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ミネルヴァの雄~冒険者を辞めた俺は何をするべきだろうか?~  作者: ごこち 一
第十二章

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533.幕間~再びの五長会議~

誤字修正 文章調整 誤字報告感謝

 ある屋敷の一室にて、五人の人物が集まっていた。

 円卓には、五つの椅子が用意されており、既に全て埋まっている。

 魔工石により照らされた室内は明るく、互いの姿もはっきりと見えた。

 五人のうちの一人。見目麗しき男が、長い銀の髪を背もたれに触れさせながら、青い瞳で他の四人を見た。

 この男の名は、レイディーン。

 ピュテルの町を代理統治する太陽伯である。

 町の(おさ)であり、太陽教の重鎮でもある彼は、開口一番に謝罪を述べた。


「このような夜分遅くに、申し訳ありません。まずは集まって頂いた感謝を」

「良いわよ。今日のお仕事は、もう終わってるから」


 お道化(どけ)る様に欠伸(あくび)をしながら、甘い声で太陽伯へ言葉を返したのは、この場に置ける紅一点、プリシラであった。

 商業ギルド『白馬(はくば)(ひづめ)』のギルドマスターである。

 彼女は、ふわりとした薄い桃色の髪と棘の無い顔つきをしており、おっとりした印象を感じさせた。少し眠そうに目を細め、太陽伯を見ている。

 プリシラの眠そうな目が覚めるような大声が、室内に響き渡った。


「俺も問題ない。だが今回、我ら精霊銀は、門外(かん)だな」


 声の主は、筋骨隆々な巨体の上に、それに似合う彫刻じみた彫りの深い顔を乗せた男、ノックであった。

 工房ギルド『精霊銀(せいれいぎん)(つち)』のギルドマスターである。

 彼は背筋を伸ばし、岩の様に動かない。


「御託はいい。さっさと始めろ」


 そう、しゃがれた声で吐き捨てる様にそう言ったのは、不機嫌そうな顔を隠そうともしない髭面(ひげづら)の大男、ギルマスであった。

 冒険者ギルド『鉄骨龍(てっこつりゅう)(きば)』のギルドマスターである。

 太陽伯を睨みつけても(らち)が明かぬとギルマスは、その視線を老人へと向けた。

 その視線を受け、見事な白髭を(たくわ)えた老人が進行を促す。


「寝不足は老体に(こた)える。太陽伯、始めるとしようではないか」


 豊富な長い白髪と表情一つ見せぬ荘厳(そうごん)な顔つきの老人の名はフィンスティング。

 魔法学派『フクロウの(ひとみ)』の学派長である。

 七十七の年を重ねた力強い視線は、太陽伯の青い瞳を貫いていた。

 太陽伯は、平然と小さく(うなず)く。


「では、五長(いつおさ)会議を始めましょう。議題はもうお分かりですね」

「フンッ。邪竜の事だろう」

「はい。本日、邪竜の復活をアポロ様が感じ取りました。まずは、噂、ではなく真実として認識して頂きたい」

「真実もなにも、この国のみならず、近隣国の全ての民が、邪竜の復活は知っているだろう」


 大きな声で水を差したのは、ノックであった。

 その言葉を聞き、プリシラがクスッと笑い、口角を上げる。


「ノック君。確実な情報って大事よ」

「そうだな。すまない、邪魔をした」

「いえ。精霊銀の言葉の通りです。知らぬのは子供か幼子(おさなご)か……いえ、話を進めましょう。鉄骨龍、冒険者の動きと鉄骨龍の対応を皆に」


 太陽伯の視線を受けたギルマスは、鼻で笑うように息を吐き出した。


「フンッ。既に知っているだろうが……我ら鉄骨龍としては、静観だ」

「それで良いのか?」


 (とが)めるような視線を投げつけながら、ノックは大声でギルマスに問う。

 それを、つまらぬものを見るが如き冷めた目で、ギルマスは視線を返す。


「十年前に(われ)ら鉄骨龍が、どれ程の血を流したのか知らぬわけでは無いだろう。そして、その対価に何を得た? 何もだ。痛みも血も、次は王国軍や騎士、そして金獅子が払う番だ。それで守れないなら、そこまでだろう。王都の事など知るか」


