第11話 旧友との再会
昔いたパーティーメンバーの一人が、何の前触れもなく目の前に現れた。
パーティーを組んでいた頃、それは今のロットにとって辛い思い出を含んだ時間であり、を知る人物との出会いに、驚きがなかったといえば嘘になる。
しかし、それでもイーナに対するロットは至って冷静さを保てていた。
「少し老けたか?」
「そういうあなたは、白髪が増えたんじゃない?」
「四十手前だからな」
「じゃあ、私もそういうこと」
「それで、何の用だ?」
イーナの紫色の瞳が、真っすぐにロットの落ち着いた瞳に向けられる。
「別に用はないよ。ただ、顔が見たかっただけ」
十年以上も音信不通だったんだからと、不満そうにイーナは付け加える。
顔を見たかったというのは、嘘ではないだろう。
含みがあるように見えて、大して何もないというのがイーナという人物だ。
「なら、これで十分だな」
「待ってよ、本当に相変わらずなんだから」
帰路につくロットの横に、イーナがそそくさと並び立つ。
「どうして俺の居場所がわかった?」
「ああ、それはね――」
暴漢に等しい元パーティーメンバーから助けたこと、それからロットの居場所やお互いの馴れ初め云々などを、催眠魔法で聞き出したこと。
何一つ包み隠すことなく、悪気を感じていないかのような調子で、イーナはエメリーヌとの間にあったことを語った。
イーナが話を終えると同時に、ロットがその場で足を止める。
「あれ、やっぱり怒ってる?」
「半分」
素直に、外出中のエメリーヌを助けてくれたことには感謝しているが、催眠魔法で色々と聞き出したことはいただけない。
自分の居場所だけならまだしも、エメリーヌと行動をともにしている理由を聞かれたのは、かなり都合が悪かった。
「一つだけ聞いていい?」
「リーヌのことか?」
「そう。まさかとは思うけど、エリナと重ねたりしてないわよね?」
「――ああ」
イーナと同様かつてのパーティメンバーの一人の名前を受け、否定するまでに時間がかかった。
即答できなかったという事実が、イーナの表情を懐疑の色に曇らせる。
「本当に?」
「ディアールに憧れているところ以外は、まるで別人だ」
「似ている部分が一番重要なんじゃない」
「とにかく、俺がリーヌにエリナを重ねるということはない」
「ふ~ん。じゃあこのこと、リーヌに言ってもいい?」
一瞬、表情を曇らせかけたところで、ロットは平静を保つ。
「なぜそのようなことを――」
「逆に聞くけど、何も知らないあの子と結婚できるの?」
「――っ」
別に、エメリーヌを騙しているというわけではない。
それでも、少なからず過去に後ろめたさを持っているのは事実であって、何もエメリーヌに知らせず結ばれるというのは、確かにロットとしては受け入れ難い部分があるのは確かだった。
「それは、俺の都合だ。リーヌからすれば、わざわざ相手の過去を知りたくはないかもしれないだろ」
「彼女は知りたいと思うタイプだと思うけど」
「だったら、なぜ聞いて来ない」
「それはロット自身が一番わかってるんじゃない?」
これから結ばれようとしている相手のことを、より深く知りたいと思うのは不思議なことではない。
ロット自身もそれは変わらないが、自分の境遇を考えると、エメリーヌの過去に安易に触れることはできなかった。
もしかすると、エメリーヌもまたロットと似たような感覚なのかもしれない。
「それで、言っていいわけ?」
「――好きにすればいい」
相手のことを知りたいと思うのと同時に、知って欲しいと思うのもまたごく自然なことに他ならない。
「じゃあ、言うからね。本当にいいんだね?」
「何度も同じことを言わせるな」
変わらない態度に、イーナは「あっそ」と素っ気なく答えてから、ロットの前に出る。
そして、歩く速さを更に上げようとしたところで、ロットに素早く腕を掴まれた。
「どこへ行く」
「え、普通に街に戻るんだけど」
「一人でか」
「そうだけど――」
「そんなことが許されると思っているのか?」
「――っ」
ロットの冷たい声色に、思わずイーナは足を止める。
「とりあえず、俺たちの泊っている宿までついて来い」
「ど、どうしたの、本当に……」
「お前には、エメリーヌにするべきことがあるだろう?」
「もしかして謝罪? それなら暴漢から助けたことでお互い様ってことで――」
「お互い様……?」
ロットの脳裏には、宿の部屋でエメリーヌが顔を青ざめさせながら、自分の身を案じてくれている様子がはっきりと映っている。
不安を与え続けているという点で、まったくもってお互い様などということはないと、ロットには断言できる。
「さて、リーヌが待っている。急ごうか」
「急ぐって、ちょっと――」
お互いの位置が前後逆転し、ロットが物凄い速さで地面を蹴り、しどろもどろになりながら必死にイーナがついて行く。そして――。
「――っ、ロットさん」
予定より少し早い正午前に宿へ戻ると、予想通り不安の色に染まった顔で、エメリーヌが出迎えた。
「ただいま、リーヌ。心配をかけてすまなかった」
「いえ、そんな……それより、そのお方は……」
「ああ、彼女が随分と迷惑をかけたらしいかなら」
平然とした態度で、ロットは手に持っていた意識を失いかけているイーナを、エメリーヌの前に突き出した。
「ロット……私じゃなかったらとっくに――」
「そんなことより謝罪だ」
ロットの希薄に推され、現状作れる最高の笑顔をイーナは浮かべた。
「その、昨日はごめんなさいね。ちょっとやり過ぎちゃった」
「いえ、あれは私の不注意でって――」
エメリーヌが最後まで言い終わる前に、イーナはその場で気絶した。
「あの、ロットさん……」
「ベッドの上にでも放置しておけばいい」
普段の優しい面とは違った武骨なロットの態度に、エメリーヌは戸惑いと安堵と色々な感情を含んだ笑みを浮かべるのだった。




