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ミネルヴァの雄~冒険者を辞めた俺は何をするべきだろうか?~  作者: ごこち 一
第十二章

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546.伝わらぬ説明

「マルク茶」


 唐突に投げかけられた言葉を聞き、ムウを見る。

 するとムウは、前髪で隠れて見えない目を俺に向けながら、空のカップを両手で持っていた。これは催促だ。


「分かったよムウ。今――」

「おーいマルク! 居るなら出てこい!」


 扉を叩く音と共に、大きな声が響き渡った。

 この渋い声は、バルザックさんの声だ。


「すまんムウ。ちょっと待っててくれ。キオ達も悪いな」

「バルザックさんっすね」


 (うなず)くムウと暢気なキオ、そして背筋をピンッと伸ばしたワコ、グルドン、ゼノリースを置いて、俺は出入り口へと急ぎながら、声を上げた。


「すぐに開けます」


 出入り口を開けると、そこには彫りの深い顔の奥から、敵を射殺す鋭い眼光を放つ男、バルザックさんが立っていた。

 大柄で、筋骨隆々な体つきは、それだけで屈強な戦士と分かる姿である。

 流石に今日は、背に巨大な大剣を背負っていない。

 まぁ、屋敷に持ってこられても、困るのだが。

 そして、バルザックさんの後ろにもう一人。

 笑いながら手を振る褐色の美女、魔術師サラスさんの姿が見えた。

 彼らは、Aランク冒険者であり、特にバルザックさんは『巨人殺し』の異名を持っている凄腕の冒険者である。


「よぉ、居たな、マルク。入るぞ」

「おはよう、マルク。お邪魔するわね」

「おはようございます。食堂には、キオ達が来ているので、居間へどうぞ」


 ずかずかと屋敷に入ったバルザックさんの足が、止まっていた。

 何事かと思えば、キオパーティー五名が、廊下でバルザックさんを待ち構えていたのだ。そのまま、内四人は、腰を曲げ、礼を始めた。


「バルザックさん、サラスさん、お疲れさまっす」

「「「お疲れ様です」」」


 腰を深く曲げる四人の横で、ムウも、会釈するように体を曲げていた。


「おぅ、お疲れさん」「お疲れ」


 別に鉄骨龍に上下関係は無いのだが……まぁ、先輩は(うやま)うべきなのだろう。

 あれ?

 俺ってそんなに(うやま)われた事、無い様な……まぁ、お一人様の万年Cランク冒険者だったのだから、致し方なしか。

 特に今は、元冒険者の無職、でしかないからな。


「お前達も、マルクに用事か?」


 バルザックさんの問いに答えたのは、ワコであった。


「はい。ですが、もう済みましたので、私達は帰らせて頂きます。マルク先輩は、バルザックさんのご自由にどうぞ」

「「「どうぞ」」」


 うん、ワコ、お前達……人の自由を勝手に切り売りするのは、止めような。

 俺の思いとは関係なく、バルザックさんは、ガハハと笑っていた。

 そして背をビシッとする四人とは違い、不満そうな顔をした少女が一人。

 目元が見えなくても、ムウの感情表現は、豊かだ。

 十中八九、俺の魔法の茶を飲めぬ事に、ご立腹なのだろう……そうだな。


「キオ、悪いがムウと一緒に残って貰って良いか?」

「いいっすよ」

「うん」

「良し。ワコ、グルドン、ゼノ、二人を借りるぞ」


 ワコ達も、俺が二人を(とど)めた理由が分かったのだろう。

 三人は、硬直していた顔を、(わず)かに緩めた。


「先輩。キオとムウを頼みます」

「ああ。じゃあ、またな」

「「「失礼します」」」


 少し緊張が解れたと思ったら、再びカチカチと堅い動きで、ワコ達は屋敷から出て行った……まぁ、相手はバルザックさんだから、仕方が無いか。

 理解は、出来る。


「キオ、ムウ。食堂で茶を飲んだら、後は好きにしていてくれ。バルザックさん達は、先に居間へ……の方が良いですよね」

「んー。だな。いこうぜ、サラス」

「あんまりこの子達に聞かせる話じゃないわよね」


 バルザックさんとサラスさんは、居間へと向かった。

 廊下に残ったのは、俺とキオとムウだけだ。

 さて、食堂へ戻るとしよう。


「ムウ。今、用意するからな」

「ありがとう」

「先輩って、良い人っすよね」

「むしろお前がな」


 もう用事も無いのに、ムウの為に二つ返事で残った奴が何を言うか。

 食堂へ戻るとそこには、空の五つのカップに、俺の飲みかけのお茶が一つ。

 そして、いつの間にか空になっているティーポットと、皿に残ったクッキー。

 片付けの前に、茶の準備とバルザックさん達だな。

 俺はティーポットを取り、台所へ行き、中を――「≪(みず)≫よ」――軽く(すす)ぐ。

 こっちは、キオとムウの茶を淹れるティーポットだ。

 カップ二つと、もう一つティーポットを取り出して、清潔である事を確かめる。

 いつの間にか、ムウが隣に来ていた。

 ワコ達の飲んだカップを、持って来てくれたらしい。助かる。


「ありがとうな」

「マルク茶」

「あはは。分かってるって。≪自然(しぜん)息吹(いぶき)≫よ」


 呪文を唱えると、用意していた魔力が魔法へと変わり、二本の指の先の先から茶が流れ出した。その分、想像の茶が少しずつ減っていく。

 元々、五人と、ムウが飲む大量の茶、と考えていたので、多めに用意してある。

 二つのティーポットの中に注がれる色鮮やかな茶が、容器から跳ね返る様に、香りを外へと()れ出させていた。

 悪くない香りだ。

 遠くからドタドタと走る音が聞こえる。

 何だ? と思っていたら、突如、サラスさんが飛び込んで来た。

 そして、二つのティーポットに注がれる茶を、睨むように見て、言う。


「来た時から魔力を感じると思ったら、いつからそれ使えるようになったのよ!」

「ついこの間……サラスさんに相談してから三日? 四日後ぐらいですかね」

「マルク、あんた相変わらず無茶苦茶ね」


 サラスさんに相談してから、本格的に覚えようと動いたのだ。

 今、この魔法を使えるのは、サラスさんのお陰でもあるな。

 想像上の茶、全てをティーポットへと注ぎ入れ終え、俺は魔法を止めた。

 二つのティーポットの中には、二人と三人が飲むには多すぎる量が入っている。

 だが、ムウもバルザックさんも、かなり飲むから大丈夫だろう。


「ムウ、温かいままでいいか?」

「いい」


 まだ、茶を飲んでいないのに、ムウの口角がニヤリと上がっていた。

 楽しみにしてくれるのならば、俺にとっては嬉しいだけだな。


「で? マルク? 魔法の使い方、教えなさいよ」

「えっと。頭の中で湯を用意して、その中で茶葉を躍らせて、(しばら)く待つ。後は、そのまま出す感じで」

「マルクに聞いた私が馬鹿だったわ。先に居間に行っておくわね」


 サラスさんは、呆れた様にそう言い、二つのカップを持って台所を出て行った。


「やはり、駄目か」


 俺が魔法の説明をして、サラスさんに伝わった(ためし)がない。

 ムウを見てみると、首を横に振っていた……ムウにも伝わらないか。

 こうして二人の優秀な魔術師に否定されると、アムが魔術師である俺を評する時に使う『危ない奴』という言葉を、強く実感してしまうな……。

 まぁ、気にしていても、仕方の無いこともあるさ。

 俺は、嬉しそうなムウを引き連れ、キオの待つ食堂へと戻る事にした。

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