372.取れない吸い跡
トントントン
うとうとしていたらノックの音が聞こえた。
「はい。」
「このは。いいか?」
「はい。」
眼鏡をかけて起き上がると桜華様が入ってきた。
「はぁ。何でそんなことすんだよ!」
「は?」
「まぁ、悪いのは俺だけど・・・。」
「あの。一体何の話ですか?」
「何の話って・・。朝食まだだろ。菊がここに持って来るから一緒に食べよう。」
「はい。あ、桜華様、スカーフありがとうございました。洗ってますから。」
「ああ。ありがとう。」
私からスカーフを預かると桜華様は、
「あそこにかけてある、あの薄い緑の着物。今日着ていくのか?」
「はい。」
すると桜華様は私の着物をじっと見て、すぐ戻ると言って部屋を出て行った。それから5分くらい経って桜華様は朝食を持ってきた菊さんと戻ってきた。
「では、ごゆっくり。」
そう言って菊さんは朝食を置いて部屋から出て行った。桜華様は私をじっと見て黙っている。どうしたのかな?剣術の練習でボコボコにやられてご機嫌ななめなのかな?
「桜華様、お食事いただきましょう。」
「ああ。」
桜華様は手を合わせぼそっと「いただきます。」と言い、サンドイッチを一口齧った。
・・・本当にどうしたのかな?桜華様がおかしい。
「桜華様、どうしたんですか?」
私が尋ねると、
「ごめん。俺が吸い跡つけたから。消すために・・・。俺、結局このはを傷つけた。俺の勝手な行動で・・。」
「ちょっと待ってください。何の話?」
「首の跡を消すためにこのはが首を掻きむしって・・・。」
「やってませんよ、菊さんに止められました。このガーゼは吸い跡が見えないように隠してるんです。私、よく怪我もするし、ガーゼ貼ってても誰も不思議には思いませんよ。」
「悪かった。」
「いいですよ。私はあの時殴ってくださいって言ったんです。顔をグーで殴られていたら今頃顔が腫れてましたし。まぁ、吸い跡が残った程度で済んだから。」
「俺がこのはの顔を殴る訳ないだろ。物騒な事言うなよ・・。」
「まぁ、そーゆー事ですから気にしないでください。」
「俺は、このはを取られたくないんだ。だからその。吸い跡つけてればこのはに手を出す奴も減るかと思って。だから。俺以外の男に目移りしないでくれよ・・・。」
「私は、イケメンを眺めてるだけで満足するタイプです。イケメンは鑑賞するものなんです。私は勉強と仕事の両立でいっぱいいっぱいです。あ、それと桜華様のご機嫌を取ることにも手を焼いてます。だから忙しくて彼氏を作る余裕もないですし、彼氏を作りたいとも思いません。前にも言ったでしょ。貴族と違って平民の私達がお相手選びをするのはずっと後の話なんです。」




