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TOKYO DEEP  作者: @is-osio
RECORDED_DEATH.214
11/11

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視界上のナビラインは、ゆるやかな傾斜を描いて、崩れかけた地面を滑っていく。


ランカのマークしたタグ情報と同期して、ライン軌道がリアルタイムで補正されていた。


指示に従って進むと、やがて、通路の先に開けた区画が見えてきた。


奥行きのある吹き抜け構造。

その階層下に張り出すようにして、巨大な屋内構造が出現した。


金属フレームの構造体を繋ぐアーチ。

その中心に設置された広場のような開口部。


かつて、大量の貨物を処理していた中央市場の中核エリア。


その死骸が、今も崩れずに残っていた。


[ZONE : WEST BLOCK /

LOGISTICS MARKET CORE]

(西区画 / 物流市場中核部)


[STRUCTURE TYPE: SEMI-INTEGRATED / B1-LAYERED FORMATION]

(構造種別:半統合型 / 地下1層構成)


「すげぇ……意外にちゃんと残ってるな」


「中央市場だったので、対災害補強がされてたみたいです。でも、気になるのは中身ですね」


施設構造は思ったより整っていた。

だが、それだけで安心材料にはならない。


ナビラインが段差を認証し、下層へのアクセスルートがマッピングされる。


階段はなく、もともと貨物用だったスロープが、そのまま通路として使われている。


搬入ゲートへ近づくと、物陰から管理用インフォメーションボードが半分だけ姿をのぞかせていた。


ひと昔前のログイン端末。

画面端に軽く触れると、遅延を伴いながら微弱な点灯が返ってきた。


[ACCESS TERMINAL DETECTED]

(接続端末を検出)


[USER AUTH: EXPIRED]

[MAINTENANCE MODE /

OFFLINE FRAGMENT ACTIVE]

(ユーザー認証:有効期限切れ)

(保守モード:オフラインで起動中)


「ん……通電してる?」


「崩壊前の給電設備が、運よく残ってるんだと思います。冷蔵エリアや搬送ラインは、災害とかに備えて、独立電源が組まれていたので」


ランカは周囲の配線や天井のレールを見上げながら、説明する。


「ダンジョン内は、結構そういう場所あります」

「なんか不気味……」


「そうですか?明かりもつきますし、私は好きです。中、探索してみますか?」

「そうか、たしかに」


「なるべく、離れないでくださいね」


彼女の言葉に頷き、ふたたび足を踏み出す。


警戒態勢は維持したまま、市場ブロック内部へと足を踏み入れた。


「第一倉庫エリア……搬入ベイと、冷蔵ストックが並んでた区画みたいです」


ランカが、HUDの補助表示を確認しながら、予想するように呟く。施設内部は、外観から想像した以上に深く、複雑だった。


ナビラインは荷降ろし用スロープを越え、奥へ奥へと続いている。通路を挟んで左手には冷蔵ユニットの群、右手にはラック式の自動積み下ろし装置が、崩れかけた状態で横たわる。


