前夜
僕の名前は中山正人。
もちろん生きていた時の名前だ。高校を卒業し、就職。いたって普通の人間だった。彼女はいた。
なんの夢もなく、なるようになれと生きてきた。そこそこの人間関係に、そこそこの生活。
特に不便なく生きてきた。
あの日までは。
6月5日。
今日も普通に仕事をしていた。
昼休みになり彼女が作ってくれた昼飯を食べる。幸せな時だ。
「おっ今日も彼女のか?」
原田一。仲良くさせてもらっている先輩だ。僕がここに入り、いろいろ仕事を教えてもらった。
とても仕事熱心で、時には叱られたりしたが感謝はしている、良い先輩だ。
「うらやましいなぁ毎日作ってもらえてな」
「あげませんよ」
ぼくは弁当を手で隠していった。
「けちだなぁーてか、今日の天気、気味悪いな」
たしかに天気予報では晴れだったが薄暗い。
普通の曇りといえば曇りだが、何だろう理由はわからないが気味の悪い感じは何となくする。
しばらくたわいのない会話をして、昼休みの終了のチャイムが鳴る。
「さあ楽しい仕事が待ってるぞ」
「どこがですか」
そんな会話をして仕事に戻った。
一日の仕事が終わり帰路につく。家は仕事場から徒歩で行ける距離だ。
「ただいま」
玄関を開けそう言うと奥から女性が現れた。
中村香苗。僕の彼女だ。恐らく、男性に尋ねれば皆が綺麗というであろう美人だ。黒髪長髪。背もすらっとしてモデルでもいけるんじゃないかと思う。僕にはもったいない彼女だ。
「おかえりーご飯できてるよー」
佳苗とは1年前から同棲している。
「今日カレー!?」
僕はカレー好きだ。
「そうよー正人の好きなカレー!」
何やら得意げに言ってきた
「匂いでわかった!」
鼻はいいほうだ。
僕は風呂をさっさと済ませ、夕ご飯にありついた。
「ほんとにカレー好きね」佳苗が頬杖をつきながら呆れた感じで言った。
「カレー嫌いなやつなんてこの世にいないだろ?」僕はスプーンを向けながら言った。
「行儀悪いよ」
「そっちこそ」たわいもない会話が楽しく、居心地がいい。
僕は彼女と出会えてよかった。出会いは合コンだ。ロマンチックな出会い方ではないが構わない。
僕の話を楽し気に、よく笑って聞いてくれた。そして付き合い始めたのだ。
女性としても人としても素晴らしいと思う。
カレーを半分ぐらい食べたところで彼女が言ってきた。
「そういえば今日、変な天気だったわね。晴れだって言ってたのにずっと暗かったし」
佳苗が外のほうを見ながら言ってきた。なんだか不安そうな横顔だった気がした。
「ああ、そうだな。先輩ともそんな話したよ」
カレーを食べ終わり皿を台所に運びながら言った。
「明日は天気よくなればいいね」
にっと笑顔でそう言った。
「きっと晴れるよ」
そう言ったがなんだか胸がざわざわする。こんな感じは初めてだ。
そのあと二人でテレビを観て、寝ることにした。
そして運命の日。
あれが落ちてきたのだ。




