表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
8/10

第七章 もう一度、あの場所へ

 昼休みの保健室。

「だって……あの『髪留め』……おばあちゃんからもらったんだよ」

 智子は、保健室のベッドに腰かけ、吉清と伸行がもってきてくれた給食を食べながら言った。

「知ってるよ。だからあんな、びびったんだろ」

 伸行が困った顔で智子を見た。

 吉清は、丸いイスに座り、メガネをくいっと持ち上げながら、答えた。

「佐藤君の話が、もしほんとうだったら、あそこ、『えんきりの滝』なのかもしれないね。川のおくだし、石の小さい塔もあったし、ススキもあったし……」

 智子が泣きそうな顔でつぶやいた。

「もし、おばあちゃんと『えん』が切れちゃったら、どうしよう……」

 長イスに座っていた伸行は、腕を組みながら、首を捻った。

「でも、本当なのかよ、あれ……『えんきりの滝』なんて、聞いたこともないぜ。ほかの話は、どっかで聞いたことあったけどよ」


 やがて、伸行が立ちあがった。

「オレ、ちょっと、ようじがある」

 そう言って、保健室を出て行った。


 智子は給食を食べ終えた。正直言って、あまり味がしなかった。給食当番の祐介が皿を受け取りに来た。


 吉清は、智子を連れて教室に戻った。

「トモちゃん、今日、ひろいに行こう。もし本当なら、いやだろ?」

「うん……」

「学校おわってすぐ出れば、まにあうよ」

 吉清が笑ったが、目は笑っていなかった。きっと、心のなかでは少し不安なんだろうと、智子は思った。


◇   ◇   ◇


 伸行は、五時間目の後の休み時間になると、すぐに教室から出ていった。そして、掃除の後の帰りの会が終わった後も、ランドセルを掴んですぐに教室から走り出ていった。

 智子と吉清は顔を見合わせた。伸行に、一緒に行こうと声を掛けようとしたのに、できなかったからだ。

「……いいよ。ボクたちだけでいこう」

 吉清が、智子を元気づけるように言った。


◇   ◇   ◇


 智子が家に帰り、ランドセルを自分の部屋におくと、すぐに吉清が迎えにきた。二人で自転車に乗って出かけようとしていると、祖母の郁子が畑から帰ってきた。智子は、少し帰りが遅くなることを伝えた。

「気を付けて行くんだよ」

 見送る郁子の声を聞きながら、智子は心の中で「どうか、このまま『えん』が切れませんように」と祈った。となりの吉清が、こっちを見ていた。

……きっと同じこと、考えているんだろうな……

 智子はそう思った。


◇   ◇   ◇


 途中で寄り道をしなかったためか、二人はまだ十分明るいうちに、滝の入り口の石段のところに着いた。

 石段の脇の茂みの中に、乱暴に倒れたままの一台の自転車があったが、石段にばかり注目していた二人は気づかなかった。

 階段を登り、色づきつつあるススキをかき分け始めると、ひんやりとした空気が漂ってきた。そして、滝の音が徐々に大きく聞こえてくる。智子には、まるで自分たちを脅しているように感じた。

「やっぱり少し、きみわるいよね……」

 智子が、吉清のシャツの裾をつかむ。

「早く見つけよう。まだおばあちゃんと『えん』があるうちに」

 明るく言っていたが、吉清の息が少し荒くなっていた。

「そうね、行かなくっちゃ」

 智子は、気を引き締めた。


 智子は、吉清に続いてススキの茂みを掻き分けていった。

 そして、二人が最後のススキをかき分け、河原に出たときだった。吉清の目の前に、背中を向けて立っている大きな子供がいた。

「うわっ!」

 吉清は予想しなかったことに驚き、思わず大きな声をあげて、勢いよく後ろに飛び退いた。その拍子に、すぐ後ろにいた智子に、吉清は体当たりをしてしまった。

「きゃあああ!」

 智子は、何が起こったのかわからないうちに、茂みに後ろむきに倒れこみ、大きな悲鳴をあげた。


 智子の大きな悲鳴に、今度はその大きな子供が驚き、飛び上がって振り返った。

「……トモコ!? ヨッシイ?」

 その大きな子供は伸行だった。

「ノブくん!」

「なんだ、ノブちゃんか!」

 三人の声が重なり、滝の音に混じって河原一杯に響いた。


「なんで……ここにいたの?」

 起き上がり、身体についたススキを払いながら、智子が聞いた。まだ心臓がドキドキと動いていた。

「トモコ、『髪留め』のこと、すっげえ気にしてただろ。だから、さがしに来たんだ」

「えっ……」

 思いがけない言葉に、智子は驚いた。

「でも……ここ、えんきりの滝なんだよ……一人で来て、ノブ君もだれかにもらったものを落としちゃったら、たいへんだよ……」

 智子が、口ごもりながら言うと、伸行は笑った。

「ちげえよ。先生に、この滝のこと聞いたら、『たぶん滝行たきぎょうの場所だろう』だってさ。ほら、あそこ見ろよ」

 伸行が、指差した滝つぼには、真っ白な着物を着た男が、両手をあわせて、滝に打たれていた。

 智子は目を見開いて驚いた。

「ゆ、ゆうれ……っ!」

 大きな悲鳴を挙げかけた智子の口を、伸行が手で押さえた。

「ちがうって! しゅぎょうをしてる人だよ! それに、佐藤のあの話、うそっぱちだよ!」

「ええっ!?」

 伸行が手を離すと、智子は丸く大きな目をぱちぱちと瞬かせながら、声をあげた。

「えんきりの滝の話、つくり話だってさ。あいつ、はくじょうしたよ!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