第3話 今さらながら
ディアールでの求婚という、エメリーヌの願いを叶えるために、ロットはすぐに計画を立てた。
「今日はリンツオの迷宮を二人で探索しよう。Cランクだが、経験はあるか?」
「両手で数えられる程度ですが……」
「なら、大丈夫だな」
計画を立てるにあたり、二つの軸を定めた。
まず一つ目は、ロットとエメリーヌ二人の連携の強化。
ロットの実力は確かだが、一人でエメリーヌを護衛するとなると双方が実力を正確に把握しておく必要がある。
Cランク、Bランクと順番に難易度の高い迷宮に挑み、Aランクのディアールでも問題なく二人で行動できることを目指す。
二つ目は、ロット自身のリハビリ。
単独で探索する分には現状でも問題はないが、護衛の役割をこなすとなると、少しばかり不安が残る。
ロットとしては、エメリーヌとの連携を極めるための探索とは別に、単独で高難易度の迷宮に入ることで、実力を全盛期の状態に近づけておきたかった。
「それでは行こうか」
滞在していた街から歩いて移動すること一時間と少しで、地下道の入り口を連想させる地面に作られた下り階段にたどり着いた。
この階段を下りたところに存在する円状の転移装置――ポータルを使うことで、リンツオの迷宮へと移動できる。
階段を下り、ポータルの上へ乗ろうとするロットの言葉に、エメリーヌは小さく頷く、彼に続いてポータルの上に乗った。
「ここが、リンツオの迷宮ですか……」
辺り一帯が若草色の草原で、所々に傾斜があって先までは上手く見通せないようになっている。
「目的の再確認をしようか」
「目指すのは、全十階層ある中の第五階層、ですよね」
快活なエメリーヌの回答に、ロットは小さく口角を上げて頷いた。
エメリーヌが目指すディアールの絶景は、第五階層にある。
今回、第五階層が目的地となっているのも、実際に階層を四つ突破するという予行練習を兼ねてものだ。
迷宮のランクに違いはあるが、ランクは出現する魔物や一階層当たりの広さ、各階層の地形やギミックによって決まっている。
今回の計画でエメリーヌと共に探索する迷宮は、一階層当たりの広さがディアールと比較的近いものをロットは選んでいた。
(大丈夫かしら……)
明るく振る舞っているエメリーヌだが、当然、不安はある。心なしか、普段よりも心臓の鼓動がうるさい。
ロットの実力を疑っているわけではない。疑っているのは、自分の実力。
Cランクの迷宮に足を踏み入れること自体は初めてではないが、最低でも五名以上でパーティーを組んでの探索だったので無理はない。
と、そんな不安を抱えて最初の一歩を踏み出したのだが……。
「嘘……」
エメリーヌより少し背丈の高い、剣や盾、鎧を装備した青色のトカゲ――通称リザードマン。
この魔物に限らず、Cランクの迷宮で相対する魔物は、かつてエメリーヌが所属していた五人パーティーなら、全員でかかって倒すのがやっとの魔物だった。
それをロットは、軽い詠唱と共に放った剛炎球だけで、一瞬にして消し炭にしてしまったのだ。
「どうした……?」
「い、いえ、何でも……」
自分の抱いていた不安は、本当にただの杞憂だった。むしろ、Cランクの迷宮レベルで自分が足を引っ張るのではと――ロットに影響を与えるのではと考えていたことが、本当に失礼だった。
(この人、すご過ぎる……)
エメリーヌは、自分の想像力の至らなさに、内心顔を赤くした。ロットの――白金級の冒険者の実力は、彼女の予想をはるかに上回っていた。
(というか、この人があと一月もしたら私に求婚するの……?)
事が急ピッチで進んできたこともあってか、あまり深く考えてこなかったが、ここでようやく実感が現れてきた。
(一度、お宿に戻りたい……)
そして、すぐに寝台へと潜り込み、誰にも見られない中で、頬を思い切り緩ませたい。
「――ヌ、リーヌ!」
「――っ、は、はい!」
気づけば、ロットとの距離が人二人分くらい開いていた。
「――っ、す、すみません。すぐに行きます!」
まずは、迷宮の探索に集中――惚気るのは宿に戻ってから。
舞い上がりそうな気持ちを抑えながら、エメリーヌはロットの下へかけていった。




