森の魔獣
ラマニーニの草原の森に入ったキャロライン、ジオル。そして、紅音。
だが、キャロラインとジオルは森に入って15分後、目的のモルラーシュの花に辿り着けず、目の前の光景に唖然とする。
「えー・・・っと・・・」
「アカネさん、やばぁ・・・・」
キャロラインの視線の先にはアカネが森の魔獣や動物達に囲まれ、木の実は花や石を贈り物にされていた。
きっかけは、森に入ってしばらくして、道中のある木に生っていた木の実にアカネが興味を持った。
それを察したアカネのテイムモンスターであるシロが素早く木に登り、木の実を採って来た。
その事に、アカネはシロを「スゴイ、偉い」と笑顔で褒めた。
すると、何処からか小動物系の魔獣『ティムラット』がアカネに近づき、小さな木の実を差し出して来た。
それだけでも驚いたのに、そこから次々と魔獣や動物が姿を現し、次々とアカネの目の前にやって来た。
ネズミのような外見に角が生えた魔獣の『ティムラット』
長い耳に全身に苔をまとった兎の魔獣『モスラビット』
長い二又の尻尾をした小型の猿の魔獣『マーモン』
更には、角と背中に白い花を咲かせる鹿の魔獣『ディーブル』までもが、アカネに近づいて来た。
ただでさえ、警戒心が強い魔獣達が、人間に近づくだけでも驚きなのに、贈り物までしてくる。
「贈り物というよりも貢物・・・」
まるで、幼児向けの昔話のような出来事にジオルが呟く。
それらに困惑しながら、受け取っているアカネは律儀に花や石を渡してくる魔獣達にお礼を言っている。
アカネの腕の中にはただの石からその辺に咲いている花や木になっている木の実。
その中に魔法効果のある魔石や薬草、更には珍しい回復効果の高い薬草の花が見え隠れしている。
だけど、スキルである鑑定眼の鏡をかけていないアカネの様子を見る限り、腕の中にある薬草や魔石の価値をいまいちわかっていない様子だった。
多分、アカネはただの石や花や木の実をもらっているだけだと思っていそうだ。
魔獣達を刺激しないために、数歩離れた所で見守るキャロラインとジオル。
「わあ、キャロラインさん、この石とっても綺麗です」
感心したように見せるアカネの手には青と灰色が交わる石。
二つの属性が交わる希少な魔石、水と風の混合魔属石。
砂粒一粒でも銀貨一枚の価値があるが、アカネが持っている石は手の平に収まるほどの大きさ。
売りに出せば小金貨三枚はくだらないだろう。
「・・・・・うん、とりあえず、もらっておきなさい」
キャロラインは思わず遠い目をしながらそう言った。
「はい、綺麗な贈り物ありがとう。うさぎちゃん」
綺麗な石をもらって嬉しそうに、受け取ったモスラビットの頭を撫でるアカネ。
「え~、モスラビットが普通に撫でられてるよ・・・・」
ポロ。
「あ、なんか取れた」
「ブッ!!」
アカネが撫でていたモスラビットの頭の苔がポロリと落ちて、アカネの手の平に収まった。
それを見て、ジオルが思わず吹き出す。
「わー、しっとりふわふわして不思議な感触」
無邪気に苔を触るアカネ。
「・・・アカネ、その苔、売ると銀貨5枚で売れるわよ」
「え?」
「モスラビットの苔は育毛剤の材料の一つになるから需要が高いのよ」
「あーー・・・・」
この世界でも薄毛に悩む人はいるらしい。
「だから、モスラビットの苔を狙った輩が多くて、乱獲が後を絶たずで、モスラビットの警戒心が強くなっているの、だけど」
キャロラインの説明をよそに、アカネの足に体を擦り付けるモスラビットや他の魔獣達。
「めちゃくちゃ人懐っこいですけど・・・」
「・・・・・・そうね」
警戒心のかけらもないほどアカネに懐いている魔獣達を見て、キャロラインはそう言うしかなかった。
「アカネさんがワーフォルを手懐けた時点で、もしかしてと思ったんすけど、まさかここまでとは・・・」
「これは、とんでもない逸材かもね・・・」
もし、アカネが正式にサブギルドメンバーからギルドメンバーに、そして、我がビースターのパーティーメンバーに加入してくれたら・・・・。
「・・・・、」
キャロラインの頭の中でアカネが仲間になってくれればと思う反面、別の考えが頭に浮かんだ。
魔獣にも個性や属性がある。
人間に友好的、または、興味本位で人間に近づいたり、テイムモンスターとして人間に仕える個体はいる。
だけど、その信頼関係を築いていくのは決して簡単ではない。
だけど、ワーフォルを始め、森の魔獣に異様と言えるほどに懐かれる目の前のアカネ。
そして、その恩恵は、自分たちの想像以上に大きいものになり得る。
もし、この特殊な体質のアカネが他のパーティーに知れ渡れば、ちょっとした騒動では済まないかもしれない。
純粋にパーティーのメンバーの勧誘ならかわいいモノだ。
だが、善意などかけらも無い、利己的で貪欲、傲慢な人間も確かにいる。
もし、そんな輩に、この世間知らずなお嬢さんがたぶらかされでもすれば・・・・。
まるで、無害に見えて扱い方次第では、毒にも薬にも成り得る花のよう。
ある意味、ものすごい、ルーキーが入って来たものね・・・・。
キャロラインがそんな事を考えていると、
「キャロラインさん、ジオルくん。モルラーシュの花の場所がこの近くにあるみたいです」
