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ミネルヴァの雄~冒険者を辞めた俺は何をするべきだろうか?~  作者: ごこち 一
第十一章

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509.御伽噺の騎士

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 三つのカップは、直ぐに空になってしまった。

 なので俺は、もう一度魔法の準備を進め、茶の準備をする事にした。


「モーリアンさん。ペンネールとの話し合いは、如何(いかが)でしたか?」

(よど)みの(つるぎ)の守りは、(おおむ)ね問題ない。ペンネールも口ではあれこれ言いながらも、学派長の役割は、良く、正しくこなしている」

「そうでなければ、彼女に任せた意味がありませんので」


 そのミュール様の言葉には、信頼を感じる。

 ペンネールさんは、どこかオドオドした印象の人であったが、恐らく優秀な人なんだろうな。そして良き人なのだろう。


「ボルケイヌにブラッケン……全く、奴らも馬鹿をしたものだ。ペンネールも、フクロウの協力には感謝をしている様だよ。私はどうでも良いがね」

白蛇(しろへび)に嫌気がさしたら、いつでもフクロウに来て下さい。モーリアンさんとお弟子さんなら、歓迎しますよ」

「フッ。君が欲しいのは封印魔法だけだろう? だがその時は、ピュテルで隠居するのも悪くないかもしれないな」


 モーリアンさんが、俺を見て目を更に細めた。

 理由は分からないが、その優しい視線を真っ直ぐに受け止める。

 隣から、楽し気なミュール様の声が聞こえた。


「マルク。あなたがピュテルに居るからですよ」


 え? そんな理由?

 だが、ミュール様が冗談で言っている様には聞こえない。

 ピュテルの町にモーリアンさんが居たなら、楽しそうだな。

 だがそれは、俺が嬉しいだけでは無いのだろうか?


「確かに、頻繁に会えるなら、俺も嬉しいです」

「ミネルヴァ。それは言う事ではないだろう」

「ウフフ。言わねば、マルクには伝わりませんよ」

「話が()れた。戻そう」


 モーリアンさんは、小さく咳ばらいをし、そう言った。

 少し顔を赤らめている姿は、歳を関係なく可愛らしいものだ。


「フフッ。そうですね。では封印の件に戻りましょう。淀みの剣を封印するために足りぬ物は、何かありませんか?」

「必要なのは、封印に必要な膨大な魔力と、その受け皿となる大量の魔石だけだ。まぁ、タキオンが動いているから、フクロウの助力は不要だよ」


 朝の話し合いでも、魔石の融通について、タキオンさんが約束していたな。

 それと膨大な魔力か。


「モーちゃん。魔力が必要なら、俺の魔力を使っても良いですよ」

「魅力的な提案だが、必要ないよ。宮廷魔術師や白蛇の奴らも、自分や組織の為だけでなく、(たま)には世界の為に魔力を使うべきだと思わないかい?」

「世界の為、ですか?」

「そう、大袈裟に言っている訳ではないよ。マルク少年。正真正銘、世界の為さ」


 モーリアンさんは、真っ直ぐに俺を見ながら大真面目に、そう言った。

 世界の為、ねぇ……実感の()かない言葉だ。

 俺は、手の届くご近所だけでも精一杯であるのに。


「マルク。あなたは、あの淀みの剣を、どう見ますか?」

「どう見るか、ですか? 少しお待ちを」


 魔法の茶を頭で作り続けながら、少し考えてみる。

 パック先生は言っていた。あれは精霊を黒く変質させた原因であると。

 あの時の黒い炎帝竜さんを見れば、それが精霊に向けられた場合どうなるかなど、一目瞭然だ。黒い魔力に抵抗を続けられたのも、炎帝竜さん程の強大な力を持った存在だからだ。

 あの剣は、魔力そのものを侵し、変質させる剣だ。

 あれを、人に、いや全ての存在に使えば、どうなるだろう……黒に飲まれた世界が頭に浮かぶ。

 町も、人も、動物も、モンスターも区別なく飲み込む、黒に。


「悪意の持った者の手に渡れば、町も王都も黒に飲まれて消えますね……正直、人の世に、有ってはならない剣だと思います」

「正解です。黒い魔力に根本から作り替えられた存在を、同一存在と言えぬのならば、あの剣に侵された時点で、死と同義です。それは命も物も同じこと」

「他者を何とも思わぬ奴らの手に渡れば、ただあの剣で適当に斬り付けて回るだけで、王都ぐらいは簡単に崩れ去るだろうね。本当に、君が回収してくれて助かったよ、マルク少年」


 ミュール様もモーリアンさんも、誇張なしにそう言っている様だ。

 危険な代物(しろもの)を入手したと、あの時思ったが、俺の想像の及ばぬ程に危険な代物らしい……そんな物を双頭の白蛇に預けて大丈夫か?


