ワーフォルの調査へ
「アカネ、先程は無礼な態度をとって済まなかった」
「え?」
ジャミールが、紅音に頭を下げて謝罪した。
「そ、そんな、大丈夫です!頭を上げてください」
紅音が慌ててそう言うと、ジャミールは申し訳なさそうに下げた頭を上げる。
「・・・・実は、そのグミとよく似ているリュミの実は魔獣、特に魔鳥『カラリルバード』が好んで食べる木の実なんだ」
「カラリルバード?」
「ああ、カラリルバードは美しい鳴き声と宝石のような爪と嘴。そして、常に五色に移り変わる羽根を持ち、貴族の間では密猟され高値で取引される希少な魔鳥なんだ」
「希少な魔鳥・・・」
美しい鳴き声。宝石のような爪と嘴。綺麗な羽。ジャミールさんの説明を聞くだけでも、珍しい物が好きな富裕層に人気がありそうな鳥だ。
「ああ、だが、警戒心が非常に強く、人前には滅多に現れない魔鳥なんだが、リュミの実を好むためリュミの樹には比較的集まりやすいんだ。
その事から、リュミの実は見た目とその希少性で『宝玉の果実』と呼ばれるようになり、その事に目をつけた、とある貴族がリュミの樹の群生地を貴族の権力で独占しだし、リュミの樹の独占栽培を始めた。
元々その地に住んでいた原住民を追い出して」
「・・・・・」
「もう数十年も前の話だがな」
そう言ったジャミールさんは笑っていたが、少しだけ悲しそうに見えた。
「・・・・・・」
だけど、私は、何も言えなかった。
私の世界でも過去の歴史で森林伐採や領土問題で故郷である土地を追い出された人達の話は聞いた事はあった。
でも、私は彼に『可哀想』や『大変でしたね』なんて気休めの同情な言葉を気安く言えなかった。
なんだか、
「ジャミールさん」
「ん?なんだ?」
「もう一つ、グミはいかがですか?」
ジャミールさんは、そんな言葉を求めてはいない気がした。
だから、深くは聞く事はしないことにした。
「・・・・ああ、コレは美味い。赤のヤツを貰えるか?」
「はい」
私がそう言うとジャミールさんは眉を下げて小さく笑った。
なんとなくだけど、その笑顔はうれしそうに見えた。
「あー!!ジャミール、ズルい!アカネさん、俺ももう一個、もう一個下さい!」
ジャミールにもう一つグミを渡すと目敏くそれを見たジオルがねだるように騒いだ、
「うるさいぞ。バカ猫」
べし!!
「イテ!?」
ジャミールがジオルの頭を叩いた。
あ、元のジャミールさんに戻ってる。
みんなでグミを食べていると、背中に、トスッ、トスッと何かがぶつかってくる。
「ぉっと?」
背後を振り返ると、
「ワゥゥ」
ワーフォルが物欲しそうな目をしている。
どうやら、鼻先で催促したようだった。
「アナタもグミが欲しいの?」
「ガウ!」
「ねえ、シロ。魔獣が食べても平気なの?」
念のためにシロに聞くと、
「チチチ、チチチ、チチチ(ご主人様、与えすぎなければ、問題はありません)」
「そう、よかった」
シロの許可も下りたので、赤い苺味のグミをワーフォルに差し出すと、鼻を近づけ、匂いを嗅ぎ、口を近づけパクりとグミを食べた。
私の手を傷つけないように慎重に食べてくれた。
「グウウ」
もぐもぐと咀嚼したら、またじっとこっちを見てくる。
どうやら、ワーフォルもグミが気に入ったようだった。
その時、
「ミ!」
「ミミ!」
「ミミ!」
「ミー!!」」
子ワーフォルもグミが気になるご様子。
でも、
「・・・・ごめん。君達、口、ある?」
見た目、白いモフモフのキュートな球体な子ワーフォル達。
目はわかるけど、口が毛に埋もれているのか位置が分からない。
「いや、鳴いているから、口はあるだろう」
アドルフさんが子ワーフォルを怖がらせないように、そっとしゃがみ、観察する。
