ちょっと可愛い浩和とカクテル祭
最近の浩和はちょっと可愛い。そんな感想を抱くようになったのは、祥順がオフの時に敬語をはずすようになってしばらくしてからだった。
今日は珍しく浩和の家で宅飲みをしている。祥順が身を削って仕上げた仕事の後処理が終わったお祝いである。という事で、まだ日が長くて太陽の沈んでいない時間帯から飲んでいた。
カクテル祭の真っ最中である。というのも、浩和の家にはリキュールや蒸留酒などの様々なアルコールが在庫になっているからである。同じボトルは基本的に二本以上存在しないから在庫と言って良いのかは不明だが、種類が多い事から祥順は勝手に在庫と呼んでいる。
今回は割り物を用意しておいて、それに合うものを逆算的に見繕ってカクテルにするという方法を取った。基本的にはハズレなしの、おいしいチャレンジである。
まずは正統派のボンベイサファイヤでジントニックを作り、「そうそう、これだよこれ」と二人で頷きながら飲んだ。
その後は適当に焼酎をオレンジで割ったり、ソーダでカンパリやクレーム・ド・カシスを割ったりした。リキュールは種類が豊富で、アブサンまであるのには驚いた。どうやら紗彩もお酒が好きだったらしい。
リキュール類は紗彩と同棲していた名残で、出て行く時には邪魔だからいらないと言って置いていったそうだ。きっと明寧と住んでいる家にはここにあるのとほとんど同じリキュールが揃えられた棚があるだろう、と浩和が言っていたのを思い出す。
一人ではそんなにリキュールを飲まないから、折角だし消費を手伝って欲しいと言われていて、今に至る。南国系のリキュールまで揃っていて、バー並の品揃えである。
カルーアやアイリッシュ・クリーム、リモンチェッロを見た時は女性っぽいチョイスだという感想を抱いたが、パッソア、ディタ、マリブと来て、一体彼女に何を考えていたのかと聞きたくなってしまう。
ペルノやリカール、コアントローも、まだ分かる。だが、そんなに買ってどうするのだろうか。
「言っておくけど、さーやはアル中じゃないよ」
呆然とした祥順の態度を笑いながら浩和が言う。
「さすがにそれは思わないけど、尋常じゃないよな」
「まあね」
集めすぎなのは浩和も思っていたらしい。
「だから、飲みきれずに一年経ってもこんなんなんだよ」
確かにこれだけあったら簡単には減らないだろう。
「どうやって消費してたんだ」
「だいたいはソーダ割かな。物によっては牛乳だったりオレンジジュースだったり」
無難な割り物である。たいていの物に合う。それに、どこでも買える飲み物だから足りないと思えばコンビニまで行けば良い。
「ああ、あとはアイスにかけたりしてた」
「なるほど」
アイスにリキュールは良い。これも深く考えずとも美味しく消費できるレシピの一つである。
「バニラアイスがあるから後でやろうか」
「良いね」
そう返事をしてカルアミルクを飲んだ。甘ったるいリキュールがとろりと喉に流れ込んでくる。
「じゃ、本題といこうか。俺が会社でちまちまと何をしていたのか」
酒のつまみになるような話にはならないが、宅飲みをしようと言った理由はこれである。他の人に聞かせるような話題ではない。むしろ社内で完結させ、外には知られたくない種の話であった。
誰が聞いているか分からない場所では話せない。
「想像はついているかもしれないけど、社内での不正だよ」
「そうか」
浩和は頷いた。
「違法じゃないからまだ救いはあるが、何かしらの処断はあるだろう」
「具体的に聞いても大丈夫?」
内密にしなければならないとは言われていない。それに浩和ならば大丈夫だろう。
「集金時の値引きとリベートで、二重に計上していたんだ。集金時の値引きとリベートが連動してないのが悪いんだけど、悪用する方が悪い」
「……」
「で、その証拠集めをしていたわけだ。間違えてやっていたのか、故意だったのか。個人だけの話なのか、複数人でやっているのか、そういう事も含めて。
もちろん不正に関する調べ物だから、調査をする人間は少ない方が良い。だから手伝ってもらうわけにはいかなかった」
「分かるよ」
軽く頷いて見せた浩和は、手元にある生ハムをつまんだ。それに合わせるようにして祥順がチェイサーとして用意しておいた水を飲み、喉を潤わせる。
「結果としては今回は個人的にやっていたみたいだから、処分されるのは一人だけで済みそうだ。まあ、不正って言っても横領ではないから軽い処分だと思う」
「本当にお疲れさま」
浩和はそう言って柔らかな視線を寄越した。祥順は彼の心からの労いに緩やかな吐息を漏らした。
「そっと支えてくれてありがとう。おかげさまで結果を呼び寄せられた」
何かと祥順が大変な時、さりげなく浩和がサポートしてくれていた。それは今回だけではなく、親しく過ごすようになってからしばしばあった。今は礼を言う事しかできないが、いずれ恩を返す機会があるはず。
その時は浩和がしてくれたように、祥順も支えるつもりである。
心から浩和を見つめれば、浩和も応えるようにして見つめ返してくれた。視線が交わっていると、じんわりと胸の奥底が温まっていく気がした。
「何かあったら、今後も互いに支え合っていこう」
「そうだね、よろしく」
もう一度視線を絡ませる。今度はほんのわずかな時間だった。
「そうだ、牛乳で割るとおいしいの、他にもあるんだ」
浩和がそう言いながら視線を逸らしたからである。立ち上がって背を向けようとしている時に、ほんのりと耳が赤く染っているのがちらりと見えた。
普段酒を飲んでいても、そうなったのは見た事がない。……照れたのか。そう思うと可愛いと思う一方で、こちらも照れくさくなってくる。
「……これなんかどうかな」
浩和が持ってきたのは、大きなボトルだった。照れくささもあって、ボトルに視線を落とす。一風変わった色付きの瓶の中身はリキュールらしい。“奏”と書かれたそのパッケージは見かけた事がなかった。
「抹茶のリキュールなんだ」
「へぇ」
「これを牛乳に混ぜれば抹茶ラテっぽいカクテルができる」
和風のラベルが貼られたそれは、祥順の脳内で笑う紗彩の雰囲気にとても合っていた。
2023.12.22 一部加筆修正




