みっちり会議にあわや大惨事
今日は営業会議の日である。そこそこの長さの全体会議とチームミーティングの組み合わせでごった返している。チームは営業の課ごとのものと、課をまたいでのイレギュラーなもの、そして企画が加わったものと複数掛け持ちしていたりする人間も少なくない。
その為、全員がちゃんと自分が関わっているミーティングに参加できるよう、スケジュールを作るのが総務の仕事だったりする。
誰が何の企画をしているのか、全てを把握しているのが総務だからである。それ故に、水面下で進んでいる企画については社内でも口を滑らせないよう、厳重に指導されている。
もちろんそれらの企画は常に変化している。だから、総務では毎回このスケジュールを組み立てるのに難儀していた。
さすがにこればかりは数人がかりでスケジュールを調整する。今回の担当は祥順と千誠と晃である。熊谷晃は入社二年目で、今回初めてスケジュール調整チームに加わる転職組の一人であった。
祥順もそれこそ最初の頃はこの複雑な作業に匙を投げたい気持ちになったものだが、最近は移動等を含めて、より彼らがやりやすいスケジュールを組み立てる事を目標にするようになってきていた。やりごたえのやる仕事の一つとなっている。
今回の役割分担は、簡単である。主に千誠と祥順でスケジュールを調整し、その流れを見学するのが晃。
三人の作業を実質二人で行う為、能力の高い二人が組んでいるのである。祥順からすれば憧れの人との共同作業で、いつも以上に張り切っていた。
晃はこの二人のタッグをとても興味深そうにしていたのも、二人が揃って同じ仕事をする機会が少ないせいだった。
「先輩達って、とても息が合うというか、互いに読み合っているのに滅多に組まないですよね」
そう彼に言われてしまうのも仕方がない事である。
「そもそも私は管理職ですから」
彼の回答に全てが込められていた。
千誠は普段、このスケジュール調整チームに加わる事はない。今回が特別なのである。本来ならば、三人の調整チームに一人の新人でOJTするのだが、比奈子の戦力が半分、いずれはゼロとなる現在、それを補うべく人材の比率が流動的になっている。
一日会議デーのスケジュール調整はイレギュラー業務にあたる。通常業務を優先させる為、今回からしばらくは千誠と祥順が担当し続ける事になったのだった。
「私の目標は栗原さんなので、そうあなたに言われると嬉しいですが、別に事前の打ち合わせをしたわけではないんですよ」
祥順と千誠は余計な仕事が増えた形になるが、千誠は別として祥順は嬉しく思っている。これを逃したら、いつ同じ仕事ができるか分からないのである。一緒に仕事ができる機会を逃すわけがない。
スケジュール調整にかける準備の時間はほぼ一日。他の業務もあるし、そう時間は使えない。その中でいかに千誠の手を煩わせずにミッションをこなすか。祥順はそればかりを考えていた。その成果が出たのであろう。
「今の自分に何ができるのか、何ができないのか。自分のパートナーに何ができて何ができないのか。
互いにそういうのを見極めて、役割分担しあうと良いのかもしれませんね」
千誠の言葉に、祥順はそういう事かと納得した。千誠がそうやって微調整してくれていたから、祥順もうまく立ち回れているのだろう。
祥順にそう気取られる事なくナチュラルにやってのけるところが千誠らしい。
祥順は心の中で千誠のすばらしさを讃え、晃への指導風景を見つめるのだった。
「――と、そろそろミーティング終了ですね。熊谷さん、ちゃんとアラームが鳴るか気にしてください」
「はい」
ミーティング数が多い為、時間きっちりにミーティングが終わらないと、全体の不調和に繋がってしまう。電車のダイヤグラムとまでは言わないが、それに似ていると祥順は思っている。ピピピピピ……と携帯端末が鳴る。ミーティング終了の合図である。
これが鳴ったら、即座に席を立ち、次のミーティングに備えて各自移動や休憩をしなければならない。
掛け持ちが多い人はアラームが鳴る回数も多く、必然的に短めのミーティングを繰り返す事になる。恐らく、こんな面倒な会議をしているのはこの会社くらいだろう。もしかしたら、こういう会社が他にもちらほらと存在するかもしれないが、それでも多くはないだろう。
「栗原さん、こういうメッセージが届いた時はどうすればいいですか?」
晃がそう言いながら見せてきたのは、営業からの叫びだった。
「会議室が空いてない……?」
千誠と祥順が読み上げたのはほぼ同時だった。
主張する営業と彼らがミーティングを行うべき場所、その場所のスケジュールを確認する。ざっと見たところ異常はない。
千誠が晃へアラーム履歴をチェックするように言う。アラームで管理されていると言っても過言ではない今日のスケジュールは、それが狂っていたら台無しになってしまう代物である。
「この部屋だけ、なぜかアラーム解除されてます」
「え?」
千誠が身を乗り出すようにして端末を覗き込む。確かにアラームが解除されている。
急いでそのアラームを手動で鳴らす。ミーティングが少しだけ長くなった彼らは、自分の時計を見て慌てて移動し始めるだろう。
「とりあえずこれでよし。連絡くれた方に、お礼と謝罪を入れておいてください」
「はい」
素直に頷いてみせると即座にキーを打ち始めた。それを横目で確認した千誠は、今度は祥順に言う。
「梶川さんは操作履歴を確認してください。私は他に同じようにアラームが解除されたところがないか確認します」
「分かりました」
原因はすぐに見つかった。
営業部の部長である。恐らく自身の権限を使って、スケジュールの確認をしたかっただけだろう。
彼が閲覧したついでに誤操作という足跡を残してしまったのである。他に弄られた形跡がないか、祥順が追いかける。
いくつか、アラームが解除されてしまっていたのと、時間がずれていたものを見つけ、早速修正した。あわや、大惨事というところであった。
2024.1.1 一部加筆修正




