神凪の里 〜ユキの過去〜
15話です!
是非楽しんでください!
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視界が戻りきらないまま、私たちはようやく周囲の状況を把握した。
壁際に、片腕を失ったままもたれかかっている女がいた。
顔を布で隠し、その瞳は鋭く私たちを見て
いる。
彼女こそ、さっき煙を放って私たちを救い出してくれた“謎の女”だ。
メノウの姐さんが腕に光を宿し、謎の女に手を当てていた。
「無理して喋らんでもええよ……回復は、もうすぐ終わりますさかい。」
おっとりとした声が響き、私もほっと息をつく。
なお、メノウの姐さんが追っていたローブの男は縄で縛られている。
顔は判別できないほど腫れ上がり、息も荒い。メノウの姐さんの仕業であることは言うまでもなかった。
やがて女は、深く息を吐き、頭を下げた。
「……ありがとう。助かった」
「ふふ……安心したわ。」
メノウの姐さんが穏やかな声で言い、柔らかく微笑む。
女から布越しにかすれた声が洩れる。
そして、静かに布を下ろした。
凛とした顔立ち。真っ直ぐな瞳。
そして膝を突き、ユキちゃんに頭を下げる
「ご無事で何よりです。ユキ様。」
私はまだ状況を飲み込めずにいたため、ユキちゃんの方を見る。
そんな私を置いて女は名乗る。
「私は、神凪エンカ。ユキ様が里にいた時の世話係をしていたものだ。ユキ様にご助力していただき感謝する。」
私とルシアンは思い出した。
街での買い出しのとき、ユキちゃんと話していた女。
その姿と目の前にいる神凪エンカが重なる。
「……ユキ様を助けられて良かった」
エンカさんは力なく微笑んだ。
「ひとまず、詳しいことは宿舎でゆっくり聞かせてもらえへんやろか。」
メノウの姐さんに先導され私達は1番隊宿舎の空き部屋に入る。
エンカさんが話そうとした。
そのとき、彼女が続きを語ろうと口を開きかけたがユキちゃんが先に声を発した。
「いい。ボクが話す」
ユキちゃんの表情は、これまでにないほど引き締まっていた。
「神凪一族のこと。ボクの立場。そして……ヒュベルの階層ボス、グレイシアと神凪一族の関係を」
*
ふふ、どこから話そうか。
ボクの生まれた"神凪の里"のことから始めるのが筋だろうね。
神凪一族は特別な目を持つ一族だ。
生まれながらにして、人や遺物が発する「オーラ」が視える。
色、形、大きさ……それを見れば、力の規模やその人にどの遺物の適合率が高いか一目でわかる。
便利だろ?
まるで、この世の格を決める神様の目だ。
少なくとも、一族の連中はそう思い込んでいる。
この目があるからこそ、ボクたちは遺物社会において重宝されてきた。
「適合率を見抜く目」を持つ者たち。
代々、遺物と深く関わり、その力を振るう傭兵として戦場に立ってきた。
ただし、その輝きは決して平等じゃない。
里は身分制だ。
高い身分の家ほど権力を持ち、低い身分の者は使い潰される。
名前すら与えられず、働かされ、朽ちるだけの存在もいる。
高位の者は、低位の者を嬲って楽しむ。
退屈しのぎだよ。
殴られ、踏みにじられても、それが「普通」なんだ。
それでも低い身分の者は、黙って従うしかない。
従わなければ、生きる場所すらないからね。
それと、神凪一族は一族以外の人間を“劣った存在”だと考えている。
たまに村を襲い、捕らえた人間を奴隷として働かせる。
遊戯として。
低位の神凪ですら一般人より強いから、彼らにとっては無双状態を味わえる遊び場なんだ。
普段は自分が虐げられている分、外の人間を痛めつけて憂さ晴らしをするものも多い。
どうだい?もう吐き気がしてきただろ。
それでも、それが"里の日常"だった。
そして、そんな世界で重要視されているのが、秘宝。
秘宝とは神凪の里で代々一族の中で受け継がれている遺物のことを指す。
「氷羽雪晶」、「空転ノ巻」……などが秘宝の例として挙げられる。
そして神凪の里史上、最も強い力を誇ったのが「グレイシア」だ。
グレイシア…
数百年前、物語になった剣神アレクの仲間として旅をした魔法使いがいた。
その魔法使いの名は神凪リナ、当時の神凪一族の代表。
そんな彼女に託された秘宝こそがグレイシアだった。
そしてその力はヒュベルで散った。
神凪一族はこれを汚点と考え、“秘宝を失った”という事実を隠すために似た力を持つ「氷羽雪晶」をグレイシアの代わりの秘宝として偽ったんだ。
そして掟を作った。
秘宝を受け継いだ者は、里を出てはいけない。
この掟は秘宝を2度と失わないように。
もう一つは適合率の高い者を里に閉じ込め、子を残させるために。
「血を残す」ことこそが存在理由、だってさ。
わかってきた?ボクが秘宝を持っているのに里を抜け出した意味が。
ボクは、ただの繁殖道具で終わるつもりなんかない。
だから氷羽雪晶を持ち出した。
そして本物の秘宝、グレイシアを取り戻すためにここにいる。
そう、皮肉な話だよ。
神凪が失った秘宝が、今やヒュベルの階層ボスになっているなんてさ。
グレイシアを手に入れることは、ボクの自由を手に入れることでもある。
里に縛られた血の呪いから逃れ、ボク自身の望む未来を掴むために。
……ふふ、どうだい?
