第5話 初めての共同作業①
得物は短いが。
探索再開後、少々不満そうにそう言うと、ロットは魔法を使わず、短剣で戦闘を始めた。
魔法を使っていたときも圧倒的な実力を感じたエメリーヌだったが、近接戦闘はわけが違った。
(これが、本当の白金級冒険者……)
近接戦闘であるがために、身体の動きの洗練さがはっきりとわかる。
とにかくといっていいほど、無駄がない。剣撃の一つ一つが、すべて次の行動を意識したものになっていて、それでいて常に自分へと気を向けてくれている。
(一緒にいて、本当に安心する)
同じような職種の冒険者とは、今まで何人も組んできたが、こんな風に感じたことは初めてだった。
これならば、本当に何もしなくていいのではないかと、そう思えてしまう。
「さて、この階層を突破すれば今日の目標は達成だな」
あっという間に第三階層を突破したところで、ロットが立ち止まる。
完全に一人で戦ってきたというのに、まったく疲れというものが感じられない。むしろ、生き生きしているとすら感じられる。
「そういえば、まだ聞いていなかったな。Cランクの迷宮で探索経験があると言っていたが、最高で何階層まで進んだ?」
「三階層です」
「――そうか」
であるなら、ここから先は未知数というわけだな。
確かめるようにロットは呟くと、柔らかい笑みを向けてくる。
「この辺で、君の実力を見せてもらおうと思うのだが、どうかな?」
「――へ……?」
突然の提案に、一瞬だけ頭が回らなかった。
しかし、すぐにロットの提案が至極当然のものだと気づく。
ここまで本当に何もしていなかったせいで、すっかり自分が戦闘に参加するという意識が消えてしまっていた。
「やはり難しいか――」
「いえ、是非参加させてください!」
エメリーヌとしても、ロットの役に立ちという気持ちは十分にある。
というより、件の冒険譚では、剣士と神官は共に協力して各階層を突破している。内容に沿うことを望むなら、戦闘に加わらないという選択肢など存在しない。
「本当に大丈夫か?」
「大丈夫です! ロットさんの動きもたくさん見せてもらったので、ちゃんと頭に入ってます!」
「――そうか、では一緒に戦ってもらうとしようか」
第四階層の探索を開始し、手ごろな魔物をロットが探す。
「あいつがちょうど良いだろう」
「えっ――」
ロットが指を差した魔物に、言葉を失った。
ロットより三まわりも大きい体躯をした、虎柄の猪型の魔物。少なくとも、エメリーヌは一度もあのような魔物と対峙したことはない。
加えて、通常の猪型の魔獣でも、かなりの苦戦を強いられた記憶が色濃く残っている。
「あれは、タイガーボア、ですよね?」
「ああ。良く知っているな」
「ディアールの第一階層で出ると、文献で見ましたから」
どうしてロットがタイガーボアを相手にしたのか。理由はディアールで相対するからに他ならない。
「それで、私はどうすれば?」
「作戦は至って単純だ。リーヌがやつの突進を防御幕で防いで、その隙に俺が仕留める」
ロットの言った作戦は、今まで他のパーティーでも散々やってきた作戦だ。
それでも、すぐに返事を返すことができなかった。
「どうした?」
「いえ、その……防御幕で防ぐことができるかと……」
今までタイガーボアレベルの攻撃を防いだことはない。防御幕は受ける衝撃が強ければ強い程、展開される時間が短くなる。
果たして、ロットが仕留めることができる隙を稼ぐことができるだろうか――。
「リーヌ。防御幕の奇跡は何回使える?」
奇跡の使用回数は、一日の間で決まっている。神官として過ごす年月が長ければ長い程、その回数や奇跡の種類も増えていく。
「四回です。今朝、使ったので残りは三回です」
「なら、三重に防御幕を展開して向かい打てばいい。できるか?」
防御幕を複数重ねて展開することは可能とされている。エメリーヌも何度か鍛錬の一環として試したこともある。
確かに、防御幕の重ね掛けを使えば、タイガーボアの一撃とはいえ耐えられる可能性は十分高い。
不安があるとすれば、タイガーボアの動きに合わせて奇跡を発動させることができるかどうか。
普通のボアは直線軌道で攻撃してくるが、タイガーボアは虎のように縦横無尽に掛けながら、凶悪な牙で敵を貫こうとしてくるという。
(大丈夫、私ならできる。それに――)
こんなところで躓いていては、ディアールの攻略など夢もまた夢だ。
「できます」
「――そうか」
力強く頷いて見せると、ロットは微笑みかけてから前を向く。
「では、行くぞ」
「はい……っ!」
エメリーヌが声を上げたのを合図に、ロットがタイガーボアへ向かって地を蹴った。
二人にとって、初めての共同作業が始まった。




