森へ
パーティー、ビースターのメンバーが魔獣ワーフォルの観察と調査を始める事になった。
私の膝や膝元で転がっていた子ワーフォル達も、
「ガウ」
「ミ?」
「ンミ?」
親に呼ばれてコロコロと転がりながらワーフォルの元に行ってしまった。
「ふう」
子ワーフォルに膝を占拠されずっと座り込んでいた紅音は立ち上がり、リュックを開けながらアドルフに近づく。
リュックから、ワーフォル達のご褒美用のお菓子を取り出す。
「アドルフさん、ワーフォル達にコレを」
「む?それは?」
「持ってきたお菓子です。えっと、確か、お芋で作った生地に味付けして、細く成型して油で揚げたお菓子です」
紅音からスナック菓子の袋を受け取るアドルフ。
にわか知識だけど、確かそんな感じのお菓子だったはず。
「・・・・芋の揚げ菓子か」
「あ、そうですね」
この世界にもスナック菓子が存在するのかな?
「甘いのか?」
スナック菓子の袋を受け取ったアドルフが神妙な面持ちで紅音に聞く。
「いえ、塩味だから甘くはないです」
「そうか、街で売っている芋の揚げ菓子は味の無い芋を油で揚げたものに、これでもか、っと言う程、砂糖や糖蜜が上にかかっているんだが、コレが死ぬほど甘いんだ。一口食べると歯が溶けるかと思うほどに」
あ、スナック菓子じゃなくて、大学芋に近い物らしい。
「アドルフ、あのお菓子苦手だものね。私もだけど」
「あれは、人間の食べ物ではない」
「それでも貴族の間では人気の菓子の一つなんだけどな」
「あー、貴族の菓子って砂糖とか糖蜜とか乳糖とか大量に使ってる物ばかりだからねー」
うーん。糖尿病になりそう・・・。
「えっと、シロが言うには、ワーフォルには与え過ぎなければ、大丈夫だそうなので、観察の合間のご褒美にあげて下さい。細いから、子ワーフォル達にもあげられると思います」
「・・・開けてもいいか?」
「どうぞ」
アドルフは紅音の許可を得て、スナック菓子の袋を一つ破って開く。
中から紅音にはお馴染みな薄黄色の小枝のような細いスナック菓子が出てきた。
「コレはまた、変わった菓子だな」
「よかったら、お一つどうぞ」
「貰おう」
「皆さんも、」
「「「いる」」」
聞くまでもなかった。
「美味い」
「あー、酒に合いそうね」
「サクサクとしてて軽い食感がいいな」
アドルフさん、キャロラインさん、ジャミールさんには好評だったようで。
そ~~・・・・。
「・・・・・・」
「残りの菓子に手を伸ばすんじゃないわよ。バカ猫」
ペチン!
こっそりとアドルフが持っている残りのスナック菓子の袋に手を伸ばすジオルの手をキャロラインがはたき落とす。
「イ!?いいじゃん!もう一個!もう一個だけ!」
「ワーフォル達にあげる分が無くなるでしょうが」
「むー、ケチー!」
キャロラインの指摘に、幼い子のように拗ねたようにむくれるジオル。
そんな、ジオルくんを呆れながらも仕方ないと小さく笑うキャロラインさん。
まるで末っ子の弟に手を焼いている兄妹のように見えてなんだか微笑ましかった。
「ふふふ、ジオル君は皆さんに可愛がられているね」
「はあ!?」
「あら、アカネにはそう見えるの?」
「はい。愛されてる感じがします」
「えー!!アカネさん!俺いつも殴られてるんですけど!?」
思いっきり心外だと言わんばかりに声を上げるジオル。
「それはお前が、大人しくしていないからだろうが」
「目を離すとすぐにフラフラと何処かに行くから目が離せないんだよ。お前は」
「最近、本気で首に鈴を付けようかって、話してるくらいだしね」
「猫扱いするなー!!!」
猫の獣人である彼に猫扱いするメンバーに毛を逆立てて怒るジオル。
「あはは、イジられてるねー」
かわいい歳下がイジられるのはどこの世界でも同じなのかもしれない。