これがボク、神凪ユキが使命として心の支えにしているものだ。
面白いだろ?
少し、神凪の里にいた愚かな少女の話もしよう。
ふふ。
愚かな少女は神凪の里に生まれた。
しかも、数多の枝家ではなく「本流」。
中心に座す、誇り高き家の血を継ぐ者。
父は神凪タカヒト。掟に従うことを至上とする冷徹な男。
母は神凪サヨ。穏やかな笑みを浮かべながら、掟に背くことを決して許さない女。
二人にとって娘は「子」ではなかった。
愛すべき存在でもなく、慈しむものでもない。
ただ「血を残す器」。
それ以上でも、それ以下でもなかった。
だからこそ、幼い頃から行っていたのは訓練だった。
刀の構え、目の使い方、体術の稽古、遺物の扱い方。
神凪に生まれた子供は皆、幼少の時から叩き込まれる。
高い地位にある家の子供なら、なおさらだ。
将来、秘宝を継ぐ可能性があるのだからだ。
だが、愚かな少女は訓練の大半は最下位だった。
刀を振れば型は崩れ、体術に挑めば、あっさりと地面に転がされ、顔を泥に擦りつける。
何より問題だったのが神凪一族の闘気を見る目。これが明らかに他の子よりも劣っていた。
「神凪の名を汚すな」
「本流の子にあるまじき醜態だ」
教師や親族の叱責を絶えず浴びせられた。
誰も少女を庇わない。
同年代だけでなく先輩や後輩にも彼女は嘲笑の対象だった。
彼女の同年代の中に、ひときわ強く、誇り高い少年がいた。
名は──神凪イサリ。
彼は剣術も体術も、何を取っても抜きん出ていた。
教師陣を含めて誰も彼に敵わず、皆、彼を称賛した。
そして彼はいつも最下位に沈む少女を見下ろして言った。
「お前のように地位にあぐらをかくような落ちこぼれに、神凪の名は不要だ」
その言葉は、幼い心を鋭く貫いた。
愚かな少女はただ俯き、唇を噛みしめるしかなかった。
少女が十になる頃。
里に新たな遊び道具が連れ込まれた。
農村を襲撃した際に捕らえた、外の人間だ。
粗末な服を着た男で、縄で縛られ、目は暗く濁っていた。
「嬲ってこい」
年上の子供たちにそう言われ、少女は男の前に立たされた。
「……なにをすればいい?」
「決まってるだろ。好きに殴れってことだ」
同年代の少年が、にやにやと笑う。
「殴れば、この男は苦しむ。泣き叫ぶ。お前だって気持ちいいだろ?いつも最下位のお前でもこれくらいならできるだろ?」
「……」
少女は拳を握った。
だが、男の虚ろな瞳がこちらを見た瞬間、胸が締め付けられるように痛んだ。
「……どうして、抵抗しないんだ?」
少女の問いに、男は笑った。
口元に血を滲ませながら、それでも不思議と優しい笑みだった。
「抵抗しても無駄だからさ。嬢ちゃんたちの力には敵わない」
「……」
「けどな、無駄だからって心まで折れるわけじゃない。俺には……家族がいるからな」
「家族……?」
「ああ。生きて帰れるかわからねぇが……あいつらは信じて待ってる。だから、こんなところで折れたら笑われちまう」
少女の背筋に、冷たいものが走った。
家族。
そんな言葉、里では聞いたことがなかった。
「……神凪にとって、血を残すことが全てだ。親も子も、家のための器でしかない」
そう教えられてきた。
父も母も、娘を「器」としか見なかった。
「嬢ちゃん……それ、本気で言ってんのか?」
男はかすれた声で笑った。
「器だなんて……人を人と思ってないだろ。それが当たり前だなんて、なんて可哀想なんだ。」
「……可哀想、だと?」
「そうだ。外じゃな……親は子を守るし、子は親を慕う。血が繋がってなくても、仲間や隣人は助け合うもんだ。嬢ちゃん、そんなの一度も見たことねぇのか?」
「……ない」
「だろうな」
男は目を細め、苦笑した。
「嬢ちゃんたちの里は、異常だよ。強いやつが弱いやつを玩ぶ。それを正しいと言い張る。……可哀想な里だ。」
「……っ!」
愚かな少女は男を殴った。