「マルク。大丈夫ですよ。モルス、炎帝竜、マルクと渡り、事が大きくなる前に回収したお陰で、多くの者の耳に入る前に封印出来ますから、心配は無用です」

「白蛇が信用できないのは、分かるよ、マルク少年。だが、今、君の(あずか)り知らぬ所で淀みの剣の守りに()いている人達は『正しき者』と呼べる人達だと私が保証しよう。だから、そんな不安げな顔をする必要はない」

「そんな顔、してましたか?」

「ええ」「ああ」


 二人は、余裕に満ちた微笑で、俺を見ていた。

 柔らかで、落ち着く大人な笑顔だ。

 モーリアンさんはともかく、ミュール様は、見た目的には俺より少し上にしか見えないのに、振る舞いと内面から大人が(にじ)み出ている。

 お茶目な所も好きだが、落ち着いたミュール様も、良い。


「お二人ほどの方が、心配無用と言うなら、大丈夫ですね」

「そうだよ。全てを君が背負う必要は無い」

「ですがマルクは、手が届くなら伸ばしてしまう男ですから。困ったものです」

「ミュール様。俺は、そんなに何でもかんでもな節操無しじゃ無いですって」

「なら、私だけを守ってくれませんか?」


 ミュール様を守る? その必要があるのかはともかく、必要ならば守る。

 それは間違いない。

 だが『だけ』となると、答えが出ない……。

 沈黙しても、取り(つくろ)っても仕方が無い。素直に答えよう。


「すみません。他にも手を貸したい人が居るので」

「フフッ、分かってます。マルクが、誰か一人の為だけに名と命を懸ける御伽噺(おとぎばなし)の騎士になど成れぬ事は……昔から、知っていますから」

「おや? ミネルヴァも、中々にロマンティックだね」

「空想と情熱は、魔法の原動力ですよ」

「ハハッ。確かにそうだね」


 ミネルヴァ様も、騎士に憧れる気持ちはあるのか……意外だ。

 困難にも一人で立ち向かいそうな、そんな印象があった。

 いや、だからこそ騎士に憧れるのかもしれないな。

 まぁ、今のが本心ではなく、ただの冗談の可能性の方が高いだろうけど。


「ふぅ。また話が逸れてしまった。逸れたついでに、お茶を貰っても良いかな? マルク少年」

「あっ、はい……≪自然(しぜん)息吹(いぶき)≫」


 想像の中の茶の抽出を止めるのを、忘れていた。

 二人からカップを受け取り、呪文と共に茶を注ぎ入れる。

 先程よりも濃い香りが、鼻を刺激した。

 茶としては、今度も成功しているだろう……問題は、味だ。

 三つのカップに、七割ほど茶を満たし、魔法を止め、二人へ渡す。


「「ありがとう」」


 清涼を感じる声と、柔らかな声が重なった。

 この声だけで、茶を出した甲斐があるというものだ。

 さて、お味は……渋い。


「少し濃い。渋いのも、まぁ味わいかな」

「安定しませんね。望んだ変化ならば良いですが、望まぬ結果ならば精進を」


 今回のは、改善の為の変化ではなく、望まぬ結果だ。

 上達するには、何度も繰り返して、体と魔力に染み込ませるしかない。


「はい。反復練習あるのみ、ですね」

「それが魔法訓練の基本です」

「本当にそこだけは、ミネルヴァと意見が合う所だよ」


 この渋い茶も、覚えておこう。

 渋くても飲んでくれる二人の姿を目に焼き付けながら、俺も茶を飲む。

 渋いのは、淀みの剣の事を考えたからなのだろうか?

 それとも、単純に想像の時間を間違ったからなのか?

 基本を習得出来たら、(のち)に試してみよう。

 飲む人の笑顔を引き出せるように。

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