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05.情報交換(※ノエル視点)

 レイナルドが急にオリア魔法学園の治癒師を退任してペルグラン公爵領へ行くとジルから知らされた私は、魔術省の仕事が終わった後すぐにオリア魔法学園へ直行したが、既にレイナルドが去った後だった。


 レティから聞いた話によると、生徒や教師たちが送別会を急遽開こうとしたが、レイナルドから断られたそうだ。

 彼が言うには、患者が待っているから、すぐにでもここを発たなければならないのだとか。


(私のために舞台を用意すると言っていたな……嫌な予感しかない)


 以前より、レイナルドは私が国王になることを望んでいる。私のために用意する舞台が、その下地を意味しているのではないかと邪推してしまう。


(もしそうであるなら、わざわざペルグラン公爵領で準備を進めるのはなぜだ?)


 アロイスを玉座から下ろすにせよ、ノックス王国の一部を奪って建国するにせよ、場所が悪い。


 ペルグラン公爵領はノックス王国西部の国境付近にあたるため、堅牢な城塞を築いている。

 ノックス王国の建国時から他国からの攻撃や不法侵入者を防いできた実績と歴史のある貴族家のため、公爵位を与えられた一族だ。

 歴代の当主は自ら剣を持ち、私兵団を率いて領地とこの国の国境を守ってきた。


 そんな一族の領地で前国王の落胤を国王にしようとするなど、あまりにも無謀な計画ではないか。


(もしや……ペルグラン公もまた、その計画に賛成している?)


 レティから聞いたゲームの話では、ペルグラン公は先代の国王に大切な人を殺されたため、先代の国王と王族たちを憎み、王族を途絶えさせようとしていたらしい。


 先日はアロイスに対して忠臣らしい言葉をかけていたが、言葉や雰囲気を取り繕うくらい、彼には造作もないことだろう。

 もしかすると、あの時に腹の中では別のことを考えていたのかもしれない。


 用心するに越したことはない。

 私は念のためアロイスに謁見し、レイナルドの一件を伝えることにした。


     ◇

 

 魔法でアロイスに手紙を送ると、すぐに場を設けてくれた。

 私は魔術省の仕事を終えた後、アロイスの執務室へと向かい、レイナルドのことを話した。


 すべて話し終えると、アロイスは執務机の上で両手を組み、視線を落として思案に耽る。

 少しして、ゆっくりと口を開いた。


「これまでに兄上とルーセル師団長にランバート博士から聞いた話を踏まえると、星の力を持つ者たちは月の力を持つ者に惹かれ、仕えることを望むようになるのですよね。本来であればノックス王国の国王には月の力を持つ者が就くのですから、彼らが抱く不満ももっともかもしれません」


 アロイスはそう言うが、私は同意できない。


 自分の父である先代の国王の暴挙を暴いて処刑した後、尻拭いをしながら国の発展のために日夜駆け回っているアロイスこそが国王に相応しいに決まっている。


「ノックス王国の建国以前から星の力を持つ者たちは月の力を持つ者に仕えていたようだから、誰しもが私を王にしようと思っているわけではないはずだ。彼らが私に王になってほしいと望む最大の理由は、自分たちの安寧の地を手に入れるためだろう。だから、その土地を用意すれば、収まると思っているのだが――うちの領内での人が住める場所の開拓や彼らを受け入れる名分をどうするか決めきれていないため、いつか暴走しそうな状態だ。厄介事になりそうで申し訳ない」

「いいえ、兄上にはなんら非はありません。いつか、王族が解決しなければならない問題を、先延ばしにしていたせいなのですから」


 アロイスは落胤である私に対して、どこまでも真摯に向き合ってくれる。

 あの身勝手な欲望の塊である先代の国王の血を引き継いでいるとは思えないほど誠実だ。


「手間を増やして申し訳ないが、サミュエル・ペルグランについて調べる際に、レイナルド・セルラノについても調べてくれるかい?」

「もちろんです。国の平和のためにも、注意深く見張っておきます」


 ペルグラン公爵家はアロイスの母――前第二王妃の実家であるから、彼女が信用している使用人に動向を探ってもらうことになっている。

 それとは別で、私はローランに頼み、他の星の力を持つ者たちの動向を探ってもらう。


 嫌な予想が外れてくれることを願うばかりだ。


「そういえば、母上がペルグラン公爵家の信用のおける使用人からサミュエルについての情報を聞き出しました。サミュエルは元から体が弱かったそうですが、親と継母から虐待を受けていたこともあり衰弱が激しく、ペルグラン公爵家に来た時は長くて余命半年と治癒師から宣告されていたようです」