男の言葉は思わず耳を塞ぎたくなるものだった。
だが、その声は心の奥に焼き付いて離れなかった。
それを必死に離そうと男を殴り続けた。
家族を思い、仲間を守り、助け合う。
そんな世界が本当にあるのなら。
里は異常なのではないか。
その夜、世話係に少女はぽつりと漏らした。
「……ねぇ、外の人間は、本当に……親を大切にするの?」
焚き火の明かりの中、世話係は静かに頷いた。
「ええ、お嬢様。お嬢様が殴ったあの方の言葉は、きっと嘘ではありません」
「……ボクの、知っている世界と違う」
小さな呟きに、世話係は優しく微笑んだ。
「違う世界を知ったからといって、自分を恥じることはありません」
「……」
「それを聞いて自分達の里がおかしいと気づけるのは……お嬢様が優しい証拠です」
胸の奥に、初めて芽生えた小さな違和感。
それはやがて少女を突き動かす「種」となっていった。
そしてそれは突然生える。
少女は外の世界に興味をもち、足繁く男のもとに通った。
他の子供たちは興味を失い、男を玩具にすることすら飽きていた。
だからこそ、少女は自由に話を聞けた。
「外の世界って、どんなところ?」
問いかければ、男は少しだけ目を細めた。
「静かなとこだ。畑があって、子どもは走り回って、祭りになりゃ皆で歌う」
「歌……?」
「ああ。声を合わせて笑い合うんだ。嬢ちゃんも一度聞いたら忘れられねぇさ」
少女は知らない感情に胸を揺さぶられた。
神凪の里には歌はなかった。ただ訓練の号令と、誰かを嘲笑する声だけ。
「……そんな場所があるのか」
少女は夢のように呟いた。
男は決まって「嬢ちゃん」と呼び、彼女を一人の子供として見てくれた。
それが不思議で、心地よかった。
やがて少女は決意する。
男を解放するには、自分がもっと高い地位に登らなければならない。
力を持ち、言葉を持ち、命令を下せる立場に。
だから訓練に励んだ。
最下位から這い上がり、次第にそこそこ実力がついてきた。
ただ、突出することはなかった。
剣も体術も人並み程度。
それでも
「……適合率だけは、突出しているな」
評定の場で、年老いた神凪の者が目を細めた。
少女と氷羽雪晶との適合率は、驚くほど高かったのだ。
訓練の成績など無関係。
掟は「秘宝に選ばれる者が、秘宝の主」。
こうして少女は秘宝・氷羽雪晶を受け継ぐこととなった。
秘宝を抱えた日、少女は真っ先に男に報告に向かった。
「……これで、あなたを助けられる」
胸を弾ませ、牢に駆け込んだ。
だが男は反応しなかった。
壁にもたれ、虚ろな目でぼんやりと前を見つめている。
いつも優しく笑っていたはずの唇は、固く閉ざされたまま。
「……どうしたの?」
肩を揺さぶっても、ただ空ろな目を向けるだけ。
その姿に少女の胸はざわめいた。
背後から声がした。
「ここに何のようだ?」
振り返ると、粗末な服を着た下位の神凪が立っていた。
彼は苦い顔をし、吐き捨てるように続けた。
「あぁ、こいつを殴りにきたのか。そいつな他のお偉い様がな……この家畜が全然折れねぇから、面白くねぇってよ」
「……なにを、した」
「その家畜の家族を攫ってきた。……で、その家畜を遺物で操って、その手で首を締めさせたんだと」
少女の心臓が止まる。
「そんでな……死んだ女とガキの肉を、同じ遺物で無理やり食わせた。抵抗できねぇようにしてよ」
「……やめろ」
「いゃ〜流石お偉い様。俺たちには到底できないことをやってくれる。そこに痺れる!憧れる〜!」
「やめろって言ってるだろッ!」
怒鳴っても、耳を塞いでも、言葉は胸を抉った。
翌朝。
男は縄で首を吊っていた。
静かな牢の中、揺れる影を見上げ、少女は立ち尽くした。
氷羽雪晶を手にしても、何も救えなかった。
握った拳は小刻みに震え、吐き出した声は震えていた。
「……こんな……ものが、正しいはずない……」
