神凪
第14話です。
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門をこえて、私たちはついに王都の外へと飛び出した。
広がるのは草原。
思う存分暴れても被害は出ない。胸を締めつけていた枷が、ようやく外れた気がした。
「ここなら……遠慮はいらない!!」
ルシアンが斧を振り上げる。その刃は彼自身の運を喰らい、見る間に大きさを増していく。
「来い!」
ツタの女が真っ先に仕掛けてきた。地面から無数のツタが生え、蛇のように絡みつこうと迫る。
だがルシアンは怯まず、むしろ自らその渦中へ飛び込んだ。
ツタが足を絡め取ろうとした瞬間、彼の足場が崩れた。爆発の余波で脆くなっていた地盤が、またもや彼を裏切ったのだ。
「チッ、またか!」
だがそれは織り込み済み。落下の勢いを利用して斧を振り下ろす。崩れた石畳ごとツタを叩き潰し、女を後方へ吹き飛ばした。
「ルシアン、ナイス!」
私も呼応して駆ける。刀を槍に変形させ、氷槍を投げてくる女へ突撃する。
「ハッ!」
繰り出された氷の穂先を受け止め、捻り折る。氷が砕け散ると同時に、私は槍を鎌へと変形させ、刃で女の肩をかすめる。
「……っ!」
女が呻き、距離を取った。
そこへ横から閃光が走る。腕輪の男の光弾だ。強烈な白光に視界が焼かれる。
「ミノリ・テンドウ、後退を進める。」
バレットの声。彼女はゲシュッツから放った弾を、地面に配置したシルトに反射させていた。跳弾は鋭角に折れ曲がり、光弾の男を背後から撃ち抜く。
「ぐあっ!」
男が叫び、膝をついた。
「さっすが、バレットちゃん!」
ユキちゃんが氷羽を散らす。舞い散る無数の羽根が雨のように降り注ぎ、ツタ女の退路を塞いだ。羽根は枝を次々と斬り裂き、動きを鈍らせる。
「もう逃がさない!」
ユキちゃんが更に翼を広げる。冷気を帯びた風が一帯を覆い、氷の鎖のように羽根が絡みついていく。
「……っ、このっ!」
ツタ女は抵抗するが、力強く斧を振るったルシアンが追撃した。大地を砕く一撃が直撃し、女の身体が地面に叩きつけられる。
私は刀を大剣に変形させ、一気に間合いを詰める。氷槍を次々と斬り払い、懐に飛び込んだ。
同時に、バレットの跳弾が氷槍女の足元を撃ち抜き、バランスを崩させる。
「そこだッ!」
私の斬撃が女の防御を破り、氷の槍が粉々に砕け散った。
光弾の男が焦り、両腕から立て続けに光を放つ。辺り一面が白光に包まれた。
「目眩ましか……!」
だが、ユキちゃんが氷羽を一斉に広げる。羽根が盾となって光を遮り、私たちの目を守った。
光の中から飛び出したルシアンの影が、巨大な斧を振り下ろす。
「覚悟しろ!」
轟音と共に地面が裂け、衝撃波が走る。光弾の男が吹き飛ばされ、呻き声をあげて地に伏した。
「よし、押してる!」
私は大剣を振り抜き、氷槍の女を押し返す。
ユキちゃんとバレットが左右から援護。氷羽と跳弾が雨のように浴びせられ、女は必死に槍で防ぐが、もう防ぎきれない。
「これで終わりだッ!」
ルシアンと私のブレッシャー、ユキちゃんの氷羽、バレットの跳弾射撃がどう時に発射せれる。
四人の総攻撃。勝敗を決する一撃
そのはずだった。
その瞬間、低く響く声が草原を渡った。
「──秘伝封印」
放たれた全ての力が、空気に溶けるように掻き消えた。
「……えっ?」
私の刃は確かに届いたはずだった。だが手応えはなく、光も氷も衝撃も、霧のように吸い込まれ、一枚の巻物に封じられていく。
敵の三人は倒れていない。
「……何だ……?」
ルシアンが眉をひそめる。
静寂。
草原を渡る風が、不気味に張り詰める。
その中を、巻物を手にした男が、ゆっくりと歩み出た。
堂々とした足取りで、こちらを見据えていた。
「初めましてだな。俺は神凪イサリという。」
「……イサリ、」
ユキちゃんの肩が、わずかに震えた。
イサリは片手に握った巻物を掲げ、口の端を吊り上げる。
「挨拶はこれくらいでいいか。では、さようならだ。」
彼は指を噛み、血を巻物に垂らした。
瞬間、先ほど私たちが放った攻撃が逆流するように解き放たれ、暴風となって襲いかかる。
それは四方から襲いかかる奔流となって、私たちへと叩きつけられた。
「なっ――!?」
咄嗟にシルトを展開し、ユキちゃんが氷羽で防御する。
轟音と衝撃波が爆ぜ、私たちは草原を転がされながらなんとか踏みとどまった。
息が荒い。身体は擦り傷だらけ。
だが、立っている。まだ全員、生きている。
「はぁ、はぁ……ッ!」
私は肩で息をしながら刀を構え直す。
周りを確認しろ。
緑豊かだった草原はその攻撃の部分のみ荒野となってしまっている。
そんなことより!今はイサリ!どこ!
