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書類不備です。  作者: 魚野れん
猫被りの為のメソッド

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気合いの入った棒棒鶏

 思ったよりも量が多くなってしまった。千誠は寛茂と同じくらいに野菜の詰まった袋を二つ持っていた。寛茂は片方が野菜、もう片方は肉が入っている。ずっしりとした袋をテーブルに置き、すぐに調理するものとそうでないものに分け始める。

 筋肉痛になるほどではないものの、そこそこ肩に疲労が溜まっている。ほぐすように軽く肩を回した。


「肉類は全部冷蔵庫で良いですか?」

「ああ、とりあえずしまっておいて」

「はい!」


 今日の夕食(棒棒鶏)と明日の食事(お好み焼き)の材料となる野菜類はキッチンカウンターへ、しらたきのトマトラーメン風にしか使わない材料はテーブルへ、と分けていく。

 棒々鶏にはキュウリをたっぷりと乗せて余分な塩分を排出させるようにすればタンパク質とビタミンが取れる良い食事になる。かさ増しにもやしを入れるのも忘れてはいけない。


 もやしとキュウリ、トマトは明日の夜にも使うから多めに買ってあるが、とりあえず全てカウンターテーブルへ移動する。

 キャベツは二玉買ったから一玉だけ移動、といった風にざっと分けていると、肉類をしまって暇になった寛茂が楽しそうにこちらを見つめていた。

 作業中、中途半端に手を出そうとすれば逆に迷惑になるという事を理解しているのだ。家事に慣れているこの男、こういう点ではやりやすい。


「キュウリを洗ってくれると助かる」

「任せてください」


 張り切るほどの事ではないのに、元気な返事をしてキュウリを持っていった。尻尾の幻が見える。

「洗ったら、今度はモヤシを軽く洗って茹でてくれ」

「俺の完璧な茹で加減、楽しみにしててください!」

 頼もしいかどうかは別として、最低限のクオリティは保証できる。千誠は笑みを浮かべて応じた。


 軽く茹でられたモヤシはザルの上で熱を冷ましつつ水気を飛ばす。こうすれば、半生くらいのモヤシはしゃきしゃきとした食感を残す程度にして火が通り、その熱が残った水気を飛ばしてくれる。

 キッチンペーパーで水気を取らずとも水っぽくならない、便利な方法である。

 寛茂もそれを知っていたらしく、初めて一緒に作る棒々鶏であるにも関わらず、千誠がもやしについて指示する事は何もなかった。

 水っぽいモヤシを棒々鶏に使うとたれが薄まりもったいない事になる。千誠はそれが好きではない。だから、寛茂の作業は嬉しい。自信ありそうな言い方をするのにはちゃんと理由があったようだ。


「もやしは完璧そうだね。よくやった。次、鶏肉茹でるからお湯沸かして。茹で汁は後で使うから面倒だろうけど片手鍋で茹でて」

「はい!」


 片手鍋に水を張り、沸かし始めたそれに冷凍庫で保管していたショウガのスライスを入れる。湯が沸くまでの間に鶏肉を取り出し、筋取りをしておく。沸いたら鶏肉を茹でるよう指示し、千誠はたれ作りに移った。

 砂糖、味噌、酢、みりん、チューブのショウガ、みじん切りにしたニンニク、それに豆板醤。ゴマはすりつぶした物と軽く叩いた物の二種類を用意して全て混ぜる。最後に隠し味のマヨネーズを少しだけ足して、たれはほぼ完成である。


 次に野菜類。今回はキュウリとトマト、それに長ネギを使う。キュウリ千切りに近い細切りにする。キュウリを千切りにすると食感が楽しめなくなってしまうから、そのぎりぎりのラインを攻めるのである。長ネギは白髪ネギにして、その残りは味噌汁へ使えるよう薄切りにした。

 トマトは好みの問題だが、食べやすさを重視して普通の串切りにする。人を呼ぶなら見た目を重視して輪切りにする事もあるが、おしゃれになる代わりに少々食べにくいのだ。


 寛茂が鶏肉を茹でている傍らで千誠はテンポよく野菜を切っていく。ふつふつと湯の沸く音と、とんとんと千誠が包丁を操る音だけがキッチンスペースを満たしていた。

 鶏肉を取り出したらキッチンペーパーで軽く水気を取り、細かく裂いていく。片手鍋では一度に鶏肉を湯できれない為、寛茂は鶏肉を茹でつつ茹であがった鶏肉を裂いていた。

 茹で汁は後で少し煮詰め、たれに加える。だから少しでも濃くなるように少ない水分で煮るように指示したのである。粉末の鶏だしを使っても良いが、せっかくだ。こういうのを使うのも悪くないだろう。


「それ茹であがったら、茹で汁はそのまま中火で煮詰めてくれるか? 鶏肉を裂くのが終わるまでで良いから」

「分かりました」


 寛茂が作業を続行する中、千誠は味噌汁に取りかかる。こちらは簡単だ。粉末だしを入れて沸騰させたら、長ネギとわかめ、切ってから冷凍庫で保管している油揚げを入れる。わかめが柔らかくなったところで少なめの味噌を溶けば完成である。湯を沸かしている間にわかめを洗って切った千誠は、テンポよく味噌汁を完成させていく。


「ほぐし終わりました!」

「よし。じゃあ盛りつけを始めようか」

「はい!」

 千誠は皿をカウンターへ乗せて指示を出す。

「まずはもやし。それからキュウリ、鶏肉を乗せたら更に薬味のネギ。

 トマトは脇に添える」

「よぉっしゃぁ!」


 何の気合いか分からない気合いを入れた寛茂が菜箸を操る――と思いきや普通に素手で分け始めた。豪快だが失敗はないだろう。

 完成した味噌汁を放置して、棒々鶏のたれの最終調整に入る。ややもったりとしたたれに煮詰めた鶏の茹で汁を少し加えて粘度を調整する。ついでに辛味の具合を確かめて、豆板醤だけではなくラー油とごま油を追加した。ごま油特有の香ばしい香りが追加され、ますます食欲を増進しそうな香りとなった。


「はい、これかけて完成」


 カウンターに置いたたれを寛茂にかけさせている間、千誠がお椀に味噌汁をよそう。そしてご飯を少なめによそえば、今晩のメニューは完成である。スムーズな調理は本当に気持ちが良い。無駄に元気な寛茂に、千誠は笑顔で頷いてみせるのだった。

2024.2.15 一部加筆修正

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