「というよりも、野生の幼獣のワーフォルをこんなに間近で見られる事は、滅多にないから、生態がわからない事が多いのよね」
「それに、このグミは弾力があるから、コイツらが噛み砕けるかも微妙なところだよね」
「うーん、ちょっと小さく砕いた方がいいかな?」
小粒のグミだけど、もし万が一にも小さなこの子達が誤って飲み込んで喉に詰まらせてしまったら大変な事になるかもしれない。
「ナイフで細かく切ってみる?」
「いや、今刃物を出すのはやめろ。ワーフォルが見ている」
ジオルが手荷物に手を伸ばすのをアドルフが止めた。
ワーフォルの方を見ると、その場から動いてはいないが、ワーフォルの視線は手荷物に手を伸ばすジオルの手に向けられていた。
「下手に武器を出して妖獣に危害を加えるとワーフォルに誤解されたら、その場でお前が切り刻まれるぞ」
「やめときます」
アドルフの忠告にジオルは伸ばしていた手をすぐに引っ込めた。
私も目の前で惨殺死体を見るのは勘弁してほしい。
「手で千切るにしても、このグミは小さいし・・・」
手の平の上にある小粒サイズのグミを見てどうしたものかと考えていると、
「ガウ」
ワーフォルがグッと顔を近づけてきた。
いや、ワーフォルは自身の角を、紅音の手の上にあるグミに近づけた。
「え?」
すると、ワーフォルの角が淡く光を帯びた。
淡く光を帯びた角から放たれた光が紅音の手の上にあるグミを包み込み、グミは手の上から浮いた。
浮いた、数個の赤黄色緑のグミが包まれた光の中で回り出す。
まるで、ミキサーで砕くように光の中でグミがどんどん細かくなっていく。
そして、クラッシュゼリーのように細かくなったグミが紅音の手の中に戻ってきた。
「おーー」
ワーフォルの魔法であっという間に問題が解決した事に感動する。
「ワウ」
「もう、大丈夫?」
「ガウ」
ロディ様の加護でワーフォル達に好かれてはいるけど、ワーフォルの言葉は分からない。だけど、なんとなく、この子の言いたいことが分かる気がした。
「はい、どうぞ、お待たせ」
私は、子ワーフォル達が食べやすいように、クラッシュされたグミをのせた手を下ろすと、
「ミー!!」
「ミー!!
「ミミミミ!」
「ミミー!!」
子ワーフォルが一斉にグミが乗っている手に飛びついた。
「わ、わ!ぁ、ふっ、あはは!」
手の平でもしょもしょ、チロチロと食べる毛と舌がくすぐったい。
「ミミミミ」
「ミ、ミ、ミ、ミ、」
「ミャムミャム」
「ンミャムンミャム」
「あは、鳴き方おもろい」
必死に食べながら鳴く子ワーフォルに思わず皆の頬が緩む。
しばらくすると、
「ンムー」
紅音の手の平の上のグミは綺麗に無くなり、子ワーフォルは満足したのか、紅音の手から降り、座っている紅音の膝や膝下、足元でコロコロと転げている。
「可愛い」
無防備に膝の上でくつろぐ子ワーフォルの体を撫でると気持ちよさそうに目を細める。
こんなにまんまるでポワポワな可愛い生き物があんな大きな熊みたいな魔獣になるなんて、どんな進化?
子ワーフォルに癒されながらそんなことを考えていると、
「アカネ」
アドルフが声をかけてきた。
「?はい?」
「少し、相談があるんだが」
「相談、ですか?」
上を見上げると、真剣な目をしたアドルフが立っていた。
だけど、なんだか、口元が緩んでいるような・・・?
「ワーフォル達は君を信頼しているように見える。だから、折り入って頼む。ワーフォルの生態調査の協力を交渉して欲しい」
「交渉ですか?」
「ああ、是非頼みたい。ワーフォルがこんなに近くに居る機会は滅多にない。しかも、今の時点でオレ達の警戒も薄くなっている」
うん、なんだか、真剣な目もキラキラと輝いているような・・・?