いた!
この攻撃を仕掛けた党の本人であるイサリはその様子を眺め、ため息をついた。
「まだ生きているのか。……実にしぶとい」
指を鳴らす。
草原の影から、次々とローブの者たちが姿を現す。
「里の掟は絶対だ。秘宝を持つ者は外へ出てはならぬ。……だがユキ、お前はそれを破った」
イサリの瞳がユキちゃんを射抜く。
「だから選べ。里に帰るか、ここで死ぬか。」
イサリの言葉と同時に、周囲を取り囲むようにローブの集団が一斉に武器を構える。
その気配だけで、草原の空気が鋭利な刃のように張り詰めた。
「イサリ!ここで一気に押さえ込もうぜ!」
先頭に立つひとりが声を上げる。
だがイサリは、手をわずかに横へ振った。
「動くな。」
低く響く声に、ローブの者たちは息を呑んだように静止する。
「っ!ですが……!」
「包囲を崩すな。そしてこの包囲に侵入するものが現れたら知らせろ。この2つだけをこなせばいい。」
イサリは振り返りもせず言い放った。
その背には圧倒的な自信があった。
彼ひとりで事足りる。そう告げるかのように。
ローブの者たちは悔しげに唇を噛み、「御意」と頭を垂れる。
武器を構えたまま、ただ包囲の輪を維持し続けた。
風がざわめき、草原を囲む影の群れが、不気味な檻のように広がる。
だが、一歩前に進み出たのはイサリただひとり。
「ユキ、お前を里に連れて帰るのに……部下を使う必要はない。」
その声音は冷えきっていた。
「俺が、直接証明してやる。お前の力も……お前の覚悟も、この手で打ち砕いてな。」
草原の中心、仲間と共に肩で息をするユキちゃんに、イサリの瞳が鋭く突き刺さる。
イサリの瞳が氷刃のように光る。
次の瞬間、私たち四人は同時に動いた。
「行くぞッ!」
ルシアンの咆哮と共に、巨大な斧が振り下ろされる。大地が割れ、衝撃波が走る。
イサリの宣告が終わったとき、草原の空気は凍りついたように重くなっ
「……時間をかける意味はない。攻めるぞ!」
そう呟き、ルシアンは斧を振り下ろしブレッシャーを放つ。
ルシアンのブレッシャーの影響で、風圧が襲って来る。
厄災風斬には劣るがすごい威力だ。
しかし。
しゅる、と巻物が揺れる。途端にその衝撃波は吸い込まれて、イサリに届く前に消えてしまった。
「……めんどくさぁ」
ルシアンが目を細めた。
私はすぐに身体を前へ投げ出す。刀を握り、地面を蹴る。
アクセルはまだ使えない。でも、今の私なら距離を積めるくらいはできる。振り抜ける。
私は真正面から踏み込み、全身の力をこめて斬りかかった。
「はっ!」
ただ一歩、身体を傾けただけで、イサリは私の体勢を完全に崩していた。それゆえ、斬撃は当たるはずもなく、虚しく空を切った。
「遅い」
イサリの手が私に向かう。
次の瞬間、横合いから光が走った。
「……今度はこっち。」
バレットだ。ゲシュッツによりエネルギー弾を三発放つ。エネルギー弾は跳弾し、角度を変えてイサリを取り囲む。避けられないはずだった。
巻物が開く。
触れた弾は、すべて吸い込まれて消えてしまった。
「私の攻撃では吸われて終わり。」
バレットの冷静な声が、心を落ち着けてくれる。
その隙を狙ったように、ユキちゃんが氷羽を放った。鋭い羽根が何本も宙を舞い、一直線にイサリを貫こうとする。
しかし、結果は同じだった。羽根は吸われ、跡形もなく消えた。
「なるほど、空転ノ巻ね。」
「ユキちゃん、それは……?」
「神凪一族に伝わる秘宝のひとつ。あらゆるものを封じ込める巻物と言われている。」
それを伝えるユキちゃんの声は震えていた。
焦りを隠そうともしないその表情に、私の胸もざわつく。
するとイサリが、まるでユキちゃんの心を読み取ったように笑った。
「どうして、と思っているな」
彼は巻物を広げたまま言う。
「神凪一族の秘宝は、外に持ち出すことを許されない。それが掟……お前も知っているだろう」
ユキちゃんが息をのんだ。
「それなのにどうして今この場に秘宝持ちのものがいるのか?理由は簡単だ。氷羽雪晶を持つお前を回収するため。秘宝の遺物を回収するために同じく秘宝の遺物の力を使って回収する。そう里の上層部が判断したためこの空転ノ巻を持つ俺が派遣された。」
ユキちゃんは唇を噛みしめ、何も言わず何かを思考する。
「みんな、……気をつけて」
ユキちゃんは震える声で言った。
「“空転ノ巻”。神凪一族に伝わる秘宝の一つ……!
