ベッドでふざけ合う
軽く蹴り合っていたのが次第に攻防へと変わっていく。白熱した遊びを止めたのは祥順だった。
祥順は左足で浩和の右足がこれ以上前へと進まないようにと添えるようにして押さえ、右足で自由になったままの浩和の左足をしっかりと押さえる。左足がぐっと上から圧迫される。両足で挟み込まれるような形になった浩和の左足はもがいてる。
お互いにいい大人でガタイも悪くない。浩和の裸を見た事をないから分からないが、祥順自身は鍛えてはいないものの、そんなにたるんでもいないはずである。
浩和のもがく足を抑え込むのは楽ではなかった。力が拮抗しているのか、浩和の荒い息を感じる。
「もう、寝ましょうっ」
かすかに息切れしながらそう言って、きっと睨みつけるように目に力を込めた。ふざけあっている内に近付いていたらしく、思ったよりも近くに顔があった。
「降参するよ」
息を弾ませながらにこにこと楽しそうに笑っている浩和は足の力を抜いたようだった。警戒を和らげ、祥順も足の力を抜く。
「明日、本当に起こせよ」
「分かってるって」
浩和は分かっているのかいないのか、祥順に挟まれた左足をゆっくりと動かした。いや、本当は分かっているのだろう。祥順をからかっているつもりである。
その証拠に浩和の目は笑っている。祥順はこれ以上何も言うまいと口を閉じた。
少しの沈黙が流れる。ただ、どうしてか視線だけは彼に釘付けになったままである。何となく目をそらしたら負けのような気がした。
じっとしていられなくなって足をもぞもぞと動かそうとしたら、挟んだままの浩和の足を足で撫でさすってしまった。やばい、変な触り方をしてしまった。
わざとではないにしても気まずい。祥順は目をそらしたら、とかそういう事ももはや考えている場合ではなかった。動かしてしまった右足をそのまま逃がし、目を瞑って仰向けに方向転換して誤魔化す。
動きに理由があれば、違和感は気のせいに変わるはずである。ついでに間接照明の明るさを落とし、完璧に自然な動作を演出した。
「おやすみ」
そう言うと、すうっと自然に浩和の足が引いていった。浩和の下敷きになっていた左足を引き寄せるようにして正しい姿勢をとる。これで安心である。
「ああ、おやすみ」
耳元で囁かれ、祥順は身を硬くした。
今左に向き直ったら、きっととてつもない近距離に浩和の顔がある気がする。しかも、ずっと見られている気もする。
考えれば考えるほど、浩和が見せたあの熱い視線を思い出す。気になって眠れなくなりそうである。布団の中はちょうど良い温度になっているのに、すぐ隣の熱源が気になる。
目を開けて、彼が本当に眠っているのかを確かめたい欲求が湧き上がる。
……駄目だ、このままでは眠れなくなってしまう。祥順は眠る時の正しい姿勢を厳格に守る事を考え、浩和の事を思考から排除しようとやっきになるのだった。
翌朝、本当に浩和が目覚めるタイミングでたたき起こされた祥順はワイシャツのアイロン掛けをしていた。
先ほどの浩和は起きるなりすばやく掛け布団を剥ぎ取った。そしてカーテンを開いて自然光を取り込み始める。決して寒くはなかった。だが、急な事に驚いて心臓がバクバクしていた。
「おはよう」
「……ぅ」
光を纏いながら見下ろす男は爽やかで眩しかった。
「起きれた?」
貸したスウェット姿の浩和は、自分が着ているとぼんやりしてしまいがちのデザインだったが、うまく着こなしている。ずぼらに見えそうなところなのに、ゆったりとした風にしか見えないのが憎らしい。
朝日との組み合わせが最高に似合っていた。
「……きた」
「よし。じゃあ先に洗面台借りるな。アイロンがけよろしく」
「うん」
明らかに寝起きの掠れた声で起きたと言いながら無理やり起き上がる。上半身を起こせば、何となく頭が働き始めてくれた気がした。
アイロン台を出し、干していたワイシャツのうち一枚を広げる。自分の分は既にやってあるものがあるから、アイロンがけは浩和と寛茂の分だけで良い。
ぼうっと、手抜きすぎない程度にアイロンをかける。単調な作業の中、祥順は浩和の事を考えていた。
最近の浩和は視線がむず痒い。そう感じるようになったのはいつからだったか。祥順は己の度がいきすぎた感情は浩和から与えられる視線のせいだと思うようにしていたが、納得しきれないでいた。
だが、考えても答えが出ない。
答えが出ないままの方が良いのかもしれない。答えが出たら、何かが変わってしまう。それだけは確かである。今の距離感は心地好い。それを台無しにはしたくなかった。
2023.12.22 一部加筆修正