「今なら、今日まで解明されていないと言われていたワーフォルの生態が大きく進歩するかもしれん」
「は、はぁ・・・」
「もちろん、ワーフォルの体を傷付ける事は一切しない。体格や体毛の採取、爪と角の長さの計測と表面の採取。あと、出来れば、個人的にもう少し近くでワーフォルを見たいのだが」
私の後ろに控えるワーフォルをチラチラと見ながらソワソワするアドルフさんを見て、
あ、もしかして・・・・。
「・・・・・アドルフさん、もしかして、めちゃくちゃ動物好き?」
「っ、・・・・・・」
「アカネ、当たり」
私の呟きに、アドルフさんは気恥ずかしそうに目線を彷徨わせ、キャロラインが笑いながら答えた。
「この人、動物や魔獣が大好きで、大商会の実家を飛び出して15歳でギルドに入会して、今じゃグランドギルド『アツモリ』の古参よ」
「おい、俺のことは関係ないだろうが!」
からかうように笑うキャロラインさんに、気恥ずかしそうなアドルフさん。
あー、うん。
この感じ、散歩中の可愛い小型犬を見たちょっと強面なおじさんが、小型犬を撫でて愛でたいとソワソワしている感じに似ている。
ちょっと微笑ましいかも。
「えっと、ちょっとワーフォルに聞いてみますね」
「お願いね」
「はい」
アドルフさんの意外な一面に、口元が緩みそうになるのをなんとか抑え、ワーフォルに向き合う。
「ワーフォル」
「グウ?」
私が声をかけると、ワーフォルは不思議そうに顔を近づけてくる。
「あのね、ここにいる皆さんがワーフォルの事を少し調べさせて欲しいんだって。
痛い事や嫌な事は絶対にしないから、少しだけアナタの体に触れる事を許してくれないかな?」
「・・・・・・」
ワーフォルは私をじっと見つめ、視線をアドルフさん達に向けた。
「ッ・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
その瞬間、なんとも言えない緊張感が走った。
ワーフォルはアドルフさん達を見つめ、まるでアドルフさん達を見極めているようだった。
どうか、ワーフォルのお眼鏡に叶いますように。
この異世界で気の置けない人達がいきなり目の前で惨殺されたら、精神を病むよ。
そんな、祈りを胸の中でしていると、ワーフォルが再び私の方へ向き、
「・・・・・グウ、ガウ」
まだ、残っているグミと足元に置いてあるリュックへと視線を送る。
「チチ、チチチ、チチチチ(ご主人様、他の食べ物もくれるのなら、引き受けてもいいそうです)」
「本当に?でも、元々人間の食べ物だけどお腹壊さない?」
「チ、チチチ、チチチチ(はい、魔獣は基本的に、なんでも食べられます)」
「ガウ」
「んー?じゃあ」
私はリュックから、三袋に小分けされたスティック状のスナック菓子を取り出す。
これは、三袋共同じ味のお菓子だ。
「このお菓子で大丈夫?」
「チ」
「ガウ」
私の確認に、シロとワーフォルが同時に頷いた。
「アドルフさん、他のお菓子をくれるなら大丈夫だそうです」
「なに!本当か!?」
「はい、食料ならまだ少し残りがあるので大丈夫です」
「そうか!」
私の答えにアドルフさんは嬉しそうに目を輝かせた。
「よし、お前ら、ワーフォルの調査を始めるぞ」
「はいはい」
「ああ」
アドルフさんの指示に、キャロラインさんとジャミールさんが返事をするが、
「えー・・・」
仕事をするのが不満なのかジオル君が不満そうに声を上げると、
「・・・・・」
ゴン!
「イデェ!?」
懲りずにアドルフさんに拳骨を入れられたジオル君だった。
面白かったら、高評価とブックマークをお願いします




