれど、それは重苦しいものじゃない。


「……やっぱり、その魔法使いリナ、素敵だなぁ」


 ミノリちゃんが、ぽつりとこぼした。


 その声音には、迷いがなくて。


 まるで、彼女の心から真っ直ぐに出てきたもののようだった。


「私、アレクの話を読むたびにね……“仲間と一緒に旅をするのって、きっとこんなに楽しいんだろうな”って思ってたの。だからその魔法使いリナが本当にそんな風に笑ってたって聞けて、すごく嬉しい」


 気づけばボクは、小さく笑っていた。


「ふふ、ミノリちゃんは本当に……いい読者だね。魔法使いリナも喜んでいるんじゃないかな?。」


「え、えっと……そうかな?」


 ミノリちゃんは頬を赤らめて、俯いた。


 その様子に、ルシアン君がわずかに口角を上げる。


「……お前らしいな。ま、でも……事情はわかったよ」


 今度はバレットちゃんが言葉を差し挟む。


「ユキが何を背負っていて、何を目的にしているか大体わかった。あとは私たちが、どう関わるかだ」


 その声には、いつものように無駄がなくて。


 けれど不思議と、柔らかさも混じっていた。


「そうやねぇ」


 メノウ姐さんが、微笑みながら手を合わせる。


「堅い話ばっかりやったし、ちょっと一息つくんもええかもしれへんな。……な?」


 ああ、そうだ。


 ミノリちゃんのおかげで、場の空気はすっかり変わっていた。


 ボクは外に一度出る。


 まだ追ってはきているものの何故か焦りなどはない。


 信頼できる仲間のおかげだろうか?


 外の空気を吸い込みながら、空を見上げた。


「……話を聞かせてもらいました」


 背後から、きりりとした声が落ちてきた。


 白い長い髪で白い和装をした女性が背筋を伸ばし、真剣な眼差しでこちらを見据えている。


「私は不滅ノ翼、五隊隊長、神凪ミレーナ。盗み聞きのような形になってしまったこと、まずは謝罪いたします」


 彼女は深々と頭を下げた。


 生真面目すぎる態度に、思わず苦笑する。


「ふふ、気にしなくていいよ。どうせ隠すような話でもないでしょ?」


「……寛大な心に感謝いたします」


 顔を上げたミレーナの瞳は、どこか鋭さを増していた。


「ただ一つ、どうしても確認したいことがあるのです」


 その視線が宿舎の中、仲間のもとに向けられる。


「……あの少女。ミノリ・テンドウのことです」


 低く抑えた声が続く。


「彼女のオーラを見た瞬間……私は恐怖を覚えました。禍々しいほど黒く、飲み込まれるようで……。あれほどの色は、今まで一度も目にしたことがありません」

 

 ああ、なるほど。


 やはり“完璧な目”を持つ者には、そう見えるんだろうね。


「……ボクはただ色でしか判別できないから、確信を持っては言えないよ」


 静かに答える。


「でもね、ミノリちゃんと一緒に過ごしてきた時間がある。そこでボクが知った彼女は……優しくて、仲間思いで、少し恥ずかしがり屋だけど、とても楽しい子だった。少なくとも、ボクはそう信じている」


 ミレーナはじっとボクを見据え、やがて小さく息を吐いた。


「……そうですか。ならば、私は貴方の言葉を信じるとしましょう」


 ほんの僅かに口元を緩めると、敬礼をして背を向ける。


 去り際に、彼女は呟いた。


「これは1人ごとです。ヒュベル第2階層。もし次に追われることがあれば、そこへ行きなさい。……ヒュベルでなら、多少は足止めをしてくれる者がいるはずです」

 

 そう言い残しミレーナは去っていく。

 

*


 「ほな、この男はうちが本部まで届けときますえ。」


 メノウ姐さんは、ぐったりとしたローブの男を肩に担ぎ上げた。


 その口調はおっとりしているのに、扱い方は容赦がない。

「ほな、みなさん。気ぃつけてな。」


 短く言うと、メノウ姐さんは軽く手を振って出ていった。


 それから少し時間がたったとき。


 窓が砕け散る音。


 冷たい風と共に、黒い影がいくつも舞い込んでくる。


 神凪一族。


 そして、その先頭に立つのは神凪イサリ。


 ああ、やっぱり来たか。


「……逃げるよ」


 ボクは躊躇わず言った。


「どこに?」と、ミノリちゃんが目を見開く。


「ヒュベルだ。あそこなら、時間を稼げる」


 一瞬の沈黙。だが次に声を上げたのはルシアン君だった。


「奴らはヒュベルを突破してきていない。となれば、第二階層のボス部屋に俺たちが転移すれば奴らは第1階層のボスから挑戦するしかない。そして俺たちが第2階層を攻略すれば……最低でも二層分足止めはできるというわけか。」


「えっ……そんなこと、できるの?」


 ミノリちゃんが不安げに問いかける。


「できるとも。ボクたちが第二階層ボス《グレイシア》を攻略できれば、だけどね」


 口元に笑みを浮かべ、ボクは外の気配を振り切るように言った。


 そして全員が、頷いた。


 ボクたちはヒュベルの深淵に飛び込む。


 視界が揺れ、冷気が襲う。


 転移が完了した先、そこは、氷に閉ざされた空間。


 一面が白銀に輝く巨大な城が立ち、その最も高い塔の上に。


 翼を広げ、氷の王が待ち受けていた。


「……氷晶の王鳥、グレイシア」


 名を呼んだ瞬間、世界そのものが震えた


最後まで読んで頂きありがとうございました!


もしこの作品が気に入りましたら感想や評価をいただけると幸いです。

そうでなくともこの作品が少しでも気に入っていただけたら今後も読んでいただけると幸いです。


改めまして最後まで読んでいただきありがとうございました!

また次回もお楽しみください

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