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ミネルヴァの雄~冒険者を辞めた俺は何をするべきだろうか?~  作者: ごこち 一
第十二章

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547.Aランク冒険者達は

誤字修正 文章修正 誤字報告感謝

 満面の笑みを浮かべながら魔法の茶を飲むムウをキオに任せ、俺は、バルザックさんとサラスさんの待つ居間へと向かった。

 右手にティーポットとカップを、左手にクッキー皿を持って。


「お待たせしました」


 居間へ入ると、バルザックさんが馬の絵を真正面から眺めており、一方サラスさんは、ソファでだらけきっていた。

 その細い体を背もたれに預け、ぐったりしている。

 俺は卓へ荷物を置き、既に並べて置いてある二つのカップへ、茶を注ぎ入れた。


「サラスさん、お疲れですね」

「依頼で王都へ行って、邪竜の所為(せい)で、そのままとんぼ返り……疲れるわよ」

「魔術師は鍛え方が足りねぇんだよ」


 馬の絵の前から戻って来たバルザックさんが、サラスさんの隣へドシッと座る。

 揺れるソファに合わせて、だらけたサラスさんが体を起こした。


「あんたらがタフなだけよ。ありがと、マルク」

「へぇ、これが魔法で出した茶ねぇ……美味(うめ)ぇのか?」

「それは、飲めば分かりますって」


 二人はカップへ手を伸ばし、そのまま口へと運んだ。

 俺も飲んでみる……熱さにも似た(あたた)かさの中にある、小さな渋みが、ほど良い。

 それに魔法を使うたびに、茶の香りが強くなっている気がする。

 だがそれは、魔法の安定性の無さを示しているのかもしれない……難しいな。


「ふぅ、中々いいじゃねぇか」

「あぁ……疲れが取れるわねー。これ、いいわ」

「ただ、前の茶の方が、味は良いよな」


 バルザックさんから、真っ直ぐな感想が返って来た。

 俺は同意の為に、首を縦に振る。

 やはり、シャーリーの淹れてくれたお茶に比べると、味が一つ落ちる。


「ええ。まだ、良い茶葉で淹れた茶には、勝てません」

「へへっ。まだ、か。良いじゃねーか」


 そこそこ熱い茶であるが、バルザックさんは既に一杯目を飲み干していた。

 そして、剛腕が繊細に動き、二杯目の為にティーポットを(かたむ)ける。

 鋭く、厳しい目が嬉しそうに曲がっているのは、見ていて嬉しいものだ。

 

「バルザック……私の分も、残しておきなさい」

「そこまでがぶがぶ飲まねぇよ」


 そう言いながら、二杯目を口にし、(のど)を動かすバルザックさん。

 こうして茶を飲む二人を見ながら、ゆったりまったりするのも良いが……そうもいかないな。きっと、二人も忙しいだろう。

 ならばと、こちらから用件を切り出す事にした。


「屋敷に来た理由は、聞くまでも無く邪竜の事ですよね」

「ああ、マルク。おめぇも行くんだろ?」

「そのつもりです」

「やっぱり、そうよね」


 やはり用件は、討伐隊への参加の確認だったか。

 クッキーに手を伸ばす二人は、どちらも『当然だよな』と言わんばかりの顔をしていた。俺への印象は、誰も彼も同じの様である。

 俺も二人に(なら)ってクッキーを一つ()まもう。

 邪竜の前に、チコさんの菓子屋に行かないとな。


「まぁ、恐らく、王都の奴らの予想通りに移動すんだろうな」

「全く、面倒よね」


 バルザックさん達は、王都でも情報収集をしていたのだろう。

 なら、情報屋から聞いた話は、しなくても良いか。

 おっと。俺の参加を告げたは良いが、バルザックさん達がどうするか、聞いておかないと。


「鉄骨龍は動かないらしいですけど、バルザックさん達はどうするんですか?」


 何枚目か分からぬクッキーを飲み込み、バルザックさんは平然と言った。


「行くぜ。俺達だけ、な」

「昨夜もそれで揉めたのよ。ギルマスとね」


 サラスさんはそう言いながら、クッキーを口に放り込んだ。

 続きは口にするつもりは、無いらしい。

 代わりに言葉を続けるのは、バルザックさんだ。


「ビーチェのとこか俺達か、どっちか片方しか討伐隊に行かせねぇって言い出しやがってな。全く困ったもんだぜあの(たぬき)


