表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミネルヴァの雄~冒険者を辞めた俺は何をするべきだろうか?~  作者: ごこち 一
第十八章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

813/1014

806.魔法の試し

ルビ追加 文章修正

 一つ二つと下がり、切断された木製人形を片づけ始めた青年達に背を向けると、太い腕を正面に組んだノック氏とマグナ氏が満足げに(うなず)く姿が見えた。

 両者共に上腕をピクピクと動かしているのは、何かの感情の表れなのだろうか?


「よい太刀筋(たちすじ)だ」

「これぐらいは、やって貰わねばな。坊主、良い剣だろう?」

「はい。怖いくらいに」


 おっと、そうだ。

 今の俺は、この剣の試しをしている最中だった。

 鍛冶師に対して、俺が武器のあれこれを言うのは烏滸(おこ)がましいかもしれないが、俺が使ってどう感じたかは、正確に伝えないといけない。


「鉄の剣より軽いため、鋭く、素早く打ち込む事が出来ますね。ただ、軽い分、押し合いや叩きつけるのには向いてない……斬撃に向いた剣だと思います」

「少年が実践で使うとすれば、どうだろう?」

「実践……」


 剣の届く範囲に誰も居ない事を確認し、俺は剣を振った。

 想像の中で、モンスターを斬る。

 オークを、トロルを、オーガを、ゴーレムを、ミノタウロスを、そして竜人を。

 身を裂き、恐るべき力で振るわれる得物を弾き飛ばす。

 (こん)を、(なた)を、拳を、大斧を、黒爪を。

 鋭さも、強度も申し分ない。

 ただ、やはり打ち合うよりも、(かわ)し、弾き、作り出した隙を()い、致命に至る一撃を狙う方が合っているな。

 剣を振るのを止め、俺はノック氏へ感想を述べた。


「良いと思います。特に、モンスターの一撃を受ける事を考えれば、この鉄を恐れぬ強度が嬉しいです」

「そうか。ならば問題ない」


 またも(うなず)くノック氏と、豪快に笑うマグナ氏。

 あんな返答で良かったのか疑問だが、納得してもらえたのなら、幸いだ。

 胸筋をピクリと動かしたマグナ氏が、青白い剣を見て、そして俺の目を見る。


「次に試してもらいたい事が、何か分かるか? 坊主」

「魔法、ですね」

「ハッハッハ。問題にもならんな」

「しかし、何処(どこ)まで試しましょうか?」


 もし強力な魔法を込めて、溶けてしまうなんて事があれば、大事(おおごと)だ。

 どれ程の魔法まで試して良いのか……全く分からない。

 それを試すのもまた、役目なのだろうけど。

 俺の心配をよそに、マグナ氏は筋肉を躍動させる。 

 