あらゆるものを封じ込み、血を媒介に解き放つ……。
だから、遠距離攻撃やエネルギーは全部吸われる……!
でも……生きてる生物とその生物が身につけるものは吸収されない!」
「なら、近接戦で決める」
ルシアンが言い、斧を握り直した。
「私も!」
私は刀を握り、再び駆け出した。
斧と刀。二つの攻撃を同時に叩き込む。これなら──吸収はできない。
けれど、イサリは巻物を動かしもしなかった。
また、身体をわずかに傾けるだけで、私たちの体制を崩させて攻撃を逸らした。
「無駄だ」
吐き捨てるような一言に、背筋が冷たくなる。
そして、イサリは指を噛み、血を巻物に垂らした。
そこから吐き出されたのは、さっきバレットが放ったエネルギー弾とルシアンのゲシュッツだった。
「返す」
空を裂いて風圧がカマイタチのように襲う。
爆風が草原を薙ぎ、私たちを飲み込もうとした。
「「シルト展開!」」
私とルシアンがシルトを展開し、さらにユキちゃんのおかげで氷の壁が立ち上がった。
けれど衝撃は壁を砕き、ユキちゃんの体を大きく揺らす。
「っ……!」
彼女はよろめきながらも踏みとどまり、必死に氷羽を構える。
「……強い……っ」
その声は、悔しさと焦りが滲んでいた。
イサリは巻物を握り、ゆっくりとこちらに歩み寄る。
「自分の攻撃にやられるのはどんな気分だ?お前たちの攻撃は俺には通じない。それどころかその攻撃はお前たちを襲う攻撃と変わっていく。」
イサリの足取りは静かだった。
ただこちらに向かって歩いてくる。その姿だけで、胸の奥が凍りつく。
「……もう一度だ」
ルシアンが低く呟き、斧を肩に担いだ。
その眼差しは鋭い。諦めなんて、かけらもない。
「うん……!」
私も刀を握り直す。
呼吸を整え、足に力を込める。
刀で斬りつける攻撃なら、吸収はされない。
「……っ」
ユキちゃんも踏み出す。
握った拳に氷が伸び、硬質な光を帯びていく。氷の塊がメリケンサックの形を作り上げ、拳を覆った。
「無駄だと言ったはずだ」
イサリの声は冷たい。
「行くぞッ!」
ルシアンが先陣を切る。巨大な斧が振り下ろされ、大地が鳴った。
私は横から駆け込み、刃を走らせる。
ユキちゃんは拳を握り、渾身の一撃を振るう。
三方向からの同時攻撃。これなら、いくらなんでも捌けなはず!