震える声で吐き出した、その瞬間だった。
暗い牢の片隅から、乾いた笑い声が響いた。
「やっと来たな」
少女は弾かれたように振り向く。
そこにいたのは、同じ訓練を受けてきた少年だった。
少年は口角を吊り上げ、心底おかしそうに笑った。
「お前が仲良くしてた、あの家畜……死んだな」
言葉は冷たく、残酷で。
少女の胸に突き刺さる。
「落ちこぼれにはお似合いの相手だったよ。
どうせお前にはそれくらいしか釣り合わねぇ」
「……っ」
言葉を失う少女の前で、少年はなおも愉悦を滲ませた。
「知りたいか?教えてやるよ。あの家畜をあんな風にしたのは、俺だ」
「……」
「成績はいつも最下位のお前が、ただの“運”で秘宝を手に入れやがった。……そのせいで俺が溢れたんだ。俺が継ぐはずだったのに!」
唾を吐くように怒声を飛ばす。
しかし少女には、その言葉のほとんどが頭に入ってこなかった。
ただひとつ。
目の前の少年が、あの男をあんな風にした。
その事実だけが胸を支配する。
「……お前が」
怒りが、込み上げる。
胸を焼き、頭を白く染める。
気がつけば、氷羽雪晶が共鳴していた。
周囲の空気が凍りつき、白い靄が漂い出す。
カチリ──と音がした。
次の瞬間、鋭い氷の槍が、無数に生み出される。
「……っ」
少年の瞳に一瞬の恐怖が浮かんだ。
だが、もう少女は止まらなかった。
怒りのままに。
憎しみのままに。
氷の槍は放たれ、少年の体を貫いた。
一度、二度。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も…
血が飛び散り、床に叩きつけられても、やめられなかった。
原型を留めぬまで、何百、何千と突き刺し続ける。
気がつけば、目の前にはただの氷塊と血の塊が残っていた。
ようやく我に返った少女は、震える手を見下ろした。
「……ボク、は……」
しでかした過ちに気づき、震えながら大人に謝ろうとした。
だが――
「秘宝を受け継いだ優秀な子がしたことだ」
冷たい声が返ってきた。
大人たちの顔には非難どころか、満足げな色すら浮かんでいる。
そして、殺された少年の親ですらこう言った。
「秘宝を継げぬ無能が貴方様の鬱憤を晴らすのに役立つとは……あの子も最後にいい働きをしましたね」
愚かな少女は絶句した。
己の罪が、罰どころか「正しいこと」として讃えられている。
その事実が、何よりも恐ろしかった。
胸の奥にひびが走る。
そのひびは、やがて深く広がっていった。
時は過ぎ、少女は成長した。
表面上は順調だった。
最下位からは脱し、秘宝の力を振るい、誰もが彼女を「本流に相応しい」と讃えた。
だが、その裏で少女の心は、少しずつ凍りついていった。
笑わなくなった。
怒りもしなくなった。
ただ感情を押し殺し、与えられた役割を淡々とこなす。
それが“正しい”と、周囲は口を揃えた。
血を守り、家を高め、弱きは切り捨て、強きは讃える。
彼女はその枠組みの中で“成功者”となった。
けれども、毎夜、胸に残るのは、あの時の記憶。
優しく笑ってくれた、ひとりの男。
そして、氷に貫かれた少年の絶叫。
「正しい」と讃えられた出来事こそが、少女を最も深く傷つけていた。
……心は閉ざされていた。
誰にも言えず、何も望まず、ただ日々をこなす人形。
彼女自身、そんな自分を“器”と重ねるようになっていった。
だが、その氷のように固まった日々に、ひとつの綻びが訪れる。
最後まで読んで頂きありがとうございました!
もしこの作品が気に入りましたら感想や評価をいただけると幸いです。
そうでなくともこの作品が少しでも気に入っていただけたら今後も読んでいただけると幸いです。
改めまして最後まで読んでいただきありがとうございました!
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