「ここ、搬送ラインの直下ですね。地上からの荷物がここに運ばれて、一括処理されてたみたいです」


ランカが指差す先には、昇降リフトのシャフト跡。壁面には搬入フックが連なっていた。


「ここがメインで動いてたみたいだな」


その下には──旧型アンドロイドたちの残骸。


配送作業用の多関節型ボディ。

おそらく、かつてここで働いていた個体たち。


糸が切られたように倒れている個体、静止姿勢のまま動かなくなった個体。


すべてが、整然と停止していた。


その中で、最も近くに居たアンドロイドに視線を落とす。


「スリープモードのままダウンしたのか。管理用接続も切れて、外部電源も失うともう自分で再起動できない」


しゃがみこみ、胸部パネルに触れる。

カバーは工具なしでも開く設計で、内部にはブレード式の処理基板と、動力系統の回路が並んでいた。


「売れそうな部品ありますか?」

「でかい基盤は抜けねぇかも。溶着してない部品単位なら……ほらっ」


カチリ──と小さな音がして、制御チップがひとつ抜け落ちた。そのままランカに軽く手を伸ばして差し出す。


「は、はいっ」


ランカは一瞬、迷うような仕草を見せたが、すぐに両手を差し出して受け取った。


再び同じ手順を繰り返す。


流用できそうな、外せるチップやセンサーモジュールを一つずつ取り出していく。ランカはそれを受け取り、腰のパックに順序よく収めていった。


取り出して、渡して、彼女が受け取る。

小さな作業音だけが、空間に断続的に響いていた。


しばらくして——


不意にキュィ、と短い電子音が響いた。


ランカが顔を上げ、すぐに動きを止める。


「なんか音したぞ」

「わかりません、反応は……」


彼女は腰のスタンバトンへ手を伸ばす。

視線の先、崩れたラックの隙間からひとつの影がゆっくり現れた。


「……あら、生きてる子がいたんですね」

「ドロイドかよ」


ランカの声が、少しだけ柔らかくなる。

そのアンドロイドは、こちらを視認したような素振りも見せず、ただゆっくりと頭部を回転させていた。


「防衛プロトコルが残ってたら、侵入者だと思われるぞ」

「侵入者?」


「しつこいし、アラートがうるさくて嫌いだ」


ランカは声を落とす。


「それに、仲間を分解してるところを見られたらかわいそうですね」


回収した部品は十分に揃っている。

抜き出した最後のチップを彼女に渡し、立ち上がった。


「結構取れたしな……戻るか」

「そうですね」


ランカは静かに頷き、ふたりは静かに踵を返す。背後で、動かないアンドロイドたちの視線が、何も語らずに彼らを見送っていた。


搬入スロープを戻り、市場の外へと出る。

濁った外気が、ぬるく喉を撫でた。


瓦礫の山を乗り越え、やがて舗装の崩れた道路に出る。上層からの微光が、薄い靄を透かして断続的に揺れていた。


「疲れた。けっこう歩いた気がする」

「でも、いっぱい集まりましたよね」


「そうだな……相場によるけど、三、四万超えるんじゃね?」

「わっ、そんなに!?」


ランカの声が弾む。


「いつもの倍以上です!今日のお仕事代、余裕で出ますよ!」

「あー、そういえば、そんな話だったな」


そんなやりとりの最中、視界に、重なるようにインジケーターが表示される。


《SIGNAL IDENTIFIED》

(信号検知)


《AFFILIATION: CORE MEDIA SYSTEM》

(所属:コアメディアシステム)


「なにこれ?」


視界左上のミニマップに、機影マーカーがひとつ表示され、低速旋回する無人機体が、音もなく上空を漂っていた。


「あぁ、CMS監視ドローンですね。メビウス社製の観測ユニットです」

「監視ドローン」


「大丈夫、だと思います。こっちはローカルで、接続系統は遮断してますし。でも、なんでこんなところに……」


彼女の声が僅かに曇った。

ドローンは一定の軌道で空中を回っている。


視線の先、旋回しながら、廃ビルの上をなぞるように通過していった。


「……曲がった」


廃ビルの角を抜けたその瞬間、ドローンのマーカーが消失した。


直後に、HUDにノイズのような歪み。

数フレーム遅れて、HUD全体に赤い帯が走った。


警告音が跳ね上がる。


《ENTITY DETECTED》

(エネミー反応:検出)


「うおっ……!?」


隣で、ランカが息を飲む。


「な、に……あれ……?」


ビルの角、ドローンが消えた、その先から巨大な影が現れる。


「でっけえ……蟹?」


その巨体は、演目の開幕に合わせて舞台袖から登場するかのように、一定の速度で直立移動を続ける。


[RECOMMENDED ACTION:

ESCAPE IMMEDIATELY]

(推奨行動:即時離脱)


そして、登場のタイミングを測っていたかのように、こちらに向き直った。


[ENTITY DETECTED:

GUILLOTINE_CRAB / ENEMY CLASS: A]

(個体識別:ギロチンクラブ/危険度:A)


刃が、持ち上がる。

見せつけるように、なにかを告げるように。

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