しかし。
イサリはほんの僅かに足を滑らせただけで、斧の軌道をずらした。
同時に腰をひねり、掌底を私に当て、私の刀を弾き飛ばす。
さらに肩を落としてユキちゃんの拳を受け流す。
「なっ……!」
重いはずの攻撃が、まるで紙のようにかわされていく。
私の腕が痺れる。ユキちゃんの拳が空を切る。ルシアンの斧が地面を砕き、衝撃が逆に彼自身を揺らす。
「体捌きだけで……全部……!」
思わず声が漏れた。
「俺の前で武器を振るうなら、命を懸けて振り抜け」
イサリの足が一歩踏み込む。
その一歩だけで、私たちの間合いが狂った。
「っ……!」
反射的に刀を構えたが、次の瞬間には視界が揺れる。
肩口を打たれていた。拳の一撃。鋭さと重さが同居した衝撃に、息が詰まる。
「ミノリちゃん!」
ユキちゃんの声。
彼女がすぐさま拳を振りかぶり、氷の破片が散った。
イサリは彼女の拳を軽々と受け止める。掌一つで氷の拳を押し返し、逆に肘で胸を打ち抜いた。
「ぐっ……!」
ユキちゃんの身体が弾かれ、よろめく。
「お前はいつまで経っても遺物に頼らないと何もできないな。」
イサリが冷たく言う。
「肝心の氷羽雪晶の力も使いこなせてないが。」
ルシアンが斧を構え直し、背後から斬りかかる。
だがイサリは振り向かない。
そのまま片手で斧の柄を押さえ込み、腰の動きだけでルシアンの体勢を崩した。
「チッ……!」
ルシアンが悔しげに舌打ちする。
私も立ち上がり、横から斬り込む。
刀が閃き、イサリの首筋を狙う。
届く、そう確信した。
けれど、その刹那。
イサリの身体が一瞬沈む。重心を落としただけで、私の斬撃は空を裂いた。
次の瞬間、脇腹に蹴りが突き刺さり、肺が潰れそうになる。
「……あぁっ!」
地面に転がりながら、私は必死に刀を手放さない。
「無駄だと言ったろう」
イサリの声音は冷え切っている。
瞬間、バレットのゲシュッツが放たれる。
彼女は三人が攻めている隙を突き、精密な軌道で弾を撃ち込む。
だが、イサリの身体は寸分の狂いもなく捻られ、取り出した巻物に吸収される。
「……やはり、隙がない。」
バレットの声から焦りが見える。
それだけでどれだけ異常な相手なのかを突きつけてきた。
四人で挑んでいるのに、一撃も与えられない。
巻物を使うまでもなく、イサリは完全に優位に立っている。
「俺が証明してやろう。」
イサリの瞳が鋭く光った。
「お前がただ偶然にも氷羽雪晶の適合率が高いだけの凡夫ということを。」
その言葉に、ユキちゃんの顔が強張った。
イサリの影がユキちゃんに覆いかぶさる。
その手が振り上げられ、鋭い光を帯びた一撃が彼女の命を奪おうとしていた。
「そこまでです!」
声が、草原の空気を裂いた。
「っ……!?」
思わず目を見開く。
いつの間にか、私たちの間に一人の女が立っていた。
黒い外套に身を包み、顔の半分を布で隠した女。
その手がひらりと翻った瞬間、濃い煙が弾けるように立ちこめた。
「何──っ!?」
視界が一瞬で白く覆われる。
鼻を刺す薬品のような匂いに、思わず息を詰める。
「……ちッ」
イサリの舌打ちが響く。
そして一瞬だが“しゅる”という巻物の音が聞こえる。
「っ!させません!」
その女の声が鋭く響いた。
私の腕を誰かが強く引いた。
息を呑む間もなく、身体は煙の中へと引きずり込まれていく。
走る感覚。誰かの肩越しに見えたのは、掻き消えるように遠ざかるイサリの姿だった。
煙が風に散ったとき、そこに私たちの姿はもうなかった。
「……取り逃したか」
その呟きは、怒りでも悔しさでもなかった。
ただ今起こった事実の確認。
イサリの視線が横へと向けられる。
そこには、謎の女が侵入した方角のローブの人影たちがいた。
彼らは煙の中で動くこともできず、ただ狼狽えて立ち尽くしていた。
「侵入者を知らせることもできない。足止めすらできない。己の任務も遂行できぬくせに進言だけする無能だな」
その言葉は宣告だった。
イサリは指を噛み、血を巻物に垂らした。
瞬間。巻物がふわりと開き、氷羽が発射される。
ローブの男は声を上げる暇もなく、命の灯火が消えていく。
「無能は不要だ。残りのものは全力でユキを捜索しろ。」
冷たい声が草原に響いき、残りのローブのものたちは慌ててその場から散会する。
残ったのはイサリと誰かの腕が一本だけであった。
最後まで読んで頂きありがとうございました!
もしこの作品が気に入りましたら感想や評価をいただけると幸いです。
そうでなくともこの作品が少しでも気に入っていただけたら今後も読んでいただけると幸いです。
改めまして最後まで読んでいただきありがとうございました!
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