世界の終わり
無事でいてくれっ!
僕は走りながら心の中で叫んだ。今は佳苗の無事以外は考えられなかった。
走っている中、周りからは悲鳴があちらこちらから聞こえた。助けてやら、やめろだの普段から聞きなれないような言葉の叫びが聞こえる。
なかには、およそ人とは思えないような悲鳴、呻き声もする。僕は背筋がゾクゾクとした。
辺りは薄暗くどこかでは火事になっているのか赤く明るくなっている所もあった。
遠くから救急車や消防車のサイレンが聞こえる。
まさに地獄のようだ、夢であってほしい。心からそうをもった。
もうすぐ家に着くという所で突然目の前に人がふらふらと現れた。
僕は脊髄反射のようにその場で、急ブレーキをかけ、止まった。
僕はすぐにわかった、人間ではないと。目は虚ろで動き方は壊れたロボットみたいだ。口は血で赤く染まりきっていた。
一瞬、目が合った気がした、その時だ。真っ赤に染まった口を大きく開け襲いかかってきた。
「うわあああああ!」
僕は来た道を走って戻った。本当だったらここで戦って撃退し彼女のもとに走るだろう。
それは映画やドラマの中だけだ。実際にこの状況になったことのない妄想の話だろう。
しかし彼女の事を思い出した。
唯一いま、僕の希望は彼女だけだ。走りながら道路に放置されていた植木鉢を手に取った、今はなんでもいい。
後ろを振り返ると、期待を裏切らずに奴は追いかけてきていた。動きはとろくなく、小走り程度の速さだ。
僕はそいつめがけて鉢を投げつけた。体には当たりよろめいた、しかしすぐに体勢を整え追ってきた。
さらに来た道を戻り、アパートのドアノブにかかっている傘に手をかけた。
もう何も考えられなかった、手に取った傘の先を奴に向け待ち構えた。
うめき声をあげ近づいてきて、噛みつこうと大きく開けた口に傘を突き刺した。
「死ねええええええ!」
ずぶりと味わったことのない感覚だ。傘の先端は脳までいっているだろう。なんとなくそれはわかった。
少しバタバタと抵抗したが、電池の切れたロボットのようにガクッと脱力しそいつは倒れた。
手が震える、すでに人ではないが殺しをしたのはたしかだ。
なぜかすこしの間、そいつから目を離すことが出きなかった。
ここではっと思い出したかのように家にむかって走り出した。
家が見えてきた。階段を駆け上がり部屋の前に来てドアを乱暴に叩いた。
「佳苗!俺だ開けてくれ!佳苗!」
返事はなかった。
「佳苗!」
ドアノブに手をかけた時ドアが、がちゃりと、開いた。僕は目を見開いた。
ドアをゆっくりと開け部屋を覗くと廊下に人が倒れている。佳苗ではないのはすぐに分かった。
やつらだ。頭に包丁が刺さっている。
異様だっだ。
見慣れた自分の家で見知らぬ何者かが倒れ包丁が頭に突き刺さって倒れている。
「佳苗!いるのか!?」
叫んだが返事はなかった。部屋の中をくまなく探したが佳苗の姿はなかった。
あれからどれだけ時間がったろう。彼女を探し回ったが見つける事ができなかった。
周りには人間の死体、奴らの死体、そこら中にある。嗅いだこともないような臭いもする。
悲鳴、呻き声。僕は何も考えられなくなっていた。
何をしていいのか?どこに行けばいいのか?
「だれかあああ!助けてくれえええ!」
突然助けを求める声がした。僕は声がするほうへ駆けていった。
そこには男性が奴に襲われている所だった、男性は首を押さえ必死に抵抗していた。
僕は辺りを見渡し落ちていた鉄の棒のような物をもって近づいて行った。
「早くたすけてくれ!」
男性が叫ぶ。近づき僕は棒を振り上げた。
僕はここで気づいた、男性を襲っている奴は僕のよく知っている人だった。
先輩だ。
見たこともない形相で口を開け男性に噛みつこうとしている。
「嘘だ・・・」
振り上げた物を下ろし、後ずさりした。整理がつかない。つい何時間か前に一緒に仕事をし、飯を食べていた。一瞬どうしていいかわからなくなった。
ぼくは涙を流していた。
「早くしてくれ!!」
男性が僕を見ながら叫ぶ。
「ああああああああああ!」
僕は一度下した物を再び振り上げ、先輩だったものの頭に振り下ろした。
なんだか酷く疲れた。
気持ちが悪い。もう佳苗も生きていないだろう。勝手にあきらめていた。
うつむきふらふらち歩いていると何かにぶつかった。僕は顔を上げた。
ばっと身構えたが無意味だった。
大きく開かれたそいつの口が目の前に現れ、首筋をがぶりと噛んだ。首筋からぼたぼたと真っ赤な血が服と地面を濡らしていく、声はでなかった。
その場に僕は倒れた、みるみる赤い血が流れ地面に溜まっていく。
そして僕は死んだ。




