4.新しい生活
智己が口を開いて、なぜここに訪れたかを語り出した。
智己の話によると、育ててくれた両親は本当に愛情をもって育ててくれていたので、育ての親に悪いと思い、実の親に関しては一切調べなかったという事だった。
だが、母親は身体が弱くて数年前に亡くなり、父親も母親の後を追うように亡くなったという事だった。
今はその家を手放してマンションで一人暮らしをしているのだが、家族を失い、一人になって、ふと実の両親の事が頭をよぎった。
そして、自分の実の両親がどんな人なんだろうと思い、調べたところ、実の両親の事や莉愛の事を知ったという事だった。
それと同時に、莉愛が両親を失い天涯孤独になったことも知ったということだった。
「………なので、良かったら僕と一緒に暮らしませんか?」
智己が一通り話し終えて笑顔で莉愛にそう告げる。
「ちなみに、莉愛さんの親族の方にはこの話は話しており、了承も得ています。退院と同時に僕のマンションで一緒に暮らそうと思っているのですが……」
智己が恐縮しながらそう言葉を綴る。
莉愛はその話を呆然としながら聞いていた。
実の兄が本当にいたという事実……。
その兄が独りになった私を引き取りたいと言ってくれているという事……。
家族をすべて失ったわけではないという事……。
「うっ……うっ……」
莉愛が涙を流しながら嗚咽する。
もう一人で生きていかなきゃいけないと思っていたので、兄が迎えに来てくれたという事がたまらなく嬉しくて、どこか安心したのか次から次へと涙を流していた。
「これからよろしくね、莉愛……」
智己が微笑みながら莉愛の頭を撫でる。
こうして、莉愛は退院と同時に智己と暮らすことを決めたのだった。
***
「………じゃあ、行こうか」
智己が車に莉愛の荷物を入れ終わると、莉愛に笑顔でそう声を掛ける。
そして、莉愛は助手席に乗り、智己の運転でマンションに向って走り出した。
「莉愛の部屋に一応一通りは家具を設置しておいたから足りないものがあったら言ってね」
「ありがとう。お……お兄ちゃん……」
智己の言葉に莉愛が緊張しながらそう言葉を綴る。
実の兄だから「智己さん」と呼ぶよりは「お兄ちゃん」と呼ぶべきかもしれないと思い、使ったことの無い言葉の為、そう呼んでいいか分からなくなる。
「莉愛……」
智己が莉愛の発した言葉に驚きつつも嬉しそうな顔をする。
「ダメ……だったかな……?」
莉愛がちょっと悲しそうな顔をしながら「お兄ちゃん」と呼ぶのがまずかったのかも知れないと感じる。
「全然。むしろ嬉しいよ。ありがとう」
智己が微笑みながら嬉しそうにそう言葉を綴る。
その言葉に莉愛は心の底から安心して安堵の表情をした。
やがて車は一つのマンションに入っていき、荷物を持って部屋に入った。
「………わぁ~!」
莉愛が部屋を見て感嘆の声を出す。
智己が莉愛に準備した部屋は六畳くらいあるフローリングの部屋だった。
中心には小さなローテーブルと可愛らしい座椅子が設置されており、部屋の端には勉強用の机に服を入れる白が基調の箪笥。そして、白色が基調のベッドが設置されていた。カーテンは女の子らしく淡いピンクのカーテンが設置されており、壁の白色と調和していてとても素敵な部屋になっていた。
「とりあえず、こんな感じで部屋を作ったんだけど、良かったかな?」
智己がちょっと照れながらそう言葉を綴る。
「ありがとう!お兄ちゃん!!」
莉愛が満面の笑みで智己に感謝の気持ちを伝える。
その嬉しそうな莉愛の表情に智己は安堵したのだった。
そして、兄妹の新しい生活が始まった。
莉愛はこの家から無事に高校に通う事になった。新しい制服に身を包み、智己に見せたら「とても良く似合うよ」と言ってくれた。
そして、智己は社会人かと思いきや大学生だという事に莉愛は驚きを隠せなかった。
智己の落ち着いた仕草や大人らしい雰囲気で莉愛は智己が二十代後半だと思っていたので、まだ二十一歳という年齢に驚いたのだった。
智己は大学で薬学部に通っているらしく、将来は薬剤師を目指しているという話をしてくれた。
またある時、こんな場面もあった。
「う~ん……。大分伸びてきたな~……」
莉愛が長くなった髪をいじりながらなそう声を出す。
「そろそろ切ろうかな?」
莉愛がそう声を発する。
その事をリビングのソファーで身体を丸めながらそんな事を呟いていた。
そこへ、智己がリビングにやって来て「どうしたの?」と声を掛けたので、莉愛は髪を切ろうかと思っているという事を話した。
「莉愛は髪が長い方が可愛くて似合うよ。だから出来ることならそのままでいて欲しいかな?」
智己が莉愛の頭を撫でながら慈しむように莉愛にそう言葉を掛ける。
「う~ん……。うん!じゃあ、このまま伸ばすね!」
莉愛が少し考えたのち、髪を切らないことを智己に伝える。
その言葉に智己は嬉しそうに頷いた。
智己との生活は本当に楽しく、穏やかな生活だった。
優しくちょっとカッコイイ素敵な兄との生活で、莉愛は両親の事を吹っ切ることが出来たのか、次第に笑顔も増えてきた。
新しい高校で友達も出来て充実した日々を送っていた。
休みの日に莉愛が智己にバイオリンの演奏を聴かせると、智己は「上手だね」と嬉しそうに拍手してくれた。
そんな幸せな日々を過ごしながら月日が流れていく。
そして、高校も大学も夏休みに入った。
しかし、その「幸せな日々」がある日を境に一変することになるとは想像がつかなかった……。
***
「……わ~ん!!遅くなっちゃった!!」