そんな事を、考えていると、
「うーーー!!えーーん、アカネさん!!みんなが俺を虐める!!」
ジオルがあざとく紅音に駆け寄る。
「へ?」
「・・・慰めて?」
ぴょこんと猫耳を出し眉を下げ、しおらしく紅音の上着の裾を握るジオルに、
「んん!!」
紅音は思わず、母性をくすぐられてしまい、口元を抑えて変にニヤケそうな口を俯いて隠してしまう。
「・・・アイツ、この状況で己の可愛さを最大限に使ってアカネに媚び売り始めたぞ」
「これだから、可愛いと自覚がある猫科の獣人は」
「顔だけはいいからな、アイツ」
こういうことには慣れているのか、呆れた様子のメンバー達。
「聞こえてるんだけど!?」
「聞こえるように言ってんだよ。色ボケ猫」
「むーー!!アカネさぁん!!」
見下げたようなアドルフの言葉に、ジオルは紅音に泣きついてきた。
「あー、はいはい。よしよし」
そんなジオルを苦笑しながら頭を撫でてあげると、
「えへへへ」
嬉しそうに笑うジオル。
「ぅぅぅ・・・、かわいい・・・」
無意識なのかあざとくなのか・・・・・多分、後者だろうけど、年下の男の子にこんなに懐かれたのは小学生以来かもしれない。
悪い気はしないけど、なんだか気恥ずかしい。
そう感じてしまった私は、そっと、撫でていたジオルくんの頭から手を離し、話題を変えようとした。
「あー、えっと、皆さんはこれからワーフォルの観察を始めるんですよね」
「え?はい。そうですよ?」
「じゃあ、私はモルラーシュの花を採りに行っても大丈夫ですか?」
「え?」
アカネの言葉に目の前のジオルはキョトンとした顔をする。
「1人で採りに行く気なのか?」
「はい。鑑定眼でモルラーシュの花の場所は特定できるので」
紅音は再び鑑定眼を発動し、鑑定眼の眼鏡を装着すると、眼鏡のレンズにモルラーシュの花のイラストと、小さな赤い印が点在する簡易的な地図が映し出された。
ここから一番近いモルラーシュの花は森の中だ。
「だけど、1人じゃ危ないわよ?」
「ですが、皆さん、ワーフォルの観察のお仕事がありますし」
クエスト初挑戦の私に同行してくれているけど、元々、ビースターのみんなは、魔獣ワーフォルの観察調査のクエストをする為にここに居る。
彼らの仕事の邪魔はしたくない。
「アカネ、武器は何か持ってる?」
「あ、はい。一応、ナイフを」
そう言って、リュックから昨日『通販』で購入した防災リュックに入っていたサバイバルナイフを取り出す。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
それを見た4人の動きがピシリと固まり何故か無言になった。
「・・・・アカネ、やっぱり私と一緒に森へ行きましょう」
「へ?」
キャロラインが真面目な表情で、紅音に向かってそう言った。
「俺も!俺も一緒に行く!」
「そうだな。ワーフォルの観察調査は、俺とジャミール。モルラーシュの花の採取はキャロルとジオルが同行しろ」
「ああ、そうした方がいいな」
「え?え?、で、でも、皆さん、クエストが」
何故か急にチームが分かれる話になった。
「大丈夫よ。ワーフォル達も今は大人しいから、早く調査は終わるわ」
「それに、あそこの森は入った事があるから、俺が案内しますから、安心してください。アカネさん」
「で、でもさすがにそこまでお世話になるわけには・・・」
せっかくのクエストの仕事が出来るのにそこまで迷惑をかける訳にはいかず、慌てて断ろうとすると、紅音の肩にキャロラインがそっと手を優しく乗せる。
「い・い・わ・よ・ね?」
だが、キャロラインの有無を言わせない目と、強い圧に、
「は、はい・・・」
紅音は頷き了承するしか無かった。
「そう、よかった」
