感染
6月6日。
今日もいつも通り仕事に向かう。
「昨日と同じか」
僕は空を見ながら呟いた。
しかし、昨日とは違うことが起きた。
それは昼休み、相変わらず先輩とくだらない話をしている最中だ。
地震だ。大きい。
「でかいな」
辺りを見渡しながら先輩はそう言った。
「そうっすね、結構あるんじゃないっすかね」
僕もきょろきょろと周りを見ながら言った。
「ちょっと外みてくる」
先輩が立ち上がり外に向かっていった。僕もそのあとを追った。
先に向かった先輩が居た。なぜか立ち尽くし遠くを見ていた。
「どうしたんすか? 何見てるんすか先輩?」
僕は先輩のそばまで行き、先輩の見ているほうに首を向けた。
そこには大きな黒い宇宙船のようなものがあった。
その日のニュースはこの出来事でもちきりだ。当然だろう、あんなものが突然現れたのだから。
あれは仕事場から3㎞ほど離れたところに斜めに突き刺さったかのようになっていた。
上空ではヘリが飛び、周りにはカメラを撮る野次馬で溢れていた。
部屋で一緒にテレビを観ていた佳苗が言った。
「なんだか気味悪いわね、昨日の天気といいこれといい」
「うん、そうだな きっとなんとかなるよ」
僕は何の根拠もなくそう答えた。
とんでもないことが現実に起こっているのだろうが、なぜか他人事のような気がした。
次の日あんなことがあったが仕事はいつも通りあった。
「あんな事あったのに仕事はあるかよ普通。しかもなんだか風邪ひいたみたいだしな」
先輩がため息をつきながら僕に言ってきた。
「これが社畜っすよ先輩」
僕は少し笑いながら言った。
あれから一日たったが、特にあの黒い物体には動きはなかった。
繭のような形に気味悪く脈をうっている、それ以外はまったく動きはない。
昼休みになりテレビを先輩と観ていた時だ。
テレビのアナウンサーが慌てたように中継につなげた。
「この光景は現実でしょうか・・・信じられません・・・」
おそらく上空のヘリからレポートしているアナウンサーが答える。
映像には悲鳴と共に散り散りになる野次馬やカメラマン等が映し出された。
その中心には二人、人がいた。一人は倒れている。
もう一人は倒れている人に覆いかぶさっているみたいだ。それから周りが赤く、水たまりの様になっていった。
そこで中継が途切れた。
先輩と僕はテレビを観たまま動かなかった。動けなかった。あまりにも現実とは思えない光景に動くことができなかった。
このあと仕事はなくなったが待機になった。休憩室に従業員全員が集められた。
お偉いさん方がこの後どうするのかを話し合っているのだろう、聞こえるのはゴホゴホと咳が聞こえてくるだけだ。
今日のテレビの事を思い出していた、あれはなんだったのだろう。
あれは明らかに血で人が人を襲っていた、現実の光景だ。
ぐるぐるといろんなことを考えたが、はいそうですかとすぐには受け入れられない。
あれからどれだけ時間が経ったろう、静まり返っている中、悲鳴が聞こえてきた。
なんだなんだと、皆で外に出てみると薄暗い中、人が六人立っていた。
どこから入ってきたのだろう、立ったまま動こうとはしない。
一人の従業員が様子を見に近づいた。
「どうかされましたか?」
そう尋ねたその時だ。
噛まれた。
それ以外表現はない。肩を噛まれている。
「うわああああああああ」
噛まれた従業員が悲鳴を上げた。
その肩はみるみる赤く染まっていく。
悲鳴と同時に一斉に襲ってくる何かにほかの皆も声を上げ逃げた。
皆は散り散りに散っていき、僕も無我夢中で走った。何がどうなっているかわからずとにかく走った。
いったいなんだあれは、まさにゾンビ映画にあるような光景だった。
これは夢か?とんでもない事が起きた。それだけは確かだ。
他人事ではない、目の前で現実に起こった事だ。
ふと思い出したかのように声が出た。
「佳苗!」
僕は急いで家に向かって走り続けた。