「え、分かるんですか!?」
「うん、シロが通訳してくれたの。この先にモルラーシュの花が咲いている場所を教えてもらったの」
両手に花や木の実や石を抱え、嬉しそうに笑うアカネは、年齢よりも幼く見えた。
「~~~、ぁぁ、かわいい・・・」
ジオルが、そんなアカネを見て何とも言えない顔をする。
「・・・ジオル、アカネに変な気を起こせば、」
そう言いながら、キャロラインはアカネに見えない様に自身の武器である愛用の双刀に手をかける。
「しない!しない!起こさない!!」
ジオルはそんなキャロラインの行動に、顔を青くし、ブンブンと首を横に振る。
まだまだ若いジオルは我が身の方が可愛いらしい。
「え?なにが?」
キャロラインの手元とジオルの顔が見えないアカネはジオルの挙動不審に首を傾げる。
「なんでもないわ。それよりも、アカネはその貢ぎ物、鞄に入れたら?」
「貢ぎ物・・・。は、はい」
森の魔獣達の贈り物を貢ぎ物と言われて、苦笑する紅音。
「シロ、これ以上贈り物は大丈夫だって、魔獣達に伝えてくれる?」
「チ、チチチチ(もう、伝えております)」
「え、そうなの?」
「チチチチ、チチ、チチチチ(僭越ながら、そろそろ、リュックに入りきれないと思いまして)」
「ありがとう、シロ」
シロちゃん、気がきく。
「あ、でも、石はいいけど、花や木の実はどうしよう・・・」
「鞄に入らない、ですか?」
「いや、入るんだけど、さすがにせっかくもらった花や木の実をリュックの中で潰すのは、申し訳なくて」
「律儀っすね。アカネさんは」
困り顔の紅音にポリポリと頬をかくジオル。
すると、角と背中に白に花を咲かせる鹿の魔獣ディーブルが、紅音の側に歩み寄って来た。
「え?」
ネズミやウサギや猿の魔獣に比べて大型の魔獣が近付いて来たことに驚いていると、ディーブルの角と背中の白い花が淡く光った。
そして、その淡い光が紅音の腕の中にある花や木の実に移るように光り出す。
「わ?」
「チチチ、チチチチチチ。チチ、チチ(ご主人様、ディーブルが保護魔法をかけた様子です。リュックに入れても、大丈夫です)」
「本当?」
「チ(はい)」
シロの言葉に、試しに小さな柔らかい花びらを指で撫でると、明らかに質感が違った。
もらった時は、花びらに少しでも力を入れると、簡単に散ってしまいそうなほど、繊細で弱々しいモノだったのに、強度が上がったと言えばいいのかな?
まるで、薄いフィルターを纏っているかのような・・・・、手触りはプラスチックに似てる?
なんだか、100円ショップで売っているオモチャみたいな質感になった・・・。
発想の例えが凡庸なのは自分でも分かっているけど、他に思い当たる例えが見つからない。
だけど、
「これで、花や木の実をリュックに入れても潰れずに済みそう。ありがとう」
貰った花や木の実をリュックに入れると、カラカラと本当にオモチャみたいな音がする。
小分けの袋持ってこればよかったかもと、思いながらリュックを背負い直す。
「ありがとう、おかげで助かったよ」
「ピー」
紅音はお礼を言いながらディーブルの鼻頭を優しく撫でると、ディーブルは気持ち良さそうに目を細める。
すると、ディーブルは撫でていた紅音の上着の袖に、カプ、と噛み付いた。
「え?」
そして、クイ、クイと袖を引っ張った。
「え、え?なになに?」
クイ、クイとまるで導くようにどこかへ引っ張って行く。
「え?え?えぇーー?」
混乱するアカネ。
そんなアカネを無視して、森の道を歩いていくディーブル。
そして、他の魔獣達もそれに付いて行く様に後を追う。
「あ、アカネ!?」
「オレ達も行こう」
「ええ」
ディーブルに連れて行かれるアカネを追いかけるキャロラインとジオル。
「どこに行く気なの?」
「分かんないけど、でも、アカネさんに害するつもりは無いようだよ」
「そうだけど・・・」
「こっちを見ている魔獣は、まだいるけど、そっちも襲ってくる気配も匂いも無いよ」
ジオルが、周りの木々、草むらに視線を向ける。
ジオルの猫耳がピルピルと小刻みに動く。
「確かに・・・」
キャロラインも周りに目配せし、長いウサギ耳をピンと立て、辺りを探るように動く。
キャロラインの耳にもコチラを襲って来ようとする魔獣の鼓動や呼吸音は聞こえなかった。
「それにしても・・・」
「どうしたの?」
神妙な面持ちで、ディーブルに引っ張られるアカネの後ろ姿を見てジオルが呟く。
「いや、今のアカネさんの姿をアドルフが見たら、どうなるかなーって」
「・・・・・・」
「小型魔獣のあまりの可愛さに我を忘れて、デレッデレになってアカネさんにドン引きされるか、それとも、鋼のプライドで平常心を必死に保とうとして逆に強面になって魔獣達を凝視してアカネさんに怖がられるの、どっちかな?」
ジオルの言葉にキャロラインの脳裏に、魔獣愛を爆発させてデレッデレになるアドルフと魔獣達を凝視して、完全にカタギの人間ではない凶悪な顔をするアドルフが想像された。
「・・・・想像すると、リアルにありそうで面白いからやめて」
面白いけど、笑えない現在にキャロラインは顔をしかめる。
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