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TOKYO DEEP  作者: @is-osio
RECORDED_DEATH.214
10/11

9

瓦礫を踏み越えるたび、足元から伝わる感触が変わる。


最初は硬さや傾きに過敏だった足取りも、身体がそれを計算に入れて動くようになっていた。


《LIVE AREA - #NAKANO_3F》

[STREAMER: YUU | CLASS: —]

[TEMP: 26.2°C / HUMIDITY: 41%]

[GEOSCANNER STATUS: ACTIVE]


[PARTNER: RANKA | SYNC: ACTIVE]


HUD上では、地形スキャンと環境モニターが常時更新されており、微弱な揺れや気圧変動さえ検出する。


その安定した可視情報の数々は、現実の質感を薄めてしまう。不安を鈍らせる代償として、同時に警戒心も弛ませていた。


「おっ、これ拡大もできんのか」


インジケータを試すように指先でスライドすると、投影されたタブが、視界の隅で静かに並列処理される。


「慣れてきました……?」


背後からランカの声が届いた。


ヘッドセット越しに伝わる音質はくぐもっておらず、むしろ現実の声よりもクリアだった。


彼女は片手にエナジーバーを持ちながら、常に一定の距離を離れずに保っている。


「まぁ、噂ほど危なくないみたいだな。襲ってくる奴も、さっきの一体だけだし」


「浅層ですから。安全とは言えませんが、比較的には。じゃないとさすがに連れてきませんよ」


彼女は二本目のエナジーバーを取り出し、パッケージを素早く破いた。


「基本は中枢や一部の地域が危険みたいで、規則性があるらしいです。なにか目的があるような……」


「目的」

「うーん、防衛とか、人の排除とか……

この辺は何もないんでしょうね。だから少ないのかも」


そう言いながら、彼女は崩れかけたシャッターの脇へ身を屈め、その隙間を覗く。


中には、冷蔵ユニットの筐体らしきものがあったが、腐食により原形をとどめていない。


「確かに……あんまり拾える物、残ってないな」

「はい。こっちは風化が進んでて、もうほとんど」


「もう少し西なら……」


彼女の声がわずかに低くなる。

語尾の調子に、躊躇いが混じっていた。


「西?」

「市場エリアがあるんです。前に一度だけ見に行って…...すぐ引き返したんですけど、作業ドロイドの残骸がたくさんあったような…….」


ランカは言い淀み、視線を床に落とした。どう説明すべきか考えているようだった。


「前は一人だったので……」


おそらく行きたがっている。だが、それが安全とは限らないという自覚もある。

やめておこう、と警告するには十分な材料もある。


「危ねぇの?」

「ちょっと奥に進むので……」


問いかけに、ランカは少し困ったように笑う。


「行ってみるか」


どこか他人事のように声が出た。


この場所、ダンジョンには知覚できない妙な引力がある。


なぜか好奇心と興味が、恐怖を上回る。

それに引かれているとしか言いようがない。


「えっ……」

「ダメ?」


ランカは、数秒だけ思考停止したような顔でこちらを見た。驚きと戸惑い、そして確かな喜びの混じった表情。


「気になるし、せっかくだからな」


「はいっ!少し遠回りですけど、安全なルートが……記録してありますから!」


言い終えると同時に、視界のHUD上に新たな通知が表示される。


[NAVIGATION SYNCED:

PARTNER DEVICE - RANKA]

(ナビゲーション同期:同行者端末 ランカ)


[MARKER DEPLOYED /

ROUTE CALCULATION ACTIVE]

(マーカー展開 / ルート計算中)


彼女の刺す座標が先行タグとして同期され、しばらくして、移動補助用のナビゲーションラインが薄く地面を走った。


薄暗い通路の先、ナビラインは崩れたアーチの下に伸びている。網膜越しの情報表示が、次第に現実と重なっていく。


旧中央物流市場跡──


その名称が、静かに視界の端で点滅を始めた。

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