 アロイスは執務机から書類を取り出すと、魔法で私に寄越してくれた。

 書類には、サミュエル・ペルグランに関する調査結果が記されている。


「しかし、叔父上と一緒にオリヘンへ行った後から劇的に体調が回復したそうです。また、まるで人が変わったかのように社交的になったのだとか」


 オリヘンは観光地として有名だが、療養に向いているとは聞いたことがない。

 彼らがオリヘンへ行く理由が思いつかなかった。


「そうだったのか。オリヘンは温暖な気候の地域ではあるが、果たしてそれだけで回復できるとは思わないな。……もしかして、オリヘンに有名な治癒師でもいるのか……?」

「いいえ、治療のためではなさそうです。使用人の話によると、叔父上は定期的にオリヘンへ行っているそうです。その話を使用人から聞いたサミュエルの希望で、二人で旅行に行ったと聞いています」


 きっと、邪神の封印を解くために通っていたのだろう。

 ゲームの中のペルグラン公は、邪神の封印を解いていたのだから。


(邪神はすでに封印が解かれてしまったから、今のペルグラン公の体にはすでに邪神が宿っているのだろうか。しかし、エルヴェシウス卿の話では、邪神は生徒に化けて学園にいるという――まさか、サミュエル・ペルグランに邪神が宿っているのか?)


 突飛な話だが、可能性がなくもない。

 堕ちた神といえど人ならざる力を持っているのだから、邪神がサミュエル・ペルグランに契約を持ちかけて病を癒した可能性はある。


 邪神が契約の対価として宿っているのであれば、サミュエル・ペルグランは邪神と同じく、治癒魔法を受け付けない体になってしまったのではないか。


 胸の中に、鉛が沈むような感覚がした。


(もしも予想が当たっていたら、レティにどう話せばいいか……)


 サミュエル・ペルグランはレティにとって大切な生徒の一人だ。彼に邪神が宿っていると知れば深く悲しみ、無茶をしてでも助けようとするだろう。

 その際にレティに危険が及ばないよう、邪神についてさらに調べなければならない。


「情報をありがとう。こちらも情報を得次第、速やかに共有する」

「よろしくお願いします。あまり、無理をなさらないでくださいね」

「それはお互い様だ」


 礼をとって部屋を出ようとすると、アロイスが珍しく焦った声で呼び留める。


「実は、挙式のことで悩んでいることがあるのですが、聞いていただけますか?」

「よろこんで。何があったんだい?」

「花嫁の婚姻衣装をどうやってお決めになりましたか? 様々なドレスを用意させてイザベルに試しに着てもらったのですが、どれもすごく似合っているので、『どれがいいでしょうか?』とイザベルに聞かれた際にありのまま答えると、呆れられてしまいました」


 どうやらアロイスは、政略結婚の相手であるセラフィーヌ侯爵令嬢を大切に想っているようだ。

 改めて、アロイスはあの老いぼれの前王に似なくて良かったと思う。

 レイナルドとペルグラン公の件でなにが起こっても、弟たちが無事に結婚式を挙げられるように手を尽くしたい。

 

「レティもあらゆるドレスを美しく着こなしていて似合っていたが、他の男には見せたくないほど似合っていたドレスは勧めないようにしていたよ。私の目にだけしっかりと焼き付けておきたかったからね」

「……参考にします」


 アロイスは神妙な顔で頷いた。

もしもバージルが近くに居れば、「それ、参考にしていいのか…?」とドン引きしながら突っ込みをいれていたかもしれません。

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