 バルザックさんが『ビーチェ』と呼んでいるのは、ベアトリーチェさんの事だ。

 Aランク冒険者ベアトリーチェパーティー。

 鉄骨龍に四組いるAランク冒険者の中で、唯一女性がリーダーを務めるパーティーである。

 調査、護衛、収集、討伐、捕縛……何でもこなせる人達だ。

 精霊銀の細剣に(みずか)ら多彩な魔法を込め、最前線で戦うベアトリーチェさんの姿は、蝶が舞うかの如く美しく、そして毒蜂めいて恐ろしいと評判である。

 そうか。

 ベアトリーチェさんも、邪竜討伐へ行くつもりだったのか……。

 ベアトリーチェさん達が死の危険から遠ざかる事を、喜ぶべきか?

 戦力の低下を、悲しむべきか?

 ピュテルの町に、実力者が残ってくれるのだ。嬉しい事、としておこう。


「まぁ、手持ちの戦力を減らしたくないんでしょう。モンスターは、邪竜だけじゃないですからね」

「あれ? 怒らないのね。意外」

「あはは。あれの政治に付き合う義理は、もうないですから」

「ハハッ、だな。で、ビーチェに邪竜討伐を譲って貰ったって訳さ」


 バルザックパーティーとベアトリーチェパーティーの予定は分かった。

 後、Aランクは、ワンダーパーティーとファルコンパーティーだが……ワンダーさんは、聞くまでも無い気がする。

 まぁ、ベアトリーチェさんの話も出たし、話の流れで聞いておくか。


「ワンダーさんは、ダンジョンですよね」

(じじい)は爺で大変みたいだしな。元々、外の厄介事には興味ねぇだろうし」

「邪竜の目覚めに合わせて、ダンジョン内で異変が起こる可能性を考えて、って事らしいわよ。まっ、ダンジョンの事は、ワンダーさんに任せましょ」

「後は、ファルコンの野郎だが……」


 バルザックさんが、そこで口を閉じた。

 何か言いにくい事が……まさか! 死んで――獣の眼光が、俺を睨んだ。


「あっ? (ちげ)ぇよマルク。あいつ等、ピュテル防衛の後から音信不通なだけだぜ。いつもの事と言えば、いつもの事なんだけどな」

「たしか……東の海の古代遺跡を調べるとか言って、出てったきりよね」

「あいつ等、(なげ)ぇ時は、二月(ふたつき)ぐらい戻って来ねぇからな」

「俺、ファルコンさん達の事、あんまり知らないんですよね」


 モンスター討伐や、護衛などの荒事が得意な、バルザックパーティー。

 ダンジョン探索には、モンスター討伐が付き物の、ワンダーパーティー。

 単純に仕事が多くて、人の手が足りない、ベアトリーチェパーティー。

 三パーティーからは、(たま)(すけ)()依頼が出ていたので、俺も少しは交流がある。

 だが、ファルコンパーティーは、洞窟や遺跡の調査を主な仕事としている。

 モンスター討伐の手助けに行った事はあるが、正直どんな人かは憶えてすらいない。二十半ばの美形な男性だ。

 アムや太陽伯よりは、柔らかな顔をしていた憶えがある。

 うろ覚えだが。


「遺跡狂いの変人よ」

「ちと変わってっけど、普通の奴だぜ」


 意見が二つに分かれているが、変わっている人で間違いないらしい。

 だが、こういう人物評は、心に留めて置く程度で良い。


「まぁ、会う機会があったら、自分で判断しますね」

「ああ、そうしろ」


 バルザックさんは、茶を一口飲み、会話を仕切り直す言葉を言った。


「まっ、Aランクで動くのが俺達だけだと、戦力が、ちっとばかし厳しいけどな」

「金獅子や騎士団も、あんまり当てに出来ないのよねぇ」

「フクロウと白蛇も動いているらしいですけど……どこまで通用するかは、分かりませんよね」


 少し落ち込む空気の中で、茶を飲み落ち着く。

 それはサラスさんも同じらしく、カップから離した口から息を(こぼ)していた。


「正直なとこ、人数が集まっても、死人が増えるだけよね」

「だよな。少数精鋭で行くしかねぇよ。十年前みたいにな」


 その瞬間、サラスさんの手刀がバルザックさんの腹へと打ち込まれた。

 だが、打ち込んだサラスさんの方が、痛そうに手を擦っている。

 バルザックさんの体は、さぞ硬かろう。

 だが、俺の事を気にして放たれた手刀は、少し嬉しい。


「別に気にしてませんから。父と母が邪竜に殺された事実は、事実ですけど」

「全く、無神経なのよこいつは」

「邪竜の話するのに、避けては通れねぇだろ? あの時のセツナさん達と同じことを、俺達もやってんだからよぉ」


 今から『やる』ではなく『やってんだ』なのか……何をだ?

