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60・金の騎士と黒の騎士(第三者視点)

 近衛騎士団団長リュディガー・フォルトナー。

 対魔騎士団団長ジークフリート・ブライトクロイツ。



 どこまでも対照的な二人だった。



 金髪に翡翠の瞳のリュディガー、黒髪にオパールの左目のジークフリート。

 帝国の武人としては細身のリュディガー、帝国男性の理想を体現した長身に隆々たる体躯のジークフリート。

 貴婦人の心をときめかせずにはいられない華やかな貴公子のリュディガー、黒豹を連想させる雄々しいジークフリート。



 リュディガーは白を、ジークフリートは黒を基調とした騎士服をまとい、それぞれ腰に剣を佩いている。リュディガーの長剣が装飾の施された鞘に収まっているのに対し、ジークフリートの大剣は飾り気のない無骨な鞘。ここも対照的だ。



 模擬試合ゆえ、身につけているのは心臓を守る防具と籠手程度だが、二人の騎士の魅力を引き立てこそすれ貧相には見えない。



「……どういうつもりですか」



 満座の注目と歓声を浴びながら、リュディガーは前を向いたままつぶやいた。隣のジークフリートからの返事など期待できないが、問わずにはいられなかった。



『我らが生きて帰れたのは、殿下の偉大なるお力あってこそ。我ら対魔騎士団の感謝と忠誠はとこしえに殿下のものにございます』



 ガートルードの前にひざまずき、スカートの裾に口づけるジークフリートを、リュディガーは見ていた。通路の陰から。握り締めた拳の爪を、てのひらに食い込ませて。



 本来の騎士団の貴婦人たるコンスタンツェを無視する無礼に対し、義憤にかられたから――ならば、ここまで心が軋んだりはしない。

 コンスタンツェのふるまいはあまりに無神経だった。ジークフリートが貴婦人と仰ぎたくなくなるのは当然だ。



 だが、なぜ。

 なぜガートルードを。



「言っただろう? 『欠陥品』にはもったいないと思ったからだ」



 期待していなかった答えが返ってくる。

 はっと振り向いた先で、オパールの左目がリュディガーを射貫いた。



「むろん、愚かな皇后を止めるどころか増長させるばかりの皇帝にも……な。あの無垢で心優しい殿下には、清らかなお心ごと守れる者こそがふさわしい」

「……ご自分こそがその男だと、おっしゃりたいのですか」



 ふ、と情の薄そうな唇がゆがめられる。



「お前は?」

「え?」

「お前はどうだ。我こそはと、ほんの一瞬でも思わなかったのか?」



 我こそは。

 ……リュディガーがアンドレアスに代わり、ガートルードを守る男に……夫に?



「……馬鹿な」



 反論に力はなかった。



「姫君は……殿下は皇帝陛下の妻であられる。それ以前に女神の愛し子であられ、神使も付いておられるのですよ」

「形ばかりの妻だ。そして殿下は生身の人間だ。神の使いよりも、同じ人間の男を選ぶ可能性はじゅうぶんにある。……お前が選ばれる可能性も、な」

「貴方は……」



 兄弟も同然に育ったはずの従兄がなにを考えているのか、本気でわからなくなる。



 ジークフリートの父ブライトクロイツ公爵は、皇帝夫妻の失態と不人気に乗じ、帝位を奪い取ろうとしている。いや、先々帝の嫡男だった公爵だ。自分の正当な権利を取り戻そうとしているだけかもしれない。



 ジークフリートの言動は、明らかに父公爵に賛同するものだ。決して仲の良い親子ではなかったが、ジークフリートも公爵家を継ぐ者として育てられた身。やはり家と父親は裏切れないということなのか。



 だがその一方で、こうしてリュディガーを焚きつけるような真似をする。



 リュディガーの目はジークフリートの左手首に吸い寄せられた。銀糸の刺繍が施された白絹のリボン。ガートルードが手ずから結んだ、ガートルードの騎士の証……。



「言ったはずだぞ、リュー」



 ジークフリートはひたと視線を重ね合わせてくる。



「その目に見えるものだけがお前の世界のすべてではない。時には目を閉じ、己の感覚だけに従ってみろ。……俺は、そうしている」

「っ……?」



 どういうことだと問う前に、リュディガーとジークフリートは練兵場の真ん中にたどり着いていた。

 待ち受けていた審判役の騎士が数歩分の間を空け、二人を向かい合わせると、観客席から上がった歓声と熱気が練兵場を包み込む。



 模擬試合とはいえ、今から剣を交わすというのに、ジークフリートに気負った様子はなかった。全身からほどよく力を抜き、傍目からはだらけて見えるかもしれない。実際、『これだから対魔は』と言いたげに眉をひそめる観客もちらほら見受けられる。



