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霧に覆われた森は月を見つける  作者: 華ノ月


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8.偽りの幸せ


 今日も智己は莉愛の髪を櫛で梳かしながら、愛おしそうに莉愛を抱き締める。


「ずっと傍にいるからね……。だから、安心してね、ほのか……」


 智己が微笑みながら莉愛を抱き締めたままそう言葉を綴る。


 その時だった。


「うん。ずっと一緒にいようね、お兄ちゃん」


 莉愛が微笑みながらそう言葉を綴り、智己を抱き締め返す。


「ほのか……」


 智己がどこか驚いたようにそう声を発する。


「ずっと一緒だよ、お兄ちゃん……」


 莉愛が智己に笑顔を向けながらそう言葉を綴る。


「あぁ……ずっと一緒だよ……ほのか……」


 智己がそう言葉を綴りながら更に莉愛を優しく、強く抱き締め返す。


「ずっと一緒だ……ほのか……」


 智己が小さな声でそう声を発した。



 莉愛はある作戦を実行に移した。


 その作戦は智己の莉愛に対する警戒心を解くことだった。鎖を付けられたままでは何もできないため、まずは智己の警戒心を解いて鎖を外してもらう……。


 そのため、莉愛は智己が部屋に訪れるたびに、甘えたり、笑顔で「大好き」と言う言葉を頻繁に使い、少しずつ警戒心を解かせていった。


 そんな日々が続いたある日の事、智己の安心している表情を見て、莉愛は思い切って口を開いた。


「ねぇ、お兄ちゃん。コレ、まだ付けてなきゃダメ?」


 莉愛が困ったような笑顔を見せながら、鎖を手に取り、智己にそう尋ねる。


 智己はその言葉に悩んでいるような表情を見せた。


「う~ん……。無理しなくていいよ?不安ならまだ付けていてもいいし」


 莉愛が笑顔でそう言葉を綴る。


 瞬時にここで無理に鎖を外すことをお願いしたら危険な予感がしたため、莉愛はあえてそのような言葉を綴った。


 そして、その後も莉愛は「兄が大好きな妹」を演じ続けた。


 偽物の幸せが続く……。


 次第に智己も安心してきたのか表情がどんどん和らいでいき、鎖は智己の方から自然と外してくれた。


 しかし、莉愛はすぐに行動には移さずに、「兄が大好きな妹」を演じ続けた。



 そして、ある日の夜、莉愛はこの状況から抜け出すためにある事を実行することにした。




「………ねえ、お兄ちゃん」


 リビングのソファーでくつろいでいる智己に莉愛が後ろから抱き付くような形で声を掛ける。


「ん?」


 智己が読んでいた本を閉じて、莉愛に笑顔で返事をする。


「今日、夕飯に日本酒に合うものを作ったんだよ!お兄ちゃん、日本酒好きでしょ?今日は久々に飲んでも良いんじゃない?」


 莉愛が微笑みながらそう言葉を綴る。


「でも……」


 その言葉に智己が戸惑う。


「私がお酌してあげるね!だから、折角だし飲んでも良いんじゃないかな?」


 莉愛が智己に抱き付きながら笑顔でそう言葉を綴る。


「じゃあ、そうしようかな……」


 智己が微笑みながらそう言葉を発すると、ソファーから立ち上がり、いそいそと日本酒の準備を始める。



 莉愛はキッチンの棚の中に日本酒がある事は確認していた。


 そして、日本酒を飲むと智己が寝てしまう傾向があるのも知っている……。



「………はい、どうぞ」


 今日はリビングでお互いが並ぶようにソファに座って夕飯を取ることにした。


 莉愛が徳利を手に取って智己が持つおちょこに日本酒を注ぐ。


「ありがとう、ほのか」


 智己が嬉しそうに声を発して、日本酒を飲み始める。


 今日の夕飯は智己の好きな和食のメニューが並んでいた。


 金目鯛の煮付け、椎茸の煮物、茶わん蒸し、そして、智己の一番のお気に入りである明太子が入っただし巻き卵……。


 智己が美味しそうに料理を頬張りながら、莉愛の注いでくれる日本酒を嬉しそうに飲む。


 そして、料理も殆ど食べ終わり、日本酒も莉愛が何度もお酌をしたので、空になりかけていた頃だった。


「………う~ん………」


 日本酒が回って眠気が来たのか、智己が眠たそうな声を出す。


「お兄ちゃん、大丈夫?」


 莉愛がウトウトしている智己に心配そうに声を掛ける。


「お兄ちゃん、ここで寝たら風邪を引いちゃうからお布団で寝よう?」


 莉愛が智己にそう声を掛けるが、智己はかなりフラフラしており、部屋まで歩ける状態ではなさそうだ。


「………せめて、ソファーで横になるといいよ」


 莉愛がそう言って、智己をその場で横になるように促す。


「う~ん……」


 智己がソファーで横になり、莉愛は智己の足をソファーに乗せて、別の部屋からタオルケットを持ってくると、智己の身体にそっと掛ける。


「ほのか……」


 智己がうっすらとした目をしたまま莉愛を見つめてそう声を発する。


「大丈夫?お兄ちゃんが寝るまで傍にいるからね。ゆっくり寝るといいよ」


 莉愛がそう言って智己の片手を優しく握る。


「ほのか……ずっと……一緒だよ……」


 智己が寝言のようにそう言葉を紡ぐ。


 しばらくして、智己の口から静かな寝息が響く。


 莉愛は完全に智己が寝たことを確認すると、そっとその手を解いてリビングを音をたてないように出て行く。


 そして、音をたてないように玄関を開けると、静かに家を飛び出して行ったのだった。




***


「………はぁ……はぁ……はぁ……」





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― 新着の感想 ―
ここまで読ませていただきました。莉愛を「ほのか」と勘違いしている智己、どうしてそうなってしまったのか、気になりますね。 莉愛は自ら脱出作戦を…このままうまくいくといいのですが。続きも楽しみに、これか…
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