3.現れた家族
ある部屋を片付けながら男がそう声を発する。
そして、最後の準備を行うためにスーツに着替える。
「あと少し……あと少しの辛抱だ……」
男が笑みを浮かべながら小さく言葉を綴る。
そして、男はスーツに着替え終わると、車に乗り込み、ある場所に向って車を走らせて行った。
***
「……これからどうしたらいいんだろう……」
莉愛が病院の敷地内にある花壇の場所に設置されたベンチに座り、空を眺めながらポツリとそう呟く。
空には白い雲が流れており、風が優しく莉愛の頬を撫でる。
(施設に行かなきゃいけないのかな……)
空を眺めながらぼんやりと考える。
でも、自分はまだ子供で誰も頼る人がいないとなると、施設に入るという方法しかないのかもしれない。
「はぁ~……」
自分が無力な子供であることを思い知らされて、ため息を吐く。
施設に入って、春から入学が決まっていた高校に行くことはできるのかとか、施設でうまくやっていくことが出来るのかとか、いろんなことが頭の中を駆け巡る。
そんな悶々とした思いを抱えながら莉愛は病院で日々を送っていた。
そんなある日の事だった。
莉愛が病室で本を読んでいると病室のドアがノックされた。
「はい」
莉愛が「どうぞ」と言うと、ドアが開かれて一人のスーツを着た男性が部屋に入ってきた。
(もしかして、施設の人かな??)
親族ではなかった上に、キチンとスーツを着こなしていたので、施設関係の人かもしれないと莉愛は感じる。
「こんにちは、初めまして」
男性が優しく微笑みながらそう声を発する。
「こ……こんにちは……」
やはり施設の人かもしれないと感じ、莉愛が少し緊張気味にそう声を出す。
男性が病室に設置されている丸椅子に座り、口を開く。
「僕は犬飼 智己と言います。信じられないかもしれませんが、僕は莉愛さんの実の兄に当たります」
「…………え?」
智己が発した言葉に莉愛は何を言われたのかが理解できなくて、呆けたような声が出てしまう。
「すみません。急にこんな事を言われても驚きますよね」
智己が頭を掻き、微笑みながら困ったような表情でそう言葉を綴る。
「あ……兄……?」
莉愛は突然の言葉にどう声を発したらいいか分からずに、呆然と固まっている。
「莉愛さんはご両親から息子がいたという話を聞いたことはありませんか?」
智己が申し訳なさそうな顔をしながら莉愛にそう尋ねる。
「えっと……」
莉愛が混乱している頭を落ち着かせながら、両親から聞いたことのある話を思い出す。
「……確か、まだお父さんとお母さんが結婚してすぐに男の子を授かったけど、生活が苦しくて育てる余裕が無かったから、子供をある夫婦に渡した……みたいな話は聞いたことがあります」
莉愛が過去の記憶を辿りながら、そう言葉を綴る。
確かに両親からは、莉愛の前に息子を一人授かったという話は聞いたことがあった。そして、その息子が大切だからこそ、お金の面で辛い思いをさせたくなくて、子供を望んでいた夫婦に息子を渡して、自分たちの代わりに沢山愛情を注いで育てて欲しい……という話を莉愛は確かに聞いたことがあった。
その後、両親は二人三脚で仕事を必死で頑張り、生活にも余裕が出てきた頃、莉愛が産まれて、沢山の愛情をもって育ててくれたのだった。
「……あなたが、その兄……ということですか……?」
莉愛が目の前にいる生き別れの兄を呆然と見つめながら、どこか信じられない想いでそう言葉を発する。
「はい」
智己が笑顔でそう返事をする。
「実は……」




