12.暖かなひと時
あの後、莉愛は女性が用意してくれた湯船に浸かり、身体を温めていた。
湯船で冷えた身体を温めていくと、少しずつ心もほぐれてきて、気持ちも落ち着いてきた。
お風呂から出ると、脱衣所には着替えが用意されており、莉愛はその服に着替え終わると、リビングに向かった。
「あら、出て来ていたのね。どう?落ち着いた?」
女性がリビングに設置してあるテーブルで何かを準備しながら莉愛にそう声を掛ける。
「あ……ありがとうございます……」
莉愛が女性に頭を下げてお礼の言葉を綴る。
そして、そのまま女性に促されてリビングのソファーに腰掛けた。
「良かったらどうぞ」
女性がローテーブルに並べたクッキーと温かいココアを莉愛に進める。
「ありがとうございます……」
莉愛が恐縮しながらそう言葉を綴ると、ココアを一口飲み、クッキーを頬張る。
「美味しい……」
莉愛がポツリと呟く。
あの狂った日々では考えられない安堵感に包まれて、人の温かさや温もりにようやっと触れ合ったような、そんな安心感が莉愛の心を包み込んでいく。
「っ……」
安心したのか、莉愛の瞳から涙が溢れてくる。
「大丈夫よ。何かあったのかは分からないけど、とりあえず泣けるときは泣いた方が良いわ」
女性が優しく莉愛にそう言葉を掛ける。
莉愛は声を殺しながら涙を流した。
溢れていく涙を拭いながら……。
しばらく泣いて、心が落ち着いたのか、莉愛は何があったのかを話しだした。
両親を事故で亡くしたこと……。
その後で実の兄と名乗る人が自分を引き取ったこと……。
実の兄がいるという話は両親から聞いたことがあったこと……。
ある日を境に実の兄に監禁されてしまったこと……。
そして、その家から逃げ出してきたこと……。
莉愛の話を女性はじっと聞いていた。
そして、莉愛がある程度話し終えたところで女性は自分の事を話した。
女性は、宮野 百合と言う名前で、年齢は二十七歳。結婚をしており、今は専業主婦をしているということだった。
今日は主人の帰りが遅くなるので、友達の家に行っていたらしく、その帰り道に莉愛を見つけたという事だった。
「………今日はゆっくり休むといいわ」
百合が莉愛を客間に連れて行き、引いておいた布団に莉愛を寝かせる。
莉愛は布団の温かさに安堵して、すぐに深い眠りに入っていった……。
***
「…………ん?」
玄関に見慣れない靴が置いている事に気付いた男性が声を発する。
「お帰りなさい、優弥さん」
百合が玄関にやって来て男性にそう声を掛ける。
帰ってきたのは、この家の主でもあり、百合の夫である宮野 優弥だった。
「……誰か来ているのか?」
リビングに入ると、優弥はソファーに座り、百合にそう尋ねる。
「その……実は……」
優弥と並ぶように百合もソファーに腰を掛けて、今日あった事を話す。
「………成程な。それで放っておけなくなって家に上げたという訳か……」
優弥が話を聞いて「やれやれ」と頭を掻きながらため息を吐く。
「ごめんんさい……勝手に……」
百合が申し訳ない顔をしながら、そう言葉を綴る。
「まぁ、何かあるのは間違いなさそうだしな……。仕事の合間に調べてみるよ、その子のこと。ただ、『莉愛』と名乗るだけで、苗字は分からないんだよな?」
「えぇ……。そこだけは頑なに教えてくれなかったのよ……」
「多分、フルネームで名乗れば調べられて家に連れ戻されると思っているんだろうな……」
百合の言葉に優弥がため息を吐きながら、そう言葉を綴る。
「まぁ、その子が言ったことが事実かどうかを確認するまでは家に置いて欲しい……という事だろ?」
優弥の言葉に百合が申し訳ない気持ちで一杯になりながらも頷く。
そして、夜は更けていった……。
***
「………ほのか?」




