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異音と共に、細い影が瓦礫の隙間から這い出した。異様に細く、ねじれた影。
一見、人体に近い形状を持つが、動作は明らかに異常だ。皮膚に見える合成素材は裂け、関節部からケーブルと酸化した支持フレームが露出していた。
「なにあれ……人じゃないよな?」
「Dクラス個体……ヒト型フレームベース。いわゆる “グール”です」
脚の動きが断続的で、まるで再生途中の映像のように、前進と静止を繰り返しながら、ぎくしゃくと床を擦る。
「グール」
「人間に見えるだけの機械体です」
ランカはすでにスタンバトンを構えていた。
彼女の動きは無駄がなく、まるで訓練されたそれだった。
『ッァ゛……あ゛ァイア』
耳障りな声が、空間に反響する。
動作とともに、呼びかけるような音声が混じっていた。それは近づくほどに生々しく響き、思わず背筋が粟立つ。
「いや、でも……なんか言ってない?」
「躊躇させるためかもしれません。人間っぽくすれば、攻撃をためらうかもって」
言葉を終えると同時に、彼女はグリップをスライドさせた。伸縮式の先端が空気を切って伸びる。
「ダンジョンに巣食う敵です。
でも、Dクラスなら弱点はだいたい決まってます!」
「ちょっ、おいっ!」
「下がっててくださいね!」
指示と同時に彼女は跳躍した。
目の前のシルエットが、加速したかのように視界を横切る。
踏み込みと同時に繰り出された一撃が、右腕を肘ごと破壊。
続けざまに脚部関節を叩き折った。
甲高い衝撃音と、散る火花。
思わず一歩後退する。
「おらあぁっ!」
最後の一撃は、露出した頸部フレームの隙間へ正確に差し込まれた。
スタンバトンの放電が局所を貫き、内部機構が焼ける音が間近で響く。
視界が一瞬白く弾け、グールと呼ばれた機械体は、ノイズのような呻き声残しながら崩れ落ちた。
「えっ……」
静寂。
数秒間、耳鳴りだけが残った。
《ENEMY STATUS: INACTIVE》
(敵状態:無力化)
ランカは数秒だけ敵影を見つめ、一拍置いてから、スタンバトンをホルスターへ戻した。
「いや、えっ、早すぎ?」
呆けたような声が漏れ、その場に立ち尽くす。
「弱点、分かってたので。ここ、この部分、繋ぎ目があります」
「その、結構……容赦ねえな」
「迷わないのが、大事です」
それは、教訓のように、どこか自分に言い聞かせるように響いた。
彼女は小さく息を吐き、手をそっと胸元で握りしめる。
「せっかくです。もう少し見ていきましょう?」
光源の揺らぎが、彼女の輪郭を静かに照らし出す。
意外と頼れるやつだ。
そう思った。