 だがリュディガーは知っていた。これがジークフリートの自然体だということを。



 強張りのない身体は瞬時に戦闘態勢を取れる。まるで野生の黒豹のように。剣を学び始め、自分はそれなりに戦える才能があると思い上がり、何度高くなった鼻をジークフリートにへし折られたことだろう。



『全力でかかってこい。叩きのめしてやる』



 誘いかけてくるオパールの左目が、つかの間、リュディガーを連れ戻す。二人の従兄と過ごした懐かしい少年時代へ。



 あのころは、こんな日が訪れるとは夢にも思わなかった。従兄弟同士力を合わせ、帝国を発展させていくのだと信じて疑わなかったのに。



(どうして、こんなことに)



 忸怩たる思いに囚われそうになったリュディガーを我に返らせてくれたのは、ジークフリートの左手首に結ばれた白絹のリボンだった。



 視線だけを特別席にめぐらせる。レシェフモートの膝に乗せられたガートルードが、小さな両手を祈るように組み合わせ、今にも泣きそうな、心配そうな顔でこちらを見つめている。



 どちらの勝利を祈っているのだろう。その小さな胸に住まうのは、誰なのだろう。



 レシェフモートがガートルードの髪に口づけ、ふっと愉悦の笑みを浮かべる。出逢った時からあの神使はそうだった。はるかな高みからリュディガーを見下ろしていた。



 今もきっとリュディガーを……ガートルードをめぐり争うすべての人間を嘲笑しているのだろう。女神の愛し子が、女神の使いの腕の中から出て行くはずがないと。



(私は……)



「これより、偉大なる皇帝陛下の御名のもと、近衛騎士団団長リュディガー・フォルトナー卿と、対魔騎士団団長ジークフリート・ブライトクロイツ卿の対戦を始めます」



 審判役の騎士がよく通る声で宣言し、アンドレアスの方を見上げた。アンドレアスが頷くと、高く手を挙げる。



「……始め!」



 手が振り下ろされると同時に、リュディガーとジークフリートは剣を抜いた。おおっ、と歓声が湧く。



 リュディガーの剣は、騎士が用いるものとしては一般的な幅の長剣だ。遣い手の技量にもよるが、斬撃、刺突、打撃、どれも平均的にこなせる。



 一方ジークフリートのそれはリュディガーの倍ほどの幅に、やや短めの刃渡りの大剣だ。斬撃と刺突はほとんど捨て、打撃に特化している。下級の魔獣など、ジークフリートが大剣を一振りするだけで細かな肉片と化し、粉砕されるだろう。



 もちろんその分重量は格段に増えるため、自由自在に操るには相応の膂力を必要とする。並の兵士では重荷にしかならないそれを、ジークフリートは軽々と振るい、小手調べとばかりにリュディガーの肩を狙ってくる。



(相変わらず、とんでもない力だな)



 リュディガーを感嘆させるのは、ジークフリートが身体強化の魔法を使わず、本来の身体能力のみで戦っているところだ。



 身体能力を飛躍的に上昇させる身体強化の魔法は、現代の騎士なら習得している者が多い。リュディガーもその一人だし、ジークフリートも使おうと思えば使えるはずだ。



 だが身体強化の魔法は非常に魔力の消費が激しく、帝国人としてはめずらしく高い魔力量を誇るリュディガーでも長時間発動し続けるのは難しい。かの神使レシェフモートは帝国への道中、ガートルードの乗る馬車のみならず騎士団の馬数十頭に身体強化の魔法をかけ続けてくれたが、それは文字通り人並み外れた魔力があってこそだ。


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どんなに美少女だとしても6歳児に自分こそが伴侶に相応しいとか思う男達、キモすぎる…。
「その小さな胸の中に住まうものは…」 食っちゃ寝ライフのみ(笑) 二人ともがんばれー
誰、とは言わず欠陥品にはもったいないと言った後、皇后を止めない皇帝にも幻滅しているという事を言ってますが、つまりそれは世間と同じようにヴォルフラム皇子を指して言った言葉でしょうか。 私の見解としては…
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