素敵上司の最高サポート
適当に作った夕飯を食べながら、祥順は明日の行動をシミュレーションしていた。今日の夕飯はキャベツをレンジで温めたものにツナ缶を丸ごと混ぜて適当に味付けをした、キャベツとツナのパスタである。
パスタを茹でている内にトッピングの具材を調理する――と言ってもキャベツを切ってレンチン1分、それにツナ缶を加えるだけ――という本当に適当なレシピだ。
パスタの量のせいもあるかもしれないが、少し薄味に仕上がったそれに軽く塩を振りかけた。
まず明日、確認しなければならないのはどこがリベート契約をしているかである。そして、そのリベート契約をしている得意先の中で景品等を出荷している会社を探す。
リベート契約の方は総務の方で調べなければならないから、少し早く出勤すべきだろう。通常業務の中でやりたい所だが、ヘルプ中の身でそうそ勝手な動きはできない。業務時間までにリベート契約の確認さえできれば、あとは営業事務のデスクでも作業はできる。
営業事務の仕事をメインに隙を見て作業をしていけば何とかなるだろう。景品やサンプル等の備考がついている商品は多いはずだ。その中からそれっぽいのを探し出すのは骨が折れる。出社前に小さなご褒美でも買っておいた方が良いかもしれない。
祥順は作業手順を考えながら家事をこなし、早めにベッドへ潜り込んだ。
コンビニスイーツは種類が豊富だ。それはどの会社のコンビニでもそうだ。祥順は会社に一番近いコンビニに寄って、どれを買おうか悩んでいる最中である。
冷蔵庫で保管しないといけないものから常温でも大丈夫なものまで、祥順は選べないでいた。
「おはようございます。
珍しいですね、コンビニでスイーツ選びなんて」
「あ、栗原さん。おはようございます」
千誠が背後からスイーツを覗き込みながら声をかけてきた。彼の穏やかな雰囲気は朝を優しく彩らせてくれる気がする。仕事の前に会うのは珍しい事だ。
祥順は思い切って千誠との雑談に挑戦する事にした。
「実は、今日は色々詰め込もうと思っているので、途中で息抜きをする為の菓子を選んでいたんです」
「なるほど」
「……ただ、種類が多いから迷ってしまって」
祥順の言葉に千誠はふふ、と笑いをこぼす。
「じゃあ、今日は私が選んでも良いですか?
後で一緒に息抜きをしましょう」
柔らかな声で祥順の小さな悩みを吹き飛ばしながら、真剣な眼差しでスイーツを選び始める。シュークリームと抹茶ムースケーキで迷っているらしい。全く似ていない二つに、どう迷う要素があるのか不思議に思う。
とは言え自分は二つにも絞れなかったのだ。人の事を言える立場ではない。千誠は真剣な眼差しを緩めて明るい表情になり、腕を伸ばす。先程とは全く関係のないスイーツをその手で掴んでいた。
自分の上司はどうしてこんなにも素晴らしいのだろうか、とスイーツを購入する彼の横顔を眺めながら思い耽る祥順だった。
総務のある階まで上がるなり、千誠がデスクで待つようにと指示をした。仕事への切り替えが早い男に、ただただ頷いてその通りにする。
少しもしない内に千誠は戻ってきた。その腕には分厚いファイルを抱えており、それが祥順に渡したい何かであると想像できる。
「それ、何ですか?」
「リベートの資料です。今期の契約書がファイリングされているものですね。
それと、こちらがそのデータを保管している場所のアドレスです。
データで事足りるかと思いますが、一応アナログも用意しておきました」
「すみません、わざわざ。ありがとうございます」
祥順がこれからやろうとしていた事を、既に昨日の内にやってくれていたらしい。ファイルを受け取れば、ファイルには付箋が着いている。
手書きでファイルのアドレスが書いてあり、千誠が言っていたデータの保管場所のメモだと察する。
「下準備くらい、私にも手伝わせてください」
そう言って穏やかに笑う彼は、何から何まで本当に素晴らしい上司である。
千誠のお陰で予定していた作業をショートカットできた祥順は、早速空いた時間でそのデータの確認をする事にした。リベートの条件や契約件数を確認して、優先順位を決める為である。
全て調査するにしても、ある程度規則的に括っておいた方が後々楽になるはずだ。担当者別に仕訳してリベートの件数が多い順に担当者を並べ替える。そして担当者別に仕訳された中では、リベートの条件が優位なもの順に並べ替える。
こうすれば担当者のリベート件数順位と担当者別リベート条件順位が分かるようになる。
祥順はその一覧を見て、リベート件数の多い担当者のリベート条件が優位な取引先から調査を進めていこうと考えていた。
データを複製してソートを試みる。データを開くと、シート毎に担当者が分かれており、担当者全てがひとまとめになったシートがなかった。
だが、これは予想の範囲内だ。祥順がデータを複製したのは、全てのデータをひとまとめにした表を作る為だった。
新しくシートを作り、統合データを作った所で始業時間になる。祥順はそのデータを手に営業事務のデスクへと向かう。
昨晩から溜まっている受注を捌いたら、とりあえずは祥順の時間である。作っておいた統合データをソートして理想の表を完成させていく。
時折事務のフォローに入りつつ、祥順は己の仕事を進めてしまう。決して楽な仕事スタイルではない。それでもやる気に満ち溢れているのは、千誠のおかげだった。