「坊主は心配性だな。既に鉱石を使った実験は、フクロウに頼んで済ませてある」

(ゆえ)に遠慮は無用だ。マルク少年の魔法を存分に込めてくれ」

「ノックさん、マグナさん。そんな事を言ったらマルクは構わず全力で魔法を使いますよ」


 慌てた様子のガル兄が、早口でスミス兄弟へ進言する。

 対し、マグナ氏は組んでいた腕を(ほど)き、ガル兄の背中を一つ叩いた。

 響く快音に、次の木製人形を用意していた青年達もビクリと動きを止める。

 嗚呼、音からして痛そうだ……。

 恐らくアレは暴力ではなく、マグナ氏なりの愛情表現なのだろう……俺は受けたくないけど。


「何を言う、ガランサ。そうで無くては意味がなかろう」

「それとも、俺達の剣が、マルク少年の魔法に屈するとでも言うつもりか?」

「い、いえ、そのような事は……ただ、万が一がありますので」


 ガル兄は、チラチラと剣と俺に視線を移しながら、そう言った。

 ガル兄も大変なんだな。

 ノック氏とマグナ氏が強烈過ぎるだけか……。

 まぁ、俺も、ガル兄の意見に賛成だ。

 で、あるのだが、魔術師の俺に剣の試しを頼むという事は、スミス兄弟も、新たな鉱石を使って鍛えた剣が、どれ程魔法に耐えられるのかを試したいのだろう。

 望まれているのは、フクロウの魔術師よりも、強力な魔法。


「試してみます」

「ああ。男には度胸が必要だ」

「ドンとやれ、坊主」


 豪快な二人と違い、ガル兄は苦悶を顔に浮かべながら、眉間を指で揉み始めた。

 大丈夫だよ、ガル兄。壊しはしないって。

 剣を正面に構え直し、刃を見つめ、まずは魔力を流してみる。

 青白い刃の切っ先まで辿り着いた魔力を感じ取りながら、観察を行う。

 精霊銀ほど、魔力に親和性はなさそうだ。

 だが、流れは(とどこお)りなく、(よど)みも無い。

 やはり鉄の剣とも、精霊銀のナイフとも、勝手が違うな。

 何処(どこ)か、剣そのものから、魔力を反発する感覚があった。

 それでも(まと)わせた魔力は、素直に残り続けている……不思議なものだ。

 さて、何の魔法を込めよう……ふと、内に眠る炎の想像が、脳裏を走った。

 そうだな、炎がいい。

 自分の中の炎に魔力をくべ、俺は剣に(まと)う炎を想像し、呪文を唱えた。


「≪炎帝竜(えんていりゅう)(ほのお)≫よ」


 魔力が呪文に応え、(つば)から切っ先へと向け、炎が走る。

 炎を(まと)った剣身は、揺らめく赤の中でも、その青白さを主張し続けていた。

 一つ、二つと剣を振り、剣と魔力の状態を確かめる。

 問題、なさそうだな。


「マルク少年。もっとだ」

「手加減無用」


 スミス兄弟から、予想通りの声が飛んでくる。

 俺に頼むって事は、あれを使えって事だろうしな……。

 俺は、(まと)わせた炎帝竜の炎を消し、目視で剣に異常がない事を確認した。

 そして再び正面へと構え直す。

 剣にこの魔法を宿らせるのは、これで二度目か。

 月の女神との戦いで、隊長さんの精霊銀の剣に炎を託した時の事を、思い出してしまった。

 そう。(まと)わせるのは、炎帝竜の大剣だ。

 だが、最大の力を込めた炎帝竜の大剣は、使わないでおこう。

 あれは、共に戦った人しか知らぬ、今の俺のとっておきだ。

 恐らくスミス兄弟が想定している魔法は、深紅に燃える炎帝竜の大剣ではなく、普段使っている炎帝竜の大剣だ。

 自然と口が動き出す。


()原初(げんしょ)(ひかり)(たけ)(なんじ)()れるは(だれ)ぞ――」


 紡ぎ慣れた言葉が想像を掻き立て、魔法を構築して行く。

 想像の中に生み出された一本の炎の剣。

 母から継ぎ、炎帝竜さんの炎で鍛え上げられた剣が、炎と化し、分離を始めた。

 言葉の続きを口遊(くちずさ)みながら、想像の中で、炎を剣に(まと)わせる。


「――(いま)ここに(ちり)()(もの)()を、(われ)に、(しめ)せ、≪炎帝竜(えんていりゅう)大剣(たいけん)≫」


 信頼する剣の名を呼ぶと同時に、(つか)を握る手から炎が放たれた。

 一度宙を舞った炎が、青い剣身に吸収されていく様に集まり、(つば)から切っ先までを赤い炎で包み込んだ。

 見た目は、先程と大差ない。

 だが、込められた魔力の量も、燃え上がる炎の力も、その性質も、全く(もっ)て違うものであった。

 剣の無事を確かめてみると、燃える剣は変わらずに、赤い炎の中で青白さを主張していた……炎帝竜の大剣を(もっ)てしても、魔力への反発はそのままである。

 もしかしたら、精霊銀の剣よりも丈夫なのかもしれないな。

 俺は、新しく用意された木製人形へと向き直った。

 今度の木製人形は、鎧を着こんでいない。

 まぁ、全身鎧の価値を考えれば、安易に燃やして試す訳にもいかないよな。

 何より、金銭的にも鉄的にも勿体(もったい)ないし。


「いきます」


 納得した俺は、木製人形へ切っ先を向け、踏み込みと同時に突きを放った。

 炎に包まれた剣の切っ先が、のっぺらとした顔面へと突き刺さり――刺突の一点から瞬く間に炎が広がり、木製人形の全身を喰らい尽くした。

 剣に宿さず使うのと、遜色(そんしょく)なく使える事を確認し、更に素振りを続ける。

 炎を(まと)う剣で空を切る中、俺はふと、一つの事実に気が付いた。

 炎帝竜の大剣を維持する為の魔力が、少なくてすむ事に。

 制御の難度も、直接振るうのと変わりない程度であった。

 一つ問題があるとすれば、実体を持った剣がそこにあるという事だろう。

 刺したり斬ったりすれば、当然、相手の体を穿(うが)ち、裂いてしまう。

 何を焼くか制御できる魔法と違い、実体の剣は剣捌(けんさば)き一つで制御するしかない。

 剣を用いるのだから、当たり前、だよな。

 横へ薙ぐ一閃の振り終わりに合わせ、俺は炎帝竜の大剣を消した。

 赤い炎の消えた剣を正面に戻し、魔力感知と目視で状態を調べてみる。

 そこに俺の魔力は一欠片(ひとかけら)すら残っておらず、青白き剣は、最初に(さや)から抜いた時と同じ姿で、その美しさを誇っていた。


「どうだ? 坊主?」

「精霊銀とは勝手が違いますが、魔力の通りも良く、魔法の維持も楽でした」

重畳(ちょうじょう)、重畳。マルク少年よ、一度、見せて貰っても構わぬか?」

「はい。ガル兄」


 歩み寄りながら名を呼ぶと、ガル兄は「おう」と答え、俺の元へと(さや)を持って来てくれた。

 受け取った(さや)へ剣を納め、ノック氏へと両手で手渡す。

 俺が一歩離れたのを確認したノック氏は、(さや)から剣を放ち、マグナ氏と共に観察を始めた。

 スミス兄弟は、揃って胸筋を脈打たせながら、顔から喜びを(こぼ)れさせている。

 恐らく、自分達で作り上げた剣の性能を確認したからであろう。

 その喜びは、少しだけ、分かる。

 きっと自分の魔法が上手くいったときの喜びと、似た感情だろうな。


「良し、これならば問題ない」

「ハッハッハ、当然だ兄上。我らが()みし英雄の剣ぞ」

嗚呼(ああ)、そうだな、マグナ」


 嬉しそうな姿を見ると、こちらも嬉しくなる。

 それは、年齢も性別も関係ない。

 地位も、体格も。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