04.星が蝕する
翌朝、職員室でいつもの朝礼が始まると、学園長がセルラノ先生を呼んだ。
いったいどうしたのだろうと思っていると、セルラノ先生は学園長の隣に立ち、私に微笑みかけてくる。
その微笑みからは感情を読み取れず、なんとなく嫌な予感を覚えた。笑っているように見せているだけで、心の中では全く笑っていないような気がしたのだ。
「急ですが、セルラノ先生が今週末で退任することとなりました。後任の治癒師は決まっており、セルラノ先生と入れ違いで着任してくださります」
学園長の言葉に衝撃を受けて、私は呆然とセルラノ先生を見つめた。
あまりにも突然のことで、聞き間違えなのではないかとすら思ってしまった。
後任の治癒師が決まっているということは、急とはいえ前もって学園長に話し、退任する準備をしていたはず。
しかし、周囲では他の教師たちが騒めいており、誰も知らなかったようで、驚いている様子だ。
(いったい、セルラノ先生に何があったのかしら?)
セルラノ先生はメルヴェイユ王国の国王であるルスのスパイとしてここに来たはずだ。退任したということは、スパイとしての仕事を終えたのだろうか。
それとも、ルスから新しい任務を受けて、ここを離れるのだろうか。
(だけど、セルラノ先生はルスよりもノエルに忠誠を誓っているようだから、命令されても断りそうだけれど……)
なんせ、セルラノ先生は星の力を持つ者としてノエルに陶酔しているのだ。学園から離れれば、必然とノエルと会う機会が減る。
(もしかして、退任した方がノエルと一緒に居られる方法が見つかったから、ルスかからの命令を放棄したとか……?)
ふと頭の中に浮かんだが、あまりにも突飛な考えのような気もした。ひとまず、セルラノ先生本人に退任の理由を尋ねてみよう。
朝のホームルームを終えた後、一限目の授業がなかった私は、すぐに医務室へ行った。
「おや、ファビウス先生。いかがしましたか?」
扉を開けると、セルラノ先生がいつもの笑顔で出迎えてくれる。
幸にも彼の背後にあるベッドは全部空いており、ちょうど今、医務室にはセルラノ先生しかいないようだ。おかげで、内密な話ができる。
「セルラノ先生、どうして急に退任するのですか?」
「実は、理事長にご子息の専属治癒師として雇ったいただくことになったのです。なので、私もまたこれからペルグラン公爵領へと発ちます。メルヴェイユの国王には、引き続きスパイとして活動する条件でこの学園を離れることを許していただきました」
「そう……だったのですね」
私の予想はことごとく外れた。それどころか、思いもよらなかった人物の名前が出てきたため、面食らってしまう。
(まさか、理事長が自分の一族が運営する学園に務める治癒師を引き抜くなんて……)
職権乱用だと言いたいところだが、サミュエルさんの体質のことを知っており、これまでも対処してくれていたセルラノ先生を信頼しているからこそ、話しを持ちかけたのかもしれない。
理由としては十分な内容だが、それでも私はまだ、セルラノ先生がその話を受けたことにへの疑念を拭いきれていない。
侯爵家の専属治癒師という仕事は名誉なことかもしれないし、セルラノ先生もサミュエルさんのことを心配しているから、引き続き治療をしたいと思っているかもしれないが、それ以上に、ノエルのことを気にかける人のはずだ。
それなのに、セルラノ先生がまだ一度もノエルについて言及していないことに、違和感を覚えた。
「あの、ペルグラン公爵領へ行けばノエルと会いづらくなると思うのですが、それでもいいのですか?」
「本音を言えば、胸が張り裂けそうです。しかし……これも主のためだと思い、耐え忍びます」
「主のため……? サミュエルさんを治療することや、ペルグラン公爵領へ行くことに、何か関係があるのですか?」
ちょうど昨夜、アロイスからの召集を受けて王宮で集まった際に、サミュエルさんには、彼が黒い影――邪神ではないかという疑いがかけられた。
邪神は月の力を取り戻そうとしているから、ノエルに関係があるけれど……セルラノ先生はまだ、その事を知らないはずだ。
「ええ、大いにありますが、今はまだ主にもあなたにもお話しする時ではありません。主のための最高の舞台を用意できた暁には、お二人にお伝えします」
セルラノ先生はクスリと笑うと、右手の人差し指を立てて自分の唇に近づける。その姿は、「秘密だ」と伝えるよりも、「これ以上は詮索するな」と忠告してきているように見えた。
「ですので、またお会いする日までお待ちください」
そう言われても、ノエルに関わることであるのなら、今知っておきたい。
もう少し話を聞き出そうとしたところで、怪我をした生徒が入って来たため、私は口を閉じた。
「治療の邪魔をしてはいけませんので、失礼します」
セルラノ先生に断りを入れて医務室を出た私は、足元にいるジルに声をかける。
「ねえ、ジル。さきほどの話を、今すぐノエルに伝えておいてちょうだい」
「おうよ、なんだかきな臭くなってきたな」
ジルは医務室の扉に向かって後ろ足で砂をかけるような仕草をする。
まるで、気に入らないものに砂をかける猫のようだと思ったが、本人に言うと怒られそうなので、黙っておくことにした。
レティとノエルのぬいを作ろうと思い、制作キットを買ったので完成したらX(旧Twitter)に画像を掲載して、こちらにお知らせしますね!
今年中に完成しますように…




