幻獣と心の関わり編 告げられた本質覚悟の少女
美依を逃がしてしまった。あの笑顔に勝てない自分が憎い。
「魔衣、追えるか?」
魔衣の幻獣としての検知能力を持てば、まだ間に合うかも知れない。
「……ごめん。完全に気配を消されてて無理かな」
「そうか」
俺は誰が見てもわかるように肩を落としたのだろう。魔衣がもう一度謝ってきた。
「いいよ。取り逃がしたのは俺なんだし。それより今日はもう戻っていいよ、一人になりたい」
「うん。何かあったら言ってね」
そう言って魔衣はフェルと共に消える。いつの間にかデュランもいない。
まったく、相変わらず勝手な奴だ。
「春さん、ちょっといいですか?」
「悪いが、今は一人にして欲しい」
目が覚めて、戦闘音で俺たちを追ってきたんだろう。沙希がそこにいた。
「お願いです。いいですか?」
「……わかった」
俺は沙希の真剣な眼差しに負けて、家の中で話を聞くことにした。
部屋には当然俺達 二人しかいない。場所はリビングで、木の相変わらず木のいい匂いがする家だ。
俺はソファーに座り、沙希はその正面のソファーに座る。
「話ってのは、美依の事なんだよな?」
美依と一番親しいわけだし、先に話していたから、何かしっているはずだ。
なにより理由もなく美依が沙希に会いに来る訳もない。その辺を何か知って、話してくれるのだろうか。
「はい。美依さんのことと、あとは、そのお兄さんと……春さんの今の状況についてです」
「ん? 俺の今の状況って、何か悪いのか?」
特に何か以上もない。メディカルチェックも、元幻獣使いの精神チェックをしていた母さんに支店もらったばかりだ。何ら問題ない。
「まずは美依さんから。幻獣化の進行に関してですが、何かしらで抑えているようですが、進行自体は止まっていないに見えました」
「……というと?」
「獣のような耳と尻尾を生やしていました。狼神種系の幻獣使いの進行に見える、典型的な進行です」
そんな者が生えていたのか。だから普段しないローブなんてものを羽織っていたのか。
「それってどのくらいの進行段階なんだ?」
「そうですね。まだ人の体を保ているのはだいぶ初期段階の方ですが、美依さんは腕の進行も進んでましたし、瞳も獣のような鋭いものになってました。……恐らく感覚系や身体的構造。嗅覚など身体能力もそれに特化したものになっているかと。それにあの戦闘で見せた力は、飲まれていないにしても、それになりに最終に近い感じでした」
つまり危険か。だとしたら、あそこで無理やり押し切って戦闘したのは、かなり不味かったな。
「次に、美依さんのお兄さんに関してのことです」
それは是非とも聞きたい。
俺と同じ拳銃と幻獣で、美依があそこで尊敬している人物だ
「結論から言いますと、彼は恐らく生きてます」
「何!?」
思ってない答えだった。
美依の兄が生きているなら、それは大きな希望だ。兄なら美依を説得出来るかも知れない。
「さらに。美依さんは、お兄さんと共に行動しています」
「それはつまり、美依は安全ってことか?」
兄さんのところにいるなら、美依は大丈夫だろう。
なんだよ、あんな事言っておきながら、結果的にただ兄に会いにいあっただけか。
「いえ。その逆です。危険な状態です」
危険。なんでなんだ。兄のところにいれば、兄がしっかりと見てくれるんじゃないのか?