 ノックの顔に(しわ)が寄り、渋いものを噛んだ様に変化した。

 そしてノックが声を上げようと口を――その前に、プリシラの声が響く。


「ねぇ、ギルマス君。そもそも十年前とは、状況が違うよね? 邪竜って、本当に王都へ向かうの?」


 その疑問にギルマスは、沈黙を返答とした。

 代わりに答える太陽伯の口は、少々重く、(にぶ)い。


「国は……保有するダークマターを利用して、他国への誘導を検討しているようです。愚かな事を考えるものです」

「十年前の仕返し……じゃないよね。国を守る為か……趣味悪いけど、嫌いじゃないわよ」

「俺は好かん」

「他国の事など、どうでも良いだろう」


 プリシラ、ノック、ギルマスが、太陽伯の言葉に、それぞれの反応を示す。

 そして学派長が、白い(ひげ)を手で撫で付けながら、口を開いた。


「だが、それは無駄だ」

「え? どういう事? お爺ちゃん」


 目を見開いたプリシラの問いに、学派長は淡々と答える。


「十年前も、邪竜が目指していたのはダークマターではなく、王都北の遺跡だからだ。ダークマターは、再生と目覚めに関わるだけで、邪竜の誘導など出来ぬよ。邪竜は、存在そのものが黒い魔力によって出来ているゆえ、ダークマターの魔力には()かれはせん」

「また、村が焼かれるのね……」


 プリシラは、静かに目を伏せた。

 ノックとギルマスは、眉間に(しわ)をよせ、口を(つぐ)む。

 (あご)に手を当て、学派長の言葉を聞いていた太陽伯が、学派長へ短く問う。


「王には?」

「伝えてある。行動までは関与しない」

「そう、ですね。国には国の意思と思惑があるでしょうから。この話は、言葉を重ねても無意味ですね。では、次にフクロウの動きを、お聞かせ願えますか?」

「邪竜は、(いち)組織で戦える相手ではない。ゆえに他の者の動きに同調するしかあるまい。だが、学派員の中に、邪竜と戦う意思のあるものは()らんよ」

「お爺ちゃんやミネルヴァちゃんも?」

「ああ。動くのは戦うべき者達が戦ってからだ。それと副学派長は動かん。たとえ(おのれ)が死のうがな」


 学派長の戦わぬという宣言を聞き、ギルマスが声を上げた。

 挑発するかの様に、不躾(ぶしつけ)な視線を学派長へ向けて。


「フンッ。必要な時に役に立たんなら、何の(ため)の力だ。恐れられた力も、振るわねば、ただの置物かお飾りだな」

「ならば、鉄骨龍とお主も、戦いに行けばよかろう」


 その学派長の言葉には、十年前に戦いへ(おもむ)かなかったギルマスへの(とげ)が含まれていた。そして、当然それを感じ取ったギルマスは、歯を鳴らす。

 視線を()わし、火花を散らすギルマスと学派長。

 血気盛んな二人の様子に溜息を()き、プリシラが止めに入った。


「はいはい。喧嘩はだーめ。そういう事言いだしたら、(みんな)してお手手つないで死にに行くお話になっちゃうから、ねっ? 今大事なのは、正しい情報の共有でしょ」

「だな。プリシラ殿。今知るべきは、教会の判断だ」

「すまぬな、白馬よ」

「チッ! 太陽伯、聞かせろ」


 四人に注視された太陽伯は、その圧に顔色一つ変えず、一人一人に青い視線を向け、柔らかな語気で返事をした。

 

「討伐隊が結成されれば、回復術士と一部の聖騎士は送り出す事になるでしょう。討伐隊無しでは、我々だけで動く事はありません」

「教会も消極的、と。ピュテルの町周辺の守りは、任せて良いのよね?」

「はい。聖騎士団にお任せ下さい」

「フンッ。実際にモンスター(ども)矢面(やおもて)に立つのは、(われ)ら鉄骨龍だがな」


 吐き捨てるギルマスの言葉に、否定の反応は無かった。

 言葉を投げつけられた当の太陽伯も、首を縦に振っている。

 これ以上教会の話は不要、とばかりに、学派長が次の議題を提示した。


「では、白馬よ、物の動きはどうなっている?」

「えー。もう話は終わりでいいでしょ、ね、お爺ちゃん」

「物が無ければ、人は、生きる事も戦う事も出来ん」

「むー、分かったわよ……」


 プリシラの説明が続く。

 物の動きに問題は無く、籠城する程度の物資は確保してある事を。

 (おさ)達の話し合いは、遅くまで続いた。

 始まった時すら、人々が寝静まる時間であったにも関わらずに。

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