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《LIVE AREA - #NAKANO_2F》
[STREAMER: YUU | CLASS: ——]
[DEVICE: UNLICENSED /
CONNECTED: “AkatsukiOS Ver 3.5”]
[STREAM: LOCAL]
視界に複数のインターフェースが展開される。
投影されたレイヤー上に、周辺環境、物資タグ、温湿度、地磁気ノイズ、すべての情報が縦横に交差していた。
ライトの届く範囲、周囲には折り重なる瓦礫、破損した看板。そして、埃をかぶった棚やディスプレイの断片。
かつての商業ブロックの名残と思われる空間には、ガラス張りの通路跡と、店舗ごとに仕切られた小規模区画が並んでいた。
「ここは……商店街?」
自転車専門店、24H薬局、ホビー館──
それぞれ看板が、かろうじて読める程度に残っている。
「みたいですけど、もうお店も陳列棚も全部潰れちゃってます。あっ!」
同行者のランカは、崩れた棚の隙間から何かを引き抜いた。
薄いビニールパックに入った古びた冊子。
表紙は色褪せていたが、印刷されたタイトルは辛うじて読めた。
「再販版かな。表紙にAR加工ないの、逆に人気なんです」
「漫画だ」
「です。メモリチップに保存されてる物より、こういう紙のやつは熱狂的なコレクターがいます。アナログ主義の人たちですね」
「ダンジョン内で発掘されたって付加価値もつきますし……あっ、こっちも!」
そう言いながら、ランカは小さな缶を拾い上げた。それは、かつて販売されていたらしい合金製カプセルトイ。
「これ中身、綺麗だったらレアですよ……開けます?」
「いや、任せる……」
からっ、と音を立てて蓋を開けた瞬間、中から出てきた派手な塗装のロボットパーツに、目を輝かせた。
「うわっ、当たりです!これ、バトルカスタムモデル……!」
「よかったな?」
喜ぶ姿は微笑ましいが、正直その価値はよく分かってない。苦笑しながら隣接する棚の奥を覗き込む。
倒壊した什器の下に、アンドロイド残骸が半ば埋もれていた。腐食と風化が進んでいるが、胸部にシリアルプレートがかすかに残っていた。
プレート部分の砂埃を払いながら、ランカに呼びかける。
「なぁおい、工具あったよな?」
「工具……ですか?」
彼女は隣にしゃがみ込み、腰のツールポーチから簡易ドライバを取り出す。
「メンテ系のバイト、前にやってたんだ」
装甲パネルを外し、メインボードの接続部を切り離す。外観では分かりづらいが、駆動制御用の小型チップが内蔵されていた。
量産品ではあるが、まだ需要がある部品だ。
「すごい……それ、使えるんですか?」
「ジャンク屋に持ち込めば、千円は超える。こっちは……ダメ、風化してる」
「せんっ!?あの、それ……私、知らなくてずっと放置してました……」
「ほかのは外装ごとイカれてそうだな……隣、見てみるか?」
「は、はいっ!」
ランカは目を丸くしながらも、うれしそうに頷いた。
しばらくして、薄暗い店内から、瓦礫の間を抜け再び通路へと戻る。
照明の残響すら届かない、かすかに煤けた静寂。
「あっちの列も一応、見ておきましょうか」
彼女はそう言って、ふわりと前髪を揺らしながら立ち上がった。
拾い上げたパーツや古書を、リュックに丁寧に収めると、どこか満足そうな表情だ。
「結構、残ってるもんだな」
いつの間にか膨らんでいたリュック。
その側面を、横目にちらりと見る。
「そうですね……ダンジョン内は基本配信してるし、こんなの拾ったりしないですから」
「へぇ、なんで?」
「たぶん、写りとか、スポンサーへの配慮とか……?」
「まぁ、たしかにコソ泥感あるもんなぁ」
「い、言わないでくだ——」
言葉の途中で、通路奥から音がした。
金属が床をかするような、乾いた反響。
ふたりの足が、同時に止まる。
「今のなに?」
「来ますね」
彼女はほんの僅かに息を呑んだ。
「来る……」
その瞬間、視界のHUDが反応し、スキャンモードが自動で作動する。
《SCAN TRIGGERED: ENTITY DETECTED》
(スキャン起動:対象を検知)
[TYPE: HUMANOID_RELICT / CLASS: D]
(種別:ヒト型残存体 / クラス:D)
[APPROACH VECTOR: 015° /
DISTANCE: 14.8m]
(接近方向:015° / 距離:14.8メートル)
通路奥、瓦礫の隙間に浮かび上がる赤いタグ。
乾いた、金属を引きずるような音。
暗闇から正体不明の気配が迫っていた。