にっこりと笑い、肩から手を下ろすキャロライン。
なんだか、ジオル君達が逆らえない理由が分かった気がする。
「じゃあ、念の為に私の予備用のナイフを貸してあげる」
「え?」
「はい、これ」
「え?え、え?ッ?!」
そう言ってキャロラインさんに渡されたのは、鞘に入った一振りのナイフだった。
私がリュックから出したサバイバルナイフよりも長くて、刃の幅が広い。
ナイフと言うよりも実戦用の短刀に近かった。
手に持つと、ずっしりと鋼の重さが伝わってくる。
「え、でも、さすがに悪いです」
「いいの、いいの」
申し訳なく、戸惑う紅音にキャロラインは優しく笑う。
「もしも、ジオルにお尻でも触られたら、ソレで刺してもいいから」
「え"?」
「ちょっと待って、俺どんだけ、信用ないの・・・・」
笑顔のキャロラインに真顔になったジオル。
「それじゃ、そっちはお願いね」
「ああ、お前達も、気をつけるんだぞ」
「ジオル、ちゃんと案内しろ」
「分かってるよ」
「そ、それでは、行ってきます」
「ああ、」
「気をつけて」
申し訳なさそうに、何度も頭を下げ、森へ向かう、アカネとキャロライン、ジオル。
そんな、3人の後ろ姿を見送るアドルフとジャミール。
「・・・・・。行ったな・・・」
「ああ・・・」
「大丈夫、だろうか」
「キャロルとジオルが着いているから、問題は無いと思うぞ」
「うむ・・・」
ジャミールの言葉にアドルフは気難しそうに眉間に皺を寄せる。
「アドがそこまで気をかけるのは珍しいな」
「ジャミール、お前がそれを言うか?」
「あんな、短くて細いナイフを武器だと出してきたら、流石に気を回すさ」
「・・・確かに。野菜の皮剥き用ナイフを取り出したかと思ったぞ」
3人が森に入っていき、見えなくなった。
「・・・・・明らかに、アカネは戦闘を知らない」
アドルフがポツリと呟いた。
「アカネの様子から見ても今まで、そういう立場に身を置く事がなかったという事だな」
「ああ、警戒心はあるが、クエストに対する知識も、起こりうるリスクの考えも、クエスト初心者だとしても思った以上に甘いところがある」
まるで、つい先日まで、ギルドのクエストなど全く無縁の衣食住が保証された、安全で安心が当たり前の生活を送っていたかのように。
「本当に貴族の出身なのかもしれないな」
「お前、まだソレを言っているのか?」
「可能性はゼロでないぞ?」
目を細めて薄く笑うジャミールにアドルフは呆れる。。
「バカなことを言っていないで、早く、ワーフォル達の観察調査を始める、ん?」
ワーフォル達の観察を始めようと、振り返ろうとしたアドルフの足元に何かが当たる。
「ミ!!」
ワーフォル幼獣の1匹がアドルフの足に小さな丸い体をモフモフとぶつけている。
「ミ!!ミ!!」
まるで、いつまで待たせるのかと怒るように鳴いている。
「・・・・・・・」
それを見たアドルフが無言になる。
だが、次の瞬間、
「なんでしゅか~?どうちまちたか~?」
アドルフの表情筋が一気に緩み、デレデレになりながら赤ん坊言葉でワーフォルの幼獣に話しかける。
幼獣を怯えさせないように、地べたに這うような体勢になり、幼獣の目線に合わせる。
側から見れば、異様な光景だ。
「お待たせしちゃいまちたか?呼びに来れて偉いでちゅね~、お利口ちゃんでちゅね~」
大の男が、地べたに這い、幼獣に猫撫で声の赤ん坊言葉で幼獣を褒めちぎる姿を見て、今度はジャミールが呆れる。
「アドルフ、お前、アカネが居なくなった途端に、魔獣好きの感情爆発させるなよ」
ビースターでは見慣れた光景とはいえ、ビースターのリーダー、アドルフの魔獣愛に深い溜息を吐いた。
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