第14話 知りたいんでしょ?
ロットがAランクの迷宮へ鍛錬に向かっている間、エメリーヌとイーナは別のCランクの迷宮へと訪れていた。
「リーヌ。今、右側への警戒が薄かった」
「すみません……っ」
「高ランクの迷宮は気配を察知しにくいから気を付けないと」
「はい……っ」
常に空が曇った、灰色系の岩が多い丘陵地帯の構造で、視界がおせじにも良いとはいえない状況で、イーナは容赦なくエメリーヌにダメ出しをする。
魔術師と神官はともに後衛職ということもあり、エメリーヌが依頼したのは後衛職としての周囲への警戒。
普段からロットに警戒の方法については教えられているものの、ロットの専門は前衛であり、後衛特有の知見を得ていて損はないと思ってのことだった。
(想像以上に、すごい……っ)
エメリーヌの思っていた通り、ロットといるだけでは得られない視点の数々をもらっている。
これなら、少しではあるがロットの負担を減らすこともできるだろう。
「さて、そろそろ折り返そうか」
探索を始めて約二時間が経ち、第三階層へと足を踏み入れたところで、イーナがそう言った。
「わかりました」
「じゃあ、少し休憩したら戻ろうか」
「はい」
二人で安全地帯にあたるポータル付近に腰を下ろす。
「突然だけどさ。リーヌはロットのこと、どう思ってる?」
「普通に、お慕いしていますかが……」
「そういう感じじゃなくてさ――」
少し苦笑を浮かべながらも、声色は低く真剣なままイーナは続けた。
「どうしてあの年まで独身なのかとか、気にならない?」
「――っ、それは……」
「やっぱり気になるんだ?」
「――」
エメリーヌは、何も答えることができずに押し黙る。
当然、ロットの生い立ちがまったく気にならないといえば嘘になる。
普通に考えて、ロットのような傑物が一人身でいる方が不自然だ。
しかし、それをいってしまえばエメリーヌのまた同じである。
そのため、あえて深くは考えないようにしていた。
「私も、人のこと言えませんので」
「ふ~ん。でもさ、それでも気になるんでしょ?」
「べ、別に私は――」
「私は知ってるし、リーヌが望めば教えるよ?」
「そ、それは――」
――あ~、面倒くさい。
そんな意味合いが込められているように感じられる大きなため息をついてから、イーナは意地の悪い笑みをエメリーヌへ向けた。
「知りたいから、私と出かけたんでしょ?」
「そ、そんなことは――」
「本当に? まったくその気がなかったって言いきれる?」
「――っ」
言葉を失ってしまったことが、そのままエメリーヌの心境をそのまま映し出してしまっていた。
「素直じゃないな~」
「で、ですから私自身が――」
「もういいって、そういうの。この際、はっきり言うけどさ――」
煮え切らないエメリーヌの態度に、ついにイーナの表情から笑みが消えた。
「元パーティメンバーとして、何も知らない人にロットと一緒にいて欲しくないの」
「――っ!?」
「だから、聞いてよ」
ロットの過去が複雑なものであることは、容易に想像がつく。
知りたいと思っている気持ちがある反面、僅かながら知りたくないと思っていたのもまた事実だった。
しかし、イーナにここまで言われては、もはや拒絶を続けることはできなかった。
「わかりました。教えてください、ロットさんのことを」
「ありがとう。じゃあ、始めようかな」
エメリーヌの答えに、満足そうに頷いてから、イーナはゆっくりと語り出した。