「ずっと隠していたんですが、美依さんには女王としての力があります」
女王? 俺は何を言っているのかわからない。
そんな事急に言われても、どう返せばいいんだよ。
「まず春さんには、女王について話をしないといけないですね―――」
沙希は長く古い話を始めた。
幻獣と人は、古くから争い続け、しばらく経つと大きな全面戦争になり、それが終わるとしばらくはでてこない。
そんな風にしていままでの年月を過ごしていたらしい。
そして最近といえば古いかもしれないが、人類が明確な文明を築いてから引き起こされた初めての全面戦争。最後の災害と言われたあの戦争だ。
その戦争の前の戦争が数百年も前だったそうだ。その前に起きている戦争は、どれも人間が自分勝手に起こした、同種どうしの戦争ばかりだそうだ。
そして世界が一定の平和を保ちつつあったその矢先に、幻獣が再びその力を現代に見せしめ出した。
忘れていた、忘れ去られていた戦争の怖さ、圧倒的に翻弄される人間側。そんな中、幻獣使いが現れて、本格的に戦い始めたらしい。もちろんその中には美依の兄もいた。
そして戦争の終結は、三つの選択しで決まっていた。
一、人間側の敗北。
二、幻獣側の敗北。
三、女王の暗殺
女王の命を奪うことで、その戦争は、指揮系統兼力の源である女王が死ねば、幻獣側はその勢いを殺され、人間側は一気に押し切れるらしい。
女王が幻獣とどんな関係なのかは今だ解明されていない。
「――その女王が美依!?」
「はい」
つまり、美依は俺に迷惑のかからないように、自分の存在とこれからを考えた末の結果ってことか。
なんだよそれ。結果自分勝手じゃんか。
「でも、すぐに戦争は終結しなかったって事は、女王は逃げ続けていたっことだよな」
「いえ。それもそうなんですが、女王には、必ずその付き人にもなる守護者という守り人がいました」
話に聞くと、その守護者は常に女王の隣にいて、絶対的な力で周りを翻弄して、守護してたらしい。
「そして春さんの話になります」
「お、おう」
なんか、ここまで来ると、なんとなく予想はできる。だけどその予想が外れていてほしいとも、的中して欲しいとも思う。
「なんで自分は、他人の幻獣を操れるのかって、疑問に思った事ないですか?」
「それ、美依も俺が他人の幻獣使ったことに驚いてたけど、何?」
確か、普通は使えないはずだといか。
「そしてなぜ春さんは、他人にはできない。創意変換が出来ると思います?」
ああ、この流れは、確実に……。
「春さんは、守護者だからです」
そして言い渡された、俺の力の正体。
「美依さんのずば抜けた戦闘センスと、春さんの飛び抜けた才能。二人は幻獣達に選ばれたんです」
そしてはっきりもう一度断言された。
「そうか……俺が。ところで、なんで沙希はそんな事知ってるんだよ」
「案外驚かないんですね。……私がこの話を知っているのは、私が幻獣達と話をできるのと同時に、美依さんのお兄さんに教えてもらったからです。なぜか彼はその辺の話に詳しかったんです」
美依の兄は、一体何者なんだろうか。
「それで、この話と、美が依女王であって兄といる事のどこに危険があるんだ?」
「お兄さんは、恐らく美依さんをこの戦争に利用しようと考えています」
「戦争に利用!?」
つまり、美依を幻獣の女王として育てて、人類を滅ぼすてきな?
「恐らく、春が今考察なさった事であっていると思います」
「でもなんで……兄妹なのに」
「恐らく、今の彼にはそんな些細な事は関係ないんだと思います」
美依があんだけ慕っていることに、その感情に漬け込んでいるってことだよな。
考えただけで、全身の血が沸騰しそうなほどに怒りの感情が全身を覆う。
あんだけ心配して、尊敬して、大好きな人に裏切られたら、美依の心はもう持たない。
もう戻っれ来れない。
「そうなる前に……手遅れになる前に俺があいつを探し出す。俺もう行くよ」
そう言って玄関まで急いで行き、外で魔衣を呼んで、フェルを召喚した。
もちろんフェルに乗って帰るつもりだ。
「ありがとな沙希、今度みんなでご飯でも行こう」
俺は沙希に別れを告げる。
「はい、喜んで。……それと、もう一つ、私のワガママを一つ聞いてくれませんか?」
沙希が俺に一歩歩み寄る。
そしてその横には、母である幻獣が降り立つ。その姿はいつみても寛大で大きい。
「改めまして、東雲沙希と、私の母こと、パートナーのライリです。不束ものですが、どうか春さんの戦闘に同行させてもらいませんか?」
自己紹介と同時。彼女の手はライリに触れ、その姿を変えて、彼女の身長よりも少し長い、銀色のハルバートへと変化した。
「いいのか?」
「はい! 覚悟は決めました。もう守られるだけの私じゃないです!」
本来幻獣との契約をしない種族の彼女が契約しや事自体が、覚悟の証拠だった。
「わかった。よろしくな沙希」
俺はフェルに乗ると、沙希にその手を差し出した。
「はい! よろしくおねがいします!」
沙希がやっと加入です! また一段と賑やかになりますね!