 自然と首を(かし)げていた俺へ、サラスさんが説明をしてくれた。


「私達って、十年前、マリアさん達に追い返されたのよ。あなた達を邪竜討伐には行かせないって。今度は私達が、同じことを今朝もして来た訳」

「無駄死には、ねぇに越したことは無いだろ? あの時のセツナさん達の気持ちが、ちっとばかし分かっちまったよ」

「そっか。バルザックさん達の所にも……」


 自分達も共に邪竜討伐へ行く、とバルザックさん達に申し出た冒険者達が、居たのだな……で、全員追い返したと。

 しんみりとした顔で、三杯目の茶を飲むバルザックさん。

 

「ねぇ。もしかして、さっきの子達って」

「あぁん! キオ達もかよ! あいつ等は、十年(はえ)ぇよ」

「流石に断りましたよ」

「まっ、当然だな。誰かを守りながら戦える相手じゃねぇだろうしな……俺達だけで何とかするしかねぇよ」


 バルザックさんの言葉に(うなず)く自分が、それ程、焦ってもいない事に気付いた。

 クッキーをサクッと食べながら、考える。

 正直、戦力不足は否めない。

 だが、バルザックさん達が共に戦ってくれるなら、百人力だ。

 後は状況を確認して、皆と作戦を立て、全力で燃やし尽くすだけだな。

 サラスさんが伸ばす手よりも先に最後のクッキーを奪取したバルザックさんは、何かを思い出したかのように目を見開き、俺を見た。


「って、聞きてぇことが有って来たんだよ。忘れる所だったぜ」

「討伐隊への参加の確認は、さっきしましたよね……何でしょう?」

「マルクが行くのは分かってたけど、それとは別に聞きたい事があったのよ」


 そう言いながら、バルザックさんの手からクッキーを奪うサラスさん。

 クッキーは、そのまま口の中へと消えていった。

 バルザックさんは、奪われたクッキーを気にする素振りも無く、鋭い視線で、俺を真っ直ぐに見据え、口を開いた。


「なぁマルク。おめぇ、復讐の為に行くんじゃねぇだろうな」


 聞きたい事って、それなのか……聞いてどうなる事でもないだろうに。

 二人の視線が、俺に突き刺さっている……素直に答えるべきだな。


「違いますよ。王都にも知り合いがいますし。まぁそれに……命懸けで戦う人達の事は、出来るだけ手助けしたいじゃないですか」

 

 金や信念の為に命を懸けるなら、勝手にすればいい。

 だが、他者の命の為に戦える人は、助けたい……と思う。

 俺の言葉を聞いたバルザックさんは、肩を揺らし、笑い始めた。


「アーハッハッハッ。そうか、なるほどな。なら良いんだよ」

「あー。ちなみに復讐の為だって言ってたら……」

「んー? おめぇの四肢(しし)をベキッと折って、一カ月ぐらいドレイクの所にぶち込んでやろうかと思ってたぜ」

「私は、ちょっと習得途中の魔法の実験台にしようかなって」

「えぇ……何それ怖い……止めて下さいよ、二人共」


 どうやら何気ない答え一つで、生命の危機に(ひん)する所だったらしい……。

 恐ろしや、恐ろしや。

 二人は楽しそうにしているが……本当に、やりそうだからなぁ……。


「フッ、そうでもしないと、マルクってば勝手に行っちゃうでしょ」

「だな。手足折ろうが、()ってでも行きかねねぇ」

「俺はそんなに、危険人物じゃないですって」


 バルザックさんとサラスさんが、俺の言葉を鼻で笑った。

 息の合った動きである。


「何か言ってやがるぜ、こいつ」

「ほんと、困った子よね、マルクって」

「一体、お二人は、俺をどんな男だと思っているんですか?」

「どんなって、なぁ……」「どんなって、ねぇ……」


 顔を見合わせ、呟く二人を見て、ろくでもない男だと認識されている事は、良く分かった……そしてそれが、身から出た(さび)だと言う事も。

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