2.幸せな夢
男がテレビのニュースを見ながら、小さくそう声を出す。
男の口元は笑っていた。
ニュースは地域のニュースで、転落事故を起こした夫婦が二人とも死亡したというニュースだった。
「さて、次は……」
男がテレビを消してゆっくりとソファーから立ち上がる。
そして、男はある準備に取り掛かった。
***
「……ここ……は……?」
莉愛が病院のベッドの上でぼんやりと目を覚ます。
(何があったんだっけ……?)
ぼんやりとした頭で、何があったかを思い出そうとするが、なかなか思考が働かない。
その時だった。
――――ガラガラガラ……。
病室のドアが開いて一人の看護師が入ってくる。
「……あら、目が覚めたのね。良かったわ」
看護師がそう言って安堵の声を出す。
「大丈夫?無理も無いわよね。あんな事があったんだから……」
看護師が莉愛の血圧を測りながら辛そうな顔でそう言葉を綴る。
その言葉を聞いて、莉愛の頭の中に映像が流れ込む。
警察署の中にある霊安置室……。
布に包まれた二つの遺体……。
黒焦げになって死んでいた大好きな両親……。
「あ……あ……」
あの出来事が夢では無いことが分かり、莉愛が声にならない声を発しながら涙を流す。
「お父さん……お母さん……」
あれは現実の出来事……。
夢ではなく本当の出来事……。
大好きな両親が死んだ……。
バイオリンを受け取りに行く途中で事故に遭った……。
莉愛の中で言葉にならない思いが駆け巡る。
莉愛が静かに涙を流す。
受け入れたくない事実……。
でも、受け入れるしかない事実……。
莉愛はそれから数日、病院のベッドの上で動けずにいた。
そんなある日の夜だった。
莉愛が寝ていると大好きな両親の夢を見た。
両親が莉愛のバイオリンを聴いて褒めてくれる夢……。
そして、夢の中で両親が言葉を紡ぐ。
『莉愛は大切で自慢の娘だよ』
父親が莉愛の頭を撫でながら優しい笑顔でそう言葉を綴る。
『莉愛、私たちはずっと莉愛の事を愛しているわよ』
母親が莉愛を優しく抱き締めながら微笑む。
「……お父さん……お母さん……」
莉愛がそう小さく呟き、フッと目を覚ます。
莉愛の目にはうっすらと涙が流れていた。
「このままじゃ、悲しむよね……」
莉愛がベッドの上で起き上がり、朝日が昇ろうとしている窓を見ながら小さな声でそう呟く。
このままじゃいけない……。
大好きな両親が悲しむ……。
いつまでも泣いていたらダメ……。
前を向かないと……。
莉愛の瞳にか細い光が入り込む。
そして、莉愛は両親の想いを受けとるためにも、その出来事を受け入れて前に進もうと決意したのだった。
そんな時、親族が病室に訪れて両親の葬儀が無事に終わったことを伝えに来てくれた。
両親の葬儀をしてくれたのは、母親の妹夫婦に当たる親族だった。
「……突然こんな事になってびっくりしたでしょう?体はもう大丈夫?」
叔母が心配そうな顔をしながら莉愛にそう尋ねる。
「本当に辛かっただろう……。急に親をいっぺんに無くしたんだからな……」
叔父も心配そうな顔で莉愛を見つめながらそう言葉を綴る。
「あの……私はこれからどうしたらいいんでしょうか……?」
莉愛が恐る恐る妹夫婦にそう尋ねる。
他の親族もお見舞いに来てくれたが、莉愛を引き取るという話は一切出てこなかった。そして、妹夫婦の雰囲気からも引き取るという話は出てこない。
「……とりあえず、莉愛ちゃんを引き取ってくれる施設を探しているところだ」
叔父の口から出てきた言葉に莉愛はどう返事すればいいかが分からずに黙りこくってしまう。
そして、妹夫婦は「また」と言って病室を出て行った。
***
「よし……。これで準備は整ったな……」




